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Gilardo Gilardiについて
Gilardo Gilardi(ジラルド・ジラルディ)は1889年5月25日、ブエノスアイレス州San Fernandoに生まれた。両親ともにイタリアからの移民で、Gilardo Gilardiという彼の名前はスペイン語風に発音すれば「ヒラルド・ヒラルディ」だが、アルゼンチンの人々も彼の名前はイタリア語の発音で「ジラルド・ジラルディ」と発音している。彼の父Miguel Ángel Gilardiはチェロ奏者で、地元の楽団や合唱団の指揮をしていて、作曲も嗜んでいた。父から音楽を習ったジラルディは7歳で「マズルカ」を作曲したとのこと。
ジラルディは19歳の時からPablo María Beruti (1863または1866-1914) に作曲を何年か師事したが、Berutiが亡くなった後は独学で作曲の勉強を続けた。1920年にブエノスアイレス市が主催した「第1回オペラ作曲コンクール」で、ジラルディが作ったオペラ "Ilse" は入賞し、1923年にコロン劇場で上演された。
1929年にはアルゼンチンの進歩的な作曲家たちと共にGrupo Renovación(新しい集団)というグループを結成し、定期的な演奏会を催して自分達の新作を発表し合ったが、ジラルディ自身がこのグループで活動したのは1930年までの2年間のみであった。
1938年頃、彼の教え子で23歳年下のMaría Lucrecia Madariaga (1912-1985) と結婚し、2人の子どもをもうけた。妻は合唱指揮の仕事をしており、1940年代にジラルディはいくつもの合唱曲を作曲した。
ジラルディはアルゼンチン作曲家協会会長を務めるなどしたが、作曲家として以外にも、指揮者としてコロン劇場などで活躍、また国立ラプラタ大学芸術学部教授および学部長、国立音楽院教授などの教職も務めた。
1963年1月16日、ブエノスアイレスにて亡くなった。
ジラルディは多くの作品を残しており、管弦楽曲では、陽気な交響詩 "Gaucho con botas nuevas" (1937)、弦楽オーケストラのための "Piruca y yo" (1937)、管弦楽のための "Poema fluvial" (1944)、循環形式の交響曲 (1961) などを作曲した。室内楽曲では、ヴァイオリンとピアノのための "Sonata popular argentina" (1925)、ピアノトリオ "Tres danzas argentinas" (1938)、木管五重奏のための "Quinteto aéreo pentáfono" (1941) などがある。器楽曲は下記のピアノ曲の他にも、ギター曲 "Serie Argentina" (1940) などがある。オペラは、"Ilse" (1919)、"La Leyenda del Urutaú" (1929)、"Ollantay" (1939) の3本を作曲していて、前2作はコロン劇場で上演された。また宗教曲 "Misa de Gloria en honor a Santa Cecilia" (1936)、"Stabat Mater" (1946) も作った。更に、映画音楽は "Tres hombres del río" (1943)、"Éramos seis" (1945)、"Los isleros" (1950) の3本に作曲をしている。
ジラルディのピアノ曲は概ね、他の文献でも3つのジャンルに分けている。一つめは、調性感はあるもののちょっと独特の和音で新古典主義とも言えなくもないような音楽で、"Esdrújulas" や "Sitibunda por tierras sedientas"、"Preludio, Toccata y Fuga" などである。二つめは民族主義的な作品で、和音が凝った "Tríptico" からアルゼンチン風味たっぷりの "Cantares de mi cantar" と "Tango" がある。三つめは無調で印象主義の影響も聴かれる晩年の作品 "Poema, El viento agita el cardal" がある。
Gilardo Gilardiのピアノ曲リスト
1915-1917
- Esdrújulas エスドゥルーフラス
全5曲から成る組曲。エスドゥルーフラスとはスペイン語学上の用語で、 「終わりから三番目の音節にアクセントがつく単語」を指す。初期ロマン派くらいの和声のようで、また同時に何だか理解困難な和音進行が多用されていて、ジラルディの個性を怪しく放っているように思える作品である。
- Mística (1915) 神秘主義者
ニ長調、A-B-A'形式。Aは穏やかな旋律が奏され、2つの対旋律を絡ませるポリフォニックな作りだ。Bは変ニ長調になり、Aの旋律が左手に少し現れたり、転調を繰り返す。A'は冒頭の主題がオクターブ和音で高らかに現れるが、間もなくppになり穏やかな響きに戻って終わる。- Júbilo, Vals capricho (1916) 歓喜、ワルツ・カプリーチョ
