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Aldo Kriegerについて
アウド・クリーゲル Aldo Krieger は1903年7月5日、ブラジル南部のサンタカタリーナ州ブルスキに生まれた。ブルスキは1860年に54人のドイツ人移民によって作られた町とされていて、また1875年頃にはイタリアからの移民も加わり住んでいる。アウド・クリーゲルの父方の祖父はドイツからの移民で、母はイタリアからの移民であった。父は洋服仕立て屋を営んでいた。クリーゲルは7歳よりバンドネオンなどを習い、その後はヴァイオリン、ギター、クラリネット、サクソフォンを習った。10代の頃の彼は兄弟でバンドを組んでは、映画館やパーティーなどでショーロなどを演奏していた。
1923年にジェルトゥルージス・ヘジス Gertrudes Régisと結婚し、10人の子ども(7男3女)をもうけた。中でも1928年に生まれた二男のエジノ・クリーゲル Edino Krieger は後にブラジルを代表する作曲家になっている。クリーゲルは父の仕立て屋で働く一方、1929年にジャズバンド「アメリカ」を結成し、カーニバルなどで演奏していた。また1939年より地元の合唱団での指揮を行った。そのため1940年代には多くの合唱曲を作曲した。
1953年には息子のエジノ・クリーゲルと共にリオデジャネイロに住み、ヴィラ=ロボスが創立したリオデジャネイロの国立合唱音楽院 Conservatório Nacional de Canto Orfeônico (CNCO) の集中講座に参加し、ヴィラ=ロボスらに師事した。この講座ではある日、ヴィラ=ロボスは生徒達に、リオデジャネイロ州のオルガオス山脈 Serra dos Órgãos にあるデド・ジ・デウス峰 pico Dedo de Deus の輪郭を描いた図を与え、それに沿った楽譜を作るように宿題を出した(ヴィラ=ロボス自身も過去にこの「図形楽譜」の手法で2曲のピアノ曲―《山のメロディー》、《ニューヨーク・スカイライン・メロディ》―を作っている)。数日後、生徒達の作品は一曲ずつ紹介されたが、最後に発表したクリーゲルは、図に山の影を付け加えて二声の曲を作り、ヴィラ=ロボスもこれには感銘したとのことである。
1954年には郷里ブルスキにブルスキ音楽院 Conservatório de Música de Brusque を創立した。また1961年にはサンタカタリーナ州都フロリアノーポリスでフロリアノーポリス合唱協会を設立し、合唱団はサンタカタリーナ州内で、後にはブラジル各地で数々の演奏会を催した。
1972年10月12日、アウド・クリーゲルはフロリアノーポリスで亡くなった。没後の2002年にはアウド・クリーゲル協会 Instituto Aldo Krieger が設立され、ブルスキの町には彼の博物館が開館している。
アウド・クリーゲルは作曲家として、1930年代にはカーニバルで演奏するための行進曲(マルシャ)をいくつも作ったらしい。また地元のために《ブルメナウ設立百周年讃歌 Hino do Centenário de Blumenau》(1950)、《ブルスキ設立百周年讃歌 Hino do Centenário de Brusque》(1960) を作曲した。いくつかの歌曲も作っていて、《昔を思い出して Recordando o passado》(1924)、《幸せなこと Ser feliz》などがある。ピアノ曲は以下に記した曲が知られていて、主に1927年から1949年にかけて作曲された。各曲の形式は全てロンド形式―即ち(前奏)-A-B-A-C-A形式―で、殆どの曲で主旋律は右手、ベースと伴奏は主に左手と単純な作りと言うか、あまりピアニスティックではない。しかしながら長年ショーロなどの大衆音楽を演奏してきた彼らしい親しみやすい旋律と、バイシャリア(ショーロで低弦ギターが主旋律の合間などに音階などの短い対旋律を合いの手のように入れること)を思わせるベース進行など、百年前のブラジルの空気を感じつつ、気軽に楽しめる彼の音楽は魅力的だと思います。
Aldo Kriegerのピアノ曲リストとその解説
- 13 de junho, Valsa 6月13日、ヴァルサ
ハ長調、前奏-A-B-A-C-A形式。舞踊会の音楽にも使えそうな明るい曲。Aは気取った旋律が奏される。Bはト長調、Cはヘ長調になる。- Carmen, Valsa chôro (1939) カルメン、ヴァルサ・ショーロ
アウド・クリーゲルは三人の娘(ロザ・ミリアム、カルメン、ジノラ)それぞれのためにピアノ曲を作った。カルメンはアウド・クリーゲルの二女で、作曲当時5歳である。ニ短調、A-B-A-C-A形式。Aの旋律は8分音符で音階を昇るも、付点2分音符で音階を下るのが何とも悲しげである。Bは激情するような雰囲気になる。Cはニ長調になり、郷愁たっぷりの旋律が優雅に奏される。- Dinorah, Valsa (1935-1943) ジノラ、ヴァルサ
ジノラはアウド・クリーゲルの三女の名前である。イ長調、A-B-A-C-A形式。凝った所も無い素朴な旋律と伴奏から成るが、何とも心温まる曲で、アウド・クリーゲルの天性の歌心の成せる技としか言いようがない。AとBは高音部から優しく降ってくるような旋律が奏される。Cはニ長調になり、前半は左手中音部に穏やかに語りかけるような旋律が奏される。- Doce encanto, Valsa 甘い魅力、ヴァルサ
ニ長調、前奏-A-B-A-C-A形式。Aは右手旋律と左手対旋律が2小節ごとに掛け合いのように奏される。Bは左手対旋律がオクターブでやや騒々しい。Cはト長調になる。- Esperando o luar, Valsa chôro (1933) 月明かりを待って、ヴァルサ・ショーロ
ニ短調、A-B-A-C-A形式。AとBは8分音符が上に下にと舞うような優雅ながらも、哀調ある落ち着いた旋律が奏される。Cはニ長調になる。- Gertrudes, Valsa chôro (1949) ジェルトゥルージス、ヴァルサ・ショーロ
妻のジェルトゥルージスに献呈された。ニ短調、A-B-A-C-A形式。Aは右手旋律と同じくらい左手ベースが活発に対旋律を奏でる。Bは旋律がオクターブになる。Cはニ長調になり、優雅な雰囲気になる。- Maria Luiza, Valsa マリア・ルイザ、ヴァルサ
