Luis A. Calvoのピアノ曲リスト
最近の文献によると、カルボは生涯258曲(器楽曲173曲、歌曲85曲)を作ったとされています。ただその内の約半数は曲名の記録が残されているだけで楽譜も録音もないため、どんな曲だかが分かっておらず、それらの「曲名のみ」の作品はリストに加えませんでした。カルボの器楽曲は、彼自身はもともと小アンサンブルでの演奏を目論んで作曲したが、楽譜の出版は(家庭での演奏用に楽譜を購入してもらうことを考慮して)ピアノ独奏用で書かれた曲が多い印象です。そのためアンサンブルでの録音はあるものの楽譜出版がない作品はピアノ曲とは看做せないので、以下のリストには加えませんでした。
カルボの作品の多くは正確な作曲年が不詳です。以下のリストは録音や作品登録といった記録を元に作成しました。例えば「1908-1913」の欄にある作品の多くは1913年に各曲の録音がされていて、また「1917以前」の欄にある作品の多くは1917年に録音または作品登録がされており、それ以前の作曲であろうと推定しています。1905
1908-1913
- Amor de artista, Valses 芸術家の恋、ワルツ
- Anhelos, Valses 切望、ワルツ
- Anita, Gavotta アニータ、ガボット
- Cupido, Marcha キューピッド、行進曲
- Encanto, Valse 魅力、ワルツ
- Entusiasmo, Pasillo 熱狂、パシージョ
- Genio alegre, Pasillo 楽しい気分、パシージョ
- Intermezzo Nº 1 (1910) 間奏曲第1番
- 2º Intermezzo - Lejano azul 間奏曲第2番ー遥かな青
- Malvaloca, Danza たちあおい、ダンサ
- 4.ª Mazurka マズルカ第4番
- Noel, Pasillo クリスマス、パシージョ
1913頃
1916
1917以前
- Blanca, Rag-time 白、ラグタイム
- Cecilia, Gavota セシリア、ガボット
- La estrella del caribe, Tango カリブの星、タンゴ
- La guardia del Rhin ラインの守り
- Marte, Pasillo 火星、パシージョ
- Noche de abril, Valse 4月の夜、ワルツ
- Secretos, Valse 秘密、ワルツ
1917頃
- Aire de fuera, Danza 外の空気、ダンサ
- Añoranza, Danza 懐かしさ、ダンサ
- Cromos, Valse クロモス、ワルツ
- El Republicano, Bambuco 共和主義者、バンブーコ
- Gacela, Danza ガゼル、ダンサ
1918以前
1919頃
- Paulinita, Serenata
1922
- Una noche en París, Preludio パリの一夜、前奏曲
- Una noche en París, Tango argentino パリの一夜、アルゼンチンタンゴ
- Una noche en París, Valse de los apaches パリの一夜、アパッチェのワルツ
1923以前
1926頃
- Aminta, Valse アミンタ、ワルツ
- Emmita, Pasillo エミータ、パシージョ
1928以前
- Arroyito que murmuras, Pasillo さわさわとさざめく小川、パシージョ
- Betty, Danza ベティー、ダンサ
- Cartagena, Capricho カルタヘナ、カプリーチョ
- El buen tono, Valse いい声、ワルツ
- El trébol agorero, Pasillo 不吉のクローバー、パシージョ
- Emilia II, Danza エミリア II、ダンサ
- Gentleman, Valse 紳士、ワルツ
- Intermezzo Nº 3 間奏曲第3番
- La chata, Pasillo 愛しい人、パシージョ
- La presentida, Danza 予期されたもの、ダンサ
- Princesita del Avila, Fox-Trot アビラのお姫様、フォックストロット
- Reina infantil, One-step 子供の女王様、ワンステップ
- Rubia espiga, Danza 金色の穂、ダンサ
- Siguiendo tus pasos, Valse あなたの道をついていく、ワルツ
- Sultana del valle, Valse 盆地のスルタン、ワルツ
- Tolimense, Pasillo トリメンセ、パシージョ
