Ricardo Castilloのピアノ曲リスト
1912-1919
- Berceuse 子守歌
- Barcarolle (No. 1) 舟歌(第1番)
- 2eme Barcarolle 舟歌第2番
- 1er Nocturne 夜想曲第1番
- L'eau qui court... 水の流れ・・・
- Scène pastorale 牧歌的光景
- Poème pastoral 牧歌的な詩集
- Sous le bois 林の中で
- Le vent a mis les arbres en fête 喜びの木々を抜ける風
- Nuages 雲
- Jeux 遊び
- Clair de lune 月の光
- Souvenir 思い出
1921
- Centro América, Marcha para piano 中央アメリカ、ピアノのための行進曲
1926-1934
- Guatemala, série de impresiones (1er cuaderno) グアテマラ、印象の連続(第1巻)
- En el atrio de la vieja iglesia 古い教会の広間にて
- Salida de la cofradía コフラディアの退出
- La procesión 行列
- Entrada de la cofradía (La Parranda) コフラディアが入ってくる(お祭り騒ぎ)
- Canción del pescador 漁師の歌
- Patitos de Amatitlán アマティトゥラン湖の子がも
1938
- Suite en Re 二長調の組曲
- Presto
- Giocoso
- Espressivo
- Cantabile
- Malinconico
- Un petit rien ほんの少し
1940
1942
- Tres nocturnos 3つの夜想曲集
- Allegro
- Moderato
- Moderato (quasi andante)
1949
- Ocho preludios para piano ピアノのための8つの前奏曲集
- Presto
- Lento
- Moderato
- Andante con moto
- Molto moderato
- Allegretto
- Giusto
- Moderato
1957-1966
- Siete piezas para piano ピアノのための7つの作品集
- I. Nocturno para Georgette (1957) ジョルジェットのための夜想曲
- II. Improvisación en gris (1963) 灰色の即興曲
- III. Nocturno (1958) 夜想曲
- IV. Preludio para Ilma (1964) イルマのための前奏曲
- V. Visión (1966) 幻影
- VI. Preludio 前奏曲
- VIa. Alucinación 幻覚
- VII. Divagación (1965) 余談
Rodrigo Asturiasによるピアノ編曲
- Danza de los seres misteriosos (de ballet Paal-Kabá) 不思議な人達の踊り(バレー パール・カバーより)
- Tres danzas de Paal-Kabá パール・カバーの3つの踊り
Ricardo Castilloのピアノ曲の解説
1912-1919
- Berceuse 子守歌
変ト長調、三部形式。アルペジオの左手伴奏にのって穏やかな旋律が三度重音で奏される。時々短三和音が現れのが、曲に翳りを与えている。- Barcarolle (No. 1) 舟歌(第1番)
楽譜には曲名は《Barcarolle》としか記されていないが、実質第1番である。変イ長調。五音音階が行ったり来たりの静かな曲。- 2eme Barcarolle 舟歌第2番
イ長調、A-B-A'形式。ゆったりとした旋律が流れる6/8拍子の曲。曲が進むにつれ、少しづつ旋律の音や和音が変わっていくのが絶妙。A'は 5/8拍子になり、中声部に下行音階が加わるのが水の流れのようで何とも美しい。- 1er Nocturne 夜想曲第1番
ト長調、A-B-A'形式。シューマン風の後打ちのリズムにのってロマンティックな旋律が静かに流れる。Aはト長調〜ホ長調〜変イ長調と転調するのが色彩的。Bは変イ長調になる。A'は変イ長調のままで、中声部に新たにカノン風の対旋律が加わる。- L'eau qui court... 水の流れ・・・
嬰ハ短調。高音部の細かい音型が水の流れを描写している。ラヴェルの《水の戯れ》のような複雑な書法には及ばないが、カスティージョらしい透明でシンプルな曲。- Scène pastorale 牧歌的光景
変イ長調。これも高音の響きがきれい。田舎に吹く微風を描いたような空虚五度の高音部アルペジオの下で、ペンタトニックの素朴な旋律が断片的に現れる。- Poème pastoral 牧歌的な詩集
この組曲は、フランス印象主義の影響を受けながらもドビュッシーやラヴェルよりはかなり音を切り詰め、そのぶん透明感を増したカスティージョ独特の世界が形成されつつあるのが窺える美しい組曲である。後年、この彼独自の書法とグアテマラ民族音楽が融合し、カスティージョの民族主義が誕生することになっていく。
- Sous le bois 林の中で
