Radamés Gnattaliのピアノ曲リスト
斜字は出版がなく、かつ手稿譜が現存せず、どんな曲だか不明な作品です。192?
- Malandro, samba ゴロツキ、サンバ
1926
1927
- Romance (sem palavras) ロマンス(無言歌)
1930
1931
1933
- Valsa para dois pianos 2台ピアノのためのヴァルサ
1933-1936年頃
- Miniaturas ミニアチュール
- Valsa (Valsas brasileiras) (1933) ヴァルサ(ヴァルサス・ブラジレイラス)
- Modinha モジーニャ
- Jongo ジョンゴ
1939
1940年代
- Negaceando, choro ネガセアンド(魅惑的に)、ショーロ
- Caprichosa (Nininha), valsa カプリショーザ(ニニーニャ)、ヴァルサ
- Carinhosa, valsa カリニョーザ(優しく)、ヴァルサ
- Perfumosa, valsa ペルフモーザ(香りのよい)、ヴァルサ
- Preciosa, valsa プレシオーザ(気取って)、ヴァルサ
1940年頃
- Prelúdios nº 1, choro 前奏曲第2番、ショーロ
- Prelúdios nº 2, toada 前奏曲第3番、トアーダ
1941
1942
- Choro ショーロ
1943
1944
1945
- Melodias do Brasil, para piano a 4 mãos 連弾のためのブラジルのメロディー
- Tutu marambá, Tema com variações トゥトゥ・マランバ、主題と変奏
- A canoa virou ひっくり返ったカヌー
- Teresinha de Jesus 信心深い小さなテレーサ
- Um pouco de ritmo 少しのリズム
1947
- Vaidosa nº 1, valsa ヴァイドーザ(空虚な)第1番、ヴァルサ
- Manhosamente, choro マニョーザメンチ(器用に)、ショーロ
- Sonata nº 1 ソナタ第1番
- Allegro moderato
- Sonore, Tema com variações
- Final
1948
1949
- Brasiliana nº 4 ブラジリアーナ第4番
- Prenda minha (Moda gaúcha) 私の宝物(ガウショのモーダ)
- Samba canção (Rio de Janeiro) サンバ・カンサォン(リオデジャネイロ)
- Desafio (Nordeste) デザフィーオ(ノルデスチ)
- Marcha do rancho (Rio de Janeiro) ハンショの行進(リオデジャネイロ)
- Brasiliana nº 5 (sobre cantos de roda, acalanto e trabalho) ブラジリアーナ第5番(ホーダの歌、子守歌、労働の歌による)
1950
- Sonatina coreográfica (Quatro movimentos dançantes) 舞踊のソナチネ(4つの踊りの楽章)
- Marcha, allegro 行進曲、アレグロ
- Samba-canção, adagio サンバ・カンサォン、アダージオ
- Valsa, scherzo ヴァルサ、スケルツォ
- Baião, final バイアォン、終曲
1955?
1956
- Acalanto para piano a quatro mãos ピアノ連弾のための子守歌
- Brasiliana nº 8 para dois pianos ブラジリアーナ第8番(2台ピアノのための)
- Schottisch ショッティッシュ
- Valsa ヴァルサ
- Choro ショーロ
(1930および)1950年代
- Estudos em ritmo de choro ショーロのリズムによる練習曲集
- Por quê?, Choro なぜ?、ショーロ (1955)
- Noturno, Samba canção 夜想曲、サンバ・カンサォン
- Capoeirando カポエイラ (1955)
- Duas contas, para piano e contrabaixo ふたつの瞳、ピアノとコントラバスのための
- Encontro com a saudade, para piano e contrabaixo 郷愁との出会い、ピアノとコントラバスのための
- Alma brasileira ブラジルの魂 (1930)
- Guriatan de coqueiro, Toada スミレフウキンチョウ(菫風琴鳥)、トアーダ
- Nova ilusão 新しい幻覚
1958-1959
- Negrinho do pastoreio (bailado), para dois pianos 草原の小さな黒人(舞曲)、2台ピアノのための
- Introdução; (allegro moderato)
- Quadro I - dança (movido)
- Quadro II - allegretto
- Quadro III - movido
- Quadro IV - (tema do vento)
- Quadro V - tempo de polca (movido)
1963
- Maneirando マネイランド(素晴しい)
