Chiquinha Gonzagaのピアノ曲リスト(アルファベット順)
シキーニャ・ゴンザーガのピアノ曲は調べた範囲で、下記の157曲がリストアップされました。文献として、Edinha Diniz. Chiquinha Gonzaga: uma história de vida. の本、およびウェブサイトAcervo Digital Chiquinha Gonzagaを主に参考にしましたが、他のいくつかの資料も参考にしています。大部分はピアノ曲として作曲されたものですが、一部はゴンザーガ自身が作曲した歌曲やオペレッタなどの劇場作品をピアノ曲に編曲したものも含まれています。下記の黄色枠のリストはアルファベット順とし、その下の「Chiquinha Gonzagaのピアノ曲の解説」の所を作曲年代順リストとしました。アルファベット順リストの曲名の所をクリックすると、作曲年代順リストの該当曲に飛ぶことが出来ます。
「曲名」のところで斜字で記されている曲は、出版社のカタログや録音で曲が存在したことが分かっているものの、現在楽譜が残されていない作品です。また一部の曲では、楽譜が初版された当時の曲名の綴りが現代ポルトガル語とは異なる古い綴りです。その場合、まず初版楽譜の古い表記をそのまま記し、次に括弧内 () に現代ブラジル・ポルトガル語の綴りを併記しました。
アルファベット順リストの「作曲年」については、作曲年不明の曲が多く、その場合空欄としています。
「出版(初版)年」とは初版楽譜の出版年のことですが、出版はされたもののいつ初版なのかが不明な曲は ? 、今まで手稿譜のみで2011年の楽譜のデジタル出版まで出版されてこなかった曲は - 、と記しました。なお1932年にシキーニャ・ゴンザーガの作品の一部が、全3集計30曲から成るサクソフォーンまたはフルートのための楽譜集『Alma Brasileira』として出版されましたが(各集は10曲ずつで、第1集および第3集はサクソフォーン、第2集はフルートで、いずれも伴奏譜なし)、その中の多くの曲がピアノ譜未出版(手稿譜のみ)で、この楽譜集だけの出版となっているためピアノ譜ではないのですが「出版(初版)年」の項に記しました。
「作曲年代順リスト」では「作曲年」が分らない作品は「出版年」の年でリストに組み込みました。
Chiquinha Gonzagaのピアノ曲の解説(作曲年代順)
シキーニャ・ゴンザーガのピアノ曲の多くは(前奏-)A-B-A-C-Aの形式、即ちロンド形式(Cの部分をTrioと呼ぶ)から成ります。ただ楽譜によってはA-B-A-Cの後、ダ・カーポまたはダル・セーニョの指示で冒頭に戻っても、フィーネの表示がどこにも無いので、Aのみ繰り返す (A-B-A-C-A) か、A-B-Aまで繰り返して (A-B-A-C-A-B-A) 終わるかがハッキリしない曲がいくつもあります。下記の解説でA、B、Cの部分とか書いてあるものは、特に断りのない限りA-B-A-C-A形式の中のそれぞれの部分を指しています。
1877
- Atrahente (Atraente), polka 魅力的な、ポルカ
ブラジルの作曲家エンリキ・アウヴィス・ジ・メスキータの家で開かれていたパーティーで、シキーニャ・ゴンザーガが即興で弾いた曲がこの作品の元であったとのこと。彼女の作品で初出版された曲。1877年2月に出版された楽譜は好評を博し、同年11月には忽ち15版を重ね、女流作曲家シキーニャ・ゴンザーガの名を世に知らしめるきっかけになった。1866年に離婚した元夫の家族はシキーニャ・ゴンザーガの成功を妬んだのか、この曲の楽譜を多数手に入れては捨てる行為に及んだらしい。後にフルートや管弦楽に編曲された版も出版された。ヘ長調。前打音を伴った愛嬌ある前奏、Aの優雅な主題の旋律、Bの3-3-2のリズムの粋なシンコペーションの伴奏(下記の楽譜)と楽しさ盛り沢山の曲。Cは変ロ長調になり、2オクターブを軽やかに上下する旋律が、またうきうきしてる。
Atrahente, polka、23-33小節、Narciso, A. Napoleão & Miguézより引用- Desalento, valsa de concerto 失望、演奏会用ワルツ
