Ernesto Drangoschのピアノ曲リスト
1895
- Albumblatt, op. 1 アルバムの一葉、作品1
- Sonata, op. 2 (Versión 1895) ソナタ変ホ長調、作品2(1895年版)
- Allegro risoluto
- Tempo di Minuetto
- Adagio
- Finale. Presto
1895-1897
- Zwei Spanische Serenaden (Dos serenatas españolas), op. 3 2つのスペインのセレナーデ、作品3
- Habanera ハバネラ
- Capricio カプリーチョ
1900年頃
- Cuatro piezas características op. 5 4つの性格的小品集、作品5
- Preludio 前奏曲
- Arlequin 道化役
- Berceuse 子守歌
- Gavota ガボット
1902
- Tema con variaciones (Variaciones sobre un tema original), op. 7 主題と変奏(オリジナルの主題による変奏曲)、作品7
1904-1905
- Drei klavierstücke, op. 8 3つのピアノ曲集、作品8
- Tocata トッカータ
- Minueto メヌエット
- Scherzo スケルツォ
- Fantasía en forma de un tiempo de sonata, op. 10 ソナタ形式による幻想曲、作品10
1908年頃
- Drei charakterstücke (Tres piezas características), op. 6 3つの性格的作品集、作品6
- Humoreske ユーモレスク
- Improvisation 即興曲
- Mazurca マズルカ
1908
- Tangos criollos, op. 13 クリオージョのタンゴ、作品13
- Don Pepe ドン・ペペ
- Nicolasito ニコラシート
- Pedrucho ペドルーチョ
1908-1913
- 6 études de concert (6 estudios de concierto), op. 14 6つの演奏会用練習曲集、作品14
- Burlesque (Burlesca) ブルレスケ
- Thème varié (Tema variado) 主題と変奏
- Papillons (Mariposas) 蝶々
- Romance sans paroles (Romanza sin palabras) 無言歌
- Perpetuum mobile (Movimiento perpetuo) 無窮動
- Mouvement de Valse (Aire de vals) ワルツのテンポで
1913
- Sonate, op. 2 (Versión modificada) ソナタ変ホ長調、作品2(修正版)
- Allegro moderato
- Intermezzo - Andante, quasi Andantino
- Finale - Non troppo vivo
1915
- Die Kunst des Klavierspiels, 6 Konzert Studien. neue Folge (El arte de tocar el piano, Seis estudios de concierto. nueva serie), op. 21 ピアノ演奏の技法、6つの演奏会用練習曲集ー新シリーズ、作品21
- Oktaven-Studie (Estudio de octavas) オクターブの練習曲
- Terzen-Studie (Estudio de terceras) 三度の練習曲
- Cake - Walk ケークウォーク
- Polonesa ポロネーズ
- Tarantella タランテラ
- Nocturno 夜想曲
1916年頃
- 6 Bagatelas, op. 16 6つのバガテル、作品16
- Impromptu 即興曲
- Elegía 悲歌
- Escena de Baile 踊りの光景
- Leyenda 伝説
- Balada バラード
- Fuga フーガ
- Góndola op. 23 ゴンドラ、作品23
1918
- Romanza - Vals, op. 25a ロマンツァーワルツ、作品25a
1920
