Terasa Carreñoのピアノ曲リスト
テレサ・カレーニョの作品の多くには作品番号が付いており、概ね作曲順の番号と思われるが、Vals Gayo, 作品38は1910年の作曲、La fausse note, Fantaisie-valse, 作品39は1872年初版、のような例外もいくつかある。また作品34、35、38はそれぞれに2曲の異なる作品がある一方、作品19、32、37は欠番となっている。"Colección de piezas de baile" と "Capricho nº 1, 2, 3" は、テレサ・カレーニョが6〜7歳の時に作曲したものを彼女の父が採譜した楽譜が残されている。
- [Colección de piezas de baile] [舞曲集]
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Mazurca マズルカ
- Danza ダンサ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Polka ポルカ
- Polka ポルカ
- Danza ダンサ
- Valse ワルツ
- Danza ダンサ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Capricho nº 1 カプリーチョ第1番
- Capricho nº 2 カプリーチョ第2番
- Capricho nº 3 カプリーチョ第3番
- Gottschalk waltz, Op. 1 ゴットシャルク・ワルツ、作品1
- Saludo a Cuba キューバに挨拶
- Caprice-polka, Op. 2 カプリース=ポルカ、作品2
- Rêverie-Impromptu, Op. 3 夢想=即興曲、作品3
- Caprice-Étude, No. 1, Op. 4 カプリース=エチュード第1番、作品4
- Une larme, Impromptu, Op. 5 一粒の涙、即興曲、作品5
- Caprice-Étude, No. 2, Op. 6 カプリース=エチュード第2番、作品6
- Caprice-Étude, No. 3, Op. 7 カプリース=エチュード第3番、作品7
- Marche triomphale, Op. 8 凱旋行進曲、作品8
- La corbeille des fleurs, Valse, Op. 9 花篭、ワルツ、作品9
- Souvenirs de mon pays, Nocturne, Op. 10 我が故郷の思い出、夜想曲、作品10
- Marche funèbre, Op. 11 葬送行進曲、作品11
- Prière, Improvisée aux derniers moments d'un ami, Op. 12 祈り、ある友の臨終の時への即興曲、作品12
- Polka de concert, Op. 13 演奏会用ポルカ、作品13
- Reminiscences de Norma, Fantaisie, Op. 14 ノルマの空想、幻想曲、作品14
- Ballade, Op. 15 バラード、作品15
- Souvenirs de l'Angleterre, Air anglais arrangé pour le pianoforte, Op. 16 イギリスの思い出、イギリス民謡のピアノ編曲、作品16
- Plainte! - 1er Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 17 嘆き、エレジー第1番「墓前の嘆き」、作品17
- Partie - 2ème Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 18 出発、エレジー第2番「墓前の嘆き」、作品18
- 4ème Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 20 エレジー第4番「墓前の嘆き」、作品20
- 5ème Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 21 エレジー第5番「墓前の嘆き」、作品21
- 6ème Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 22 エレジー第6番「墓前の嘆き」、作品22
- Mazurka, Caprice de concert, Op. 23 マズルカ、演奏会用カプリース、作品23
- Fantaisie sur l'Africaine de Meyerbeer, Op. 24 マイアベーアのアフリカ幻想曲、作品24
- Le printemps,Valse de Salon, Op. 25 春、サロン風ワルツ、作品25
- Un bal en rêve, Fantasie-caprice, Op. 26 夢の中の舞踏会、幻想的なカプリース、作品26