- Vaidosa nº 2 ヴァイドーザ(空虚な)第2番
- Sonata nº 2 ソナタ第2番
- Allegro moderato
- Saudoso - Vivo - Saudoso
- Ritmado
1964
- Moto contínuo nº 1 絶えまない動き、第1番
- Moto contínuo nº 2 絶えまない動き、第2番
- Uma rosa para o Pixinguinha, valsa ピシンギーニャにバラの花を、ヴァルサ
1965
作曲年代不詳
- Estudo (Ritmos brasileiros) 練習曲(ブラジルのリズムで)
- Graciosa, valsa para dois pianos グラシオーザ(優雅に)、2台ピアノのために
- Homenagem a Nazareth, choro ナザレへのオマージュ、ショーロ
- Poema fim de tarde, Samba-canção 夕暮れの詩、サンバ・カンサォン
- Vaidosa nº 3 ヴァイドーザ(空虚な)第3番
Radamés Gnattaliのピアノ曲の解説
1926
- Batuque, peça característica バトゥーキ、特徴的な作品
変イ長調、A-A-B-B-C-A形式。バトゥーキとはアフリカ由来の踊りや音楽の一つで、伝統的には歌と打楽器による音楽にのって集団で踊られる。中庸のテンポでスンドドのリズムが続く愛嬌ある曲だが、Aの後半でいつの間にか変ニ長調に転調してる所は凝った作りだ。Cは変ニ長調になる。1930
- Prelúdio nº 2 (Paisagem) e nº 3 (Cigarra) 前奏曲第2番(風景)、3番(蝉)
前奏曲第2番(風景)は嬰へ短調。ゆったりとしたハバネラ風のリズムにのって呟くような旋律や、高音部オクターブでの幻のような旋律が現れては消える。前奏曲第3番(蝉)は30秒ほどの短い曲、へ長調。高音部に急速な半音階が上下したり、両手16分音符連打が忙しなく鳴る。- Rapsodia brasileira ブラジル狂詩曲
若きピアニスト・作曲家ニャタリが、名人芸的ピアノ技巧の粋とブラジル音楽を融合した、演奏時間約10分の大作。1931年にニャタリ自身により初演された。曲の大部分が楽譜では3段楽譜で記されている通りリストのピアノ曲にも負けぬくらいの超絶技巧で、この曲にかけるニャタリの意気込みが伝わってくる力作だ(ニャタリは1933年に2台ピアノ版も作った)。しかし和声の方はリスト時代の19世紀レベルに留まっており、後年のニャタリ特有のあの魅惑的な和声はまだ殆ど見られず、ブラジル民謡の取り扱いもまだ表面的で、ちょっと若気の至りといった感じの作品である。曲の構成はライトモティーフを骨格に4つの主題が現れる狂詩曲らしい作りで、うち3つはブラジル民謡や童歌の旋律を用いていることが楽譜に示されている(楽譜に記された各民謡名は〈〉内に記しました)。冒頭はミ♭-ファ-ソ-ラ♭-ソ-ファ-ミ♭-ソ♭-ファ--ミ♭--というライトモティーフがffで力強く奏され、リスト風の技巧的な長い前奏が続く。その後まず現れるのが "Tempo de samba" と楽譜に表示された変イ長調の主題A(ニャタリのオリジナル)で、変奏は中音部に3連16分音符の対旋律が出てきたり、それが今度は高音部に32分音符になったりと、旋律+対旋律+伴奏の3段楽譜が延々と続く。次にはライトモティーフに導かれ変イ長調の主題B(民謡〈私の雄牛が死んだ O meu boi morreu〉)の優しい旋律が奏される。その次は6/8拍子に変わり左手アルペジオの伴奏にのって変ニ長調の主題C(童歌〈Viuvinha bota luto〉=〈小さな羊、大きな羊 Carneirinho, carneirão〉という題名の方が一般的に知られている)が流れるように静かに奏される。これも変奏は内声に技巧的で繊細な響きの半音階的32分音符の対旋律が挟まれる。4番目の変ニ長調の主題D(童歌〈輪になって歩こう、輪になって戻ろう Anda roda, desanda roda〉)は最初は静かに奏されるが、変奏は両手オクターブで華やか。その後主題Bが繰り返されてから、速い3-3-2のリズムにのってライトモティーフが華やかに奏され、最後は両手オクターブ連打とグリッサンドで終る。1931
- Ponteio, roda e baile ポンテイオ、ホーダ、バイレ
翌1932年にニャタリの妻となるVera Maria Bieriに献呈。ブラジル民謡などを主題としたこの組曲は民族主義作曲家としてのニャタリの姿勢が見えてくる一方、ドビュッシーなどの印象主義の和声法をも使いこなすニャタリの技倆がうかがえて興味深い。1931年にニャターリ自身により初演された。第1曲ポンテイオはブラジル北東部のバイーア州の民謡〈サン・ミゲルの森にて Na mata de São Miguél〉をモチーフとする、と楽譜に記されている。ポンテイオ Ponteio という言葉は、ポルトガル語のpontear(=ギターなど弦楽器などをつま弾く)とprelúdio(=前奏曲)を混ぜた造語である。作曲家カマルゴ・グァルニエリがこの言葉を造ったとする資料があるが、カマルゴ・グァルニエリが《ポンテイオ》を作曲し始めた1931年と同年に、ニャタリもこの〈ポンテイオ〉を作曲していることは注目すべき事実であろう。アルペジオと鐘のような長二度のドビュッシー風のパッセージの中から民謡の旋律が見え隠れする、幻想的な響きの曲だ。