Ricardo Castroのピアノ曲リスト
斜字は出版がなく、かつ手稿譜も現存しないが、当時の資料で演奏記録のみが残されている作品です。リカルド・カストロの作品の一部は初版(フランス語)とメキシコでの再販(スペイン語)では表記が異なることがあり、その場合は初版のフランス語の題名を記しました。このリストを見ると作品番号が2つの異なる曲に付されていたり、作曲年と作品番号の順がバラバラなことに気付かれると思います。リカルド・カストロの場合、作曲後十数年たって楽譜が出版された時に出版順に作品番号を振ったり、彼の死後、遺作に出版社が適当に作品番号を振ったりの場合が多く、作品番号はあまり意味をなしていない場合が多いです。
1880年頃
- Rigoletto, Transcrizione elegante per piano-forte sui migliori motivi dell' opera di Verdi, Op. 1 リゴレット、ヴェルディのオペラの最上のモチーフによるピアノのための優美な編曲、作品1
- Alegría del corazón, Vals birllante, Op. 6 魂の喜び、華麗なワルツ、作品6
1880
- Amor filial, Fantasía poética, Op. 4 子の情愛、詩的な幻想曲、作品4
1881年頃
- Fantasía sobre temas de Dinorah de Meyerbeer マイアベーア作曲「ディノーラ」の主題による幻想曲
1882年以前
- Souvenir, Méditation, Op. 9 思い出、瞑想、作品9
1882
- Aires nacionales mexicanos, Capricho brillante, Op. 10 メキシコ民謡による華麗なる奇想曲、作品10
- Los campos, Pastoral, Op. 16 田園、牧歌、作品16
1883年以前
- Clotilde, Vals elegante, Op. 4 クロティルデ、優雅なワルツ、作品4
- Enriqueta, Mazurka エンリケータ、マズルカ
1884年以前
- Deux romances sans paroles, Op. 37 2つの詩のないロマンス、作品37
- Ilusión 幻想
- Dulce recuerdo 甘い思い出
1884
- Capricho-Allegro カプリーチョ・アレグロ
- Himno Sinfónico por Gustavo E. Campa, Arreglado a cuatro manos グスタボ・E・カンパの交響的讃歌、連弾用編曲
1885年以前
- Himno nacional mexicano (transcrito para piano) メキシコ国歌(ピアノ編曲版)
- Josefina, Vals ジョセフィーナ、ワルツ
- Norma, Fantaisie de concert pour piano sur des motifs de l'Opéra de Bellini, Op. 8 ノルマ、ベッリーニ作曲のオペラのモチーフによるピアノのための演奏会用幻想曲、作品8
- Première polonaise ポロネーズ第1番
- Primer nocturno en si menor, Op. 48 夜想曲第1番ロ短調、作品48
- Segundo nocturno en fa# menor, Op. 49 夜想曲第2番嬰へ短調、作品49
- Casta diva de Norma de Bellini, transcripción para mano izquierda sola ベッリーニ作曲の「ノルマ」の〈清らかな女神よ〉、左手のみのための編曲
- Fantasía elegante 優雅な幻想曲
- Fantasía sobre Aida de Verdi ヴェルディ作曲「アイーダ」による幻想曲
- Fantasía sobre el Miserere de El Trovador de Verdi ヴェルディ作曲「イル・トロヴァトーレ」の〈ミゼレーレ〉による幻想曲
- Himno Nacional del Brasil de Gottchalk ゴットシャルクのブラジル国歌
- Potpourri de aires nacionales de los Estados Unidos de América アメリカ合衆国の民謡によるメドレー
1885
1889年頃
- Deux mazurkas, Op. 3 2つのマズルカ、作品3
- Nerveux 神経質に
- Gracieux 優しく
- Ballade en sol mineur, Op. 5 バラードト短調、作品5
- Trois pensées musicales, Op. 8 3つの音楽的考察、作品8
- Appassionato (Una hoja de álbum) (1888) 熱情(アルバムの一葉)
- Mélodie メロディー
- Menuet メヌエット
1893
1894年以前
- Deux morceaux, Op. 9 2つの作品、作品9
- Valse intime 親密なワルツ
- Minuetto メヌエット
1896
1899
- Atzimba, Potpurri para piano (オペラ)アツィンバ、ピアノのためのメドレー
- Atzimba, Intermezzo para piano solo y piano á cuatro manos (オペラ)アツィンバ、間奏曲(ピアノ独奏版および連弾版)
- Scherzino, Op. 6 スケルツィーノ、作品6
- Douze études pour piano d'après Clementi, Op. 7 クレメンティによるピアノのための12の練習曲集、作品7
1900
- Petite marche militaire (oeuvre posthume), Op. 34-2 小さな軍隊行進曲(遺作)、作品34の2
1901
1902年以前
1902
1903
- Valse-bluette, Op. 12-2 青紫色のワルツ、作品12の2
- Six préludes, Op. 15 6つの前奏曲集
- Feuille d'album アルバムの一葉
- Barcarole 舟歌
- Rêve 夢
- Sérènade セレナーデ
- Nocturne 夜想曲