変ロ長調、A-A'-B-A'-C-D-C-A-A'-コーダの形式。全体的に派手な空騒ぎのような雰囲気の曲。Aは高音ファのオクターブの連打に引き続き、右手オクターブで奏される旋律が大げさな感じのワルツだ。Cはヘ長調になり、やっと優雅なワルツが現れるがこれも大振りなオクターブで繰り返される。Dは変ニ長調になる。- Hímnica (1915-1917) 賛歌のように
変ロ長調、A-B-A'-B形式。勇壮な混声合唱を思わせる曲。Aは右手はオクターブ和音で旋律を高らかに奏で、左手ベースも力強いオクターブだ。Bは男声合唱を思わせる中声部オクターブで始まり、3小節遅れて高音部オクターブ和音の旋律が呼応するように奏される。- Íntima, Imitación a Beethoven (1916) 親密な、ベートーベンに倣って
イ長調、A-B-C-A'形式。ベートーベンの後期ソナタの緩徐楽章を思わせる曲。Aは抒情的な旋律が穏やかに奏される。Bは嬰ヘ短調に始まり、左手3連16分音符の対旋律にのって、右手に息の長い旋律が奏される。Cはイ短調になり、嘆きの旋律のような感じになる。- Fúnebre (1917) 葬式
ヘ短調、A-B-A'-C-A形式。題名通りの葬送行進曲。短三和音と減七の和音の繰り返しにのって重々しい旋律が奏される。Cは変ニ長調になり、天国を描いたような安らぐ感じの旋律が流れる。1925?
- El caminante descaminado, 5 piezas 誤った道を行く人
- Sitibunda por tierras sedientas 乾いた大地による喉の渇き
ジラルディは "El caminante descaminado" という5曲から成る組曲を作ったらしく、1927年にはピアニストのHonorio Siccardiが組曲として初演している("Por el camino de los cipreses" という曲名だった)。しかし現在楽譜が残されているのはこの "Sitibunda por tierras sedientas" の1曲のみである。ニ長調、A-B-C-B'-C'-A'-コーダの形式。Aは楽譜に "De andar cansado(疲れた足取りの)" と記され、灼熱の荒れ果てた大地を彷徨う旅人の歩きのような曲調である。Bは減七の和音混じりの音階が右手・左手で違う動きをしながら上下し、やがて音階は全音音階になって幻想的な響きになる。Cは変ホ長調になり、楽譜に "Al Vals(ワルツ風に)" と記され一応ワルツのリズムであるが、頻繁な転調や全音音階が謎めいた響きで魔界冥府に迷い込んだような感じである。複雑な響きが一段落すると、BやCのモチーフが低音や高音部で断片的に鳴る中、Aの旋律が再現され、消えるように終わる。1929-?
- La firmeza, Transcripción para piano de la Serie argentina para orquesta Nº 2 フィルメーサ、管弦楽のための連作「アルゼンチン」第2番のピアノ編曲
- Noviando, Transcripción para piano de la Serie argentina para orquesta Nº 3 ノビアンド、管弦楽のための連作「アルゼンチン」第3番のピアノ編曲
- Chacarera, Transcripción para piano de la Serie argentina para orquesta Nº 4 チャカレーラ、管弦楽のための連作「アルゼンチン」第4番のピアノ編曲
1935
- Tríptico 三部作
- La ñusta enamorada 恋に落ちたニュスタ
ニュスタとはインカ帝国の皇女とか、またはインカ帝国で王に仕える女性を指す。恋のときめきを思わせるような、同時に野性的な不協和音が先住民の謎めいた世界を示唆しているような不思議な曲である。強いて言えばイ長調、A-B-A'-B'-A"-A-B"形式。Aでは楽譜の冒頭に "en angustiada conmoción(不安に満ちた衝撃)" と記された3連8分音符3つ+8分音符2つの鋭いリズムが無窮動に続き、恋に落ちたニュスタの胸の鼓動を描いているよう。Bは楽譜に " con efusión lírica(情熱的に)" と記され、高音部に歌うような息の長い旋律がリディア旋法で奏される。Bの最後では不安げな5連符が現れ、冒頭の鋭いリズムに戻る。- Soliloquio 独り言
イ長調、A-B-A'形式。ゆったりとした、しかし寂しげな旋律が奏される。Bは変イ長調になり、Aで出現したモチーフが展開され、減七の和音などがffで響き渡る。- La danzarina y el haraveco 踊り子とアラベコ
嬰ヘ長調、A-B-A'-B'-A"-B"形式。Aはペンタトニックまたはヘキサトニックの愛嬌ある旋律が右手・左手の二声で掛け合いのように奏される。Bは楽譜に "A la danza(踊りのように)" と記されている通り、8分音符のリズムにのってテトラトニックの素朴な旋律が奏される。1939?
