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Joseph Sickman Corsenについて
Joseph Sickman Corsen(ジョセフ・シックマン・コールセン)は1853年12月13日キュラソー島に生まれた。キュラソー島はベネズエラの北西沖約60キロにあるカリブ海に浮かぶ小さな島で、長らくオランダ領であったが、2010年にオランダ王国の構成国の一つとなった。アンティル諸島は17世紀からオランダ領であったが、ナポレオン戦争の際、一時的にイギリスに占領(1807-1816)されていて、コールセンの祖先のJohn Corsenは、この時イギリスから官吏としてキュラソー島に移り住んだとのこと。
コールセンの父親のDaniel Corsenはピアノとファゴットが演奏できて、音楽教師をしていた。父や叔父からピアノやオルガン、ギターを習った彼は、13歳の時にはピアノリサイタルを行ったとのこと。成人してからは、彼自身が音楽教師としてピアノを教えて生計を立てた。1885年からは、ウィレムスタットのエマニュエル教会のオルガニストを務めた。また1886年から1888年までキュラソーで初めての文芸雑誌"Notas y Letras"を編集。自作のピアノ曲を"Notas y Letras"に載せて出版した。
コールセンは詩人でもあった。1905年に出版された詩"Atardi(夕暮れ)"は、現地語のパピアメント語で書かれた詩として知られている。
1911年10月8日、ウィレムスタットのPietermaaiの自宅で亡くなった。
コールセンの作品は、一部歌曲があるが、殆どはピアノ曲である。その多くはワルツ、ダンサ、ポルカ、マズルカなどの舞曲形式のサロン風小品である。彼のワルツの半数くらいの作品はヨーロッパのワルツとはちょっと異なった、アンティル諸島風のリズムで、楽譜上は3/4拍子だが、6/8拍子の1, 4, 5拍目に相当する所にリズムが刻まれる(♩. ♪♩のリズム)。これは隣国ベネズエラのホローポ(Joropo)やコロンビアのパシージョ(Pasillo)に似ている。コールセンの作曲したダンサもまたアンティル諸島の独特の形式を持っていて、まず "chaine" と呼ばれるイギリス風のコントラダンスが前奏として奏され、後半は "Tumba" というキュラソー独特のリズムがやや甘い雰囲気で奏される。コールセンの作品は和声的にはヨーロッパだったら古典派辺りで、彼と同世代のヨーロッパの後期ロマン派や印象派の作曲家の作品とは、作曲技法の点からは比ぶべくも無い位単純である。それでも、彼自身の知りうるやり方でキュラソーの民族音楽を自作に取り入れた、言わば「キュラソー民族主義音楽」の祖とも呼んでいいコールセンのピアノ曲は、後のWim Statius Mullerなどの作曲家に大きな影響を与えている。
Joseph Sickman Corsenのピアノ曲リストとその解説
コールセンの下記のピアノ曲の中で出版されたのは14曲で、他の作品は自筆譜のみが遺されていて、それらの作曲年は不詳である。出版された14曲の殆どは、1886年から1888年まで発行された雑誌"Notas y Letras"に掲載されたもので、大体の曲は雑誌の発行に合わせて直前に作曲されたと思われる。また14曲作られたワルツは、コールセン自身が番号を付けたわけではなく、"Leven en muziekwerken van de dichter-musicus J.S. Corsen" の本により番号付けされたものを載せた。
1865
- A la Sombra, capricho, Op. 7 陰の中に、狂詩曲、作品7
変ロ長調。現存するコールセンの作品の中で最も初期ー弱冠11歳の時ーに作られたこの曲が、何故か彼のピアノ曲の中で一番ピアニスティックである。冒頭の右手の旋律は32分音符が上へ下へと舞い、あちこち装飾音も混じって華やか。左手の方も中声部の対旋律を弾くために10度~14度の重音が現れる。ロ長調に転調してから現れる先ほどの旋律は、右手で高音トリルを、左手で中音旋律と低音伴奏を弾くようになっていてかなり技巧的。更には64分音符だの、リストばりのカデンツァも現れ派手々々だ!。1884
- Oranje-Nassau オラニエ-ナッサウ
1886
- Amorosa, danza 優しく、ダンサ
ロ短調、A-A-B-B形式。コールセンの作曲したこの "Danza" は、アンティル諸島の独特の形式を持った "Danza" である。Aの部分は "chaine" と呼ばれるイギリス風のコントラダンスが前奏のように奏され、長調のV7の和音を合図に、後半のBはニ長調になり、"Tumba" が甘い雰囲気で奏される。- El Lisonjero, vals おべっかつかい、ワルツ