- Etude 練習曲
- Près du Ruisseau, Op. 16 小川のそばで、作品16
1904
- Suite, Op. 18 組曲、作品18
- Prélude - Moderato 前奏曲
- Sarabande - Andante サラバンド
- Caprice - Vivo カプリーチョ
- Valse rêveuse, Op. 19 夢想的なワルツ、作品19
- Deux études de concert, Op. 20 2つの演奏会用練習曲集、作品20
- En fa# mineur 嬰ヘ短調
- En ut majeur ハ長調
- Menuet pour orchestre d'archets, Reducción pour piano, Op. 23 弦楽合奏のためのメヌエット、ピアノ編曲版、作品23
1905年頃
- Deux morceux de concert, Op. 24 2つの演奏会用作品
- Gondoliera (Souvenir de Venise) ゴンドラ(ヴェニスの思い出)
- Tarantella タランテラ
- Valse de concert, Op. 25 演奏会用ワルツ、作品25
- Esquisse-Mazurka スケッチーマズルカ
- La légende de Rudel, Reducción para piano de los principales motivos ルーデルの伝説、主要な主題のピアノのための編曲
1906年以前
1906
- Cuatro danzas 4つのダンサ集
- Coqueteria 小粋に
- Declaración 宣言
- Si... もし…
- En vano 空しく
- Deux impromptus, Op. 28 2つの即興曲、作品28
- En forme de valse ワルツの形式による
- En forme de polka ポルカの形式による
- Berceuse, Op. 36-1 子守歌、作品36の1
- Valse caressante (Vals cariñoso) 優しいワルツ
1907年以前
- Improvisaciones, 8 danzas características mexicanas, Op. 29 即興曲集、8つのメキシコ風ダンサ、作品29
- Deux pièces intimes, Op. 30 2つの内密な小品、作品30
- Valse sentimentale 感傷的なワルツ
- Barcarolle 舟歌
- Romance, Op. 31-1 ロマンス、作品31の1
- Valse amoureuse, Op. 31-2 愛のワルツ、作品31の2
- Menuet à Ninon, Op. 32 ニノンへのメヌエット、作品32
- Moment de valse (oeuvre posthume), Op. 34-1 ワルツの時(遺作)、作品34の1
- Valse mélancolique (oeuvre posthume), Op. 36-2 憂うつなワルツ(遺作)、作品36の2
- Barcarolle (oeuvre posthume), Op. 37-1 舟歌(遺作)、作品37の1
- Valse fugitive (oeuvre posthume), Op. 37-2 はかないワルツ(遺作)、作品37の2
- Menuet rococo (oeuvre posthume), Op. 38-1 ロココ様式のメヌエット(遺作)、作品38の1
- Plainte (oeuvre posthume), Op. 38-2 嘆き(遺作)、作品38の2
- Valse printanière (oeuvre posthume), Op. 39 春のワルツ(遺作)、作品39
- Menuet humoristique (oeuvre posthume), Op. 40 ユーモラスなメヌエット(遺作)、作品40
- Impromptu (oeuvre posthume), Op.41 即興曲(遺作)、作品41
- Scherzando (oeuvre posthume), Op. 42 スケルツァンド(遺作)、作品42
- Fileuse (oeuvre posthume), Op. 43 糸を紡ぐ人(遺作)、作品43
- Nostalgie (oeuvre posthume), Op. 44 ノスタルジー(遺作)、作品44
- Gavotte et Musette (oeuvre posthume), Op. 45 ガボットとミュゼット(遺作)、作品45
- Mazurka (oeuvre posthume), Op. 46 マズルカ(遺作)、作品46
- Deuxième polonaise ポロネーズ第2番
- Soirées mondaines, Cinq valses légères 夜会、5つの軽やかなワルツ集
- Vibration d'amour, Valse lente 愛の振動、ゆっくりとしたワルツ
- Parfums de Vienne, Valse lente ヴィエンヌの香り、ゆっくりとしたワルツ
- Paris entrainant, Valse lente 心引き立つパリ、ゆっくりとしたワルツ
- Fleurs, femmes et chant, Valse lente 花々、女性たち、そして歌、ゆっくりとしたワルツ
- Frivole passionnée, Valse lente 浅薄な情熱、ゆっくりとしたワルツ
- Deux chants sans paroles (Canción sin palabras) 2つの無言歌
- Cuatro danzas 4つの舞曲集
- Allegretto
- Allegretto moderato
- Allegretto epressivo
- Allegro
- Mazurka en si menor (oeuvre posthume) マズルカロ短調(遺作)
- Mazurka mélancolique 憂うつなマズルカ
- Trozo en estilo antiguo (oeuvre posthume) 古風な様式の一片(遺作)
- Valse capricieuse 気まぐれなワルツ
- Scherzetto (Obra póstuma) スケルツェット(遺作)
- Danza frívola (Obra póstuma) くだらないダンサ(遺作)