第2曲ホーダ(ここでのホーダとは子どもたちが輪になって歌いながら遊ぶこと)は2つの童歌〈転覆したカヌー A canôa virou〉と〈信心深い小さなテレーサ Terezinha de Jesus〉をモチーフとすると記されている。全音音階の右手スケールが魔法のような不思議な雰囲気を醸し出す中、素朴で明るいイ長調の〈転覆したカヌー〉の旋律と、物悲しいイ短調の〈信心深い小さなテレーサ〉の旋律が聴こえてくる。第3曲バイレは最初は "Samba" という題名だったが、ニャタリ自身によりバイレに変更された。この曲はペルナンブーコ州の民謡〈私は1人の詩人を探してる Eu ando atrás dum poeta〉とノルデスチ地方の民謡〈Gavião penerô, penerô, penerô〉をモチーフとすると記されている。シンコペーションの効いた野性的な曲。後半にはポンテイオのアルペジオと長二度のパッセージが再現される。1933-1936年頃
- Miniaturas ミニアチュール
この組曲は、ブラジル芸術家協会が1936年に催した「ピアノ組曲作曲コンクール」で入賞した作品とのこと。うち第1曲〈ヴァルサ〉は作曲1933年と記された〈Valsas (brasileiras)〉の曲名の同じ曲の自筆譜もあり、このコンクール応募に際して、1933年に作曲した〈ヴァルサス・ブラジレイラス〉を〈ヴァルサ〉の曲名に変え、新たに〈モジーニャ〉と〈ジョンゴ〉を作り加えたのかもしれない。この組曲は1940年にニャタリ自身により管弦楽版にも編曲された。
- Valsa (Valsas brasileiras) (1933) ヴァルサ(ヴァルサス・ブラジレイラス)
- Modinha モジーニャ
- Jongo ジョンゴ
1939
- Valsas ヴァルサ集
ブラジル人作曲家によるヴァルサ・ブラシレイラ(ブラジル風ワルツ)Valsa brasileira のピアノ曲はシキーニャ・ゴンザーガ、エルネスト・ナザレ、ゼキーニャ・ジ・アブレウらに始まり、フランシスコ・ミニョーネあたりで頂点に達したかな~と言ったところだが、ミニョーネが12曲から成る《街角のワルツ Valsa de Esquina》を作曲している頃にニャタリもヴァルサを作っていて、それがこの前奏曲と10のヴァルサから成る組曲である。ニャタリらしい凝った和声進行で、調性もぼやけた曲が多いため一聴した印象は難解だが、聞き込んでいく内に、何ともニャタリらしい洗練された響きだな~と感心させられます。前奏曲 Preludio はppで奏されるミ-ラ-レ-ソ-シ-ミのアルペジオと、ぶっきらぼうなレチタティーヴォ風の旋律の繰り返しがとてもギター的。ヴァルサIは一応ホ短調、A-A'形式。左手の陰うつな旋律と、右手高音に三度重音で下降する音の繰り返し(この三度重音下降はガイタ Gaita と呼ばれる、ニャタリが生まれたリオ・グランジ・ド・スル州のアコーディオンの響きを模していると分析する文献もある)。最後には三度重音のグリッサンドが現れるのがドラマティック。ヴァルサII (Vivo) はイ短調、A-B-A'形式。忙しないワルツで、スタッカートの旋律が軽快で、途中から半音階の対旋律が絡んでくる。ヴァルサIIIは一応ト長調、A-B-A形式。半音階で動く和声進行がニャタリらしい魔法がかった不思議な雰囲気を醸し出している。ヴァルサIVは一応変ロ短調、A-A'-A"形式。左手のスタッカート混じりの哀愁を帯びた旋律がギターを思わせる。ヴァルサV (Expressivo) は16小節の短い曲。一応嬰ハ短調。陰うつな響き。ヴァルサVI (Vivo) は強いて言えば変ニ長調、A-B-A'形式。右手オクターブ連打の曲。ヴァルサVII (A vontade) は変ト長調、A-B-A形式。Aのなだらかな旋律とアルペジオの伴奏はシューマンを思わせるが、微妙に遷ろうような和声進行がニャタリらしい魅惑的な雰囲気である。Bは妖精が踊っているようなユーモラスで幻想的な感じ。この曲は何人ものピアニストがアルバムに収録している。ヴァルサVIIIはロ短調、A-B-A形式。哀愁漂うワルツが旋律と対旋律を絡ませながら奏される。ヴァルサIXはイ短調、A-B-A'形式。どことなく冷めた愁いを帯びた響きはサティの《ジムノペディ》を思わせる。ヴァルサX (Vivo) は、今迄のワルツが断片的に次々と現れる。1940年代
- Negaceando, choro ネガセアンド(魅惑的に)、ショーロ
全体的に和声進行もリズムもお洒落で、曲の構成から頻繁な転調までまるで羽が生えて飛ぶように自由な、まさに題名通りの魅惑的な曲である。変イ長調、前奏-A-A-B-B-C形式。音階が軽やかに上下に舞う前奏に続き、Aの左手シンコペーションのモチーフに右手後打ちの和音は、ナザレの音楽を思わせ愛嬌たっぷりで、変ニ長調〜へ長調〜ニ長調〜イ長調と次々に転調する所は色彩的な響きだ。Bはト長調になりアルペジオの右手旋律が上下に舞い、華やかなな響きになる。Cはシンコペーションのモチーフが執拗に繰り返される。- Caprichosa (Nininha), valsa カプリショーザ(ニニーニャ)、ヴァルサ
楽譜には「雌猫のニニーニャに捧げる Dedicada à gata Nininha」と記されており、ニニーニャはニャタリが飼っていた雌猫の名前らしい。変ホ長調、A-B-A形式。冒頭はE♭6→Bm7の和音進行がいい感じで、旋律は16分音符や32分音符が走っては止まるように即興的で(ニニーニャの動きを描いたのかな?)、印象主義風の和声進行の魅惑的な音使いが続く。Bは変ホ長調のロマンチックなワルツが奏される。- Carinhosa, valsa カリニョーザ(優しく)、ヴァルサ
