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Antonio Estévezについて
Antonio José Estévez Aponte(アントニオ・ホセ・エステベス・アポンテ)は1916年1月3日、グアリコ州カラボソに生まれた。幼少時より音楽を習い、7歳から2年間、首都カラカスに住んだが、カラボソに戻ってからは10歳の時から地元の楽団のサクソフォーン奏者をしていたとのこと。14歳頃に一家は再びカラカスに出た。父に買ってもらった中古のクラリネットで音楽学校 (Escuela de Música y Declamación) に通い、18歳でベネズエラ交響楽団のオーボエ奏者になった。またこの頃カラカスの映画館で見た映画 "Rapt(霧笛)" の音楽(アルテュール・オネゲル作曲)に感動して、作曲家になることを決意。ベネズエラの作曲家Vicente Emilio Sojoのオーディションに合格し、作曲を学んだ。1942年にオーボエ奏者としてEscuela de Música y Declamaciónを卒業。同年にピアニストのFlor Roffé (1921-2004) と結婚した。1943年にはベネズエラ中央大学合唱団を結成した。
1945年にはEscuela de Música y Declamaciónの作曲科も卒業し、奨学金を得て同年に妻を伴って米国に留学。ニューヨークのコロンビア大学で作曲、管弦楽法、指揮などを学んだ(本来はニューヨーク在住のストラヴィンスキーに師事するつもりだったが、ストラヴィンスキーが直前にロサンゼルスに転居したため、願いは叶わなかったとのこと)。バークシャー夏期音楽祭(現在のタングルウッド音楽祭)に参加した。その後エステベスは1948年までイギリスとフランスにも短期間留学した。
ベネズエラに帰国後の1949年にはベネズエラ交響楽団の指揮者としてデビュー(この時の演奏会ではヴァイオリニストのユーディ・メニューインをソリストとして招き、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のベネズエラ初演を行った)。また作曲家としても活動し、1949年には国家音楽賞を受賞した。しかし、1952年にマルコス・ペレス・ヒネメス軍事政権下では反政府活動の科で逮捕され、短期間ながら収監されていた。1954年には管弦楽と合唱、独唱のための "Cantata Criolla" に対して交響曲年間賞を受賞した。
1961年には現代音楽の研究のためにイギリスに渡り、更に1963年にはフランスに住み、現代音楽作曲家のピエール・シェフェールが部長を務めるフランス国営放送研究部 (Le Service de recherche de la RTF) に入り電子音楽の研究を行った。1967年のモントリオール万国博覧会では、同郷ベネズエラ出身の美術家ヘスス・ラファエル・ソトが展覧会が催すことになり、この展覧会のための環境音楽としてテープ音楽の "Cromovibrafonía" を作曲した。1971年にベネズエラに帰国すると、音響学研究所 (Instituto de Fonología Musical) を設立し、1979年まで部長を務めた。帰国後のエステベスはベネズエラの音楽界では尊敬されていたものの、彼の現代音楽に理解を示す人は国内には殆どいなかったとのこと。
1987年に再び国家音楽賞を受賞。1988年11月26日、カラカスで亡くなった。
エステベスは作曲家としては寡作家である。管弦楽曲では学生時代に作曲した "Mediodía en el Llano" (1942) が代表作である。彼は当初、"Suite Llanera: 1. Amanecer, 2. Mediodía, 3. Atardecer" という管弦楽組曲を作ったが、後に彼自身が1、3番を破棄して、2番のみが "Mediodía en el Llano" として残った。中期の作品としては、管弦楽のための協奏曲 (1951)、"Cantata criolla" (1954) がある。ベネズエラ中央大学合唱団の指揮をしていたこともあり、いくつもの合唱曲を作っている。1960年代からは現代音楽家として活動しており、代表作には "Cromovibrafonía" (1967)、"Cromovibrafonía múltiple" (1972) がある。
エステベスの書いたピアノ曲は下記の "17 piezas infantiles"のみである。
Antonio Estévezのピアノ曲リストとその解説
1956
- 17 piezas infantiles 17の子どもの小品集
エステベスの唯一のピアノ曲である。「子どもの小品集」と言えど、シューマンの「子供の情景」やバルトークの「ミクロコスモス」同様、一部の曲は子どもが演奏するには難しい曲も入っている。祖先の魂を呼び起こすような音楽的に深い "Ancestro" の3曲に始まり、無邪気な童謡や遊び歌が現れる一方、黒人奴隷の作業歌や、ベネズエラ人の精神を示すような詩作を元にした大人びた曲まであって、ベネズエラの豊かな文化や精神世界を俯瞰するような多彩な組曲である。作曲技法的にも、エステベスの後期の作品のような前衛音楽は現れないまでも、簡単な機能和音と旋律の曲から、教会旋法や繊細な不協和音(第15曲 "Platero" など)まで響きも多様で、ベネズエラでは自国の作曲家のピアノ曲の代表作としてよく演奏されているのも頷ける。
- Ancestro 祖先
組曲の初めの3曲はいずれも "Ancestro"という曲名だが、楽譜の解説によると、それぞれ「アメリカ大陸の3つの祖先であるインディオ(先住民)、スペイン人、黒人」をイメージしていると記されている。第1曲は強いて言えば変ホ短調。先住民の祖先の魂を呼び起こすような厳粛な雰囲気の曲で、組曲の冒頭に相応しい。低音ミ♭のオクターブが静かに鳴る前奏に続き、先住民の笛の音のような旋律が五音音階で奏される。- Ancestro 祖先