- Tres composiciones, op. 27 3つの作品集、作品27
- Consolación 慰め
- Recuerdo 想い出
- Ronda de espíritus 精霊たちの輪舞
1920年頃
Ernesto Drangoschのピアノ曲の解説
1895-1897
- Zwei Spanische Serenaden (Dos serenatas españolas), op. 3 2つのスペインのセレナーデ、作品3
この組曲はドランゴーシュがブエノスアイレスに居た13歳の時に書き始められ、その後のベルリン留学中に完成されてドイツで出版された。アルゼンチンの先輩作曲家、フリアン・アギーレに献呈されている。当初は"Serenatas Argentinas(アルゼンチンのセレナーデ)"というタイトルだったが、ベルリンで出版するにあたって現在のタイトルに変えられたらしい。第1曲Habaneraしか聴いていませんが、ハバネラはスペインで流行したのと同時に、アルゼンチンのタンゴの源の一部でもあり、確かにタイトルはどちらでも良さそうかな。13歳か15歳の少年の書いた作品にしては何とも趣深い曲で、ドランゴーシュの天賦の才能を感じさせます。曲はイ長調、A-B-A'-C-D-B-A"-コーダの形式。Aは明るい雰囲気のハバネラがゆったりと奏される。Bはホ長調で速いテンポになり、左手伴奏が跳ねるように低音部と(右手を乗り越えて)高音部を行き来する。Cはニ長調で、左手伴奏は3連符含みの柔らかいリズムとなる。ここの繰り返しは左手が伴奏+中音部旋律、右手は32分音符音階の対旋律で技巧的。Dもニ長調で落ち着いた感じ。最後のコーダは高音部の旋律が名残惜しそうで、余韻たっぷりに終る。
- Habanera ハバネラ
- Capricio カプリーチョ
1904-1905
- Drei klavierstücke, op. 8 3つのピアノ曲集、作品8
ドイツ留学を果たしたドランゴシュらしい、ドイツロマン派のエッセンス濃い組曲。また1、3曲は練習曲風でやや難技巧。
- Tocata トッカータ
ホ長調、三部形式。ほとんど全曲両手ユニゾンの8分音符が疾風のように鍵盤上を駆け回る。- Minueto メヌエット
変ホ長調、A-B-A'-C-D-C'-A-B-A' 形式。ベートーベンの後期ソナタの緩徐楽章を思わせる落ち着いた調べが奏される。C-D-C' のTrioの部分は変イ長調になる。- Scherzo スケルツォ
嬰ヘ長調、三部形式。両手交互に弾かれる速い3連16分連符が軽やか。中間部はニ長調で、ゆったりとした抒情的な旋律。- Fantasía en forma de un tiempo de sonata, op. 10 ソナタ形式による幻想曲、作品10
正にドイツロマン派風のがっちりとした作品。演奏時間約13分と長大で、ちょっと冗長かな。息の長いレシタティーボ風の前奏に引き続いて、16分音符の旋律の第1主題(Allegro、嬰ハ短調)~左手アルペジオにのって夢見るような旋律が歌われる第2主題(Molto moderato、変イ長調)が現れる。展開部では2つの主題が落ち着きなく断片的に入り混じりながら展開されていく。再現部は定石通りに第1主題(嬰ハ短調)~第2主題(嬰ハ長調)と奏され、その後また一展開が行われる。1908
- Tangos criollos op. 13 クリオージョのタンゴ、作品13
クリオージョとは、元は中南米生まれのスペイン人のことで、更に広義では他のヨーロッパ出身や黒人も含め、中南米生まれの移住民の子孫をクリオージョと呼んでいる。この組曲はドランゴーシュの3人の友人の印象を元に作曲されたとのこと。"Nicolasito"、"Pedrucho"とはそれぞれニコラス、ペドロの愛称である。1908年といえばまだタンゴは黎明期であり、ドランゴーシュはフランシスコ・カナロやロベルト・フィリポらと並ぶタンゴ作曲家の先駆けと言えよう。
- Don Pepe ドン・ペペ
ト短調、A-B-A-C-A形式。Aは両手オクターブ4小節~ヴァイオリンのような憂うつな旋律4小節のコントラストがメリハリ効いていて、タンゴ楽団の響きを思わせる。Bは変ロ長調。Cはト長調で、やはり4小節毎の強弱のコントラストからなる。対旋律の動きが粋だ。- Nicolasito ニコラシート
イ長調、A-B-A-C-A形式。優しく語りかけるような柔和な旋律はタンゴというよりハバネラの雰囲気。Bはホ長調、Cはニ長調となる。- Pedrucho ペドルーチョ