- Preludio, Toccata y Fuga 前奏曲とトッカータ、フーガ
バロック音楽の形式をとりつつも、完全四度または増四度の響きを多用した調性感が薄い響きで、新古典主義風の作品である。Preludio、Toccata、Fugaの3つ共にド-ファ-シ-ミ-ラ-レ-ソのモチーフを用いて作られている。Preludioは前記のモチーフが短二度または長二度の重音で奏され、伴奏のアルペジオもモチーフを意識した四度の進行である。Toccataは、A-B-A'形式。Aは上記のモチーフがスタッカートで軽快に奏され、時々ファが#のリディア旋法になるのが滑稽な響きだ。Bは穏やかな左手分散和音にのって、右手に柔らかな旋律が流れる。Fugaは2分半ほどと短いが、二度重音で現れる主唱を3小節遅れて、4度下がった応唱が続き、また3小節遅れて第3声が続く。ディヴェルティスマンと考えられる部分を経て、最後はストレッタと看做せる部分が両手オクターブで力強く奏されて終わる。1947
- Cantares de mi cantar 私の歌の歌い手達
アルゼンチンの主に北部の民謡を思わせる調べがあちこちで聴かれる組曲で、和音も親しみやすいいい雰囲気の曲揃いです。
- Endecha エンデチャ(哀歌)
Endechaとは哀しい歌という意味らしいです。ホ長調、A-B-C-B-A形式。Aは長調ながらそこはかとない哀愁が漂う旋律が奏される。BとCは嬰ハ短調になり、冒頭の旋律の変奏が情熱的に奏される。- Trova トローバ
トローバとは、キューバを中心とするカリブ海諸国や中米の即興歌のことで、トロバドーレと呼ばれる歌手がギターを弾きつつ歌う。ホ長調、A-B-C-B-A'形式。Aはギターのつま弾きを思わせるアルペジオが穏やかに奏される。Bでトロバドーレが昔語りをするような即興的な旋律が奏され、徐々に盛り上がる。- Elegía エレジー(悲歌)
ホ長調、A-B-A'形式。Aは中音部で和音を伴った旋律が重々しく奏される。Bは低音部で静かに続く太鼓の音のようなリズムにのって素朴な旋律が奏される。- Rondel ロンデル
ロンデルとは、フランス由来の詩の型の一つで、詩の第1連の最初の2行が後の決まった場所で繰り返されるなどの形式がある。ホ長調、A-B-A'-C-A"形式。田舎の素朴な踊りの光景のような陽気な曲で、跳ねるような旋律が躍動的。Bは頻繁な転調が色彩的。A'では旋律が途中左手に移り、対旋律が16分音符で駆け回るのがピアニスティックだ。Cは右手・左手のスタッカートの掛け合いとなる。1954
- Cuatro preludios unitonales o unitónicos 同一調の4つの前奏曲集
4曲共に変ホ短調であるが、全体的にジラルディらしい複雑な和音の響きの曲ばかりである。
- Impresionista
霧がかかったような雰囲気の響きは印象派風であるが、左手8分音符+右手3連8分音符の分散和音が続く様はバロック音楽も感じさせるような不思議な曲。- Clásico
A-B-A'形式。全曲がカノンで書かれていて、Aは右手4分音符の和音のモチーフを左手オクターブが追い、Bは右手アチャッカトゥーラを左手が1オクターブ下で追い、A'は左手オクターブが先行で右手和音のモチーフが追う。- Romántico
A-A'-A"形式。一応ロマンティックな旋律が右手に現れるが、対旋律の半音階進行が複雑な響きを醸し出している。A'では左手に旋律が移る。- Danzante
A-B形式。ハバネラ風のリズムに乗った曲で、不協和音のぶつかりが混沌とした雰囲気。1958
- Tango タンゴ
ハ長調、A-B-A'形式。ジラルディのピアノ曲の中では、正直な所この2分少々の小品がいちばん親しみやすいかな。目の覚めるようなグリッサンドに引き続き、バンドネオンのスタッカートやコントラバスの音色のような旋律が颯爽と奏され、その中から男性歌手の歌声のような旋律が中声部に現れる。Bはト長調に始まり、最初は囁くような音色が徐々に大きくなり、タンゴ楽団のトゥッティのような華やかな盛り上がりを見せる。1960
- Poema, El viento agita el cardal 詩曲、風に揺れるカルダール
Gilardo Gilardiのピアノ曲楽譜
Trémolo
- La música para piano de Gilardo Gilardi
- Esdrújulas
- Sitibunda por tierras sedientas
- Tríptico
- Preludio, Toccata y Fuga
- Poema, El viento agita el cardal
Melos Ediciones Musicales S.A. (旧Ricordi Americana S.A.)