スペイン人を表すような、ギターの開放弦のミ-ラ-レ-ソ-シ-ミの音がアルペジオで繰り返され、その上の高音部オクターブでレチタティーボのような旋律がドリア旋法で奏される。- Ancestro 祖先
強いて言えばニ短調。5/8拍子で低音部レ音が黒人の打つ太鼓のように鳴り、それにのって呟くような旋律が奏される。- La huerta de doñana (Preludio) アナおばさんの野菜畑(前奏曲)
ト長調、A-A'形式。ベネズエラの童謡 "La huerta de doñana(Doña Anaという曲名でも知られる)" の旋律が左手スタッカートで軽快に奏され、それに16分音符アルペジオが纏わりつく。ドビュッシーのピアノ組曲「版画」の第3曲「雨の庭」を思わせるピアノ書法である。- El trompo (Variación) こま(変奏曲)
ニ長調、A-A'-A"形式。遊び歌のような快活な旋律が8小節奏され、次に1オクターブ旋律を下げて繰り返し、イ長調に転調してもう一度繰り返され、その度に16分音符を増して変奏される。- Canción con tarde y con niños (Tilingo) 子ども達との午後の歌(ティリンゴ)
ティリンゴとはメキシコ(特にベラクルス州)の民族舞踊。ト長調。6/8拍子の軽快な旋律や対旋律が三声または四声でポリフォニックに奏される。- Canción para dormir una muñeca お人形の寝んねの歌
ト短調、A-A'-A"形式。哀愁を帯びた旋律が静かに右手で奏され、三度重音や和音の左手伴奏が4分音符で音階進行しながら鳴る。旋律が繰り返されるたびに左手和音が微妙に変わっていくのが何とも美しい響きだ。- La candelita ラ・カンデリータ
candelitaとは直訳すると「小さなロウソク」という意味だが、ベネズエラでは5人で行う鬼ごっこに似た子どもの遊び。ハ長調。子供達がはしゃいでる様な旋律が奏され、後半では可変拍子になって一層賑やかになる。- Florentino cuando era becerrero 牛飼いだったフロレンティーノ
フロレンティーノとは、ベネズエラの詩人 アルベルト・アルベロ・トレアルバ (1905-1971) が書いた、民話に基づく詩「フロレンティーノと悪魔 (Florentino y El Diablo)」に登場する主人公の牛飼いの名前。詩の内容は、ある夜にフロレンティーノがホローポ(ベネズエラの民族音楽)の集まりに出るため馬を駆っていた所、黒尽くめの一人の男が追って来た。ホローポの会場につくと、その男はフロレンティーノにコントラプンテオと呼ばれる歌合戦をしようと挑んで来た。伝統的なホローポでは、二人の歌手が決まった和音進行の型に法ってそれぞれ即興的に旋律を作って即興詞を歌い合い、その技を競う戦いが繰り広げられる。黒尽くめの男は実は悪魔で、もしフロレンティーノが負けたら彼の魂を奪うという。しかしフロレンティーノは見事な即興詞を一晩中歌い続け、夜明けと共に悪魔は去って行った、というストーリーである。イ短調。アルペジオがギターのように鳴り響く中、中音部に旋律が語りかけるように奏される。この曲の冒頭の旋律は後にエステベスの合唱曲 "Mata del Ánima sola" にも用いられた。- El cuento del gallo pelón にわとりペロンのお話し
ト長調、A-A'形式。穏やかな旋律が何度も繰り返される。- El cuento de la abuelita おばあちゃんのお話し
ハ短調、A-A'形式。哀愁漂う旋律が静かに語りかけるように奏される。左手伴奏は控えめな和音のみだが、その和音の半音階進行が何とも趣深い。- Angelito negro 黒い天使
ベネズエラの詩人 アンドレス・エロイ・ブランコ (1896-1955) の詩 "Angelitos negros" から採られた。詩の内容は、教会画の画家たちに対して、どうして黒い肌の天使も描いてくれないのかと嘆くもの。ロ短調、A-A'形式。教会内を思わせるような静かな4分音符オスティナートにのって、悲しげな旋律が現れる。曲の最後の和音がシ-レ-ファ#-ラの短七の和音なのが余韻たっぷり。- El pajarito (Leyenda) 小鳥
エステベスは(おそらく1948年に)パリで作曲家のヤニス・クセナキスに会った。その時クセナキスはエステベスに4つの音を提示し、彼は後にその4音を基にこの曲を作ったとのこと。別の文献では指揮者のセルジュ・チェリビダッケがベネズエラを訪問した時、エステベスの師であるVicente Emilio Sojoがエステベスと一緒にチェリビダッケをグアリコ州に招き、そこで小鳥が五度の音程で鳴くのにチェリビダッケが驚いたというエピソードを基にエステベスはこの曲を作ったとも記されている。変イ長調、A-A'形式。小鳥が鳴くような冒頭の旋律はファ・ソ・ラ♭・ミ♭の4音から成り、また完全五度の進行もある。旋律はオクターブやトリラーの装飾音混じりで高音部で鳴り、中音部で繊細な和音が静かに響く。- La zaranda サランダ
サランダとは、フクベノキ(瓢箪の木)の実に棒を通してコマのように回す遊びのこと。変イ長調、A-B-A'形式。くるくる回るのを描くような16分音符音階の繰り返しの上で、子どもが遊んでいるような快活な旋律が奏される。- Platero プラテーロ
プラテーロとは、スペインの詩人 フアン・ラモン・ヒメネス (1881-1958) の散文詩集「プラテーロとわたし」に登場するロバの名前。へ長調。左手で奏される規則的な8分音符はロバの足音を思わせ、その上で寂しげに響くモチーフはロバの鳴き声のよう。- El pilón ピロン
ピロンとはトウモロコシなどの穀物をすり潰すのに用いる臼と杵のことで、ベネズエラでは植民地時代に黒人奴隷達が杵を打つ作業中に歌っていた "cantos de pilón" という作業歌が伝わっている。ニ短調。重い杵を打っているような規則的なリズムの中から左手低音に "cantos de pilón" の旋律が現れ、旋律は右手に移ったり、オクターブになったりと変奏されつつ繰り返される。- Toccatina トッカッティーナ