ホ短調、前奏-A-B-A-C-A形式。Aは半音階混じりの旋律が悩ましい。Cはホ長調になる。- Moema, Valsa chôro モエマ、ヴァルサ・ショーロ
モエマは女性の名前。一応イ短調、A-B-A-C-A形式。Aはアウド・クリーゲル曲には珍しく調性がはっきりしない響きで、最初ハ長調?〜ヘ長調?〜ニ短調?〜と彷徨った末にイ短調になる。Bはヘ長調になり、オクターブの旋律が華やか。Cもヘ長調になる。- Saudades de minha filha, Valsa (1927) 私の娘の思い出、ヴァルサ
作曲当時3歳の長女ロザ・ミリアム Rosa Myriam に献呈された。ホ短調、前奏-A-B-A-C-A形式。Aは右手に哀愁たっぷりの旋律が奏され、左手ベースはバイシャリアを思わせる対旋律を兼ねている(下記の楽譜)。
Álbum de valsas para piano, Saudades de minha filha, Valsa、18-29小節、Edição Centenário de Brusqueより引用
Bは楽譜に「より速くPiù mosso」と記されて旋律がスタッカート混じりになるも、4小節後には「より遅く Meno」と記された旋律に変わっていて、表情豊かに緩急をつけて演奏したい所である(下記の楽譜)。
Álbum de valsas para piano, Saudades de minha filha, Valsa、42-47小節、Edição Centenário de Brusqueより引用
Cはホ長調になり、郷愁たっぷりの旋律が奏される。- Saudades no coração, Valsa (1949) 魂の郷愁、ヴァルサ
妻のジェルトゥルージスに献呈された。変ホ長調、前奏-A-B-A-C-A形式。Aはゆったりとした旋律が流れる。Bは変ロ長調になり、オクターブの旋律が華やか。Cは変イ長調になる。- Schottisch ショッティッシュ
ト長調、A-B-A-C-A形式。明るくも心安らぐような旋律が奏される。Bはホ短調、Cはハ長調になる。
Aldo Kriegerのピアノ曲楽譜
Edição Centenário de Brusque (Gráfica Irmãos Vitale)
- Álbum de valsas para piano
- Saudades no coração, Valsa
- Gertrudes, Valsa-chôro
- Saudades de minha filha, Valsa
- Carmen, Valsa-chôro
- Ser feliz, Valsa
- Dinorah, Valsa
斜字は絶版と思われる楽譜
Aldo Kriegerのピアノ曲CD・LP
星の数は、
は是非お薦めのCD、
は興味を持たれた人にはお薦めのCD、
はどうしてもという人にお薦めのCD・LPです。
Saudades no Coração: Schottisch, Canções e valsas de Aldo Krieger
Harmonico Projetos Culturais, ROW 02
- Saudades no coração, valsa
- Dinorah, valsa
- Carmen, valsa-choro
- Saudades de minha filha, valsa
- Gertrudes, valsa-choro
- Schottisch
- Ídilio louco - Fingimento, canção*
- Ser feliz, valsa-canção*
- Recordando o passado, valsa-canção*
- Treze de junho, valsa
- Açucena, valsa
- Maria Luiza, valsa
- Moema, valsa-choro
- Esperando o luar, valsa-choro
- Doce encanto, valsa
Rodrigo Warken (pf), Ruth Staerke (soprano)*
2003年のリリース。
Aldinho, Recordando o passado
Cia. da Lona Promoções Culturais, AK01
- Chopp com rosca
- Sol maior
- Recordando o passado
- Espanta mosquito
- Só pra quem pode
- Ondina
- Nida (Serrana)
- Não pisque
- Feijão com carne seca
- Vida apertada
- Esperando o luar
- Cotinha
- Acabou-se o que era doce
- Saudades no coração*
- Gertrudes*
- Dinorah*
- Carmen*
- Saudades de minha filha*
Alexadre de La Peña (violão), Andréa Ernest Dias (flauta, flautim), Ângelo Dell Orto (violino), Celsinho (pandeiro, reco-reco, caixeta), Henrique Cazes (cavaquinho, violão, viola caipira), Jaime Vignoli (cavaquinho, banjo), Josimar Gomes Carneiro (violão 7 cordas), Leandro Braga (acordeom), Marcílio Lopes (bandolim), Omar Cavalheiro (contrabaixo) , Oscar Bolão (bateria, surdo), Miguel Proença (pf)*
1998年のリリース。Track 1-13は1993年リリースのLP "Recordando o Passado" からのリマスタリング、Track 14-18は1986年録音・リリースのLP "Edino e Aldo Krieger" からのリマスタリングでミゲル・プロエンサのピアノ独奏。
Aldo Kriegerに関する参考文献