- Danza de salón (Obra póstuma) サロン風ダンサ(遺作)
- Vals Scherzo ワルツ・スケルツォ
1907
- Thème varié (oeuvre posthume), Op. 47 主題と変奏(遺作)、作品47
- Dos danzas (Obra póstuma) 2つのダンサ(遺作)
Ricardo Castroのピアノ曲の解説
1880年頃
- Rigoletto, Transcrizione elegante per piano-forte sui migliori motivi dell' opera di Verdi, Op. 1 リゴレット、ヴェルディのオペラの最上のモチーフによるピアノのための優美な編曲、作品1
1880年1月にカストロ自身が初演したこのピアノ編曲は、オクターブ連打や跳躍、音階、アルペジオ、ポリフォニーなど超絶技巧満載で、弱冠15歳のカストロのピアノ技巧の高さを遺憾なく披露したような作品である。A-B-C-D-コーダの形式。Aは第一幕の前奏曲が原曲と同じハ短調で奏される。Bは第三幕の有名なマントヴァ公爵のカンツォーネ〈女心の歌 La donna è mobile〉が(原曲はロ長調だが)変ロ長調で奏され、後半は16分音符アルペジオの中から旋律が浮かび上がる華麗な変奏となる。Cは第三幕のマントヴァ公爵・マッダレーナ・リゴレット・ジルダの四重唱〈いつだったか、思い出す Un dì, se ben rammentomi〉が(原曲はホ長調だが)変ホ長調で奏され、繰り返しはホ長調に転調する。Dは第三幕の同じく四重唱の〈美しい恋の娘よ Bella figlia dell'amore〉が原曲と同じ変ニ長調で奏され、重唱を伴奏も含めピアノ独奏に詰め込んだ編曲は見事で(下記の楽譜)、最後は派手に変奏される。
Rigoletto, Transcrizione elegante per piano-forte sui migliori motivi dell' opera di Verdi, Op. 1、179-182小節、A. Wagner y Levien.より引用1882
- Aires nacionales mexicanos, Capricho brillante, Op. 10 メキシコ民謡による華麗なる奇想曲、作品10
1883年5月にベネズエラで開かれたシモン・ボリーバル生誕百年祭に、メキシコ政府はメキシコの多数の作曲家の楽譜をベネズエラ国立図書館へ送ったが、その中にこの曲の楽譜も含まれた。カストロの師のフリオ・イトゥアルテが1880年頃に作曲したピアノ曲《メキシコのこだま(メキシコ民謡)、演奏会用奇想曲 Ecos de México (Aires nacionales), Capricho de concierto》と発想は同じく、メキシコ人にとってお馴染みの民謡を次々と繋げていく作品だが、《メキシコのこだま》より更に多数のメキシコ民謡が登場する。まだカストロが弱冠18歳の発展途上の時期の作品であり、和声的にはまだ工夫が今一つだが、名ピアニストのカストロらしく技巧的な華やかな曲となっている。(以下の文中で〈〉囲みは、楽譜に記載のある民謡名。)冒頭の変ニ長調の前奏のような部分は民謡 "El telele"(下記の楽譜)。
Aires nacionales mexicanos, Capricho brillante, Op. 10、1-8小節、A. Wagner y Levien.より引用
続く変ニ長調の舟歌のように流れるような旋律は民謡〈El payo〉で、変奏の右手32分音符の装飾音がきらびやか。次の変ト長調は民謡〈El guajito〉で、変奏の両手オクターブ和音交互連打がこれまた華やか。次のニ長調はハリスコ州の民族舞踊で有名なハラベ・タパティオ Jarabe Tapatío の中の〈El atole〉が高音部で、〈El perico〉が中音部で同時に奏される(下記の楽譜)。
Aires nacionales mexicanos, Capricho brillante, Op. 10、101-105小節、A. Wagner y Levien.より引用
この変奏はニ短調などに転調しながらffで強打される和音の旋律の上を、半音階スケールが雷のように下りてくるのが聴き所。曲はここで一旦静まり、1846年〜1848年の米墨戦争(メキシコと米国の戦争)中に流行したメキシコの歌〈La pasadita〉がト長調で優雅に奏される。次はまた陽気になりハ長調の民謡〈El palomo〉~ハラベ・タパティオと続く。この変奏の右手がまたリスト風で技巧的。続いてヘ長調でまた別の〈Jarabe〉の一節が現れる。最後はヘ長調のまま民謡〈La tapatia〉、〈Zapateado〉が一瞬奏された後、ハラベ・タパティオが陽気に奏され、最後は民謡〈El perico〉が熱狂的に奏され、両手オクターブ連打で終る。1883年以前
- Clotilde, Vals elegante, Op. 4 クロティルデ、優雅なワルツ、作品4
クロティルデとは女性の名前で、カストロの女弟子であるClotilde Herreraに献呈された。変イ長調、前奏-A-B-C-A'-D-E-F-E-A"-コーダの形式。切れ目なく次々と新たな旋律が現れる形式は舞踏会の音楽にぴったりの華やかなワルツである。Bは変ホ長調、DとEは変ニ長調、Fは変ト長調になる。カストロのまだ初期のピアノ曲らしく、右手は(技巧的な装飾はあるものの)旋律、左手はブンチャッチャッの伴奏と単純な書法で作られている。1885年以前
- Himno nacional mexicano (transcrito para piano) メキシコ国歌(ピアノ編曲版)
