Mario Ruiz Armengolについて

 マリオ・ルイス・アルメンゴル Mario Ruiz Armengol は1914年3月17日、メキシコ湾岸の代表的港町、ベラクルスに生まれた。父Mario Ruiz Suárezはピアニスト兼指揮者をしており、また母Rosa María Armengolは歌手であったとのこと。(即ちマリオ・ルイス・アルメンゴルという姓名は、名・父方の姓・母方の姓の順であり、一般的に母方の姓を省略することはあっても父方の姓を省略することはないので、彼の姓は「ルイス・アルメンゴル」で、メキシコで「アルメンゴル」と省略することはまずない。メキシコの音楽事典などでも見出しはRuiz Armengolである。)8歳からピアノを練習した彼は、11歳のときメキシコシティに移り住み、16歳の時にはプロとして既に活動していて、1930年に開局したメキシコ初の商業ラジオ放送局-XEWの音楽演奏メンバーの一人となった。1931年にVirginia Sánchez Igleciasと結婚している。

 若い頃からピアニスト、作曲家としてのみならずポピュラー音楽の編曲家、指揮者としても活動していた。1943年には自分のオーケストラを結成している。それに加えクラシックの勉強をするため1936年頃にはホセ・ロロン José Rolón に、1948年にはロドルフォ・アルフテル Rodolfo Halffter に作曲を師事した。1948年作曲の《ピアノのための作曲と和声の7つの練習 Siete ejercicios de composición y armonía para piano》はルイス・アルメンゴルの初のクラシック系ピアノ曲出版作とのことである。

 ルイス・アルメンゴルは、作品リストから分るようにともかく晩年に至るまで次々と作曲を続けていたのだが、どういう人なのだかほとんど知られていない。艶聞の多い人?だったらしく、1950年代にはメキシコのハープ奏者Carmen Rosellóと恋に落ち(この後にハープのための作品をいくつも書いている)、1960年代にはアメリカの歌手Nancy Rothmanと恋に落ち、また1971年に妻Virginiaが亡くなった後には前述のCarmen Rosellóと1978年に結婚し、しかし1983年に離婚している。メキシコのLa Jornada(電子版)2000年3月17日号にルイス・アルメンゴル本人へのインタビュー記事があり、その中で彼は「私にとってピアノを弾くのは女性に触れるのと一緒さ tocar el piano para mí es como tocar a una mujer」、とか「でも音楽が一番だ。だって女性は時々恩知らずだが、音楽は決してそんなことないから・・・ Pero la música primero, porque a veces las mujeres le pagan a uno con ingratitudes, la música nunca...」 など86歳のお言葉とは思えない、若々しく、おちゃめなことを言っていた。1998年8月に日本人のSさんがメキシコシティでルイス・アルメンゴル御本人に会われていて、その事を書かれたサイトもかつてありました。2001年の段階で彼はまだ作曲を続けていたが、2002年12月22日、メキシコのカンクンにて亡くなった。88歳であった。

 ルイス・アルメンゴルは多数の作品を作っている。彼を有名にしているのはポピュラー音楽の分野で、管弦楽曲では《夢の通り道 La calle de los sueños》(1956)(Dream Streetという英訳でいくつかの録音あり)、《Aires Jarochos》などのルロイ・アンダーソンばりの楽しい曲がある。映画音楽では映画《La calandria》(1933) に始まり、《El baisano Jalil》(1942)、《Santa》(1943) など計11本の映画音楽の作曲を手掛けている。また約150曲にもなるポピュラーソングはメキシコでは親しまれていて、《Por que llorar》、《Silenciosa》、《Aunque tu no me quieras》、《Imagen》、《Ternura》、《Muchachita》、《Sone y Dia nublado》などが有名。ともかく色っぽく、泣かせる美しい曲が目白押し。クラシック系(?)では《金管五重奏のための3つの作品》、ヴァイオリンとピアノのための《Romanza amorosa》(ロマンチックな曲)、《A mis amigos》、チェロのための《Romanza》、フルートとピアノ(または管弦楽)のための《Divertimento》などの室内楽曲がある。

 ルイス・アルメンゴルのピアノ曲はリストにあるように膨大である。彼のピアノ曲は大雑把に二つの流れが感じられる。一つは彼の歌曲でも見られる甘く、ロマンティックな響きで、《キューバ舞曲集 Danzas Cubanas》が代表作。もう一つは、ドビュッシーや彼の師のロドルフォ・アルフテルの影響を受けながら、それをルイス・アルメンゴルなりに発展させた彼独自の不協和音の世界で、特に1996年以降は多調主義も取り入れ、《ミニアチュール Miniaturas》や《メタファー Metáforas》などの曲集を作曲している。この二つの流れはもちろん分離されたものではなく、《練習曲集 Estudios》や《レフレシオネス Reflexiones》などのピアノ曲では甘いロマンティシズムと複雑な不協和音が渾然となって現れている。晩年に作曲された《Miniaturas》や《Metáforas》などは正直なところ難解で、個人的にはあまりお薦めとは言い難いのだが、代表作《Danzas Cubanas》、《Reflexiones》や数々の小品は本当に暖かく、おしゃれな曲である。CDも楽譜もメキシコ以外では入手困難なのが惜しいのですが、判る限り入手方法やリンクを載せました。一人でも多くの読者にルイス・アルメンゴルのファンになって欲しいと願います。

 

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