へ長調、前奏-A-B-B'-A'-C-D-C-A-B-B'-A形式。曲名とは裏腹に全体的に優雅な曲。Bはニ短調になりやや哀愁を感じる。Cは変ロ長調になり息の長い旋律が奏される。Dは変ホ長調になりヒラヒラと舞うような旋律が奏される。- Harmonias do coração, valsa de concerto 魂の調和、演奏会用ワルツ
ヘ長調、前奏-A-B-A-C-D-C-A-B-A形式。Aの旋律には「揺れながら Embalando」と楽譜に記されていて、ゆったりと揺れるような心地良いワルツが奏される。Bはニ短調になり、2オクターブを上下する旋律が情熱的。Cは変ロ長調、Dは変ホ長調になる。- Não insistas rapariga!, polka 彼女に纏わらないで!、ポルカ
ヘ長調。冒頭の旋律から浮き浮きとした軽快なポルカで、旋律はオクターブ上で繰り返され、一層軽やか。Bはニ短調、Cは変ロ長調になる。- =Morgadinha, polka 長男の嫁、ポルカ
《Não insistas rapariga!, polka》と同一曲で、ポルトガルで楽譜が出版された時、《Morgadinha》の題名で出版された。- =Aracê (O dia sai), polka-choro
《Não insistas rapariga!, polka》と同一曲。1932年に出版されたフルートのための楽譜集『Alma Brasileira, 2.ª série』に《Aracê (O dia sai)》の題名で収載された。- Plangente, valsa sentimental 悲しく、感傷的なワルツ
ヘ長調、前奏-A-B-A'-C-D-A-B'-A''というゴンザーガのピアノ曲では長い構成。甘く、感傷的な調べのゆったりとしたワルツ。旋律に7連8分音符が出てくる所など即興的で、ショパンの影響を感じさせる。A'とB'では旋律が静かな8分音符連打に変奏され、しとしとと降る雨だれの音のよう。Dは変ロ長調になる。後に、シキーニャ・ゴンザーガが作曲し1912年に初演されたブルレッタ《フォホボドー(浮かれ遊び)Forrobodó》の劇中音楽にこの曲の一部が用いられた。- Seductor (Sedutor), tango 誘惑する人、タンゴ
Seductor(現代の綴りだとSedutor)は男性形の名詞なので、「誘惑する男」という意味になる。当時ゴンザーガは作曲家・フルーティストのジョアキン・カラード (1848-1880) と共演していて、カラードが以前に作曲した《誘惑する女 Sedutora》へのお返しに作ったのかもしれない(ちょっと意味深で面白い!)。ヘ長調、前奏-A-B-A形式。ゆったりとしたハバネラのリズムにのった曲。Aの旋律は途中でふっとヘ短調になるあたりに翳りを感じさせる。Bはニ短調で、これまた滴るように艶かしい。1878
- Sultana, polka スルターナ、ポルカ
スルターナとはセントーレア属の草花(矢車草など)のことらしい。この曲の楽譜は初版で二千部売れた〜これは当時としてはとても良く売れたとのこと。ヘ長調、A-B-A'-C-A-B-A'の形式。高音で奏される旋律が可憐な花びらが舞っているような軽やかな曲。Cはハ長調になる。1879
- Camilla, polka カミーラ、ポルカ
ハ長調、A-B-A'-C-A-B-A'形式。右手の旋律が16分音符アルペジオで上へ下へとひらひらと舞う。Bはイ短調。Cはヘ長調で途中に現れる右手高音のアルペジオ風パッセージが艶やか。- =Caobimpará (Mar azul), polca-choro 青い海、ポルカ=ショーロ
《Camilla》と同一曲。Caobimparáとはトゥピ・グアラニー語族の言葉で「青い海」という意味。1932年に出版されたフルートのための楽譜集『Alma Brasileira, 2.ª série』に《Caobimpará (Mar azul)》の題名で収載された。- Marcha fúnebre 葬送行進曲