メキシコの国歌はフランシスコ・ゴンサレス・ボカネグラの作詞、ハイメ・ヌノ・ロカの作曲により作られ、1854年に制定された。カストロによるこのピアノ編曲版は、1885年11月にカストロ自身のピアノ演奏で初演されている。現在のメキシコの法律(国章・国旗・国歌法)では、定められた様式以外での国歌の歌詞または楽曲を改変すること、および作曲若しくは編曲により国歌の全部または一部を演奏することは禁じられているため、原則としてメキシコ国内ではこのカストロのピアノ編曲版の演奏は出来ない。そのため、メキシコのピアニストのシルビア・ナバレッテはこのピアノ編曲版を録音するにあたってメキシコ内務省より特別の許可を得たとのことである。変ホ長調、前奏-A-B-A'-B'-A"-B"-A"'の形式。前奏は結構長く、国歌の冒頭の2小節の旋律をモチーフとして繰り返されながら、最初はppで静かに、徐々に音量を増してfffまで盛り上がる。Aは国歌の冒頭が両手オクターブで勇壮に奏される。Bは楽譜にストローフィ estrofa と記され、国歌の中間部が落ち着いた雰囲気で奏されるも、やがてアルペジオ装飾音を伴って変奏される。A'とB'は高音部16分音符の分散和音の中から旋律が浮かび上がる。A"とB"は高音部トレモロの下に旋律が奏され、最後のA"'は両手オクターブ和音が怒涛のように鳴り響いて終わる。- Première polonaise ポロネーズ第1番
変イ長調、前奏-A-A-B-C-C-D-A-B-C'-A'形式。華やかな響きの曲。前奏は高音部にポロネーズのリズムが現れ、三度重音の半音階下降が煌びやかに鳴り響く。Aは堂々とした雰囲気の旋律が奏される。Bはハ短調から頻繁に転調する。Cはニ長調になり優美な旋律に始まり、オクターブの華やかな繰り返しとなる。Dは深刻な旋律が嬰へ短調で始まるが、間もなく前奏で用いられた華やかな三度重音を経てAに戻る。C'は変ニ長調で奏され、最後のA'はコーダの性格で、Aの旋律はテンポを速め、分散和音が盛り上がって奏されて終わる。- Primer nocturno en si menor, Op. 48 夜想曲第1番ロ短調、作品48
ロ短調、A-B-A'-C-A"-B'-A"'形式。物悲しげなモチーフが現れ、いろいろな声部に現れつつポリフォニックに展開される。- Segundo nocturno en fa# menor, Op. 49 夜想曲第2番嬰へ短調、作品49
嬰ヘ短調、前奏-A-B-A'-コーダの形式。Aは寂しげな旋律が奏される。Bは六度重音の旋律が劇的に盛り上がって奏される。1885
- ¡No me caso!, Danza 私は結婚しません!、ダンサ
元はピアノ伴奏の歌曲だが、(おそらく同年に)ピアノ独奏譜も出版された。カストロは生涯に十数曲の歌曲を作曲したが、殆どがフランス語の歌詞で、スペイン語の歌詞によるものはこの1曲のみである。歌詞は要約すると「百万の富を持った求婚者がいるが、彼は金髪で年老いていて、私の好みじゃない。私はハンサムで優しい若い男が欲しい。」となる。ニ短調、前奏-A-B-C-間奏-A-B-C形式。3連符混じりのダンサ(コントラダンサ)のリズムにのった愛嬌たっぷりの歌。Bはへ長調、Cはイ長調になって終わる。1889年頃
- Ballade en sol mineur, Op. 5 バラードト短調、作品5
音作りはショパンのバラードやスケルツォの影響を強く感じる、演奏時間約10分の大曲である。うねるような8分音符がほぼ全曲続きながら盛り上がったり収まったりを繰り返す。ト短調、前奏-A-B-A'-B'-A"-B"-A"'-A-コーダの形式(再現部の第二主題を欠いたソナタ形式と見做す文献もある)。Aはアルペジオの伴奏にのって、シ♭-ド♯-ファ♯-ソという陰うつなモチーフで始まる旋律が現れ、モチーフは左手オクターブに移動したり変奏される。Bは8分音符+4分音符交互のモチーフが展開されていく。A'とB'は変ロ長調になり、A"とB"はト長調になる。- Trois pensées musicales, Op. 8 3つの音楽的考察、作品8
- Appassionato (Una hoja de álbum) (1888) 熱情(アルバムの一葉)
この第1曲は1889年に〈アルバムの一葉 Una hoja de álbum〉の曲名でスペインの音楽雑誌「Ilustración musical hispano-americana」に楽譜が掲載された。その後の1903年に〈熱情 Appassionato〉の曲名に変えられて、フランスのアルフォンス・ルデュック社から第2、3曲と共に出版された。嬰ト短調、A-A'-A"形式。切ない旋律が後打ちの伴奏にのって奏され、何度も繰り返される。和音進行も、短調と長調を行き交う転調が何とも情熱的で、激しい感情の起伏を思わせる。最後はピカルディ終止で静かに終わる。- Mélodie メロディー
ト長調、A-B-A'-B'-コーダの形式。アルペジオ混じりの優美な旋律が歌うように奏される。頻繁な転調が魅惑的な響きだ。- Menuet メヌエット
嬰ト短調、A-B-A'-C-A-B-A'形式。古風なメヌエットで、旋律は度々オクターブになる重々しい響きだ。Cは変ニ長調になる。1893
- Caprice-Valse (Vals Capricho), Op. 1 (カプリース・ワルツ)ワルツ・カプリーチョ、作品1
この作品以前にカストロは多数の曲を発表し楽譜も出版されているが、何故この曲が「作品1」なのか?。この曲は既に1894年1月にカストロ自身の演奏で米国ニューヨークで初演されていたが、ドイツの楽譜出版社Friedrich Hofmeister社が1901年にこのCaprice-Valseを出版した。これがカストロにとってヨーロッパでの自作の初出版だったらしい。そのため作曲家としてのヨーロッパデビューのこの曲を出発点と考えて、(それ以前の作品は横へ置いておいて)1901年の出版時にこの曲を「作品1」としたのかもしれない。作品は超絶技巧的!で、ともかく派手さで聴かせる曲である。ホ長調、前奏-A-B-A'-C-D-E-D'-A-B'-A"-コーダの形式。16~32分音符の両手のアルペジオによる前奏に引き続き、VALSEと記された明るい右手の主題が始まる。旋律の随所に3~4オクターブの速い音階やアルペジオが上ったり下ったりのてんこもりで、耳には心地よいが弾くのは大変。中間部のCはハ長調、Dはハ短調、Eは変イ長調になる。コーダのGrandiosoの部分はfffで華やかになり、リスト風の両手オクターブ連打で終わる。この曲はオリジナルのピアノ独奏に加え、ピアノと管弦楽用編曲版(2台ピアノ版への圧縮版は出版された)もある。1894年以前
- Deux morceaux, Op. 9 2つの作品、作品9
- Valse intime 親密なワルツ
変イ長調、A-B-A'形式。カストロの数あるワルツの中では華やかさはさほどない曲で、落ち着いたワルツがいい雰囲気。Bはロ長調になる。- Minuetto メヌエット
変イ長調、A-B-A'-C-C-A-B-A"形式。AとBの旋律はメヌエットらしく上品だが、その下のアルトの対旋律、低音部バスも旋律的な動きをしてポリフォニックな複雑な作りとなっている。加えて前打音やトリル、スラーとスタッカートの対比などメヌエットらしからぬ技巧的な曲である。Cは変ニ長調になる。1896