- Yerbecita de mi huerto, Bambuco 私の菜園の小さな草、バンブーコ
1928
1930
1931頃
- Entre naranjos, Ronda オレンジの木の間で、ロンダ
1931
- Teresita, Valse テレシータ、ワルツ
1937頃
1939頃
- Minuet メヌエット
- Soñando amores, Valse 愛の夢、ワルツ
作曲年代不詳
- Coralito, Danza コラリート、ダンサ
Luis A. Calvoのピアノ曲の解説
1905
1908-1913
- Anhelos, Valses 切望、ワルツ
当時、国立音楽アカデミーが催した作曲コンクールで、応募された30曲の中から一等賞に選ばれた曲である(カルボは"Clave sol"というペンネームで応募したとのこと)。前奏に引き続き3つのワルツがト短調〜変ホ長調〜変イ長調と続けて奏され、コーダでは今までのワルツの一部分が再現され、最後は変ロ長調で華やかに終わる。- Anita, Gavotta アニータ、ガボット
Anita Gaitánという女性に献呈された。ロ長調、A-B-C(-A-B)形式。動き出しては止まる、の繰り返しのような滑稽な旋律が奏される。Cはホ長調になる。- Cupido, Marcha キューピッド、行進曲
嬰ヘ短調。タランテラ風の軽快な曲。- Encanto, Valse 魅力、ワルツ
A-B-C-D-E形式と、ワルツの旋律が次々と現れる。Aはヘ短調で、オクターブの旋律が力強い。Bは8分音符の優雅で踊るような旋律になる。CとDは変イ長調で、華やかな旋律が奏される。Eは変ニ長調で、左手中声部にチェロを思わせるような旋律が現れる。- Entusiasmo, Pasillo 熱狂、パシージョ
1909年出版。ニ長調、A-B-A-C-D-A形式。彼のピアノ曲の中で、おそらく一番有名?。パシージョの軽快なリズムにのって浮き立つような楽しい旋律が現れる。Bはロ短調になる。CとDはト長調で、Dは両手オクターブやアルベルティバスなどが鳴って賑やかだ。
Entusiasmo、1~12小節、Imprenta de "La Luz" より引用- Genio alegre, Pasillo 楽しい気分、パシージョ
スペインのアルバレス・キンテーロ兄弟が作った演劇 "Genio alegre"(1906年初演、コロンビアでも1908年に上演された)に影響されて作曲されたと思われる。ハ長調、A-B-C形式。伴奏はもとより、旋律も跳ねるようなパシージョ。- Intermezzo Nº 1 (1910) 間奏曲第1番
1910年作曲。変ホ長調、序奏-A-B-序奏-A-Cの形式。元はLuis Eduardo Ardilaの詞による歌曲である。この曲は美しい!。簡単な伴奏と旋律だけの曲だが、月夜に恋人が語らうようないい雰囲気のロマンティックな曲。
Intermezzo No. 1、8~15小節、Editorial G. Navia より引用- 2º Intermezzo - Lejano azul 間奏曲第2番ー遥かな青
変ロ短調。悲しく、切ない旋律がA-B-C-Dと現れる。- Malvaloca, Danza たちあおい、ダンサ
上記の "Genio alegre" 同様、アルバレス・キンテーロ兄弟が作った演劇 "Malvaloca"(1912年初演)に影響されて作曲されたと思われる。この曲は1921年には歌詞も付けられて、ニューヨークで録音もされた。嬰ハ短調、A-B-A-C-A形式。何とも悲しい旋律がしみじみと奏される。Cはホ長調になり郷愁を誘う。- Noel, Pasillo クリスマス、パシージョ
ニ長調、、A-B-C-?形式。クリスマスに相応しいうきうきした曲。1913頃
- Intermezzo Nº 4 間奏曲第4番
ロ短調、前奏-A-B-A-C形式。この曲も何ともいえぬ美しさに満ちている。Aは何とも切ない旋律が奏される。Bはpで奏される16分音符の伴奏が淋しげ。Cはロ長調になり救われるような雰囲気に。1916
- Adiós a Bogotá, Danza さらばボゴタ、ダンサ
楽譜の冒頭には、「作曲者への同情への感謝の証しにボゴタの皆様へ献呈」とある。ホ長調、A-B-C形式。一説によると1916年5月、カルボがハンセン氏病と診断されAgua de Diosのサナトリウムに向かう際の旅立ちのある夕方、ボゴタを去るのを惜しみ作曲されたという。甘い旋律の中にも一抹の寂しさを湛えた美しい曲。Cはイ長調になり、最後の5小節だけ嬰ハ短調となってそのまま終わる。- Carmiña, Danza カルミーニャ、ダンサ
ホ長調、A-B-C形式。優しく語りかけるような曲。Cはイ長調になる。- La perla del Ruíz, Danza ルイスの真珠、ダンサ