- Une Revue à Prague, Caprice de concert, Op. 27 プラハのレヴュー、演奏会用カプリース、作品27
- Un rêve en mer, Étude-méditation, Op. 28 海での夢、練習曲=瞑想、作品28
- Le ruisseau, 1re étude de salon, Op. 29 小川、サロン風練習曲第1番、作品29
- Mazurka de salon, Op. 30 サロン風マズルカ、作品30
- Hommage a Ch. Gounod, Scherzo-caprice, Op. 31 シャルル・グノーを讃えて、スケルツォ=カプリース、作品31
- Deux Esquisses italiennes 2つのイタリアのスケッチ
- Venise, Rêverie-barcarola, Op. 33 ヴェニス、空想=舟歌、作品33
- Florence, Cantilène, Op. 34 フィレンツェ、カンティレーナ、作品34
- Intermezzo-scherzoso, Op. 34 間奏曲=スケルツォーソ、作品34
- Le sommeil de l'enfant, Berceuse, Op. 35 子供の眠り、子守歌、作品35
- Polonaise, Op. 35 ポロネーズ、作品35
- Scherzino, Op. 36 スケルツィーノ、作品36
- Highland, Souvenir of Scotland, Op. 38 ハイランド、スコットランドの思い出、作品38
- Vals gayo, Op. 38 愉快なワルツ、作品38
- La fausse note, Fantaisie-valse, Op. 39 調子はずれの音、幻想的なワルツ、作品39
- Kleiner walzer (Teresita waltz) 小さなワルツ(テレシータのワルツ)
- Étude-mazurka エチュード=マズルカ
- La petite boiteuse, Caprice 小さな箱、カプリース
- Sailing in the twilight 薄暮の航海
- Danse de gnome, An octave study ノームの踊り、オクターブの練習曲
- Preludio 前奏曲
テレサ・カレーニョと彼女の二番目の夫Giovanni Tagliapietraの間に出来た娘は "Teresita" と名付けられ、母親と同様にピアニスト・作曲家となった。「Teresita Carreño-Tagliapietra作曲」のピアノ曲の楽譜が当時のヨーロッパでいくつか出版されており、これが母テレサ・カレーニョの作品なのか(Teresaという名前を示小辞のTeresitaで呼ぶことはよくある)、それとも娘テレシータの作品なのか楽譜のみからは判然としない。ただ、献呈者や出版時期などからは、以下の出版されたピアノ曲はいずれも母のではなく、娘テレシータの作曲と思われる。
"Trois morceaux" の楽譜表紙
- Danza
- Berceuse
- Petite danse tzigane
- Trois morceaux
- Tristesse
- Minuetto in stilo antico
- Petite berceuse
Terasa Carreñoのピアノ曲の解説
- [Colección de piezas de baile] [舞曲集]
カレーニョ6〜7歳の作品で、父Manuel Antonio Carreñoの採譜による楽譜を元にして出版もされている。さすがに幼少時の作曲のため、左手はブンチャッチャッの伴奏、右手に旋律といた作りで三部形式の曲が多い。第1番Valseはト長調、第2番Valseはト長調、第3番Mazurcaはホ短調、第4番Danzaはハ長調、第5番Valseはヘ短調、第6番Valseはハ長調、第7番Valseはト長調、第8番Valseはハ短調、第9番Polkaはハ長調、第10番Polkaは変ホ長調、第11番Danzaはハ長調、第12番Valseはハ短調、第13番Danzaは変ホ長調、第14番Valseはハ長調、第15番Valseはハ長調である。興味深いのは第4、11、13番Danzaで、ベネズエラのメレンゲのリズムー2/4拍子で3連8分音符+8分音符ーが用いられていることである。後にカレーニョは国際的ピアニストとなったが、リサイタルでは自作の「ベネズエラ舞曲 (Danza Venezolana)」を弾いたとする記録があるものの、「ベネズエラ舞曲」とはっきり銘打った作品は全く遺されていない。("Un bal en rêve, Op. 26" に3拍子+2拍子のメレンゲのリズムが一部現れるのを認める位である。)カレーニョの技巧的な他のピアノ曲を見るにつけ、彼女の腕に相応しい「ベネズエラ舞曲」を作曲して楽譜にしてくれたらよかったのにな〜という思いを感じます。
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Mazurca マズルカ