- Chant d'amour 愛の歌
1896年にメキシコの楽器楽譜店Wagner y Levienがメキシコシティにコンサートホールを造ったが、そのこけら落とし公演で、カストロ自身のピアノ演奏により初演された。ロ長調、前奏-A-B-C-A'-コーダの形式。全体的にリストの《愛の夢第3番》の影響を感じさせる曲である。Aはチェロの音色を思わせる中音部の息の長い旋律に、ハープのようなアルペジオが纏わリつく。Bは変ロ長調になり、Aとほぼ同じ旋律の下では両手重音のアルペジオが奏される。Cはト短調で始まり頻繁に転調する。A'は三段楽譜となり、旋律はオクターブ和音の強奏で、伴奏のアルペジオも16分音符~32分音符と派手々々。随分と大袈裟な「愛の歌」に思えます(下記の楽譜)。
Ricardo Castro, Obras escogidas Vol. II, Canto de amor、79-82小節、Ediciones Mexicanas de Músicaより引用1899
- Atzimba, Potpurri para piano (オペラ)アツィンバ、ピアノのためのメドレー
1898-99年にカストロが作曲した三幕のオペラ《アツィンバ》は、タラスカ王国(現在のミチョアカン州)が1522年にスペインに征服される時代を舞台としていて、アツィンバとはタイトル・ロールであるタラスカ王国の王女の名前である。カストロの代表作であり、オペラの中から〈ピアノのためのメドレー〉と〈間奏曲〉が彼自身によりピアノ用に編曲され出版された。カストロによる「オペラのピアノ編曲譜」としては超絶技巧ではなく中級レベル程度で、おそらくこの編曲の意図はカストロがピアノリサイタルで自ら演奏するためではなく、自作のオペラが広く知られるために書いたものと思われる。演奏時間は約12分で、オペラの中の11箇所の場面の音楽が次々と奏される。- Atzimba, Intermezzo para piano solo y piano á cuatro manos (オペラ)アツィンバ、間奏曲(ピアノ独奏版および連弾版)
オペラ《アツィンバ》の間奏曲は、メキシコでは管弦楽曲として独立して演奏される機会もある曲である。ト長調。落ち着いた息の長い旋律が初め中音部で、やがて高音部で朗々と奏され、繰り返される。1901
- Laendler, Op.12-1 レントラー、作品12の1
レントラーとは南ドイツからオーストリアにかけての民族舞踊で、ワルツの起源の一つとも言われている。ホ長調、A-B-B'-A'形式。左手のオクターブ、右手の六度重音の響きが華やかな曲。A'はハ長調になり、最後の5小節のみホ長調に戻る。1902年以前
- Polonaise, Op. 11 ポロネーズ、作品11
嬰ト短調、前奏-A-B-A'-C-D-C'-A-B'-A"形式。最初のAの部分から三度重音混じりの高音の旋律が華やか。CとDは変イ長調になる。旋律と対旋律のポリフォニックな絡み、ショパン顔負けの目まぐるしい転調、ピアノ技法など、幾つもの点からカストロの作曲技法の高さを感じさせる。ただ曲全体に漂う詩情というか、何かその辺が本家ショパンにはかなわなかったかな‥‥。1902
- Valse-impromptu, Op.17 即興的なワルツ、作品17
ロ長調。演奏時間は約7分かかる。A-B-C-A'-D-E-D'-A"-B'-C'-A"'の形式で、色々な主題が現れては転調していく、物語のような曲。全体的に旋律は重音や和音で奏され、またカストロお得意の高音部で音階や装飾音が上へ下へと舞うのが煌びやかな響きだ。Bはト長調、Cはへ短調で始まる。Dはト長調になる。A"では三段楽譜になり、主旋律と伴奏の間に中音部の対旋律が現れるのが凝った作りである(下記の楽譜)。
Valse-impromptu, Op.17、201-210小節、Friedrich Hofmeister.より引用1903
- Valse-bluette, Op. 12-2 青紫色のワルツ、作品12の2
二長調、A-A-B-A'形式。ゆったりとした優雅なワルツ。Bはへ長調〜変ロ長調〜と頻繁に転調する。Bの後半とA' は、こってりとしたリスト的な装飾音が入る。この曲はカストロ自身により管弦楽曲にも編曲された。- Six préludes, Op. 15 6つの前奏曲集、作品15
メキシコ人ピアニストが現代のピアニストのように、演奏会でロマン派の主要作品をベートーヴェン、シューベルト、ショパン、リストからグリーグ、シンディング、シャミナードまで幅広く取り上げたのはリカルド・カストロが初めてで、彼の伝記本を読むと、カストロはフランス留学の前からセシル・シャミナードの多くのピアノ曲を演奏会で弾いていたようである。リカルド・カストロがパリ留学中に住んでいた家はたまたまシャミナードの家と近かったようで、二人は交流を持ち、シャミナードが《ノヴェレッテ、作品110》をカストロに献呈し、一方カストロはこの《6つの前奏曲集、作品15》を作曲してシャミナードに献呈した。カストロの作品の中では技巧的には比較的中級レベルである。
- Feuille d'album アルバムの一葉
イ長調。20小節の短い曲。アルペジオの伴奏にのって穏やかな旋律が奏される。- Barcarole 舟歌
イ短調、A-B-A'-B'形式(展開部を欠いたソナタ形式ともとれる)。流れるような音階の伴奏にのって、哀愁漂う旋律が奏される。Bはハ長調に始まり、転調をしつつ劇的に盛り上がる。B'はBと同じ旋律がイ長調に移調される。- Rêve 夢
変イ長調、A-A'-コーダの形式。5/4拍子で4分音符和音が静かに連打されるのにのって、穏やかな旋律が静かに奏される。- Sérènade セレナーデ
変ロ長調、A-B-A'-B'形式。軽やかな旋律に、ギターのストロークを思わせる前打音のアルペジオが纏わる。Bはニ長調に始まり、転調が多く、重音の16分音符の連続が技巧的。- Nocturne 夜想曲
変ロ長調、A-B-A'-コーダの形式。息の長い旋律が静かに奏されるが、所々に現れる音階やアルペジオの装飾音がショパン風。Bはト短調から始まり転調していく。- Etude 練習曲
ホ短調、A-A'-コーダの形式。3連符が無窮動に左手→右手と駆け抜けるように奏される。- Près du Ruisseau, Op. 16 小川のそばで、作品16