題名通り、旋律・伴奏共に優しく愛撫するような感じの曲。イ短調、A-B-B'-A'形式。所々半音階進行する旋律や対旋律が何とも哀愁を帯びている。中間部BやB'は途中転調だらけ。- Perfumosa, valsa ペルフモーザ(香りのよい)、ヴァルサ
一応ニ短調、A-A-B-B'-A形式。Aは印象主義風で転調が頻繁ながら、ゆったりとした気怠い雰囲気のヴァルサ。Bはちょっと急き立てられるようなヴァルサが奏される。- Preciosa, valsa プレシオーザ(気取って)、ヴァルサ
A-B-A形式。気怠い雰囲気の旋律が現れ、初めホ短調が、ホ長調→変ホ長調→変ニ長調と目まぐるしく転調する。Bの初めはAを長二度上げて奏されるが、再び転調を繰り返す。1941
- Prelúdios nº 3 (Prelúdio amolecado) 前奏曲第3番(いたずらっぽい前奏曲)
一応ハ長調、A-B-C-D-A'形式。Aは右手スタッカート16分音符と左手後打ちの十度和音が奏され、Bは右手に半音階や九度のモチーフが奏され、CはAのスタッカート16分音符が左手に現れ、どれも曲名通りいたずらっぽい雰囲気。1943
- Canhôto, choro カニョート(左利き)、ショーロ
ポルトガル語の "Canhoto" は「左利き」とか「不器用」という意味だが、ブラジルではギタリストのアメリコ・ジャコミノ Américo Jacomino (1889-1928) がCanhotoの愛称で有名であり、ニャタリがこの曲の題名をどちらに因んで名付けたのかは分かりません(私個人的には、この曲で右手に劣らず16分音符の軽快な旋律を奏でる左手から「左利き」かな〜と思ってます)。ニ短調、A-A-B-B'-A-コーダの形式。この曲は軽快に弾きたい!。Aは右手左手と引き継がれる16分音符の旋律に、後打ちシンコペーションのスタッカートのリズムが纏わり、引き締まった響きだ。Bは広い音域で和音が鳴って華やかになり、数小節毎にニ長調~変ホ長調~ロ長調~ニ長調と変わっていくのが万華鏡のよう。1944
- Tocata トッカータ
A-B-A-C-A-B-A-コーダの形式。全体的にほぼ無調で、響きもクールでいかにも現代曲っぽいです。16分音符が落ち着きなくずっと続く曲。冒頭の主題での左手のリズムがシンコペーションなのが個性的。1947
- Vaidosa nº 1, valsa ヴァイドーザ(空虚な)第1番、ヴァルサ
ヴァイドーザとは、ポルトガル語で「空虚な、はかない」と「見栄っ張り」という意味の両方があり、どちらも「中身空っぽ」というニュアンスでは一緒だが、この曲名の訳は「空虚な」にしておきました。全体的に粋な雰囲気のヴァルサ。ニ長調、A-A-B-A形式。旋律は静かに語りかけるように始まったかと思いきや、急に情熱的なオクターブになったりと感情の起伏が大きい。BはVivoとなり、流れるような16分音符に続き、変ニ長調~ロ長調~ハ長調~ニ長調と、ニャタリお得意の魔法がかったような転調が聴きどころ。- Manhosamente, choro マニョーザメンチ(器用に)、ショーロ
A-A-B-B形式。一応変ニ長調で始まると思いきや毎小節のように転調し続け、16分音符や32分音符の軽快な旋律は自由に上がったり下がったりで緊張感の途絶えない響きだ。捉えどころのない曲だが、ともかく転調が魔法のように魅惑的な曲。- Sonata nº 1 ソナタ第1番
ニャタリのピアノ曲の中では最もポピュラー音楽から離れた作品と言うか、彼はどこでこんな複雑な現代音楽の和声を学んだの?と思わせる本格的な作品である。何調と呼べる所は殆ど無く、正直なところ難解です。
- Allegro moderato
2/2拍子。第1主題は両手和音強打と3オクターブの♩. ♪♩♩のリズムのモチーフが力強く奏される。第2主題は高音部トレモロに続き、半音階進行の謎めいた旋律がppで奏され、フルートを思わせる高音部の3連符や16分音符が即興的。展開部は第1主題のオクターブの隙間に入り込むように、即興的なモチーフが奏される。再現部は第1主題のみ。- Sonore, Tema com variações
3/4拍子。主題はミ--ソ♯レ-ミ♭---ミ♮-ラ--ド♯ソ-ラ♭---という無調のようなモチーフが現れ、続いて10個の変奏が奏される。- Final
両手オクターブの力強いモチーフが現れ、第1楽章の即興的パッセージなどを織り交ぜながら展開して行く。1948
- Trapaceando, choro トラパセアンド(いかさまをして)、ショーロ
A-A-B-B'-A-コーダの形式。Aはシンコペーションを強調したモチーフが奏され、調性はハッキリしないが強いて言えばニ短調。Bはオクターブ旋律・伴奏和音共に華やかに鳴り、ニャタリの代表曲《レメシェンド(かき回して) Remexendo》の一節が現れる。1949
- Brasiliana nº 4 ブラジリアーナ第4番
13作から成る《ブラジリアーナ Brasiliana》はニャタリのライフワークとも言える連作で、その中で第4番、第5番がピアノ独奏、第8番が2台ピアノのために作られた。《ブラジリアーナ第4番》は4曲から成る組曲。民謡や民族音楽を元に、ブラジルの色々な素顔を切り取ってきたような、どれも特徴的な曲だ。