楽譜には「マニサレス市に献呈」と記されていて、コロンビア中部のネバド・デル・ルイス火山の麓に位置するマニサレス市の美しさを「ルイスの真珠」と称したのであろう。ト長調、A-B-C形式。ゆったりと優雅な曲。Cはハ長調になる。1917以前
- Blanca, Rag-time 白、ラグタイム
ニ長調、A-B-C形式。派手なブンチャッブンチャッのオクターブ伴奏にのって、愉快な旋律が奏される華やかな曲。Cはト長調になる。- Cecilia, Gavota セシリア、ガボット
Cecilia Caycedo Echeverríaという名の女の子に献呈された。変ニ長調、A-B-A-C-A'形式。Aはオクターブの旋律が派手な感じ。Bは変イ長調で、一転して可憐な雰囲気になる。Cは変ロ短調になる。- La estrella del caribe, Tango カリブの星、タンゴ
キューバの外交官で、当時ボゴタに駐在していたRafael Rodríguez Altunagaに献呈。ニ短調、A-B-C形式。ゆったりとしたタンゴのリズムにのって哀愁溢れる旋律が奏される。Cは同主調のニ長調になるのがラテン的でいい感じ。- Marte, Pasillo 火星、パシージョ
ホ長調、A-B-C形式。語りかけるような旋律の曲。Cはイ長調になる。- Secretos, Valse 秘密、バルス
ロ短調、前奏-A-B-C-D-E-F-E-A-B-C-E'-コーダの形式。カルボの作品にしては長く、いくつもの主題が現れる曲である。前奏はティンパニーを思わせるオクターブのトレモロ にのって管楽器が轟くような感じで劇的。C、D、E、Fはニ長調になる。コーダも両手オクターブで華やかである。1917頃
- Aire de fuera, Danza 外の空気、ダンサ
ト長調、A-B-A-C-A形式。優雅な雰囲気の曲。Cはハ長調になる。- Añoranza, Danza 懐かしさ、ダンサ
曲名から、カルボがAgua de Diosのサナトリウムに収容されて間もない頃の作曲であろうとする文献がある。ト長調、A-B-C-A-B形式。優しく語りかけるような旋律が奏される。Bは16分音符スタッカートが愛嬌ある。Cは変ホ長調になる。- El Republicano, Bambuco 共和主義者、バンブーコ
ト長調、A-B-C-A-B-C形式。回るように踊っているような陽気な旋律が奏される。Cはハ長調になる。- Gacela, Danza ガゼル、ダンサ
Agua de Diosのサナトリウムに収容されたカルボについて取材するためにカルボの元を訪れた新聞記者Luis Enrique Osorioに献呈された。ホ長調、A-B-C-A(-B)形式。のどかな雰囲気の曲。Bがいきなり(遠い調の)ト長調になる所が凝っている。Cはイ長調になる。1918以前
- Arabesco アラベスク
ホ長調、前奏-A-A-B-B-A-A'-コーダの形式。流れるような伴奏にのった穏やかな旋律の調べは、ちょっとドビュッシーのアラベスク第1番に似ているような気がする。カルボってこんな繊細な曲を作ったんだな~と感心します。- María Elena, Danza マリア・エレナ、ダンサ
イ長調、A-B-A-C-A形式。女性らしい雰囲気のとても優しい曲。Bはニ長調、Cはヘ長調になる。- Spes Ave, Preludio 希望よ、めでたし、前奏曲
Spesとはラテン語で「希望」という意味。ロ長調。神への祈りと感謝の気持ちを音楽にしたような雰囲気の穏やかな旋律が奏される。後半は左手16分音符アルペジオの伴奏にのって、別の優しい旋律が奏され、最後は冒頭の旋律が再現されて静かに終る。1922
- Una noche en París, Preludio パリの一夜、前奏曲
- Una noche en París, Tango argentino パリの一夜、アルゼンチンタンゴ
- Una noche en París, Valse de los apaches パリの一夜、アパッチェのワルツ
オペレッタ「パリの一夜」は、カルボが作曲した唯一の劇場作品である。オペレッタは1922年7月にボゴタで上演された。カルボは一部をピアノ独奏曲に編曲し、上記の3曲が出版された。(オペレッタの中からは、加えて "¡Qué́ calor!" という歌曲も出版された。)1923以前
1926頃
- Emmita, Pasillo エミータ、パシージョ
楽譜には "Emmita Caycedo" という女性に献呈と記されている。変ホ長調、A-B-C-A-B-C形式。Aは優雅で落ち着いた旋律がオクターブで奏される。Bは変ホ短調で、Cは変ホ長調に戻って楽しそうな会話が聞こえてくるような雰囲気になる。1928以前