三国同盟戦争(1864-1870、パラグアイ戦争とも言う)の英雄である、ブラジルのManuel Luís Osório将軍 (1808-1879) の死を悼んで作られた曲。ハ短調、前奏-A-B-C-D-E形式。重々しい前奏に引き続き、Aは中音部に悲しげな旋律が現れる。Bは変ホ長調になり、高音部に穏やかな旋律が奏される。最後のEはハ長調になり、故人の平安を願うような調べで終わる。- Sonhando, habanera 夢を見て、ハバネラ
A-B-B'(-A)形式。Aはヘ長調の優美な旋律。Bはニ短調で哀愁ある調べになる。楽譜では最後にD.C.(ダ・カーポ)と記されているが、どこにもfineと記されていないので、繰り返しをどこまで弾くべきかは不明?。- Teu sorriso, polka 君の微笑み、ポルカ
変ホ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。16分音符が上へ下へと舞う旋律は優雅な感じ。Bはハ短調になり、旋律は煌びやかな32分音符が混じったりする。Cは変イ長調になる。1880
- Carlos Gomes, valsa brilhante カルロス・ゴメス、華麗なワルツ
カルロス・ゴメス (1836-1896) はブラジルの有名なオペラ作曲家で、彼に捧げた華麗なワルツである。ヘ長調。Aは幅広い音域と、勇ましいオクターブの旋律が派手。Bはハ長調で、後半の高音アルペジオの旋律が煌びやか。後の1889年にシキーニャ・ゴンザーガはカルロス・ゴメスに会うことが出来、彼に才能を認めらることにより音楽家としての評価を高めたとのことである。- Tango brasileiro タンゴ・ブラジレイロ
1881
- Dejanira, polka デイアネイラ、ポルカ
- Harmonia das espheras (Harmonia das esferas), valsa brilhante 地球の調和、華麗なワルツ
シキーニャ・ゴンザーガの兄に献呈された。ト長調、前奏-A-B-C-D-A-B-A形式。右手高音の旋律に、左手伴奏はバスと和音が跳躍する華やかな響き。Bはニ長調になり、旋律はアルペジオや音階が連続する- Hip!!!, polka-galope ヒップ!、ポルカ・ギャロップ
変イ長調、A-B-A形式。16分音符混じりの高音部旋律が可愛らしい曲。Bはヘ短調になる。- Ismenia, valsa イズメニア、ワルツ
女優のイズメニア・ドス・サントス Ismenia dos Santos (1840-1918) に献呈された。変イ長調、前奏-A-B-A'-A"-C-C'-D-A"'-B'-A""形式。女性を描いたらしい優美な旋律のワルツが流れる。Bはへ短調、CとDは変ニ長調になる。- Os olhos dela..., polka 彼女の瞳…、ポルカ
変イ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。Aは2〜3オクターブを飄々と上がったり下がったりする旋律が何とも軽やか。Bはヘ短調、Cは変ニ長調になる。- =Olhos irresistíveis..., polka 魅惑の瞳…、ポルカ
《Os olhos dela..., polka》と同一曲で、ポルトガルで楽譜が出版された時、《Olhos irresistíveis..., polka》の題名で出版された。- Sospiro (Suspiro), tango ため息、タンゴ
ヘ短調、前奏-A-B-C-A形式。全曲ハバネラのリズムのゆったりとした伴奏が続く。前奏で2分音符ド音が4回鳴る所はため息が聞こえてくるよう。Aは上下に漂うように奏される旋律が何とも哀愁たっぷりだ。Bは変ロ短調、Cは変ロ長調になる。- Yo te adoro, tango あなたが好きよ、タンゴ
へ長調、前奏-A-B-A形式。ハバネラのリズムのゆったりとした伴奏にのって優雅な旋律が奏される。Bはニ短調になる。1883
- Biónne (Adeus), tango ビオンネ(さようなら)、タンゴ