カストロがパリでピアノを師事したピアニスト・作曲家のテレサ・カレーニョに献呈。1901年にカレーニョは来墨しピアノリサイタルを催し、ベートーヴェンの《ピアノソナタ第14番、月光》、ショパンの《練習曲》、リストの《ハンガリー狂詩曲第6番》などを演奏したが、それを聴いたカストロはよほど感銘を受けたのであろう。メキシコの新聞にカレーニョを絶賛する記事を書いている。カレーニョのピアノ曲《小川、サロン風練習曲第1番 Le ruisseau, 1re étude de salon、作品29》への返礼で作ったらしく、ピアノの名手カレーニョに捧げるに相応しい、リカルド・カストロの作品の中でも際立って技巧的な作品だ。カストロ自身のピアノ演奏により、1904年4月にパリで初演された。A (変ト長調)-B (ヘ長調)-A' (変ト長調)-B' (変ト長調)-コーダの形式で、A、Bの2つの主題から成る、展開部を欠いたソナタ形式ともとれる。冒頭は小川の流れを思わせる右手重音16分音符の下で、左手中音部に伸びやかな旋律が奏される。重音16分音符は左手に受け継がれたり両手で弾かれたりと結構技巧的(ショパンの練習曲作品25-8といい勝負だ、下記楽譜)。レシタティーボ風のBを経て、再びあらわれるA'は、幅広い音域の左手アルペジオにのって、右手オクターブ和音の旋律が華やか。最後はリスト風の32分音符音階が駆け回り静かに終る。
Près du Ruisseau, Op. 16、10-12小節、Friedrich Hofmeister.より引用1904
- Suite, Op. 18 組曲、作品18
カストロのヨーロッパ留学の援助をしてくれた作家で教育芸術大臣のフスト・シエラに献呈。全体的にバロック音楽へのオマージュを感じさせる組曲で、曲想からして彼が作曲に力を入れたことが窺える。
- Prélude - Moderato 前奏曲
嬰ヘ短調、A-A'-B-A"形式。冒頭の荘重な旋律が繰り返すうちにオクターブに、2オクターブにと厚みを増し、教会のパイプオルガンを思わせるようなアルペジオと和音が鳴りまくる曲。最後はピカルディ終止となる。- Sarabande - Andante サラバンド
変二長調、A-A-B-A'-B-A'形式。ゆったりとした曲で、右手旋律の和音や左手オクターブが重々しく鳴る。- Caprice - Vivo カプリーチョ
嬰ヘ長調、A-B-A'-B'-A"形式。無窮動に16分音符がずっと走り回る技巧的な曲。Bは変イ長調で始まる。- Valse rêveuse, Op. 19 夢想的なワルツ、作品19
変ト長調、A-B-A'-C-C'-A-B-A"形式。幸せな夢を見ているような、ほんわかと気持ちよいワルツ。Cはロ長調になる。- Deux études de concert, Op. 20 2つの演奏会用練習曲集、作品20
ピアニスト・作曲家のマウリツィ・モシュコフスキに献呈された。モシュコフスキの元妻はアンリエッタ・シャミナード(セシル・シャミナードの妹)であり、カストロはセシル・シャミナードの紹介でモシュコフスキと知り合いになったと思われる。2曲共、当時有名なピアニストのモシュコフスキに捧げるに相応しい、きびきびとした隙のない練習曲で、技巧的にも高度でショパンの練習曲の中に入っていても遜色のないように思える傑作です。
- En fa# mineur 嬰ヘ短調
短いながらもソナタ形式で書かれていて、第一主題は二度~六度の忙しない16分音符重音の連続、第二主題はイ長調で落ち着いたメロディーが美しい。展開部は第一主題を用いてイ長調〜ハ長調〜ホ長調と転調していく。再現部で嬰ヘ短調の第一主題、嬰ヘ長調の第二主題が奏され、最後に第一主題が嬰ヘ長調で変奏され終る。- En ut majeur ハ長調
A-B-A'-B'形式で、調性からは展開部を欠いたソナタ形式ともとれる。軽快な16分音符の重音混じりの音型が延々と続く曲。Bは嬰ト短調の左手アルペジオにのって劇的な旋律が奏される。その後また16分音符の音型が繰り返され、B'はハ長調のまま劇的な旋律が繰り返され終る。- Menuet pour orchestre d'archets, Reducción pour piano, Op. 23 弦楽合奏のためのメヌエット、ピアノ編曲版、作品23
原曲は1900年に作曲された《弦楽合奏のためのメヌエット》で、作曲者自身によりピアノ編曲された。ト長調。上品で落ち着いた曲。1905年頃
- Valse de concert, Op. 25 演奏会用ワルツ、作品25
1886年にカストロが「自ら作曲した非常に優雅な演奏会用ワルツ」を弾いたとする記録があるが、別の曲のことを言及していると思われ、この曲の初版が1905年であることや作品番号などからは1904-1905年の作曲と推定される。イ長調、A-B-A'-C-D-C'-A-B-A"-コーダの形式。題名通りの演奏会向きの華やかなワルツ。カストロが多用するカデンツァや装飾音は少な目だが、そのおかげで音楽に推進力があって、Vivoの速いテンポでグイグイ前に進むような気持ち良い曲である。Aのポリフォニックな旋律からして華やか。Bはイ短調で始まる。Cはニ長調になり、左手〜右手の掛け合いのような8分音符が何とも優雅である。Dはヘ長調になる。コーダはCの旋律〜Aの旋律が華やかに変奏される。1906年以前
- Valse-arabesque, Op. 26-1 ワルツーアラベスク、作品26の1
変イ長調、A-B-A'-コーダの形式。Aは前打音混じりの旋律がちょっと気取ったコケティッシュな感じ。Bは変ニ長調になり、旋律に纏わりつく8分音符がアラベスク模様のよう。- Berceuse, Op. 26-2 子守歌、作品26の2
変ロ長調、A-B-B'-A'形式。ほぼ全曲静かに奏される。夢見るような雰囲気で、装飾音や32分音符の音階がちりばめられる。Bは変ト長調になる。1906
- Cuatro danzas 4つのダンサ集
スペイン語の「ダンサ danza」は広義では英語のダンスと同じで、舞踊やその音楽である舞曲を広く指すが、中米およびカリブ海地域(広くはラテンアメリカ全体)では「ダンサ」と言えば、キューバの民族舞踊および舞曲であるコントラダンサの略、またはコントラダンサが変化した舞曲を指すことが多い。19世紀末から20世紀初め頃にかけてメキシコのサロン音楽では「ダンサ」が流行っていて、エルネスト・エロルドゥイやフェリペ・ビジャヌエバといった当時を代表する作曲家達はいくつものピアノ曲のダンサを作っている。そうした流行の中、メキシコの楽譜出版社Wagner y Levienがパリに留学中のカストロに依頼して作曲されたのがこの《4つのダンサ集》である。出版譜の表紙には「Paris, Mayo 1906」と記されている。4曲共にA-B形式で、第1曲を除いてAが短調でBが長調であること、また2/4拍子でリズムなどからもコントラダンサまたはその変形と言えよう。
