Ignacio Cervantesのピアノ曲リスト
- Danzas cubanas キューバ舞曲集(ダンサス・クバーナス)
- Soledad 孤独
- No me toques 私に触らないで
- Un recuerdo 思い出
- La celosa やきもちな女
- Almendares アルメンダレス
- El velorio お通夜
- La glorieta グロリエッタ
- La encantadora 素敵な娘
- Mensaje 伝言
- Duchas frías 冷たいシャワー
- Zig-zags ジグザグ
- Amistad 友情
- ¡No bailes más! もう踊っちゃだめ!
- Cri-Cri クリ、クリ
- Improvisada 即興的に
- Picotazos くちばしでつつく
- Decisión 決心
- ¡Pst! しーっ!
- Tiene que ser そうでなくては
- Adiós a Cuba さよならキューバ
- Vuelta al hogar 家へ帰る
- Ilusiones perdidas 失われた幻想
- Los tres golpes 3つの衝撃
- Siempre Sí いつも、ハイ
- Se fué y no vuelve más 行ってしまい、もう戻らない
- Homenaje オマージュ
- Gran señora 立派な夫人
- ¡Amén! アーメン!
- No llores más もう泣かないで
- ¿Por qué, eh? なぜ、えっ?
- Interrúmpida 中断
- Invitación 招待
- ¡Lejos de ti! あなたの遠くで!
- ¡Te quiero tanto! とても君を愛してる!
- La carcajada 大笑い
- Cortesana 宮廷婦人
- Intima 親密な
- Tres danzas a cuatro manos 連弾のための3つのダンサ
- Anhelos, Valse-caprice 熱望、ワルツー奇想曲
- ¡Ay! Rosita, Contradanza ああ、ロシータ、コントラダンサ
- El mulatico, Contradanza 小さなムラート、コントラダンサ
- Figaro, Vals フィガロ、ワルツ
- Fusión de almas 魂の融合
- Gran potpourrí de aires nacionales 民謡による華麗なメドレー
- Guide moi, Vals 私を連れてって、ワルツ
- Hektograph, Valses para orquesta, arreglados para piano por el autor ヘクトグラフ、管弦楽のためのワルツ集、作曲者によるピアノ編曲
- Hojas de álbum Nº 1 アルバムの紙片、第1番
- Hojas de álbum Nº 2 アルバムの紙片、第2番
- Idea fija, Canción sin palabras 決まった考え、無言歌
- La borinquen, Danza puertorriqueña ラ・ボリンケン、プエルトリコ舞曲
- La manuelita, Contradanza マヌエリータ、コントラダンサ
- Mazurca Nº 1, Op. 6 マズルカ第1番、作品6
- Mazurca Nº 2, Op. 27 マズルカ第2番、作品27
- Preludio 前奏曲
- Primavera, Polka de salón 春、サロン風ポルカ
- ¡Rapelle toi!, Canción sin palabras 忘れないで、無言歌
- Serenata cubana セレナータ・クバーナ
Ignacio Cervantesのピアノ曲の解説
- Danzas cubanas キューバ舞曲集(ダンサス・クバーナス)
Danzas cubanasを直訳すると「キューバ舞曲集」であるが、ここで現れる「danzas(単数ならdanza)」は舞踊の音楽という広い意味の舞曲ではなく、キューバの民族舞踊・音楽であるコントラダンサ contradanza を略した呼び名であり、正確な意味で和訳するなら「キューバのダンサ集」とするか、無理に和訳せずそのまま「ダンサス・クバーナス」とした方が誤解しないかもしれない。殆どの作品がコントラダンサの形式に則り、AとBそれぞれ16小節、A-Bで計32小節の二部形式である(一部、31小節、33小節、35小節の曲がある)。全37曲の内11曲では、Aの部分は(1番カッコ・2番カッコを用いた)反復記号により8小節をほぼ繰り返す形式となっていて、反復記号を用いていない曲も含めて殆どの曲でAはA-A'に細分することができる。