嬰ヘ長調。林に吹く微風か、木々のざわめきの音を思わせるようなシ-ド#-ソ#-シの2オクターブの柔らかい静かなアルペジオにのって断片的な旋律が歌われる。旋律はポリフォニックになり、高音部では時おり小鳥の鳴き声が、中音部では遠くの鐘の音が鳴る。- Le vent a mis les arbres en fête 喜びの木々を抜ける風
ト長調。音階の上下する旋律がいろいろな声部で奏される。ちょっと、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」を思わせる曲。- Nuages 雲
イ長調。雲の上の静けさを描いたような曲。下行するモチーフが最初は単音で静かに、やがて折り重なるように三声になって奏される。- Jeux 遊び
ニ長調。子どもの活発な遊びを描いたような愛らしい曲。- Clair de lune 月の光
強いて言えば嬰へ短調。神秘的な静けさを感じる曲。高音部の五度重音がオスティナートで静かに鳴り続ける中、あても無いようなモチーフが奏される。- Souvenir 思い出
嬰ヘ長調。組曲を纏めるような終曲で、第1曲〈Sous le bois〉と同じ伴奏音型が現れ、第2曲〈Le vent a mis les arbres en fête〉の旋律が断片的に奏される。1926-1934
- Guatemala, série de impresiones (1er cuaderno) グアテマラ、印象の連続(第1巻)
グアテマラ民族主義作曲家としてのカスティージョのピアノ曲の最高傑作!と思います。媚びるような旋律も甘い和声も無いが、カスティージョらしい少ない音の中から独特の透明感というか、空気感に満ちた魅力溢れる組曲である。楽譜には「第1巻」と記されているが、第2巻以降は作られなかった。僅か6曲、全曲弾いても約10分少々だけなのが惜しく、もっともっとグアテマラを題材にピアノ曲を書いて欲しかったな~と思う。第1番から4番までは続けて演奏するよう楽譜に記されている。
- En el atrio de la vieja iglesia 古い教会の広間にて
左手低音のド-ソの五度のオスティナートが教会の静けさを、右手高音の煌めくようなペンタトニックの32分音符音型はチリミア(中南米の楽器、オーボエのような音色の縦笛)の音を描いているよう(下記の楽譜)。ハ長調で、臨時記号も全く現われない単純な作りながら、古い教会の広い空間の空気感を見事に描いている。
Guatemala, Série de "Impresiones" (1er cuaderno), En el Atrio de la Vieja Iglesia、1-6小節、A. Mounotより引用- Salida de la cofradía コフラディアの退出
グアテマラ先住民族の一つのキチェ族には、マヤの神々とキリスト教が融合した宗教を信仰している人々がいて、各村のそうした信徒の講組織はコフラディアと呼ばれている。曲は40秒ほどの短い曲。信者達がせわしなく歩くのを左手低音五度のミ-シ~ファ♯-ド♯の連続で描いている。右手旋律には楽譜に「鐘 Cloches」と記された音型も現れる。曲は段々クレッシェンドして、またディミヌエンドして消えるように終る。- La procesión 行列
コフラディアの荘厳な聖行列を描写したような曲。低音でシーシシファ♯ーファ♯ーが無表情に繰り返される音型にのって高音部のチリミアの響きや中音部の祈るような旋律が現れ、最初はpから段々クレッシェンド。三段楽譜で書かれたffまで盛り上がるが突然、調が変りppになる所は絶妙の効果(下記の楽譜)。行列の音型はその後、消えていくようにデクレッシェンドして終わる。
Guatemala, Série de "Impresiones" (1er cuaderno), La Procesión、38-46小節、A. Mounotより引用- Entrada de la cofradía (La Parranda) コフラディアが入ってくる(お祭り騒ぎ)
組曲中、最も華やかな曲で面白い!。目の覚めるようなクラスター+グリッサンドに引き続き6/8拍子の速い踊りが熱狂的に奏される(下記の楽譜)。旋法はソのミクソリディアである。
Guatemala, Série de "Impresiones" (1er cuaderno), Entrada de la Cofradía (La Parranda)、1-5小節、A. Mounotより引用
踊りは段々興奮していき、同じ和音が19小節狂ったように繰り返され、グリッサンドが鳴り響くや急にふっと静かになり、マリンバのトレモロを模したような愛嬌ある旋律が現れるコントラストは面白い(下記の楽譜)。
Guatemala, Série de "Impresiones" (1er cuaderno), Entrada de la Cofradía (La Parranda)、64-70小節、A. Mounotより引用
- Canción del pescador 漁師の歌
ト長調。左手の優しいアルペジオにのって、第1番〈En el Atrio de la vieja iglesia〉に出てきたチリミアの音型が優しくゆったりと歌われる。- Patitos de Amatitlán アマティトゥラン湖の子がも
40秒ほどの短い曲。アマティトゥラン湖は首都グアテマラシティの南25キロにある湖。曲は愛らしい子鴨を高音のグリッサンドで表現。1938
- Suite en Re 二長調の組曲