イ長調、A-A-B-B形式。ブンチャッチャッの伴奏にのって明るい旋律が奏される単純な曲。- La Elegante, mazurka 優雅な女性、マズルカ
ヘ長調、A-B-C-A-B形式。16分音符混じりの旋律が上へ下へと舞うのが優雅なマズルカ。Cは変ロ長調になる。- Tic-Tac, polka チックタック、ポルカ
ヘ長調、A-B-C-A-B形式。時計の針の「チックタック」を描写したのだろう、スタッカートの8分音符が軽快な曲。Bはヘ短調に、Cは変ロ長調になる。- Un Deseo, vals 望み、ワルツ
変ホ長調、A-A-B-B形式。優しい旋律が歌われる。後半のBも優雅な調べだ。1887
- El Aguinaldo, danza merengue 心づけ、ダンサ・メレンゲ
ニ長調、A-A-B-B形式。3連8分音符+8分音符のリズムが南国的ないいムードの曲。- El Venezolano, vals ベネズエラの人、ワルツ
ト短調、A-A-B-B形式。題名が「ベネズエラ」な割には普通のブンチャッチャッのワルツ。ちょっとスペインのセレナーデあたりを思わせる旋律だ。- Meditacion, Op. 28 瞑想、作品28
変ニ長調、A-B-A'-C-C'-A'-B-A'形式。6/8拍子の舟歌を思わせるリズムで、ゆったりとした旋律が歌われ趣深い。Cは変ト長調になるが、その前には経過句があったり、C'の終りには32分音符のカデンツァがあったりと、コールセンの作品にしてはいろいろと工夫を凝らした作品だ。- Nelly, polka ネリー、ポルカ
変ロ長調、A-B-C-A-B形式。高音部の旋律が華やかな曲。Cは変ホ長調になる。- Reverie, Op. 31 夢想、作品31
変ホ長調、A-B-A'-Coda形式。抒情的な旋律がゆったりと奏される。- Simpatía, vals 好感、ワルツ
ニ短調、A-A-B-B形式。Aは物悲しい旋律ながら、オクターブと和音の伴奏によるリズムは華やか。Bはヘ長調になる。- Un Sueño, vals 夢、ワルツ
変ホ長調、A-B-C-A-B形式。夢の中を彷徨うような調べの曲だ。"dolcissimo"と楽譜に記されたCは変イ長調になり、天上を漂うような優雅な雰囲気に。1888
- Denny, danza デニー、ダンサ
イ短調、A-B-C形式。アンティル諸島の"Danza"にほぼ則った形式で、Aはコントラダンスが奏され、BとCは3連8分音符×3+8分音符×2の1小節5拍から成るトゥンバのリズムで物悲しい旋律が奏される。- Otello - Opéra de G. Verdi, Fantasie brilhante, Op. 33 ヴェルディのオペラ「オテロ」による華麗なる幻想曲、作品33
- 1888, vals 1888年、ワルツ
ニ長調、A-B-C-A-B形式。舞踏会向きのような華麗なワルツ。Cはト短調になる。1893
- 1893, waltz 1893年、ワルツ
ホ短調、A-A-B-B形式。高音部の旋律が可憐なワルツ。1911
- Many happy returns 沢山の幸せが戻ってくる
作曲年代不詳
- Amicitia, serenade アミシータ、セレナーデ
ニ短調、A-B-A'形式。6/8拍子のリズムにのって物悲しい旋律が歌われる。- Andante アンダンテ
- A Smile 微笑んで
変ホ長調、A-A-B-B形式。陽気なポルカ。- Ascención, polka 上昇、ポルカ
変ホ長調、A-B-A-C-A形式。Aの上行音階の旋律が「上昇」なのかな。Cは変イ長調で、左手伴奏と右手旋律の手の交叉が現れる。- Barcarola 舟歌
ヘ長調、A-B-A形式。2/4拍子で、ゆったりとした旋律が奏される。- Cacun, mazurka, Op. 10 カクン、マズルカ
- Celina, mazurka セリーナ、マズルカ
- ¡Deja!, vals 待って!、ワルツ
ト短調、A-B-C-A-B形式。Aは右手旋律と左手下降音階が物悲しい雰囲気。Bはト長調になり、♩. ♪♩のリズムが躍動的。Cは変ホ長調になり、伸びやかな旋律が流れるように奏される。- El Clavel, danza カーネーション、ダンサ
変ロ長調、A-B-C形式。Aのコントラダンスはト短調で終り、Bは甘美なト長調の調べに。- El Neveri, polka ネベリ川、ポルカ
曲名はおそらく、ベネズエラ北東部を流れるネベリ川を指すものと思われる。ヘ長調、A-B-A-C-A形式。右手のアルペジオ風の16分音符の旋律が陽気な曲。Bはハ長調、Cは変ロ長調になる。- Esperanza, nocturno, Op. 12 希望、夜想曲、作品12