セルバンテスのピアノ曲の作曲年は殆ど不詳である。第1番〈孤独 Soledad〉が10歳の時(1857年頃)に作曲され、それ以外の曲は1875年から1895年に書かれたとする資料があるが、1875年以前に第1番以外は作曲されなかったと決めつける根拠も乏しい。楽譜は彼の生前には、キューバの楽譜出版社であるEdelmann y Cía.社やAnselmo López社、メキシコのWagner y Levien社から順不同で出版されていた。下記の曲順は、1959年にハバナで出版された楽譜集『Cervantes 40 danzas』の掲載順(2001年、Iberautor Promociones Culturales, S.L. 版および2010年、プリズム / ヤマハミュージックメディア版も同じ)に従いリストしました。セルバンテスのキューバ舞曲集の多くは1~2分の小品なので、ダ・カーポして演奏されることもあります。取りあえず各曲の印象を以下に記しましたが、彼のピアノ曲にいちいち解説なんて不要で、まずは気軽に聴いて楽しんでほしいです。
- Soledad 孤独
ニ長調。一説によると、この曲はセルバンテス10歳の時の作品で、「孤独な女 La solitaria」という曲名で彼の母親Maria Soledad Kawanaghに捧げられたとのこと。優雅なダンスで、トレシージョのリズムの伴奏にのって重音の旋律が優しく奏され、重音の下の音(対旋律)が所々半音階でさり気なく動くのが粋である。- No me toques 私に触らないで
前半はヘ長調~後半は変ロ長調。「触らないで」と女性が拗ねている様を描いているのかな。ハバネラのリズムの伴奏にのって奏される旋律は、甘い愛の会話のように私には思えます。- Un recuerdo 思い出
イ長調。全曲トレシージョのリズムにのった、ゆったりとした曲。昔を懐かしむような、情緒たっぷりのゆったりとした曲である。- La celosa やきもちな女
《キューバ舞曲集 Danzas cubanas》のうち5曲ー〈La celosa〉、〈El velorio〉、〈¡No bailes más!〉、〈Siempre Sí〉、〈La carcajada〉ーはセルバンテスの生前には、「口ずさみの舞曲 Danzas melopeas」という副題で出版されていた。「Danzas melopeas」の作品は、当時の楽譜を見ると、一部の旋律の上にに何らかの台詞が添えられている。キューバのコントラダンサでは、踊り手は音楽に合わせて、踊りながら台詞を口ずさむか喋るかの習慣があったとのこと。セルバンテス自身、自宅のピアノでDanzas cubanasを弾きながら、娘に日々の雑談をー旋律にイントネーションを会わせながらー喋っていたとのことである。この〈La celosa〉はその「Danzas melopeas」の一曲。楽譜には「朝の4時だが、私の夫は帰って来ない‥‥ Las cuatro de la manana y mi marido no llega...」等々の台詞が書かれている。前半は変ホ短調~後半は変ホ長調と変わっていくのがラテンっぽい。女性のため息が聞こえてくるような雰囲気の曲で、後半は変ホ長調から変ト長調に転調するが、最後は諦めたように変ホ長調に戻る。- Almendares アルメンダレス
変ト長調。アルメンダレス川は首都ハバナを流れる川である。旋律も和声も南国的な、甘いのどかな曲で、私のお気に入りの一曲です。セルバンテスの曲にしては珍しく三部形式。但し、元々この曲はA-B形式だったが、Bの終わりがV7の和音で終わるため、終わり方に不自然さを感じた楽譜編集者がAを後に付け足してA-B-Aに変えたとする説もある。また、1918年初版のG.Schirmer社版(米国)の楽譜は、セルバンテスの作曲のスタイルにしては音が分厚過ぎて、他人がセルバンテスの演奏を耳コピーした楽譜であろうという考えにより、1959年のEdiciones de Blanck版(キューバ)では校訂者により書き改められている(下記の楽譜を参照下さい)。
Almendares, 1-4小節、Cuatro danzones, G. Schirmerより引用
Almendares, 1-4小節、CERVANTES: 40 danzas, Ediciones de Blanckより引用- El velorio お通夜