- Prenda minha (Moda gaucha) 私の宝物(ガウショのモーダ)
"Prenda" とは直訳すれば「宝物」とか「贈り物」だが、ここでは「愛しい彼女」を意味するらしい。ニャタリの故郷リオグランデ・ド・スル州の民謡〈私の宝物 Prenda minha〉の旋律を用いた曲で、ニャタリ以外にも、遡る1927?年に作曲家エルナーニ・ブラーガがこの民謡の旋律を元に同名の曲を作っている。ニ長調、A-B-A'-B'-A"形式。全体的に牧歌のような雰囲気で、副題の通り大草原を駆けるガウショ(ブラジル南部などの牧童)の姿を描写したような曲である。Aは2拍子の軽快な踊りのような感じで、Bは郷愁を誘うような民謡の静かな旋律が重音で奏される。B'は変ホ長調、A"はト長調になる。- Samba canção (Rio de Janeiro) サンバ・カンサォン(リオデジャネイロ)
サンバ・カンサォンとは、サンバから派生した音楽の一つで、ゆったりとしたテンポで感傷的に歌を歌うジャンルを指している。ト短調、A-A'-B-A'-コーダの形式。もの憂い旋律が歌われ、ニャタリらしい和音や和声進行が聴かれる。- Desafio (Nordeste) デザフィーオ(ノルデスチ)
デザフィーオとはブラジル北東部(ノルデスチ)での、ヘペンチスタと呼ばれる2人の歌手による即興を競う掛け合いの歌合戦のようなもの。A-B-A'-B'-A"-B"-A"'-B"'形式。歌手が歌う部分(A, A', A", A"')と、歌手の交替時間に楽器のみを鳴らす短い時間(B, B', B", B"')が交互に奏される。Aは左手にパンデイロ(ブラジルのタンバリン)を打っているか、またはサンフォーナ(ブラジルのアコーディオン)をブイブイ鳴らしているかような響きのシンコペーションのリズムが続き、それにのって右手に相手を早口で挑発するような旋律がミ♭のミクソリディア旋法で奏される。Bは楽譜に「Rojão」(=デザフィーオにおける歌手の交替時の間奏のこと)と記されており、レ♭のリディア旋法とミクソリディア旋法が混じった4小節のフレーズが2回繰り返される。A'〜A"〜A"'になる毎にAの旋律は複雑に変奏され、歌合戦が白熱する様子を描いている。- Marcha do rancho (Rio de Janeiro) ハンショの行進(リオデジャネイロ)
ハンショとはカーニバルのパレードに出演する一団のこと。ハ長調、A-A'-B-A"-コーダの形式。AとA'はスタッカートのリズムと勇ましい旋律が初めはpからmf、fと音量を増していき、カーニバルの一団の行進が徐々に近づいてくるよう。Bは吹奏楽を思わせる和音やオクターブが華やかに響いて盛り上がり、A"は冒頭の旋律が両手和音で力強く変奏される。コーダはディミヌエンドして徐々に音量が減り、一団が遠くに消えていくように終わる。- Brasiliana nº 5 (sobre cantos de roda, acalanto e trabalho) ブラジリアーナ第5番(ホーダの歌、子守歌、労働歌による)
ブラジルの童歌や民謡が次々と現れて展開されていく曲で、1曲としては演奏時間約13分の大作である。「ホーダの歌」、「子守歌」、「労働歌」それぞれの部分の中に合わせて8曲の童歌または民謡の旋律が用いられていて、A-B-C-D-E-F-G-H形式となる。最初のA-B-C-Dは「ホーダの歌」で4曲の童歌が現れる。"roda"とは直訳すると「輪」とか「輪になった」という意味だが、"cantos de roda" は子どもたちが輪になって回りながら歌う〜言わば日本の〈かごめかごめ〉のような遊び歌を指している。冒頭のAは童歌〈信心深い小さなテレーサ Terezinha de Jesus〉の旋律がまず3拍子・ハ短調で静かに奏され、イ短調に転調すると、右手旋律は3拍子+左手伴奏は2拍子のポリリズムで変奏される。続くBは変ト長調になり、童歌〈右手に一輪のバラを持って A mão direita tem uma roseira〉の旋律が2/4拍子と3/4拍子の可変拍子で現れ、更にイ長調に転調して変奏される。次のCはト長調で、カーニバルの歌〈漕ぎ手の行進 Marcha do Remador(もしカヌーが引っくり返らなかったら Se a Canoa não virar)〉の陽気な旋律が奏され、右手高音の16分音符対旋律も加わり賑やかになる。次のDはハ長調になり、童歌〈輪になって踊ろう、皆で輪になって踊ろう Ciranda, cirandinha〉の旋律が現れ、転調したり、音価が2倍になったりと様々に変奏される。やがて音楽は静かになるとE-Fの「子守歌」の部分になる。まず童歌〈黒い顔の雄牛 Boi da cara preta〉の旋律が変ホ長調で奏され、中音部と低音部にそれぞれ半音階混じりの対旋律が絡み、ト長調に転調して変奏される。次に変ニ長調になると、左手アルペジオの伴奏にのって子守歌〈トゥトゥ・マランバ Tutú Marambá〉が静かに奏され、変イ長調〜変ロ短調と転調しながら幻想的に変奏される。最後のG-H「労働歌」は、まずGの民謡〈船頭の歌Canto de Barqueiro〉の旋律が(元歌がレチタティーヴォ風であるのに倣って)4/8拍子と2/8拍子が入れ替わる中でゆっくりと奏され、繊細なアルペジオの伴奏は印象主義風だ。そして〈Fulô, a fulô do vapor〉がホ長調で軽快に奏される(この旋律は、民俗学者・音楽評論家のマリオ・ジ・アンドラージを団長とするフォルクローレ調査隊 Missão de Pesquisas Folclóricas が1938年にブラジル北東部の民俗音楽を収集・録音した資料の一つから採ったもので、ペルナンブーコ州レシフェで録音された、ピアノ運送労働者たちが歌っていたものである)。ハ長調〜変ホ長調〜イ長調〜ホ長調と転調しながら華やかに変奏されて終わる。1950