- Coqueteria 小粋に
ハ長調の明るい曲で、後半の旋律に纏わりつく16分音符やスタッカートの重音の旋律がみずみずしい響き。- Declaración 宣言
前半はロ短調の感傷的な3連符混じりの旋律が歌われ、後半はロ長調になり甘い響きに。- Si... もし…
左手伴奏の「シ」の音にアクセントが付き楽譜に「si」と記されている。前半はホ短調で16分音符の忙しない旋律が現れ、後半はホ長調になり跳ねるような旋律に成る。- En vano 空しく
前半はニ短調の感傷的なハバネラで、後半はニ長調になりアルペジオ和音で奏される旋律が何とも南国的な甘い調べである。それにしてもこの曲や作品29など、ラテン風舞曲の作品になると、曲の雰囲気はいいのだが書法が保守的になって、カストロの他のピアノ曲で見られる目まぐるしい転調や技巧的な書法が影を潜めてしまう。彼が《ポロネーズ》や《演奏会用練習曲集》で用いた華麗なピアニズムで、ダンサとかメキシコ風の大作を作曲してくれたならばさぞかし‥‥、と思わずにはいられない。- Deux impromptus, Op. 28 2つの即興曲、作品28
- En forme de valse ワルツの形式による
ハ長調、A-B-B'-A'形式。旋律は優雅だが、17小節目以降は8分音符の半音階混じりの対旋律が無窮動に続くのが華やかで、カストロらしい曲。BとB'はイ短調に始まり、即興的に転調していく。- En forme de polka ポルカの形式による
イ長調。A-B-A'-C-D-A"-B-A"'形式。3連16分音符が所々高音部で舞う、華やかな雰囲気のポルカ。Cはヘ長調に始まり、Dにかけて頻繁に転調する。- Berceuse, Op. 36-1 子守歌、作品36の1
初版はカストロ生前の1907年1月にメキシコの雑誌「El Mundo Ilustrado」に楽譜が掲載され、また彼の没後の1908年にWagner y Levien社とFriedrich Hofmeister社より遺作として出版された。ト長調、A-B-C-B'-A'-コーダの形式。12/8拍子で、Aは旋律らしきものはなく、揺りかごが揺れては止まる様を描いたような感じ。Bは高音部オクターブで旋律が優しく奏される。- Vals caressante (Vals cariñoso) 優しいワルツ
イ長調、A-A-B-B-A-A'形式。暖かく、明るい調べのワルツでいい雰囲気の曲。1907年以前
- Improvisaciones, 8 danzas características mexicanas, Op. 29 即興曲集、8つのメキシコ風ダンサ、作品29
短い8つの小品から成り、全曲弾いても8分程の短い曲集。カストロのピアノ曲の中では技巧的に中級レベル位で、アマチュアでも弾けそう。全曲ともA-B形式から成り、多くの曲で短調から同主調の長調に変る点はダンサ(コントラダンサ)らしく、1、2、4番あたりはリズムや旋律に仄かにメキシコ風味を感じさせる。第1番:イ長調で、前半はヘミオラ混じりの6/8拍子、後半は2/4拍子で左手に現れる前打音が愛嬌あって面白い。第2番:前半は変ロ短調、後半は変ロ長調で、後半の雰囲気はメキシコ民謡風。第3番:6/8拍子の舟歌風で、前半はロ短調、後半はロ長調で内声に旋律が現れる所は美しい。第4番:前半はト短調、後半はト長調で、後半で6/8拍子と2/4拍子が交互に変わるのがいい感じ。第5番:ポルカ風で、前半はイ短調、後半はハ長調〜ホ長調。第6番:6連16分音符がほぼ流れるように続く曲で、前半は嬰ヘ短調、後半は嬰ヘ長調。第7番:前半はハ短調で右手旋律は2声から成り、後半はハ長調。後半はfffまで盛り上がる。第8番:前半はホ短調でややシューマンを思わせるが、後半はホ長調で3連符混じりとなり陽気に成る。- Deux pièces intimes, Op. 30 2つの内密な小品、作品30
- Valse sentimentale 感傷的なワルツ
変イ長調、A-A'-B-B'-A-A"形式。甘い恋の思い出の感傷に浸っているのかな?、と思わせるような、ゆったりとした旋律のワルツ。- Barcarolle 舟歌
変ト長調、A-A'-B-B'-A"-A"'-コーダの形式。左手の伴奏にのって優雅な旋律が歌われる。旋律に纏わりつく前打音や装飾音は水の煌めきを描写しているのかな。- Romance, Op. 31-1 ロマンス、作品31の1
ト長調、A-B-A'-コーダの形式。Aは心が和むような旋律が穏やかに流れる。Bはニ長調になる。A'は左手伴奏が16分音符アルペジオになり、何とも美しい。- Valse amoureuse, Op. 31-2 愛のワルツ、作品31の2
ト長調。A-A-B-B'-A'形式。Aは左手〜右手を行き来する流れるような8分音符が和やかな響き。Bは楽譜にカンタービレと記され、歌うような伸びやかな旋律が奏される。- Moment de valse (oeuvre posthume), Op. 34-1 ワルツの時(遺作)、作品34の1
ト長調、A-A-B-A形式。軽快にひらひらと舞うような雰囲気のワルツ。Bなニ長調になる。- Valse mélancolique (oeuvre posthume), Op. 36-2 憂うつなワルツ(遺作)、作品36の2
嬰ハ短調、A-A-B-B'-A'-C-C'-A-B-B'-A'形式。カストロのワルツとしては音数の少ない密やかな曲。Aは切ない旋律のワルツが奏される。BとB'はイ長調で郷愁を誘うような雰囲気。CとC'は変ニ長調になり子守歌のよう。- Valse fugitive (oeuvre posthume), Op. 37-2 はかないワルツ(遺作)、作品37の2
ト長調、A-A-B-B-C-C-A'-B'形式。明るい中にも、一抹のやるせなさを漂わせるワルツ。- Plainte (oeuvre posthume), Op. 38-2 嘆き(遺作)、作品38の2