「Danzas melopeas」の一曲。昔の楽譜には、楽譜の冒頭に「このダンサの最初の部分は、あるお通夜の悲しい光景を表している。2番目の部分の旋律に添えられたコメントは、ある哀れな家族の主の死と、彼の友人達の様子である」と記されている。また曲の後半の楽譜上には次のような詩が添えられている。「かわいそうなフアン!。突然亡くなってしまい、ご遺族の不幸はいかはかのものだろう。彼は良い夫で、良い父親で、誠実な奴だった‥‥ Pobre Juan! cuan repentinamente ha muerto, dejando su familia en la miseria. El que era tan buen esposo, tan buen padre y tan honrado!...」ヘ短調。 前半は2分音符の和音の旋律が悲しさを描写し、内声にシンキージョのリズムが刻まれる。後半は一時変二長調になり、昔を懐かしむような雰囲気になるも、最後はまたヘ短調に戻り寂しく萎むように終るのが何とも悲しい。- La glorieta グロリエッタ
ハバナの近郊の地区マリアナオ Marianao は(当時は清流であった)キブ川が流れる保養地・行楽地として知られていて、そこにあるグロリエッタ(あずまやの一種)は音楽や舞踊が催される場所として有名だったらしい。この曲はマリアナオにあるグロリエッタでの演奏会のために作曲されたとする資料がある。前半は変ホ長調で、16分音符オクターブの技巧的な旋律が勇ましい。後半は変イ長調になり、ハバネラのリズムの伴奏にのって優美な雰囲気になるが、旋律は16分音符の三度重音だったりと技巧的である。- La encantadora 素敵な娘
ロ短調。1875年頃の初版。素敵な女性に心を悩ませる気持ちを描いたような曲で、特に後半では三度重音の旋律が切ない響きだ。- Mensaje 伝言
前半はヘ短調で、柔らかなアルペジオが切ない響き。後半は変イ長調で、甘い恋のメッセージかしら。- Duchas frías 冷たいシャワー
イ長調。セルバンテス自身はこの曲を「舞曲ー練習曲 danza-estudio」と呼んでいたと。前半は両手ユニゾンの上行音形が爽やかで、冷たいシャワーが気持ちよさそう。後半は左手の三度重音旋律〜右手の16分音符パッセージの引き継ぎが繰り返され、これも爽やかな響きだ。- Zig-zags ジグザグ
イ長調。この曲の前半も〈冷たいシャワー〉と同様の両手ユニゾンの上行音形で始まる。後半はイ短調〜ハ長調〜イ長調と次々に転調していくのが色彩的である。- Amistad 友情
変ト長調。前半は16分音符の旋律が上がったり下がったりする華やかな響き。後半は一転して六度重音の旋律が優しい響きだ。- ¡No bailes más! もう踊っちゃだめ!
変ホ長調。初版はEdelmann y Cía.から〈困難なこと Las dificultades〉という題名で出版された。またその後Anselmo Lópezから再版された際は「Danzas melopeas」の一曲として出版された。一説によると、セルバンテスがある家のダンスパーティーを訪れた時、その家にはきれいな娘がいた。セルバンテスもその娘と踊ったが、娘が新たに男性と踊ろうとすると、そばにいる彼女の祖母が「アデラ、止めなさい!、もう踊っちゃだめ」と諭していたと。このエピソードを元に作曲されたらしい。うきうきするような曲。初版譜とEdiciones de Blanck版では1小節目の右手和音や左手バスのオクターブの有無、2小節目の旋律のリズムなどが異なっている(下記の楽譜を参照下さい)。Anselmo López版の後半の楽譜上には「アデラ、止めなさい!、もう踊っちゃだめ ¡Tate quieta Adela y no bailes más!」の台詞が何度も繰り返し記されている。
Las dificultades, 1-4小節、Edelmann y Cía.より引用
¡No bailes más!, 1-5小節、CERVANTES: 40 danzas, Ediciones de Blanckより引用- Cri-Cri クリ、クリ
変ホ長調。題名はニワトリの鳴き声と思われる。ポルカ調の陽気な曲。前半に現れる8分音符アクセント4連続はニワトリが「コッコッ」と鳴くのを描いているのかもしれない。- Improvisada 即興的に
変イ長調。前半は右手旋律の速い16分音符上行音階が華やかで、後半はおおらかな旋律が盛り上がる、全体的に活発で技巧的な曲。- Picotazos くちばしでつつく
変ホ長調。前半はfの両手オクターブ〜左手16分音符上行音階〜右手高音16分音符アルペジオの旋律と、目まぐるしくも華やかである。後半は一転して変ホ短調となり、トレシージョのリズムにのって切ない旋律が奏され、変ホ長調で似た旋律が現れて終わる。- Decisión 決心
変ロ短調。前半は両手オクターブの8分音符アクセントが続き、悲しい決意を現したかのよう。後半は哀愁漂う旋律が高音で奏される。- ¡Pst! しーっ!