- Danza ダンサ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Polka ポルカ
- Polka ポルカ
- Danza ダンサ
- Valse ワルツ
- Danza ダンサ
- Valse ワルツ
- Valse ワルツ
- Gottschalk waltz, Op. 1 ゴットシャルク・ワルツ、作品1
「ゴットシャルク」とは、カレーニョが米国滞在中に師事した作曲家・ピアニストのルイス・モロー・ゴットシャルク (1829-1869) のことで、師を讃えて作曲された。カレーニョ8歳の時の作品とされている(楽譜は彼女が9歳の1863年に出版された)。変イ長調。装飾音や64分音符を鏤めたコロラトゥーラソプラノの歌唱を思わせる前奏に引き続き、オクターブ混じりの華やかなワルツがいくつも現れ、変ニ長調・ヘ短調・変ホ長調・ハ短調と度重なる転調ーとても8歳の子どもが書いたとは思えぬ技巧的なピアノ曲である。正に彼女は神童というか、怪傑少女というか‥‥。8歳のカレーニョはこの曲を連弾用にも編曲し、ニューヨークでの演奏会で父と連弾したとする記録がある。- Rêverie-Impromptu, Op. 3 夢想=即興曲、作品3
イ短調、前奏-A-A-B-A'-B'-A-後奏の形式。ぽつぽつと一人語りするような前奏に続いて、右手に哀愁漂う旋律が奏される。Bは一時ハ長調になる。- Caprice-Étude, No. 1, Op. 4 カプリース=エチュード第1番、作品4
カレーニョは "Caprice-Étude" と題したピアノ曲を3曲作っており、いずれも技巧的な作品である。変イ短調、前奏-A-B-C-A'の形式。急速な32分音符音階が上下する前奏に続き、Aは重々しい旋律がオクターブで奏される。Bは変イ長調になり、3拍子でゆったりとした旋律が中声部に現れ、両手和音の伴奏が添えられる。Cは変ニ短調になり、旋律は引き続き中声部だが、伴奏は3連符アルペジオが和音の塊となって奏されて豪華な響き。この後は急にアジタートして盛り上がり、リスト風の両手オクターブ連打を経てAが再現され、派手な16分音符で終わる。- Une larme, Impromptu, Op. 5 一粒の涙、即興曲、作品5
1863年にカレーニョは演奏旅行でキューバのハバナを訪れており、楽譜には「ハバナの友人との別れに、1863年」と記されている。前奏-A-A'-B-B'-後奏の形式。前奏と後奏は変ホ長調だが、その間のAとBは変イ長調で、左手和音の穏やかな伴奏にのって抒情的な旋律が奏される。- Caprice-Étude, No. 2, Op. 6 カプリース=エチュード第2番、作品6
前奏-A-B-C-後奏の形式。前奏はホ短調で、オクターブ強打や64分音符アルペジオが劇的な響き。続くAはホ長調で穏やかな旋律が流れる。Bはイ長調になり、雰囲気は穏やかだが、左手アルペジオの伴奏+中声部に左手・右手で分担される旋律+右手の装飾的な対旋律、と三階建ての複雑な奏法となって技巧的。Cはハ長調になり、右手高音部オクターブの旋律が情熱的。後奏は前奏のモチーフが更に劇的に奏されて終わる。全体的に華やかな曲ではあるが、曲全体の統一感に乏しいような気がします。- La corbeille de fleurs, Valse, Op. 9 花篭、ワルツ、作品9
カレーニョがニューヨークに住んでいた10歳から12歳の間ころに作られた曲で、当時のカレーニョの師であったゴットシャルクは、自分の演奏会で好んでこの作品を弾いたとのことである。楽譜は1866年頃にパリで出版された。変二長調。前奏-A(変二長調)-B(変イ長調)-C(ホ長調)-D(イ長調)-E(ヘ長調)-F(ヘ長調)-G(変二長調)-H(変ニ短調)-A-B-C-D-コーダの形式。AからHまでの各々のワルツはきっちり16小節ずつ(繰り返しつき)で、華やかだったり、可憐だったりの主題が次々と現れる様は、正に「花篭」の中の色とりどりの花を見ているよう。- Souvenirs de mon pays, Nocturne, Op. 10 我が故郷の思い出、夜想曲、作品10
ハ短調、A-B-C-A'形式。静かな左手アルペジオの伴奏にのって、哀愁漂う旋律が奏される。Bは変イ長調でAの変奏風。Cは一応ロ長調だが、右手16分音符の和音連打が劇的な響きで転調を繰り返す。最後はAが再現され、旋律のオクターブの間にトレモロが挟まれる。- Marche funèbre, Op. 11 葬送行進曲、作品11
変ホ短調。左手オクターブ・右手和音の陰うつな旋律が奏される。旋律は変奏されつつ変ホ長調とロ長調にも転調するが、最後は変ホ短調に戻り、沈み込むように音量を減らして消えるように終わる。- Prière, Improvisée aux derniers moments d'un ami, Op. 12 祈り、ある友の臨終の時への即興曲、作品12