- Happy New Year, vals 新年おめでとう、ワルツ
ヘ長調、A-A-B-B形式。新年をお祝するような楽しいワルツ。- La Mariposa, danza 蝶、ダンサ
ト短調、A-B-C形式。コントラダンスのAに続き、トゥンバのリズムのB、Cと奏される。全体的に題名通りの可憐な旋律で、Cはト長調になる。- 2e Mazurka (nocturne) de salon, Op. 17 サロン風マズルカ(夜想曲)2番、作品17
変ホ長調、前奏-A-A'-B-C-B'-前奏-A"形式。自筆譜では曲名の "Nocturne" の文字が三本線で消されている。派手な前奏に続き、気取ったマズルカが奏される。Bは変イ長調になり、右手で弾く中声部の旋律を飛び越えて、高音部に左手で伴奏が奏される。- Merengue メレンゲ
- Nocturne 夜想曲
ホ短調、A-B-A'-C-A'-D-E-D'-E'-D"-A'形式。コールセンの作品の中でも一番陰うつな雰囲気の曲。冒頭のAはベースの下降音型が深く沈んでいくような暗い雰囲気。Dはホ長調になりやや光りが射すような感じだが、次のEが嬰ハ短調で苦悩を現すような旋律になる。- Per voi, gavotte ガボット
- Reconciliación, vals 仲直り、ワルツ(連弾)
- Saaibol サイボール
- Sayonara, vals さよなら、ワルツ
- T'en souviens-tu?, suite de valses
- Todo Pasó, vals 全て合格、ワルツ
- 30 de Noviembre, danza 11月30日、ダンサ(連弾)
- Vals no 1 ワルツ第1番
- Vals no 2, Yolanda ワルツ第2番
ヘ長調、A-A-B-B形式。前半のAは伸びやかな旋律で、後半のBは8分音符の可憐な旋律。- Vals no 3, Marie Louise ワルツ第3番
- Vals no 4 ワルツ第4番
- Vals no 5 ワルツ第5番
ト長調、A-B-C形式。冒頭は可憐なワルツが奏される。Cは変ホ長調で、冒頭と異なった調で終るのはコールセンらしくないので、本来はA-B-C-A(-B)のつもりで作ったのかもしれない。- Vals no 6 ワルツ第6番
ニ短調、A-B-A-B形式。冒頭のラ音8分音符がせわしない感じのワルツ。Bも落ち着きのない旋律だ。- Vals no 7 ワルツ第7番
- Vals no 8 ワルツ第8番
- Vals no 9 ワルツ第9番
- Vals no 10 ワルツ第10番
- Vals no 11 ワルツ第11番
変ロ長調、A-B-C形式。Aはオクターブ混じりの高音部の旋律が華やか。Bは変ニ長調に。Cは変ロ長調に戻り、6/8拍子の1, 4, 5拍目に相当する所にリズムが刻まれるキュラソー風ワルツで陽気。- Vals no 12 ワルツ第12番
ニ短調、A-B-C-B' 形式。冒頭の旋律は可憐なワルツ。Cはニ長調になり、最後のB'は(ニ短調の)Bをニ長調に変奏するのが興味深い。- Vals no 13 ワルツ第13番
- Vals no 14 ワルツ第14番
Joseph Sickman Corsenのピアノ曲楽譜
Van Gorcum & Comp. B.V. - Assen, Nederland
- Leven en muziekwerken van de dichter-musicus J.S. Corsen
コールセンの作品を、出版譜・自筆譜(未完成の楽譜も含め)全てファクシミリで載せた本。1983年にオランダで出版。コールセンほどの「知られざる」作曲家の全作品の楽譜を収めた本を作るとは何ともマニアック?な企画で、驚きです。コールセンの伝記などもいろいろ書かれているのですが、オランダ語なので私には殆ど分りません‥‥。Broekmans & Van Poppel
- Curaçaosche dansmuziek
- Simpatía, valse
- El Aguinaldo, danza merengue
Joseph Sickman Corsenのピアノ曲CD
星の数は、は是非お薦めのCD、は興味を持たれた人にはお薦めのCD、 はどうしてもという人にお薦めのCDです。
Corsen plays Corsen
Fineline Classical, FL72408
- Simpatia, waltz
- Un Deseo, waltz
- Amorosa, danza
- 2e Mazurka Nocturne, mazurka
- Wals no 6, waltz
- Nelly, polka
- Meditacion