イ短調、A-B-A-コーダの形式。第4曲 "La huerta de doñana" と同じ音型の曲で、左手旋律がスタッカートで軽快に奏され、それに16分音符アルペジオが纏わりつく。
Antonio Estévezのピアノ曲楽譜
P. Antolin, Editor
- 17 piezas infantiles para piano
斜字は絶版と思われる楽譜
Antonio Estévezのピアノ曲CD
星の数は、は是非お薦めのCD、は興味を持たれた人にはお薦めのCD、 はどうしてもという人にお薦めのCDです。
Americas Without Frontiers
Nimbus alliance, NI 6346
- Apure en un viaje (Venezuelan joropo) (Genaro Prieto)** ***
- Five Studies from 15 Estudios sobre ritmos y formas de la tradición musical argentina: I. Bailecito, II. Cueca, III. Carnavalito, IV. Chamamé, V. Zamba (Ariel Ramírez)
- Ancestro (Colombian bambuco) (Germán Darío Pérez)* **
- 17 piezas Infantiles: I. Ancestro, II. Ancestro, III. Ancestro, IV. Doñana, V. El Trompo (Antonio Estévez)
- 17 piezas Infantiles: VI. Canción con tarde y con niños, VII. Canción para dormir una muñeca, VIII. La candelita, IX. Florentino cuando era becerrero, X. Cuento del gallo pelón (Antonio Estévez)
- 17 piezas Infantiles: XI. El cuento de la abuelita, XII. Angelito negro, XIII. El pajarito, XIV. La zaranda (Antonio Estévez)
- 17 piezas Infantiles: XV. Platero, XVI. El pilón, XVII. Toccatina (Antonio Estévez)
- Retrato Solemnísimo de Aldemaro Romero (Juan Carlos Nuñez)
- Fon-fon (Brazilian tango) (Ernesto Nazareth)
- Odeon (Brazilian tango) (Ernesto Nazareth)* **
- Three Preludes: I. Allegro ben ritmato e deciso, II. Andante con moto, III. Agitato (George Gershwin)
- Danza de fin de siglo (Jose María Vitier)
- Tranquilamente, un tipo leal (Colombian pasillo) (Germán Darío Pérez)* **
- Four Cuban Dances: I. Invitación, II. Los tres golpes, III. El suspiro, IV. Se fué y no vuelve más (Ignacio Cervantes)
- La dangereuse (meringue haïtienne) (Ludovic Lamothe)* **
- Alfonsina y el mar (zamba argentina) (Ariel Ramírez)
- El Negro José (Venezuelan seis por derecho/Onda Nueva) (Aldemaro Romero)* **
Clara Rodríguez (pf), Carlos "Nené" Quintero (percusión)*, Carlos Rodríguez (contrabajo)**, Edwin Arellano (gt)***, Manuel Rangel (maracas)***
2016年の録音。
Escenas Infantiles
- Kinderscenen op. 15 (Robert Schumann)
- Children's Córner (Claude Debussy)
- 17 piezas infantiles (Antonio Estévez)
Vilma Sánchez (pf)
CENTENNIAL - Antonio Estévez
Guinima Media
- 17 piezas infantiles
Sylvia Constantinidis (pf)
2018年のリリース。
Latinoamérica en el Piano
- Bailecito (Carlos Guastavino)
- A la antigua (Ernesto Lecuona)
- Nilse (Luis Morales Bance)
- Mi Marioneta tiene tres Caracas (Eduardo Marturet)
- Suite Criolla (Modesta Bor)
- Bambuco (Adolfo Mejía)