ホ長調。優美な曲。7小節目で、subito pで高音ソ♯が鳴る所が 「しーっ!」と言っているよう。- Tiene que ser そうでなくては
変ホ短調。悲しく語りかけるような静かな曲。- Adiós a Cuba さよならキューバ
1875年にセルバンテスが亡命のためキューバを去る時に作曲されたとされていて、有名な曲。変イ短調。前半は静かに語りかけるような旋律が繰り返され、後半は嘆くような旋律が高音部三度重音で奏され、いずれも別離の悲しみが伝わってくるような感傷的な響きだ。この曲は1993年キューバ映画『苺とチョコレート Fresa y chocolate』の中で使われた。- Vuelta al hogar 家へ帰る
1879年にセルバンテスがキューバに帰国した時に書いたとされる曲。変イ短調。せわしない雰囲気の曲。- Ilusiones perdidas 失われた幻想
変ホ短調。何とも切ない旋律が高音部でしっとりと奏される。「失われた幻想」とは故国キューバのことだったのかな?。曲の最後に変ホ長調になる所は、あたかも叶わぬ幻想を見ているような感じ。この曲も1993年キューバ映画『苺とチョコレート』の音楽に使われた。- Los tres golpes 3つの衝撃
ホ短調。シンコペーションが効いた、これぞDanza Cubanaといった感じの曲。ホ短調~ト長調~ホ短調~ホ長調と目まぐるしく転調するのも目が覚めるような粋な感じで、《Danzas cubanas》の中でも傑作と言えよう。「3つの衝撃」とは曲の後半に出てくる、8分音符3連打のアクセントのことかな?。- Siempre Sí いつも、ハイ
ホ長調。1890年頃にキューバのAnselmo López社から出版された楽譜では〈Sí〉という題名だった。「Danzas melopeas」の一曲。前半は優しく語りかけるような曲調で、昔の楽譜には「貴方は私の他にも好きな人が居るんでしょ Tú no me quieres a mi solita」という言葉が何度もしつこく問いつめるように添えられている。後半は清々しい旋律で、旋律のシの音には「Sí」と記されている(「Sí」はスペイン語で「ハイ」という意味~ボーイフレンドが「君だけだよ」と答えているのだろう)。幸せそうなカップルの問答?の光景が目に浮かぶようなほのぼのとした曲。- Se fué y no vuelve más 行ってしまい、もう戻らない
前半は変ホ長調~後半は変イ長調。曲名の意味は何かしら?。G.Schirmer社版と、Ediciones de Blanck版では冒頭のスタッカートやスラーの表示がかなり異なっている(下記の楽譜を参照下さい)。
Se fué y no vuelve más, 1-5小節、Six cuban dances, G. Schirmerより引用
Se fué y no vuelve más, 1-5小節、CERVANTES: 40 danzas, Ediciones de Blanckより引用- Homenaje オマージュ
キューバの先輩作曲家マヌエル・サウメルに捧げられた。ハ短調。Lentoのゆったりととしたテンポでしっとりと歌い上げるような曲。この曲は1993年キューバ映画『苺とチョコレート』の音楽に使われた。- Gran señora 立派な夫人
変ト長調。落ち着き払った夫人を表すような雰囲気の曲。最後がV7度の和音で終るのが少し謎めいている。- ¡Amén! アーメン!
イ長調。落ち着いた曲で、敬虔な祈りの気持ちを描写しているよう。後半はイ短調〜ハ長調と、心の迷いを思わせるような雰囲気だが、最後はイ長調に戻って清らかな心になったよう。Charles Hansen Editionの楽譜の最後2小節のモチーフの所には「A-mén, A-mén」と記されている。- No llores más もう泣かないで
変ト長調。泣いていた子どもを母親が優しく慰めるような曲で、とても表情豊か。後半は優しく子守歌を歌うような旋律が奏され、最後はppとなってV度の和音で消えるように終わるのは、子どもが寝入ったような感じ。- ¿Por qué, eh? なぜ、えっ?
イ長調。冒頭の右手旋律はオクターブで、伴奏は大きな跳躍の華やかな響きの曲。- Interrúmpida 中断
変イ長調。冒頭の高音ミ♭の連打が華やか。後半の旋律はシンコペーションが効いていて浮き浮きする。最後がV7度の和音で途切れるように終るので〈中断〉という曲名なのかな。- Invitación 招待
前半はホ短調で物悲しい。冒頭の部分は右手三度重音の主旋律、右手アルトの対旋律(シ・シラー)、左手半音階進行の対旋律、左手バス、の四つが全て異なるリズムで動いており、さり気なくも見事である(下記の楽譜)。後半はホ長調になり、優しい雰囲気。キューバの有名なジャズピアニストのチューチョ・バルデスが作ったこの曲の編曲版は、キューバ国営ラジオ "Radio Progreso" のステーションコールの音楽に用いられた。
Invitación, 1-4小節、セルバンテス キューバ舞曲集、プリズム / ヤマハミュージックメディアより引用- ¡Lejos de ti! あなたの遠くで!