- Tango
- Cantares de mi cantar
- Cuatro preludios unitonales
- Antología de música argentina
- La firmeza, Danza del norte argentino
斜字は絶版の楽譜
Gilardo Gilardiのピアノ曲CD
星の数は、は是非お薦めのCD、は興味を持たれた人にはお薦めのCD・LP、はどうしてもという人にお薦めのCDです。
Gilardo Gilardi (1889-1963) - Obra integral para piano - En homenaje a los 125 años de su nacimiento
Disco 1
- Sitibundas por tierras sedientas. De la serie "El caminante descaminado"
- Esdrújulas
- Tríptico
Disco 2
- Preludio, toccata y fuga
- Cantares de mi cantar
- Cuatro preludios unitonales o unitónicos
- Tango
- Poema: El viento agita el cardal
Dora De Marinis (pf), Patricia Yvonne Espert (pf)
Música para piano de dos mundos
Cosentino, IRCO 291
- Danza Arcaica (Salvador Ranieri)
- Seis piezas para niños, op. 72 (Félix Mendelsshon)
- Cantares de mi cantar (Gilardo Gilardi)
- Juegos de agua (Maurice Ravel)
- Sonatina (Tirso de Olazábal)
- La colina sombreada, Rama de piquillín, de "En la sierra", op. 32 (Alberto Williams)
- Niebla, Benteveo, de "Preludios" (Lita Spena)
- Seis danzas búlgaras, del "Microcosmos" Vol. VI (Béla Bartók)
Alicia Lastra (pf)
2000年の録音。
Los Compositores Académicos Argentinos y El Tango (1867-2002)
Argentmúsica
- El negro Schicoba (José María Palazuelos)
- Bartolo (Francisco Hargreaves)
- Pare el Tranguay, Mayoral (Carlos López Buchardo)
- Don Pepe (Ernesto Drangosch)
- Coquito (Carlos López Buchardo)
- Mburucuyá (Enrique M. Casella)
- El Perseguido (Ernesto Drangosch)
- Aire de Tango (Ernesto Drangosch)
- Tenga Mano (Manuel Gómez Carrillo)
- Asistencia (Athos Palma)
- Mas nunca olvidaré (Arnaldo D'Espósito)
- Tango (Constantino Gaito)
- Preludio en forma de tango (Juan Francisco Giacobbe)
- Junto al Paraná (Juan Carlos Paz)
- Tango que le hiciste mal... (Jorge Arandia Navarro)
- Tango (Gilardo Gilardi)
- Encuentro (Salvador Ranieri)
- Tanguango (Juan Carlos Zorzi)
- Tango (Gisela García Gleria)
- Entonces, Tango Nº 1 de "Ayer del Buen Aire" (Irma Urteaga)
- Cristales Rotos (Norma Lado)
- Invención Tanguera Nº 3 (Jorge Pítari)
Estela Telerman (pf)
2002、2003年の録音。
Nostalgias Argentinas, Piano Music of Argentina
Steinways & Sons
- Por el sur (Remo Pignoni)
- Como queriendo (Remo Pignoni)
- La bordona (Emilio Balcarce)
- Don Agustín Bardi (Horacio Salgán)
- 10 Cantos populares (Carlos Guastavino)
- Aquel Buenos Aires (Pedro Sáenz)
- Canción del carretero (Carlos López Buchardo)
- Bailecito (Carlos López Buchardo)
- Vidala (Floro Meliton Ugarte)
- Cantares de mi cantar (Gilardo Gilardi)
- Vals criollo no 3 (Mario Broeders)
- Milonga pampeana (Mario Broeders)
- Lluvia de estrellas (Osmar Maderna)
- Nocturna (Julián Plaza)
Mirian Conti (pf)
2012年のリリース。
Gilardo Gilardiに関する参考文献
- Patricia Yvonne Espert. Huellas: búsquedas en artes y diseño Nº 8, La obra para piano de Gilardo Gilardi: Un compositor argentino del siglo XX. Universidad Nacional de Cuyo. Facultad de Artes y Diseño. Dirección de Investigación y Desarrollo 2014.