- Sonatina coreográfica (Quatro movimentos dançantes) 舞踊のソナチネ(4つの踊りの楽章)
題名からバレエ音楽として作曲されたと思われるが、ニャタリがこの曲の楽譜を最初に書いたのは、1950年に書かれたピアノ独奏版である。その後の1952年には管弦楽版が、1960年には彼の妹アイーダ・ニャタリ(彼女もピアニスト)との2台ピアノ共演のために2台ピアノ版が書かれ、同年のニャタリのヨーロッパ公演で兄妹により演奏された。20世紀バレエ音楽の巨匠ストラヴィンスキーの影響を感じさつつも、ニャタリらしい絶妙な不協和音と、ブラジルらしいリズムや旋法が見事に融合した組曲だ。
- Marcha, allegro 行進曲、アレグロ
一種のソナタ形式と言えよう。冒頭は付点やシンコペーション混じり行進曲風で、カーニバルの一団な行進を思わせる。時々調性のはっきりしない(ファのリディア旋法に近い)4小節の旋律が挟み込まれる。行進曲のリズムが一段落すると、左手3-3-2の穏やかな雰囲気の中から、楽譜にcantandoと記されたレのリディア旋法の旋律が静かに奏される。続いて、今まで出てきた旋律が変形しながら奏され、最後に行進曲風のリズムと4小節の旋律が再現されて終わる。- Samba-canção, adagio サンバ・カンサォン、アダージオ
ホ短調、A-B-A'形式。哀愁漂う旋律が繰り返される。冒頭の旋律はジョージ・ガーシュウィンのオペラ《ポーギーとベス》のアリア〈サマータイム〉にちょっと似ている。旋律や対旋律、ベースの絶妙な半音階進行が美しい。Bは揺れるテンポの中で舞うように上下するアルペジオが魔法がかっている。- Valsa, scherzo ヴァルサ、スケルツォ
イ短調、ロンド形式(A-B-A-C-A'-D-A-B-A-C-A"形式)。速いテンポで、人形が踊っているような可憐なヴァルサ。Dは旋律が急にオクターブで激情したように奏される。- Baião, final バイアォン、終曲
バイアォンはブラジル北東部(ノルデスチ)地方の代表的な踊りとその音楽である。A-B-A-コーダの形式。躍動的なバイアォンの左手リズムにのって、冒頭の右手高音部に現れる8分音符はイヌビア inúbia という小さな笛(カボクリーニョスと呼ばれるノルデスチのカーニバルの踊りで奏される民族楽器でピッコロのような高音を出す)の音を模しているのだろう。それに続いてド-レ-ミ-ファ♯-ソ-ラ-シ♭の旋法(ドのリディア旋法とミクソリディア旋法の混合)〜ノルデスチの民族音楽では教会旋法が多用される〜による16分音符の旋律が現れ、ファの旋法やソの旋法に転調しつつ繰り返しながら、即興的に変奏されるのが華やかな響きだ。Bはテンポを落として落ち着いた感じになり、Aの旋律が変奏されつつ、印象主義風の霧のかかったような雰囲気になる。1955?
- Pretensiosa, valsa プレテンジオーザ(自惚れて)、ヴァルサ
ハ短調、A-B-A形式。悲しげに独り言を語るような旋律のヴァルサ。Bは旋律が左手中音部に移ったと思いきや、急に激情したかのように旋律は右手オクターブに移り、両手交互連打が奏される。1956
- Brasiliana nº 8 para dois pianos ブラジリアーナ第8番(2台ピアノのための)
ニャタリと彼の妹アイーダのピアノデュオのために作られた曲で、兄妹の演奏の録音が残されている。後にニャタリ自身により2台ギター用や管弦楽用にも編曲された。
- Schottisch ショッティッシュ
ショッティッシュは「スコットランドの踊り」という意味だが、発祥はスコットランドではなくボヘミア地方らしい。ショッティッシュは19世紀の中南米の音楽でもよく使われた舞踊・舞曲で、ブラジルでは19世紀半ばに伝えられると、ブラジル各地で様々な変化を遂げた。ニ短調、A-A-B-A'形式。2台ピアノを十分に用いた対旋律が複雑に絡む曲。Bはへ長調〜イ長調〜変ホ長調〜変ロ短調〜‥‥と目まぐるしく転調する。- Valsa ヴァルサ
へ長調、A-A-B-B'-A'形式。Aは気怠い雰囲気のヴァルサが奏される。へ長調で始まるもいつの間にかト長調になり、Aの終わりがハ長調になる所は魔法がかったような転調だ。Bはロ短調の軽快なスタッカートの旋律で始まるも、転調の末にへ長調でAの旋律が変奏され、その先も転調の連続である。- Choro ショーロ
ハ長調、A-B-A-コーダの形式。Aは第1ピアノに無窮動で奏される16分音符ユニゾンが華やかで、2/4拍子と5/8拍子が頻繁に交替するのが緊張感を出している。Bは概ねハ短調で、即興のような旋律が哀愁たっぷり奏される。1930年および1950年代
- Estudos em ritmo de choro ショーロのリズムによる練習曲集
8曲ともブラジル音楽とニャタリの作曲技法がマッチした何とも粋なピアノ曲ばかりで、練習曲なんて題名に括ってしまうには勿体ないほどの素敵なのに、自筆譜のみで未だ出版されていない。ニャタリのオリジナル曲と、民謡や、彼と親交のあったブラジルのミュージシャンの曲の編曲が入り混じっている。1, 3, 6番以外は作曲年代が不明だが、それらの曲は1955年前後の作曲と思われる。以下の曲順は自筆譜の表紙(右の図)に基づくが、アルトゥール・モレイラ=リマのCDおよびLPでは、6, 2, 3, 4, 5, 7, 1, 8番の順に収録されている。