"Biónne" とはマットグロッソ州の先住民の言葉(グアナ語またはチャネ語らしい)で「さようなら」という意味である。ハ長調。軽快なシンコペーションの伴奏にのって滑るような右手16分音符の旋律が、華やかで楽しい曲。BとCはヘ長調。後の1923年頃にナザレが作曲した有名な《エスコレガンド》は、この曲の影響があるような気がする。- Chi! (Xi!), tango シッ!、タンゴ
ハ長調、前奏-A-A-B-B-A形式。旋律中に現れるトリルと16分音符の組み合わせが上品な雰囲気。Bはへ長調になる。1884
- A corte na roça 田舎の宮廷
1885年1月にリオデジャネイロの帝国劇場で初演された1幕物のオペレッタ《田舎の宮廷 A corte na roça》は、シキーニャ・ゴンザーガが作曲した多数の劇場作品の中で初めて上演された作品である。Palhares Ribeiroの脚本は当時の奴隷制度を批判し、ブラジル帝国の皇帝までも揶揄した内容で、警察の検閲で一部のセリフを変更させられたとのことである。劇の内容もさることながら、シキーニャ・ゴンザーガ自身が、女性としてブラジル史上初めて指揮台に立って指揮を行ったことはスキャンダル話になったほどの事件であった。劇中音楽の〈レチタティーヴォ〉と〈サーシ・ペレレ〉、〈ワルキューレ〉の3曲はピアノ編曲版が出版された。
- Recitativo レチタティーヴォ
ヘ長調、全部で32小節の短い曲、前奏-A-B-A形式。落ち着いたワルツ。Bはハ長調になる。- Sacy-Pererê (Saci-Pererê), tango brasileiro サッシ・ペレレ、タンゴ・ブラジレイロ
サッシ・ペレレとはブラジルの民話に出てくる、一本足で赤い頭巾をかぶった子どもの妖怪のこと。人を道に迷わせることを楽しみにしていると。 ハ長調、A-B-C-B-D-A-B形式。ナザレ作曲の有名な《ブレジェイロ Brejeiro》(1893) を速くしたような曲で、シンコペーションが生き生きしつつも旋律は優美で、ゴンザーガの天賦の歌心に感心です。Cはト長調、Dはヘ長調になる。現在はゴンザーガの劇場作品がそのまま上演されることはブラジルでも殆ど無いであろうが、こういった肩の凝らない楽しいゴンザーガの音楽が、百年前のブラジルでは大人気だったのも納得できます。- Walkyria, valsa ワルキューレ、ワルツ
変イ長調、前奏-A-B-B-A-C-D-C'-A'形式。舞踏会の光景を思わせるような華やかなワルツで、次々と新たな旋律が現れる。Bはへ短調、Cは変ニ長調、Dは嬰へ短調になる。- Viva o carnaval!!, polka カーニバル万歳!!、ポルカ
ハ長調。軽快なポルカ。BとCはヘ長調になる。Cはカーニバルの行進が近付いてくるようなワクワクした雰囲気。1885
- Arcadia, quadrilha アルカディア、カドリーユ
- Filha da noite, polka 夜の娘、ポルカ
- Mulher homem, polka 男のような女、ポルカ
《男のような女》は1886年1月に初演されたミュージカル・レヴューで、劇中音楽は数人の作曲家によって作られたが、その何曲かがシキーニャ・ゴンザーガによって作られた。うちゴンザーガが作曲したこのポルカのピアノ編曲版の楽譜は1886年頃に出版されている。ト長調、A-B-A-C-A-B-A形式。16分音符が走り回るような旋律で、賑やかな雰囲気。BとCはハ長調になる。- =Carioca, polka カリオカ、ポルカ
《Mulher homem》と同一曲。1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 1.ª série』に《Carioca》の題名で収載された。《Carioca》では変ロ長調(ト長調の楽譜で書かれたE♭管のアルト・サクソフォーン用)に移調されている。- Musiciana, polka
- Psyché, habanera プシケー、ハバネラ