- Arroyito que murmuras, Pasillo さわさわとさざめく小川、パシージョ
ニ長調、A-B-C-?形式。Aはオクターブの旋律が華やかで、Bは重音の旋律がまた煌びやかだ。Cはト長調になる。- Betty, Danza ベティー、ダンサ
変ホ長調、A-B-A-C-A-B-A-C形式。落ち着いた雰囲気の曲。Cは変イ長調になる。- Cartagena, Capricho カルタヘナ、カプリーチョ
カルタヘナはコロンビア北部のカリブ海に面した街。曲はMaría C. Leónという女性に献呈された。彼女はかつてカルボがカルタヘナで会ってからの知人で、カルボがAgua de Diosに隔離されてからも文通を続けたらしい。変ト長調、前奏-A-B-B-C-C'-B-A'形式。6/8拍子の牧歌的な雰囲気で、ショパンを思わせる曲。Bは変ホ短調で16分音符の旋律が可憐だ。Cはロ長調になる。- El buen tono, Valse いい声、ワルツ
変ホ長調、A-B-C-D-E-D'-B-C-コーダの形式。Aは2オクターブ半を駆け上る旋律が華やか。Bはオクターブ和音の旋律が朗々と歌うように奏される。DとEは変ロ長調になる。- El trébol agorero, Pasillo 不吉のクローバー、パシージョ
変ロ短調、A-B-C-D-?形式。冒頭Aは陰うつな旋律で始まるが、Bは変ロ長調、CとDは変ホ長調の、結構陽気な主題になる。- Emilia II, Danza エミリア II、ダンサ
ニ長調、A-B-C-?形式。落ち着いた雰囲気のダンサで、時々旋律がオクターブになるのが豪奢な雰囲気。- Gentleman, Valse 紳士、ワルツ
変ホ長調、A-B-C-D-C形式。ちょっと気取ったワルツで、粋な紳士を描写しているよう。C-D-Cの部分は変イ長調になる。- Intermezzo Nº 3 間奏曲第3番
イ長調、前奏-A-B-C-A形式。6/8拍子の流れるような伴奏に抒情的な旋律がひっそりとppで奏される。心暖まるような素敵な曲。- La presentida, Danza 予期されたもの、ダンサ
ニ長調、A-B-C-A-B-C形式。Aは上行音階の旋律。Bはニ短調になる。Cは16分音符連打の旋律が賑やか。- Rubia espiga, Danza 金色の穂、ダンサ
ニ長調、A-B-C-A-B形式。しっとりとした旋律の曲。Cはロ短調になる。- Siguiendo tus pasos, Valse あなたの道をついていく、ワルツ
ニ長調。歌謡曲っぽい旋律の曲。- Tolimense, Pasillo トリメンセ、パシージョ
「トリメンセ」とはコロンビア中西部にあるトリマ県に住む人を指す。イ長調、A-B-C-A-B-C形式。楽しい雰囲気の曲。Aは3小節が1フレーズになっている。Cはヘ長調になる。- Yerbecita de mi huerto, Bambuco 私の菜園の小さな草、バンブーコ
イ短調、A-B-C-D形式。Aは左手に陰うつな旋律が奏され、Bは可憐な旋律が現れる。CはAが変形されて奏され、Dはハ長調になり盛り上がる。1928
- Ricaurte, Bambuco リカウルテ号、バンブーコ
1928年、コロンビアのパイロットBenjamín Méndezは飛行機Ricaurte号で、初めてのニューヨーク〜ボゴタ間の無着陸飛行に成功した。カルボはこれを祝って作曲したと思われる。Mundo al día誌(1928年12月1日号)に楽譜とRicaurte号の写真が掲載された(左の写真)。ハ長調、A-B-C-D-B形式。バンブーコのリズムによる軽快な曲。
- Ruth, Valse ルス、ワルツ
Mundo al día誌(1928年2月25日号)に出版。ハ長調、前奏-A-A-B-B-C-D-C'形式。Aは中音部にオクターブの旋律が優雅に奏される。後半のC-D-C'はヘ長調になる。1930
- Diana triste, Valse 悲しいディアナ、ワルツ
Mundo al día誌(1930年12月20日号)に出版。ロ短調、A-B-B-C-C形式。AとBが繊細な悲しい響きな分、ロ長調のCは何とも美しい。1937頃
- Blanquita, Pasillo ブランキータ、パシージョ
ブランキータとは「白い女の子」という意味。A-B-C形式。Aは変ニ長調で、可憐で落ち着いた雰囲気。Bはパシージョらしい動きのある感じになる。Cはイ長調に。1939頃
- Soñando amores, Valse 愛の夢、ワルツ
ロ短調、前奏-A-B-A-C-D-C-A-B-A-コーダの形式。劇的な前奏に引き続き、空しい愛の結末?を思わせる旋律がしみじみと奏される。CとDはト長調になり、幸せだったひと時を回想するような雰囲気。