前半は変ロ短調、後半は変ニ長調~変ロ長調。しっとりと孤独の寂しさを噛み締めるような美しい曲。- ¡Te quiero tanto! とても君を愛してる!
ヘ短調のしっとりとした切ない曲。最後の8小節はヘ長調になる。- La carcajada 大笑い
変イ長調。この曲は楽しい!。「Danzas melopeas」の一曲。題名通りカラカラ笑うのが聞こえてくるような陽気で、(Wagner y Levien社版の楽譜では「ダンサ練習曲 Danza Estudio」と副題が記されている通りの)技巧的な曲である。前半は3連16分音符混じりの旋律が華やか。後半の旋律はシンコペーションが浮き浮きしていて、16分音符の和音が半音階で下降する所は、楽譜に「ハハハハハハハハハハハハハ Jajajajajajajajajajajajaja」と書かれている通り、皆の大笑いが聞こえてきそう。なお、Wagner y Levien社版の楽譜(1900年頃)とキューバのEdiciones de Blanck版(1959年)とでは、両手とも一部音が異なる。左手伴奏など、Wagner y Levien版の方が派手で華やかだが、Ediciones de Blanck版も軽快な響きである。
La carcajada, 1-4小節、Wagner y Levien版ーPartituras para piano de Ignacio Cervantes (CD-ROM), Producciones Colibríより引用
La carcajada, 1-5小節、CERVANTES: 40 danzas, Ediciones de Blanckより引用- Cortesana 宮廷婦人
ト短調。セルバンテスの《キューバ舞曲集》の殆どが2/4拍子だが、この曲のみ例外で3/4拍子である。メヌエット風で、上品な中に哀愁が漂う。- Intima 親密な
ト長調。一筆書きのような、控えめの和音がついた静かな旋律の曲。A-A'だけで終っていて、セルバンテスの自筆譜ではその先の小節線があるので、未完の作品だったのかも知れない。- Tres danzas a cuatro manos 連弾のための3つのダンサ
- Anhelos, Valse-caprice 熱望、ワルツー奇想曲
変ロ長調、前奏-A-B-A'-C-A"-B-C'-コーダの形式。オクターブの力強い旋律や、8分音符が上へ下へと舞う旋律など、舞踏会風の華やかで明るいワルツ。Cは変ホ長調になる。- ¡Ay! Rosita, Contradanza ああ、ロシータ、コントラダンサ
楽譜には「イグナシオ・セルバンテスによる編曲 arreglada por Ignacio Cervantes」と記されており、民謡の編曲と思われる作品。変ホ長調、A-A-B-B形式。オクターブの旋律が華やかな曲。前半Aの左手伴奏は3拍子のワルツのリズム(楽譜上は2/4拍子のまま、3連4分音符で記譜)となり、右手が普通の2/4拍子の8分音符の旋律となるので、4対3のヘミオラとなる。このポリリズムについては、マヌエル・サウメルのページでも触れたが、3連4分音符の記譜は実際に弾く時はワルツとせず、トレシージョのリズム(♪. ♪. ♪)で弾くべきとする見解もあって、実際の演奏では迷う所。- El mulatico, Contradanza 小さなムラート、コントラダンサ
これも民謡の編曲。A-A-B-B形式。前半Aはロ短調でオクターブの旋律が忙しなく動く。後半Bはニ長調で陽気なリズム。いずれも小さな子どもがはしゃいでいるようで愛嬌たっぷり。- Figaro, Vals フィガロ、ワルツ
この当時、キューバに "El Figaro" という雑誌があったとのことで、楽譜には「"El Figaro"の女性読者に献呈」とある。変ニ長調、A-B-A形式。サロン風の上品で落ち着いたワルツで、中音部の旋律と高音部のアルペジオ重音が2小節づつ掛け合いのように奏される。- Fusión de almas 魂の融合