ヘ長調、A-B-B-A形式。のどかな雰囲気のハバネラ。Bはニ短調になる。- Radiante, polka de salão 光り輝いて、サロン風ポルカ
変ホ長調。32分音符上行音階の派手な前奏に引き続き、飛び回るような旋律が、跳躍の大きな伴奏にのって奏されて賑やかな響きだ。Bはハ短調、Cは変イ長調になる。- S. Paulo, tango brasileiro サンパウロ、タンゴ・ブラジレイロ
ヘ長調。大都会サンパウロを描いたような賑やかな曲。両手和音連打の前奏に引き続き、ワクワクするような旋律が奏される。Bはハ長調。Cは変ロ長調でリラックスした雰囲気になる。- Tim-tim, tango チン・チン、タンゴ
ヘ長調、前奏-A-B-A形式。軽快な曲で、付点のリズムがずっと続く。Aでは、楽譜の音符のあちこちに "Tim-Tim" と書かれていて、何かのベルか鐘が鳴るのを描写した曲なのかもしれない。Bはニ短調になる。- Viver é folgar, valsa 生きることは楽しむこと、ワルツ
この曲は1885年に、喜劇《ゲーデスの娘 A filha do Guedes》の音楽として用いられた。ヘ長調、A-B-A-B'形式。曲名通りの楽しい雰囲気のワルツ。Bはハ長調になる。- Yara, Coração de fogo, capricho-valsa de concerto イアラ、炎のハート、演奏会用奇想曲=ワルツ
イアラとはブラジルの伝説に登場する、アマゾン川に棲む水の精のこと。ハ長調、前奏-A-B-A-間奏-C-間奏-D-C'-間奏-A-コーダの形式。「演奏会用」に相応しい曲で、ティンパニーを思わせる左手トレモロで始まる仰々しい前奏に引き続き、いくつものワルツが次々と現れる。Bはト長調。Cはヘ長調、Dはヘ短調で、CとDの前後には技巧的な装飾音混じりの経過句が挟まれる。1886
- Diário de notícias, polka 日刊新聞、ポルカ
- Grata esperança, valsa 楽しい期待、ワルツ
ヘ長調、前奏-A-B-A-C-D-C-A'形式。浮き浮きするような気分のワルツ。Bはハ長調、Cは変ロ長調、Dは変ホ長調になる。- Tango, da scena comica «Há alguma novidade?» タンゴ、喜劇「何か新しいことはありますか?」より
へ長調、A-B-A(-B)形式。Aは高音から降ってくるような陽気な旋律だ。Bはへ短調になり、ちょっと哀愁漂う旋律が奏される。1887
- Dansa das fadas (Dança das fadas), valsa de salão 妖精たちの踊り、サロン風ワルツ
ハ長調、前奏-A-B-A'-C-C'-間奏-A-B-A'-コーダの形式。妖精たちが優雅にフワフワと舞うような旋律の曲。- Gruta das flores, polka 花々の洞窟、ポルカ
へ長調。陽気なポルカ。Bはハ長調、Cは変ロ長調になる。- Tango característico 性格的なタンゴ
1888
- O boulevard da imprensa, el amor es la vida, habanera do Cafe da Cascata 印刷大通り、愛することは生きること、カフェ・カスカータのハバネラ
- Candomblé, dança africana カンドンブレ、アフリカの踊り
カンドンブレとはアフロ・ブラジリアン宗教の一つで、かつてアフリカからブラジルに連れて来られた奴隷たちがもたらした宗教がブラジルで独自の発展を遂げ、彼らの子孫が現在に到るまでカンドンブレの信仰を続けている。ハ長調、前奏-A-B形式。太鼓を打ち鳴らすような低音のリズムで始まる。イ長調やイ短調の響きが突然現れたりと、シキーニャ・ゴンザーガのピアノ曲の中でも独特の音使いの作品。この曲は合唱とピアノ版の手稿譜も残されていて、1892年上演の《天国と地獄 Céu e inferno》という劇の中での音楽に用いられた。- Day-breack (Day-break); Ainda não morreu, tango 夜明け:未だ衰えず、タンゴ