変イ長調、前奏-A-B-A'形式。臨終の友が天に召されるひと時を描いたのかな。穏やかな左手アルペジオの伴奏にのって、抒情的な旋律が奏される。Bは変ホ長調になる。- Ballade, Op. 15 バラード、作品15
変二長調、三部形式。前奏に引き続き奏される冒頭の旋律は可憐に始まるが、その後の変奏(下の楽譜)や、劇的な変ホ短調の中間部は分厚い和音の応酬で、こってりとした響きの技巧的な曲。
Clásicos de la literatura pianística venezolana.Vol. 8 Teresa Carreño, Obras para piano, Ballade, Op. 15、63〜70小節、Fondo Editorial de Humanidades y Educación / Universidad Central de Venezuela / Yamaha musical de Venezuelaより引用- Plainte! - 1er Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 17 嘆き、エレジー第1番「墓前の嘆き」、作品17
1866年から1867年にかけて、カレーニョが12-13歳の頃に彼女はエレジーを続けて6曲作った(但し、第3番作品19は現存していない)。1866年にカレーニョの母が亡くなっており、亡き母を偲んでエレジーは作曲されたと思われる。エレジー第1番は嬰ハ短調、前奏-A-B-A'形式。5小節の前奏に引き続き、控えめながら切々と心に沁み入るような悲しい旋律が奏される。12歳の少女の作品とは思えぬ程の大人びた響きだ。中間部Bでは「嘆き」の旋律が少し表に現れる感じだが、充分に嘆きを語る前に萎えて引き下がって行く。最後はピカルディのI度で終る。- Partie - 2ème Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 18 出発、エレジー第2番「墓前の嘆き」、作品18
嬰ヘ長調、A-B-A'形式。故人が天上の世界へ旅立つのを描いたような雰囲気の曲。3連符の伴奏にのって、息の長い抒情的な、かつ哀愁漂う旋律が奏される。中間部Bは、ホ短調に始まり、転調を繰り返していく。- 6ème Élégie "Plaintes au borde d'une tombe", Op. 22 エレジー第6番「墓前の嘆き」、作品22
ニ短調、A-B-C-A'形式。楽譜に「ハープを模した前奏」と記されたppアルペジオの前奏に続き、葬送行進曲のような伴奏にのって悲痛な旋律が奏される。Aの最後に左手に現れる全音符トリルはスネアドラムのロールを思わせる。中間部Bは変ホ長調になり、旋律は左手中声部に移り穏やかに奏される。Cも変ホ長調で、ソプラノとテノールの二重唱のような二声の旋律が奏される。- Le Printemps, Valse de Salon, Op. 25 春、サロン風ワルツ、作品25
変二長調、前奏-A-B-C(変ト長調)-D(変ト長調)-E(ロ長調)-F(ロ長調)-G(ロ長調)-H(ホ長調)-A-B-コーダの形式。題名通りの春らしい浮き浮きした雰囲気のワルツ。冒頭の前奏はいきなり技巧的な両手オクターブ(下記の楽譜、カレーニョ自身はここを怒濤のような迫力で弾いたんだろうな)で、それに続いて華やかなワルツが万華鏡のように次々と現れる。
Le Printemps、1~10小節- Un bal en rêve, Fantasie-caprice, Op. 26 夢の中の舞踏会、幻想的なカプリース、作品26
変二長調、前奏-A-B-A'-B'-A"-コーダの形式。一夜の夢を描いたような標題音楽。前奏に引き続き、Aは楽譜に "le sommeil(眠り)" と記され、微睡んでいるような旋律が静かに奏される。この旋律の冒頭4小節は米国の有名な "Happy birthday to you" にそっくりだが、"Happy birthday to you" の原曲である "Good morning to all" は1893年の作曲であり、カレーニョの曲の方が明らかに先と思われる。続いてのBは "le rêve(夢)" と記され、華やかな舞踏会の夢の世界が現れる。3拍子+2拍子が交互に奏されるリズムはベネズエラの民族舞踊メレンゲであり興味深い。曲は微睡んだり、夢が再度現れたりと繰り返され、コーダでは "le rêve s'éteint(夢は消えていく)" と記され、「夢」の旋律が単音で消えていくように静かに再現され、最後は "le réveil(目覚め)" の両手ffで終わる。- Une Revue à Prague, Caprice de concert, Op. 27 プラハのレヴュー、演奏会用カプリース、作品27
1869年頃ににパリで初版。ヴィルトゥオーゾ・ピアニストであったカレーニョらしい華やかな作品で、彼女自身、自分のリサイタルでしばしばこの曲を弾いていたとのことである。変ホ長調。ポロネーズのリズムによる勇ましい主題と、変イ長調の優しい主題の2つが調を変えつついろいろ変奏しながら現れる。コーダはリストばりのオクターブ交互連打で派手。- Un rêve en mer, Étude-méditation, Op. 28 海での夢、練習曲=瞑想、作品28