セルバンテスが晩年に作りかけで未完に終ったこの作品で、後に娘のマリア・セルバンテスが完成された。ニ短調、前奏-A-B-B-A'形式。切々と訴えかけるような悲しい調べの美しい曲。Bの部分はマリア・セルバンテスが補筆している。- Hektograph, Valses para orquesta, arreglados para piano por el autor ヘクトグラフ、管弦楽のためのワルツ集、作曲者によるピアノ編曲
ヘクトグラフとは、昔の印刷方法の一つのこと。染料インキで紙に文字を書き、その紙をゼラチン面に当て、ゼラチン面にインキを転写する。ここに印刷用紙を乗せて押さえると文書が数十枚くらいまで複写が出来るという方法。題名にある通り、原曲は管弦楽曲だったようだ。曲の形式は前奏-ワルツ1(ヘ長調)-ワルツ2(ヘ長調)-ワルツ3(変ロ長調)-ワルツ4(ハ長調)-コーダ(ヘ長調)と、メドレーのように次々とワルツが現れ、全部弾くと10分位はかかる。途切れることなくスムーズにワルツが延々と流れるのは、正に舞踏会用の音楽にピッタリといった感じだ。- Hojas de álbum Nº 1 アルバムの紙片、第1番
ニ短調。僅か9小節の曲で、晩秋を思わせる寂しげな調べが奏される。- Hojas de álbum Nº 2 アルバムの紙片、第2番
変ニ長調、A-A-B-A形式。Molto Vivaceと楽譜に記されている通りの速いテンポの3拍子で、流れるような旋律が奏される。- Idea fija, Canción sin palabras 決まった考え、無言歌
嬰ト短調。 ゆっくりと悲しげな旋律がぽつぽつと語るような曲。- La borinquen, Danza puertorriqueña ラ・ボリンケン、プエルトリコ舞曲
ボリンケンとは、現在のプエルトリコにかつて住んでいた先住民タイノ族によるこの島の呼び名。民謡の編曲で、原曲の民謡は現在のプエルトリコ国歌になっている。前半はホ短調で、哀愁漂う旋律。後半はホ長調になり、甘い雰囲気になる。- La manuelita, Contradanza マヌエリータ、コントラダンサ
民謡の編曲である。ホ長調、A-A-B-B形式。ゆったりとしたシンコペーションのリズムにのって、優雅な旋律が歌われる。- Mazurca Nº 1, Op. 6 マズルカ第1番、作品6
嬰ヘ短調、A-B-C-B-A'-コーダの形式。セルバンテスのピアノ曲の殆どは《Danzas cubanas》はもちろんのこと、他の作品でも「キューバらしさ」というか「セルバンテスらしさ」に満ちているのだが、彼の作ったマズルカだけはショパンの影響が濃い作品である。第1番は優雅ながら哀愁を帯びたマズルカ。Bはイ長調、Cはホ長調になる。- Mazurca Nº 2, Op. 27 マズルカ第2番、作品27
ロ長調、A-B-B'-A-C-D-C'-E-A形式。前作のマズルカ第1番とは異なり、楽しい田舎の踊りの光景と言った感じの作品。Bは嬰ト短調、C、Dはホ長調、Eは再現部への経過句。- Preludio 前奏曲
嬰ヘ短調。僅か9小節の曲で、何とも哀愁を帯びた旋律がしっとりと奏され、5小節目からはそれが左手で繰り返される。- ¡Rapelle toi!, Canción sin palabras 忘れないで、無言歌
嬰ハ短調。セルバンテスの作品の中でも私の大のお気に入りの曲です。何とも切ない旋律が綿々と奏される。後半は旋律、伴奏ともオクターブで激情的になる。- Serenata cubana セレナータ・クバーナ
1887年にセルバンテス自身により演奏された記録がある。ハ短調、前奏-A-B-C-D-A-B-後奏の形式。セレナーデの雰囲気たっぷりの情緒溢れる曲。伴奏の中に旋律が見え隠れしたり、弦楽器やフルートを思わせる部分が多かったりと、オーケストラスコアをピアノ譜に詰め込んだような様にも感じる音作りの曲だ(実際、キューバのCD「Cervantes, cuatro pianos」ではピアノと管弦楽ための編曲版が収録されている)。Aは切ない旋律がたっぷりと歌われ、Bはハ長調になりギターのつま弾きのような音型が続く。中間部は、Cは変イ長調でショパンを思わせる流れるような旋律、Dは変ホ長調になり踊り出すように快活。