変ホ長調、前奏-A-前奏-A-B-前奏-A。左手シ♭連打の前奏がワクワクするような雰囲気。Aの高音部16分音符の旋律は煌びやか。Bはハ短調になる。- É enorme!, polka 並外れだ!、ポルカ
- Julia, tango ジュリア、タンゴ
楽譜の表紙には「私の生徒ジュリア・ヴィエイラへ A minha Discipula Julia Vieira」と記されている。ヘ長調、左手伴奏のリズムに同期するような右手旋律の重音が賑やかな響き。Cは変ロ長調になる。- Satan (Satã), lundu brasileiro サタン、ブラジルのルンドゥ
前奏-A-B-前奏-A-B形式。Aはハ短調、Bはハ長調で、ズチャンチャズチャンチャのリズムが執拗に続く曲。上記の《カンドンブレ》同様、この曲は1892年上演の《天国と地獄》という劇の中での音楽に用いられた。更にこの曲は1893年上演のミュージカル・レヴュー《パイナップル O abacaxi》、および1912年上演のミュージカル・レヴュー《嘘と自慢話 Pomadas e farofas》でも用いられた。1889
- Faceiro, tango 気取った、タンゴ
ヘ長調。Aの左手の旋律ともつかない動きが陰気で個性的(ナザレ作曲の《テネブローズ、タンゴ Tenebroso, Tango》の冒頭に似ているが、シキーニャ・ゴンザーガの作曲の方が先である、下記の楽譜)。一方Bはハ長調で派手なオクターブ和音強打の旋律がAと対比的。Cは変ロ長調になり、楽譜に「気取って com faceirice」と記されている通りの雰囲気。後にこの曲は1912年上演のミュージカル・レヴュー《嘘と自慢話》の劇中音楽として用いられた。
Faceiro, tango、1-6小節、Buschmann & Guimarãesより引用- Io t'amo!, gavotta 貴方を好き!、ガボット
楽譜には「弦楽五重奏のためのガボット」と記されていて、実際に弦楽合奏で1889年に演奏されたとする記録があるが、出版譜はピアノ独奏譜である。へ長調、前奏-A-B-C-B-A-コーダの形式。上品な雰囲気の曲。Bはハ長調になる。- Invocação, capricho elegíaco 祈願、悲しい奇想曲
- Laurita , 1.ª mazurka ラウリータ、マズルカ第1番
ヘ長調、A-B-C-B-A形式。明るい曲調のマズルカで、A, B, Cの旋律いずれもが幅広い音域を行ったり来たりする。Bはハ長調、Cはヘ長調。- Leontina, habanera レオンチーナ、ハバネラ
- Pehô-Pekim, dança característica chinesa ペオー・北京、中国の特徴的な舞曲
ブラジルでは1888年の奴隷制度廃止に伴い農業労働者が不足した。そのためブラジル政府は各国移民を積極的に受け入れ始めたが、既に1888年にはリオデジャネイロには多数の中国人移民が来ていたらしい。ヘ長調。連打音をやや多用して、ちょっと独特の雰囲気を醸し出している。ゴンザーガが想像した中国の舞曲はこんな感じなのかな?。Bはハ長調、Cは変ロ長調。この曲は1908年にポルトガルで上演されたミュージカル・レヴュー《博打 A batota》の劇中音楽として用いられ、更に1912年上演のミュージカル・レヴュー《嘘と自慢話》でも用いられた。- Só no chôro, tango característico 一人でショーロを、性格的なタンゴ
シキーニャ・ゴンザーガの作品の題名で、音楽ジャンルとしての「ショーロ」という言葉が初めて現れた曲である。ニ長調。2オクターブの上行アルペジオの旋律が特徴的。BとCはト長調になる。1890
- Angá-catu-rama (Alma bondosa), mazurca rancheira
下記のサルスエラ《ダイヤのクイーン》の劇中音楽〈マズルカ〉をヘ長調に移調した曲で、ほぼ同じ曲。1932年に出版されたフルートのための楽譜集『Alma Brasileira, 2.ª série』に《Angá-catu-rama (Alma bondosa)》の題名で収載された。- Dama de ouros ダイヤのクイーン