- Wals no 5, waltz
- La Mariposa, danza
- Un Sueño, waltz
- Amicitia, serenade
- Mazurka, mazurka
- Wals no 11, waltz
- Nocturne, nocturne
- El Lisonjero, waltz
- Denny, danza
- Tic-Tac, polka
- Wals no 12, waltz
- Reverie
- El Venezolano, waltz
- La Elegante, mazurka
- 1893, waltz
- 1888, waltz
Randal Corsen (pf)
2004年の録音。ランダル・コールセンはキュラソー出身のピアニスト・作曲家・編曲家で、彼はJoseph Sickman Corsenの曾孫とのこと。一部の曲では伴奏のワルツのリズムをよりキュラソー風に編曲したりして弾いている。
Danzas Caribeñas - Classical Salon Music from Curaçao, Cuba and Venezuela
Zefir Records, ZEF 9639
- El 18 de febrero, Valse (Jan Gerard Palm)
- ¿Porqué sufres?, Valse (Jan Gerard Palm)
- La Trigueña, Danza (Jan Gerard Palm)
- ¿Para cuál de las tres?, Danza (Jules Blasini)
- ¿Porqué no?, Danza (Jules Blasini)
- El Ramo de Milflores, Valse (Jules Blasini)
- Anne Marie, Valse (Rudolf Palm)
- Como tú lo quieres, Pasillo (Rudolf Palm)
- Los Hermanos Hellburg, Valse (Rudolf Palm)
- Winy, Danzón (Rudolf Palm)
- Primero de Octubre, Valse (Jacobo Palm)
- Tierna Sonrisa, Valse (Jacobo Palm)
- Rufo, Danza (Jacobo Palm)
- Ecos de Alma, Pasillo (Jacobo Palm)
- La Inocencia, Pasillo (Jacobo Palm)
- El Regreso de Jolley, Tango (Jacobo Palm)
- Atardi (Jacobo Palm)
- Mazurka de Salon, Op. 30 (Maria Teresa Carreño)
- Almendares, Danza (Ignacio Cervantes)
- Ilusiones Perdidas, Danza (Ignacio Cervantes)
- La Encantadora, Danza (Ignacio Cervantes)
- Adiós a Cuba, Danza (Ignacio Cervantes)
- ¡Deja!, Valse (Joseph Sickman Corsen)
- El Neveri, Polka (Joseph Sickman Corsen)
- Amorosa, Danza (Joseph Sickman Corsen)
- Simpatia, Valse (Joseph Sickman Corsen)
- Para que amar, Valse (Albert Palm)
- Anna, Valse (Albert Palm)
- Otrabanda, Valse (Albert Palm)
- Padú, Valse (Edgar Palm)
- Cas Coral, Valse (Edgar Palm)
- Something else, Danza (Robert Rojer)
- Kaleidoskoop, Danza (Robert Rojer)
- Shon Coco, Valse (Wim Statius Muller)
- Nostalgia, Valse (Wim Statius Muller)
- El Curaçao, Calypso (Wim Statius Muller)
- Despedida, Valse (Wim Statius Muller)
- Valse en la mineur (Frédéric Chopin)
Marcel Worms (pf)
2014年の録音。