カスティージョが長年パリに留学していた影響を感じさせる作品。とはいえ作風は留学中よりずっと洗練されている。この組曲はクープランなどのクラヴサン作曲家へのオマージュと言える新古典主義的な曲。第1番Prestoは高音部で16分音符が煌めく曲。第2番Giocosoは柔らかい曲調で、6/8拍子の伴奏にのって3/4拍子の旋律が奏される。第3番EspressivoはA-B-A'形式。カスティージョっぽい透明な神秘さを湛えた曲。第4曲Cantabileは可憐な旋律に不安定な和音が付く。第5番Malinconicoは第1番同様に16分音符が快活な曲。
- Presto
- Giocoso
- Espressivo
- Cantabile
- Malinconico
- Un petit rien ほんの少し
カスティージョの死後に発見された遺作。二長調で、1分程の短い快活な曲。1940
- San Andrés Xecul サン・アンドレス・シェクル
楽譜には「1940年2月19日、グアテマラ」と記載がある。サン・アンドレス・シェクルとはグアテマラ中西部のトトニカパン県にある小さな町の名前で、原色のカラフルな色彩の小さな教会があることで有名。3分程の短い曲だが、内容盛り沢山で組曲《グアテマラ》と並ぶグアテマラ風味たっぷりのいい曲。A-B-A'-B'形式。マリンバの音色を思わせるホ長調、6/8拍子の明るい旋律で始まり、転調し、更には高音部に16分音符の対旋律を伴う所は複雑でアルベニスのピアノ曲を思わせる。Bは土着的な太鼓のようなリズムにのってゆっくりした歌が奏される。その後チリミアを模した音がこだまのように高音部に繰り返さるうちに冒頭の旋律が中音部で再現される所は絶妙。1942
- Tres nocturnos 3つの夜想曲集
各曲1分位の短い曲から成る。カスティージョらしい、透明な雰囲気の夜想曲集。第1番はイ長の和音で始まる分散和音の伴奏にのって軽やかな旋律が奏される。第2番は彷徨うような旋律に、16分音符の流れるような対旋律が纏わりつく。第3番は変ホ短調のアルペジオにのって変ホ長調(またはト短調)のような旋律が被さって多調の響きの曲。
- Allegro
- Moderato
- Moderato (quasi andante)
1949
- Ocho preludios para piano ピアノのための8つの前奏曲集
8曲から成り、全曲弾いても約8分の組曲。楽譜の表紙にはフランス語で「私の魂は秘密で、私の人生は神秘である Mon âme a son secret, ma vie a sa mystère」と意味深長なことが記されている。カスティージョの以前のピアノ曲に比べて音は一層少なくなるが、その少ない音が余韻を感じさせる不思議な曲集である。第1番Prestoは右手が速いアラベスク風。第2番Lentoは3拍子の低音オスティナートにのって、呟くような旋律が奏される。第3番Moderatoは旋律も伴奏も単音の柔らかい曲。第4番Andante con motoはこの組曲では唯一、楽譜に調号(変ロ短調)が記され、調性が感じられ、悲しい旋律が奏される。第5番Molto moderatoは謎めいたユニゾンの旋律で始まる。第6番Allegrettoは右手旋律はケークウォークのリズムで、左手はマリンバの音色を思わせる16分音符トリルだ。時々32分音符が高音部から降り注ぐように鳴るのが滑稽だ。第7番Giustoはポルカ風の曲で、イ短調〜変ロ短調〜ロ短調〜ハ短調と半音づつ上がって、また半音づつ下がってイ短調で終わる。第8番Moderatoは静かにハ長とハ短を揺れ動く曲。
- Presto
- Lento
- Moderato
- Andante con moto
- Molto moderato
- Allegretto
- Giusto
- Moderato
1957-1966
- Siete piezas para piano ピアノのための7つの作品集
この組曲は1957から晩年の1966年にかけて作曲された上記の小品をカスティージョ研究の第一人者Rodrigo Asturias氏が補筆・編集し組曲としたもの。第6番はPreludioとAlucinaciónの2つのバージョンがある。また1番Nocturno para Georgetteと7番Divagaciónは同じ曲の違うバージョンである。いずれも無調で思いきり不協和音からなる。難解な曲が多いが、カスティージョが60歳を越えてなお新しい作風を求めていたことを示している。
- I. Nocturno para Georgette (1957) ジョルジェットのための夜想曲
- II. Improvisación en gris (1963) 灰色の即興曲
- III. Nocturno (1958) 夜想曲
- IV. Preludio para Ilma (1964) イルマのための前奏曲
- V. Visión (1966) 幻影
- VI. Preludio 前奏曲
- VIa. Alucinación 幻覚
- VII. Divagación (1965) 余談
Rodrigo Asturiasによるピアノ編曲
- Danza de los seres misteriosos (de ballet Paal-Kabá) 不思議な人達の踊り(バレー パール・カバーより)
バレー音楽《Paal Kabá》(1951) の最終部分の4つの踊り第1曲をピアノ編曲されたもの。カスティージョの代表作からの編曲だけあって、不協和音の使い方がとても面白く、魔法的かつ野性的な雰囲気の踊りの曲だ。所々聴こえる高音はチリミアの音を模しているのだろう。