- Por quê?, Choro (1955) なぜ?、ショーロ
1955年作曲。ロ短調、A-B-A'形式。切ない旋律が奏され、短三長七の和音や属七短九の和音がお洒落に進行する。ニャタリの曲にしては感傷的な雰囲気。- Noturno, Samba canção 夜想曲、サンバ・カンサォン
ヘ長調、前奏-A-A'-B-A"-A"'形式。場所はリオデジャネイロの浜辺の夜、昼間の喧噪と太陽の火照りを冷ましてくれるような涼しい夜風とさざ波が聞こえてくる‥‥、と私はこの曲を聴きながら勝手に空想しています。ロマンティックな曲です。Bはニ短調、A"'はニ長調になりゴージャスな響きで締めくくられる。- Capoeirando (1955) カポエイラ
1955年作曲。ハ長調、A-B-A形式。カポエィラとは、アフリカ(特にアンゴラ南部)の格闘技がブラジルに連れて来られた奴隷達の間で受け継がれ、ブラジルでは格闘技の練習を禁止されていた奴隷達が、音楽にあわせダンスにカモフラージュしながら練習していたのが元になってできた、と言われている伝統芸のスポーツのこと。曲はショーロの雰囲気ながら、半音階和音進行、九の和音、ストライド奏法を思わせる左手十度重音の進行など、いかにもニャタリらしい音使いと急速なテンポのピアニスティックな曲。- Duas contas, para piano e contrabaixo ふたつの瞳、ピアノとコントラバスのための
この曲と次の曲は、ピアノとコントラバスとのための二重奏曲。原曲はブラジルのギタリストのガロート Garoto (1915-1955) 作曲の同名曲で、「あなたの瞳は、ふたつの小さな宝石‥‥ Teus olhos / são duas contas pequeninas...」と歌われる。ホ長調、A-A'形式。ジャズのバラード風の静かな曲。後半A'は変ニ長調になる。- Encontro com a saudade, para piano e contrabaixo 郷愁との出会い、ピアノとコントラバスのための
MPB作曲家のビリー・ブランコ Billy Blanco (1924-2011) による同名曲の編曲。ニ長調、A-A'形式。郷愁たっぷりの旋律が静かにピアノ~コントラバスと引き継がれ歌われる。後半A'はハ長調になる。- Alma brasileira (1930) ブラジルの魂
この曲はおそらく1930年に既に作られたと思われる。ニャタリ自身がこの曲を小楽団用に編曲した版の演奏が、Orquestra Odeonという楽団による1938年録音のSPに残されている。ニャタリのピアノ曲の中でも私はこの曲が一番大好き!。転調の多い曲だが、毎回の転調がともかくお洒落で、転調するたびに新しい世界が開けるようで、広大なブラジルをパノラマで見ているようなと言ったらいいのか、何とも絶妙な美しさである。A-B-A'-C-A"形式。素朴ながら郷愁を誘うようなト長調の旋律で始まり、Bの哀愁を帯びたロ短調を経て、A'は冒頭の旋律が今度はイ長調で再現される。Cはヘ長調で始まり、一見Aの変奏と思いきや別の哀愁溢れる旋律がイ短調→ニ短調→ハ短調→ヘ長調と転調しつつ進み、A"で三たび現れる冒頭の旋律はト長調→変イ長調と転調して終わる。- Guriatan de coqueiro, Toada スミレフウキンチョウ(菫風琴鳥)、トアーダ
スミレフウキンチョウは南米に生息する雀の一種である。原曲はノルデスチ(ブラジル北東部)の民謡で、作曲家・アコーディオン奏者のシヴーカ Sivuca などが演奏している。子守歌のような静かな編曲で、幻想的な和音や転調はニャタリらしく美しい。前奏-A-B-間奏-A'-前奏-A-コーダの形式。前奏の旋律はドのリディア旋法、Aの旋律はドのミクソリディア旋法になる。Bはミ♭のミクソリディア旋法に、A'はソのミクソリディア旋法になる。- Nova ilusão 新しい幻覚
José Menezes (Zé Menezes, 1921-2014) とLuís Bittencourt (1915-) の共作による同名の歌(1948年発表)の編曲。ハ長調。原曲はホンワカとした、いかにもリオデジャネイロ風の音楽だが、ニャタリの編曲はジャズ風の歯切れのよい曲になっている。1963
- Maneirando マネイランド(素晴しい)
ハ長調、A-B-A'形式。静かな和音が6小節奏されると、軽快な左手旋律と後打ちシンコペーションのリズムが溌剌。Bはニャタリお得意の頻繁な転調が続く。- Vaidosa nº 2 ヴァイドーザ(空虚な)第2番
イ短調、A-A'-B-A-A'形式。ピアノ独奏版に加えて2台ピアノ版もある。1947作曲の第1番に比べぐっと内向的になった曲で、ぽつりぽつりと独白しているような雰囲気。冒頭の短七長九の和音がクールな響きで、しばしば現れるさり気ない不協和音や半音階進行が粋である。A'は旋律の音型は似ているが、和音を変えている所も凝っている。Bは羽の生えたような急速な16分音符の動きと、不安定な和声のヴァルサの部分が現れる。- Sonata nº 2 ソナタ第2番
- Allegro moderato