ヘ長調、A-B-A'形式。Aの部分はppで奏される穏やかな旋律で、長調ながらそこはかとなく哀愁が漂う。Bはイ短調になり、左手アルペジオの伴奏にのって嘆くような旋律が歌われる。- Valse printanière (oeuvre posthume), Op. 39 春のワルツ(遺作)、作品39
変ロ長調、前奏-A-A-B-B-A-C-C-D-C-C-D-A-A-B-A'-コーダの形式。春らしい喜びの雰囲気に満ちたワルツで、上下にひらひらと舞う旋律が爽やかな雰囲気。Bは変ホ長調で優雅、C, Dは変ト長調で華やかで明るい。- Impromptu (oeuvre posthume), Op.41 即興曲(遺作)、作品41
ヘ短調、A-A'-B-B'-A-A"-コーダの形式。Aは右手の旋律に艶やかなアルペジオが纏わリ付く曲。Bは変ニ長調になり、連続する和音の上声部に旋律が現れる。- Fileuse (oeuvre posthume), Op. 43 糸を紡ぐ人(遺作)、作品43
この曲は1907年9月にカストロ自身の演奏で初演されたが、楽譜が出版されたのは没後である。糸紡ぎを描写する無窮動の16分音符がピアニスティックで、明るい曲調と相俟って爽快な佳作だ。イ長調、A-B-A'-C-D-C'-A"-B'-A"'-コーダの形式。AとBは右手で16分音符が上へ下へと回るように行き来する。Cはヘ長調で始まり、旋律とバスの間の内声に16分音符のトリルが忙しなく奏される。Dの転調を経て、C'は変ニ長調となる。- Nostalgie (oeuvre posthume), Op. 44 ノスタルジー(遺作)、作品44
イ長調、A-B-A'-コーダの形式。密やかに語りかけるような曲で、穏やかな旋律が奏され、旋律は時々16分音符になって舞うように奏される。- Mazurka (oeuvre posthume), Op. 46 マズルカ(遺作)、作品46
嬰へ短調、A-A-B-B-A-C-C-D-C'-A-B-A'形式。カストロらしい高音部の旋律・対旋律が華やかな響きの曲。Aの旋律の後半はオクターブになって力強い響きになるも、直ぐにppの弱々しい調べに萎むのが感情の起伏を描いているよう。Bはイ長調で始まる。CとDはロ長調になる。- Soirées mondaines, Cinq valses légères 夜会、5つの軽やかなワルツ集
各曲名ともフランス語でつけられた全5曲から成るこの組曲はフランス留学中の作品であろう。この組曲でカストロは自作のワルツで多く見られる技巧的で派手な響きをほぼ封じ、フランスのサロンで流行したような中庸のテンポの、コンサートホールではなくサロンでアマチュアが弾ける(と言っても決して簡単ではないが)落ち着いた作品を意識して書いたものと思われる。第1曲と第3曲の楽譜の脚注には演奏上の注意点が記されている。
- Vibration d'amour, Valse lente 愛の振動、ゆっくりとしたワルツ
変ロ長調、前奏-A-B-A'-コーダの形式。Aは中音部オクターブで旋律が奏され、落ち着いて艶やかな雰囲気。Bはへ長調になり、浮き立つような感じになる。- Parfums de Vienne, Valse lente ヴィエンヌの香り、ゆっくりとしたワルツ
イ長調、前奏-A-A'-B-C-A-A"形式。Aは旋律が重音やオクターブで奏されいい香り。BとCはニ長調になる。- Paris entrainant, Valse lente 心引き立つパリ、ゆっくりとしたワルツ
ニ長調、前奏-A-B-A'-C-A-B-A'形式。Aは優雅にワルツを踊るような旋律、Bは朗々と歌うような旋律が奏される。Cはト長調になる。- Fleurs, femmes et chant, Valse lente 花々、女性たち、そして歌、ゆっくりとしたワルツ
変ホ長調、前奏-A-B-A'-C-A'形式。Aは中音部での旋律で始まり、落ち着いた雰囲気。Bは旋律がオクターブ和音ffで始まり、ちょっと華やいだ気分。Cは変イ長調になる。- Frivole passionnée, Valse lente 浅薄な情熱、ゆっくりとしたワルツ
ハ長調、前奏-A-B-C-D-A-B-コーダの形式。前奏は行進曲風。Aは中音部のアルペジオが艶かしい。Bは高音部オクターブ和音の旋律が華やか。CとDは変イ長調になる。- Mazurka en si menor (oeuvre posthume) マズルカロ短調(遺作)
初版のWagner y Levienの楽譜は、誤って曲名を "Mazurka en re majeur(マズルカニ長調)" と印刷している。A-A-B-A-C-C'-A-B-A'-コーダの形式。AとBは陰うつな雰囲気。Cの部分はロ長調で始まり夢を見るような雰囲気で、途中から変ホ長調へと大胆に転調していくのが面白い響き。
- Mazurka mélancolique 憂うつなマズルカ
イ短調。A-A'-B-C-C-A-A'-B形式。Aは六度ないし三度の重音の旋律が寂しげに奏される(楽譜には重音の指使いが細かに記されている)。Cはハ長調になる。- Valse capricieuse 気まぐれなワルツ
変イ長調、前奏-A-B-A-C-C'-A-B-A'-コーダの形式。両手共オクターブを多用した華やかなワルツ。- Danza frívola (Obra póstuma) くだらないダンサ(遺作)
ト短調、A-B-B形式。Aは6/8拍子で哀愁漂う旋律が重音で奏される。Bはト長調になり、ハバネラの伴奏にのって3連符混じりの甘い旋律が奏される。1907
- Thème varié (oeuvre posthume), Op. 47 主題と変奏(遺作)、作品47
フスト・シエラに献呈。この曲は1907年9月にカストロ自身の演奏で初演されたが、楽譜が出版されたのは没後である。シューマンの影響を感じさせるロマン派的な作品で(第三変奏および第五変奏はシューマンのピアノ曲《交響的練習曲》に似ている)、全曲を繰り返しも含めて演奏すると約16分の大作である。主題は変イ長調、A-B形式で、歌うような旋律が奏される。第一変奏はA-B形式で、右手のアルペジオが煌びやか。第二変奏は変イ短調、A-B形式で、悲劇的な重厚な和音が鳴る。第三変奏は変イ長調に戻りA-B形式で、右手の分散オクターブの跳躍が軽やか。第四変奏はホ長調、A-B-A'形式で、優雅なワルツ。第五変奏は嬰ハ短調、A-B形式で、32分音符の分散和音の伴奏にのって嘆きの歌のような旋律が奏される。終曲 Finale は変イ長調、A-B-A'-C-コーダの形式で、主題にはあまり似ていない派手なポロネーズが奏される。