- Los Tres Golpes (Ignacio Cervantes)
- Las Delicias del Edén (Ildefonso Meserón y Aranda)
- Vals Venezolano (Rafael Maria Samuell, Hijo)
- Mañanita Caraqueña (Evencio Castellanos)
- 17 Piezas Infantiles: El Pajarito, Florentino cuando era becerrero (Antonio Estévez)
- Intermezzo (Manuel María Ponce)
- Joropo (Moises Moleiro)
Olga López (pf)
1983年に録音されたLPからリマスタリングされたもの。
SOLATINO
EMI Classics, 50999 9 18201 2 9
- La comparsa (Ernesto Lecuona)
- ...Y la negra bailaba! (Ernesto Lecuona)
- A la Antigua (Ernesto Lecuona)
- Impromptu (Ernesto Lecuona)
- ¿Por qué te vas? (Ernesto Lecuona)
- Soñando Contigo (Improvisation) (Gabriela Montero)
- Suite española, No. 4 Gitanerías (Ernesto Lecuona)
- Suite española, No. 6 Malagueña (Ernesto Lecuona)
- Suite española, No. 1 Córdoba (Ernesto Lecuona)
- Texturas de la Gran Sabana (Improvisation) (Gabriela Montero)
- Piezas infantiles, No. 12, No. 2, No. 17 (Antonio Estévez)
- A la Argentina (Improvisation) (Gabriela Montero)
- American Preludes, No. 10 Pastorale (Alberto Ginastera)
- American Preludes, No. 3 Danza criolla (Alberto Ginastera)
- Piano Sonata No. 1 (Alberto Ginastera)
- Sin Aire (Improvisation) (Gabriela Montero)
- Odeon (Tango Brasileiro) (Ernesto Nazareth)
- Brejeiro (Tango Brasileiro) (Ernesto Nazareth)
- Fon-fon (Toot-Toot) (Ernesto Nazareth)
- Carioca (Ernesto Nazareth)
- Mi Venezuela Llora (Gabriela Montero)
- Kleiner Waltzer "Mi Teresita" (Teresa Carreño)
- Joropo (Moisés Moleiro)
Gabriela Montero (pf)
2010年の録音。
Latin American Classics
Steinways & Sons
- Andalucía "Suite española": Córdoba (Ernesto Lecuona)
- Mañanita caraqueña (Evencio Castellanos)
- Joropo (Diana Franklin)
- Danzas afro-cubanas: Danza de los ñáñigos (Ernesto Lecuona)
- Pieces for children under 100 years of age: VI. Magic dream (Federico Ruiz)
- Pieces for children under 100 years of age: XIV. Registro (Federico Ruiz)
- 17 Piezas infantiles: No. 1. Ancestro (Antonio Estévez)
- 17 Piezas infantiles: No. 9. Florentino cuando era becerrero (Antonio Estévez)
- Suite de danzas criollas, Op. 15 (Alberto Ginastera)
- Adiós a Cuba (Ignacio Cervantes)
- 17 Piezas infantiles: No. 8. La candelita (Antonio Estévez)
- 17 Piezas infantiles: No. 12. Angelito negro (Antonio Estévez)
- 17 Piezas infantiles: No. 16. El pilón (Antonio Estévez)
- Milonga (Alberto Ginastera)
- Merengue (Federico Ruiz)
- Intermezzo No. 1 (Manuel Ponce)
- Andalucía "Suite española": Gitanerías (Ernesto Lecuona)
Kristhyan Benitez (pf)
2018-2019年の録音、2020年のリリース。
Antonio Estévezに関する参考文献
- Revista Cultural Carohana Nº 19 - Dedicada a Antonio Estévez, 2016.