1868年頃ににパリで初版。ロ短調、A-B-A'形式。右手3連符の和音の下から、左手に短二度音程混じりの波のうねりのような旋律が寄せては返し、暗い夜の海を思わせる雰囲気。中間部は嬰ヘ長調になり、十度の音程で奏される旋律は穏やかな感じで、闇夜に月が現れて海面を仄かに照らすような光景を想像します。BからAに戻る部分で現れる減七の和音の連続の下降は、ショパンの練習曲作品10-3「別れの曲」の中間部終盤にそっくりである。- Mazurka de salon, Op. 30 サロン風マズルカ、作品30
カレーニョのピアノ曲では比較的技巧的に易しい作品。ト短調、前奏-A-B-A'-C-D-B-A"-コーダの形式。哀愁漂うマズルカだ。- Deux Esquisses italiennes 2つのイタリアのスケッチ
12歳よりパリやロンドンなどで十代を過ごしたカレーニョは、イタリアを訪れたこともあったであろう。イタリアの風景を描いたこの組曲は、正に絵葉書のような美しさで、特に第1番Veniseはカレーニョの作品の中でも弾かれることの多い曲である。第1番Veniseはト長調、A-B-A'形式。繊細で美しいこの曲は、ヴェニス名物のゴンドラに乗った光景を描写したのであろう。6/8拍子の左手伴奏にのってppで奏される右手旋律は、海面がきらっきらっと光を反射するのを16分3連符で描いたような感じで色彩感一杯だ。中間部は二長調になり表情豊かになる。再現部への経過部分は、和音のうつろいや高音のカデンツァが美しい。第2番Florenceは変ホ長調、A-B-A'-コーダの形式。青い空の下、今日も爽やかな一日が始まるといった清々しい曲。内声の旋律に後打ちの和音の伴奏が付く。Bは変ロ長調になる。
- Venise, Rêverie-barcarola, Op. 33 ヴェニス、空想=舟歌、作品33
- Florence, Cantilène, Op. 34 フィレンツェ、カンティレーナ、作品34
- Intermezzo-scherzoso, Op. 34 間奏曲=スケルツォーソ、作品34
1879年に初版。イ長調、前奏-A-A'-B-A"-コーダの形式。スタッカートの8分音符の旋律がポルカ風に楽しく奏される。Bはホ長調になる。- Le sommeil de l'enfant, Berceuse, Op. 35 子供の眠り、子守歌、作品35
ヘ長調、A-A'-A-B-Aの形式。ゆりかごのような伴奏にのって、静かな旋律が途切れ途切れ奏される。音量はpp~pで優しく曲は進む。中間部のBはロ長調になり、少し動きがある。- Highland, Souvenir of Scotland, Op. 38 ハイランド、スコットランドの思い出、作品38
1872年ににパリで初版。ハ長調、A-A-B-C-C'-B'-A形式。「ハイランド」とはスコットランド高地のことを指す言葉。イギリスの民族舞踊であるカントリーダンスを描いた思われる楽しい曲。Bはト長調に、Cはハ長調で踊りが盛り上がるように華やかに奏される。- Vals gayo, Op. 38 愉快なワルツ、作品38
自筆譜には「1910年5月にオーストラリアのシドニーにて作曲」と記されており(この頃カレーニョはオーストラリアやニュージーランドを演奏旅行で訪れている)、カレーニョの作品では晩年の作と言えよう。ト長調、A-B-A'形式。うきうきするようなワルツのリズムにのって旋律が現れる。中間部Bは変ホ長調になり、右手旋律に付く和音や左手オクターブが華やかな響きだ。再現部のA'では、左手伴奏が一部2拍子になるヘミオラで、ベネズエラ・ワルツの雰囲気を少し感じさせる。- La fausse note, Fantaisie-valse, Op. 39 調子はずれの音、幻想的なワルツ、作品39
1872年ににパリで初版。変イ長調、A-B-A'-C-A-D-E-A'-Fのロンド形式。全体的に華やかなワルツである。Aの旋律には短二度の前打音が付いて、その響きは正に「調子はずれの音」だ。- Kleiner walzer (Teresita waltz) 小さなワルツ(テレシータのワルツ)
1884-1885年頃に作られたこの曲は、カレーニョと二番目の夫Giovanni Tagliapietraとの間に生まれた娘のTeresitaに献呈されている。二長調。可憐な美しいワルツで、当時はヨーロッパでは人気のピアノ曲であったとのこと。但し楽譜を見ると、伴奏和音の真ん中の音だけ右手で取るようになっていて、その音だけ次の小節までタイで音を伸ばすように指示があったりと結構凝った書法(下記の楽譜)で、楽譜の指示通りの手の配分で弾くのはペダリングも含め難しい。(和音は全部左手か右手かどちらかで取ってしまえば楽なのだが、そうしてしまっては作曲者自身の音の要求に適っていないような気がする。)
Kleiner walzer、7~18小節、C.F.W. Siegelより引用