ニ短調。Aの旋律はソ#混じりで憂うつ。Bはヘ長調で、テノール歌手の声のような旋律が左手に現れる。Cはニ長調。1908-1913
- 6 études de concert (6 estudios de concierto), op. 14 6つの演奏会用練習曲集、作品14
様々なピアノ技法の粋を尽くした組曲で、ドランゴーシュの作曲家~そしてピアニストとしての実力の集大成を示している。但し、各曲の構成から和声に至るまで、やはりドイツロマン派どっぷりで、ドランゴーシュのアイデンティティは何処にあるのかな~とも思わずにはいられない。
- Burlesque (Burlesca) ブルレスケ
コンパクトながらもソナタ形式。半音階進行16分音符の愛嬌あるハ長調の第一主題~両手アルペジオのホ短調から目まぐるしく転調する第二主題が現れ、両者が絡み合う展開部を経て、ハ長調の第一主題~イ短調の第二主題と再現される。- Thème varié (Tema variado) 主題と変奏
ト長調。シューマンを思わせる抒情的なアンダンテの主題が奏され、引き続き、第一変奏~中声部の主題の上に高音部の下降音階の対旋律、第二変奏~ト短調になりため息をつくような感じ、第三変奏~ト長調に戻り高音部の付点リズムが軽やか、第四変奏~ト短調で重音の16分音符が現れる、第五変奏~ト短調で両手の掛け合いが急速、第六変奏~ホ短調 / ト短調になり荘厳な二声のカノンが奏される。Finaleは73小節から成るフーガで、最後は両手オクターブで華やかに終る。- Papillons (Mariposas) 蝶々
一応イ短調。軽やかで速い8分音符が無窮動に続く曲で、ピアノらしい効果を出している。- Romance sans paroles (Romanza sin palabras) 無言歌
ニ長調、A-B-A-B'-A'形式。両手を用いた3オクターブのユニゾンの甘い旋律は、オペラの男女二重唱のアリアのような雰囲気。Bはト長調で、毎小節ごとに(楽譜の指示が)rit. - in tempoの繰り返しで一層色っぽい。B'の冒頭は旋律が二声に分かれて語らいのよう。最後のA'は左手に音階の対旋律が加わり豊かな響きとなる。- Perpetuum mobile (Movimiento perpetuo) 無窮動
イ長調。題名通りの無窮動な16分音符が延々と続き、16分音符は左手に移ったり、最後は両手交互になったりする。- Mouvement de Valse (Aire de vals) ワルツのテンポで
ホ長調。演奏時間約7分とこの組曲の中では最も長く、ちょっと勿体ぶった前奏に引き続き、A-B-A-C-D-B-A-Codaと次々と華やかなワルツが奏される。1920
- Tres composiciones, op. 27 3つの作品集、作品27
- Consolación 慰め
変ロ長調、A-A'形式。Aは四声のコラール風で、下の三声が全音符または二分音符で和音を奏でるのにのって、ソプラノ声部が穏やかな旋律を奏でる。A'は伴奏は左手アルペジオになり、旋律は右手オクターブになり艶かしい雰囲気だ。- Recuerdo 想い出
楽譜には「親愛な我が父の思い出に A la memoria de mi querido padre」と記されている。ドランゴーシュの父は1920年に亡くなっており、父を偲んで作曲したのであろう。ホ長調、A-B-A'形式。嫋やかな旋律がオクターブでゆったりと奏される。Aの後半は変ロ長調に転調し、Bは変ロ長調→ハ長調と転調していく所はドラマティックだ。- Ronda de espíritus 精霊たちの輪舞
強いて言えばト短調、A-B-C-A-コーダの形式。Aは左手で属七の和音や増三和音が鳴るのにのって、全音音階を下る長三度重音が悪戯っぽい雰囲気。Bは精霊が踊るような付点リズムで、モチーフの動きが半音階進行なのが不気味な感じ。1920年頃
- El perseguido 追跡者
ドランゴーシュはクラシック以外にもポピュラーなタンゴも作っていて、これがその作品。Ricardo Ernestoというペンネームで楽譜は出版され、タンゴの王様として有名なフランシスコ・カナロ (1888-1964) の楽団によりレコーディングもされている。ト短調、A-B-C-C-A形式。Aはむせび泣くような旋律が奏される。BやCの部分はヴァイオリン、バンドネオン、ピアノのグリッサンドを思わせるパッセージ満載で、タンゴ楽団での演奏を意識した音作りだ。