A-B-C-A-B'-コーダの形式。Aは力強いモチーフと歌うような♩♩. ♪|♫♫♫モチーフの2つが現れ、Bも前記の2つのモチーフが変形して現れる。B'はBのモチーフが二度上だったり下だったりで再現される。- Saudoso - Vivo - Saudoso
イ短調、A-B-A'形式。Aは哀愁たっぷりの旋律が静かに奏され、後半ト短調に転調する。Bはテンポを速め、無窮動の16分音符が鍵盤狭しと上下に走り回る。- Ritmado
A-B-A'-B'-A"形式。野生的な踊りと優美な踊りが交互に現れるような曲。1964
- Moto contínuo nº 1 絶えまない動き、第1番
A-A-B-B'-C形式。左手に2小節単位のアフリカ的なリズムがオスティナートで全曲通して奏され、右手は即興的な旋律が奏される。左手リズムはファが主音だが、Bでは右手旋律はミ-ソ♯-シの和音などシャープ系の音がしばしば現れて多調の響きになる。この曲は2台ピアノ用およびニャタリ五重奏団用にも編曲された。- Moto contínuo nº 2 絶えまない動き、第2番
A-B形式。5/8拍子で、左手に調性感のないモチーフが機械の動きのように全曲通して続き、右手に表情感のない旋律が奏される。- Uma rosa para o Pixinguinha, valsa ピシンギーニャにバラの花を、ヴァルサ
「ブラジル・ポピュラー音楽(MPB)の父」とも呼ばれるフルート・サックス奏者・ショーロ作曲家のピシンギーニャ Pixinguinha (本名はアルフレド・ダ・ホーシャ・ヴィアーナ・フィーリョ Alfredo da Rocha Vianna Filho, 1897-1973) はニャタリとも深交が厚かった。ピシンギーニャに捧げたこの曲は、1964年にリリースされたLP "RETRATOS - Jacob e seu bandolim com Radames Gnatalli e orquestra" に合わせてピアノソロ用に作曲されたと思われるが、ピアノとギターとかギター2台のために作られたという資料があり、ともかくニャタリの代表曲の一つだけあって色々な楽器のバージョンが存在する。曲はA-A'-B-B'-A-A'の構成。ピシンギーニャが1919年頃に作曲した《バラ、ヴァルサ Rosa, valsa》のA-B-A-C-A形式のA-B-Aの部分を元に作ったような感じで、《バラ》の旋律の2分音符または付点2分音符と、8分音符が交互に現れるリズムをほぼそのまま用いて別の旋律が奏でられ、和音進行も似ている。Aはヘ長調のヴァルサにのってしっとりとした美しい旋律が歌われる。A'はいつの間にか変ホ長調に転調しているのが絶妙で更に素敵。中間部のBとB'はハ短調の旋律が切ない。1965
- Quatro exercícios sobre ritmos brasileiros ブラジルのリズムによる4つの練習曲集
4曲全部で演奏時間約4分の短い曲集。第1番は二声のポリフォニーで書かれていて、右手主旋律はシンコペーションや16分音符音階が溌剌として、頻繁に拍子が変化するのが緊張感を出している。第2番も二声のポリフォニーで、音形がちょっとバロック風。第3番は左手は6/8拍子で低音に太鼓の音色を思わせる♪γ♪♪♪♪のリズムが繰り返され、右手は2/4拍子で和音の野生的な旋律が奏され、全体的にアフロ・ブラジル音楽の雰囲気だ。第4番はポルカ風のリズムにのって右手六度重音のトリルが奏され、六度重音のトリルは左手に移ったり両手で奏されたりと結構技巧的。作曲年代不詳
- Estudo (Ritmos brasileiros) 練習曲(ブラジルのリズムで)
1分程の短い曲。イ短調、A-B-A-コーダの形式。Aは左手ズチャンチャの伴奏リズムにのって、16分音符重音トリルからなる旋律が絶え間なく続き、技巧的かつノリのいい感じである。Bは右手高音にオクターブ和音の旋律が高らかに奏される。- Graciosa - valsa para dois pianos ou piano a quatro mãos グラシオーザ(優雅に)、2台ピアノまたは連弾のためのワルツ
2台ピアノ用と連弾用の自筆譜が残されているらしい。イ短調、A-A-B-C-A形式。憂うつな気分ながらも、妖しげな魅力を放つような?ニャタリらしい曲。Cはイ長調になり甘い響き。- Homenagem a Nazareth, choro ナザレへのオマージュ、ショーロ
冒頭はエルネスト・ナザレの《バトゥーキ》をロ短調に編曲したようなのが奏され、引き続いてナザレのいくつかのピアノ曲をニャタリ独特の和声で膨らませたものが、メドレーのように次々と現れる曲だ。- Poema fim de tarde, Samba-canção 夕暮れの詩、サンバ・カンサォン
夕霞の幻想的な光景を描いたような、何とも美しい小品である。へ長調、A-B-B'形式。冒頭はドビュッシーを思わせる印象主義風の静かな響きで始まるが、7小節目より現れるシンコペーション混じりの旋律と合いの手のように奏されるアルペジオ和音の響きは、紛う方ないニャタリの音楽である。Bはシンコペーション混じりの旋律と32分音符アルペジオ和音が交互に奏され、何とも魅惑的。なお、この曲をピアノ・エレキギター・コントラバス・ドラムの四重奏に編曲した演奏の1949年録音が存在する。- Vaidosa nº 3 ヴァイドーザ(空虚な)第3番
A-A-B形式。気怠い雰囲気の旋律が奏される。冒頭は一応嬰へ短調だが、数小節毎に絶え間なく転調していく和声は、ニャタリらしい謎めいた魅力を湛えている。