3幕から成るサルスエラ《ダイヤのクイーン Dama de ouros》の音楽は、シキーニャ・ゴンザーガとあと二人の作曲家による共作で、1890年に初演された。ゴンザーガが作曲した劇中音楽の〈ハバネラ〉、〈マズルカ〉、〈…聖なる日を笑って…、ワルツ〉の3曲はピアノ編曲版が出版された。- A meia noite!.., polka 真夜中に!…、ポルカ
へ長調、前奏-A-A-B-A形式。深夜十二時を表す12回鳴るド音の前奏に引き続き、Aの所には楽譜に「幽霊たちの踊り Dansa dos fantasmas」と記されていて、幽霊たちが楽しそうに深夜のダンスをしているのだろう。Bは変ロ長調になる。- Meditação, noturno 黙想、夜想曲
ヘ長調、前奏-A-B-B-後奏の形式。題名通りの静かな夜を思わせる曲。この曲はポルトガルの作家エッサ・ ジ・ケイロスの小説『アマロ神父の罪 O crime do padre Amaro』が、1890年にリオデジャネイロで演劇で上演された際の音楽に用いられた。- O padre Amaro, valsa アマロ神父、ワルツ
ハ長調。上品な雰囲気のワルツ。BとCはへ長調になる。- Tupan (Tupã), tango brasileiro トゥパン、タンゴ・ブラジレイロ
トゥパンとはブラジル先住民のトゥピ族の神話に出てくる雷神の名前とのこと。楽譜には「有名な共和主義者Dr. Lopes Trovãoに捧げる」と記されている。ロペス・トロヴァォン Lopes Trovão(正式名はJosé Lopes da Silva Trovão、1848-1925)は、ブラジルの1889年共和制革命で活躍した政治家で、「トゥパン」はLopes Trovãoのことを示唆しているらしい。ト長調、A-B-A-C-A-B形式。ノリのよいシンコペーションの伴奏にのって、音階を駆け上がる旋律がトゥパンを描いているのかな。BとCはハ長調。この曲は後に、オペレッタ《O Minho em festa》の中でも用いられた。また1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 1.ª série』では変ホ長調(ハ長調の楽譜で書かれたE♭管のアルト・サクソフォーン用)に移調されている。1892
- Dansa brazileira (Dança brasileira) ブラジル舞曲
ヘ短調、A-B形式。Aは中音部の旋律が陰うつな雰囲気。Bはヘ長調になり、Aとは対照的にシンコペーションの伴奏にのって高音部で奏される旋律が煌びやかだ。- Perfume, Feno de Atkinsons, valsa de salão 香水、アトキンソンズのフィエノ、サロン風ワルツ
アトキンソンズは1799年創業の香水メーカーで、フィエノとは香水の一種で干し草のような香りがする。変イ長調。フィエノの香水のように爽やかな雰囲気の曲。BとCは変ニ長調になる。1893
1894
- Annita, polka アニータ、ポルカ
ハ長調。伴奏はノリのいいシンコペーションだが、16分音符が舞うような旋律は優雅。BとCはヘ長調で、Cでは旋律は左手低音に移る。- Genéa, valsa ジェネア、ワルツ
変ホ長調。落ち着いた雰囲気のワルツ。ピアノ独奏版と、Paulo Araújo作詞による歌曲版がある。Bは変ロ長調、Cは変イ長調になる。- Tambyquererê, tango タンビケレレ、タンゴ
ヘ長調。ナポリの六度で始まる、ちょっと陰のある雰囲気の曲。最初の8小節は伴奏和音の中に旋律が見え隠れし、次の8小節では同じ伴奏和音にのって高音部に旋律が現れる。Bはハ長調。Cは変ロ長調で、左手低音に現れる旋律が、後半では右手高音で繰り返される。1895
- Gaúcho (O Corta Jaca), tango brasileiro ガウショ(コルタ・ジャッカ)、タンゴ・ブラジレイロ
シキーニャ・ゴンザーガの作品で一番有名な曲。1895年、ガウショの題名でピアノ曲として作られたが、間もなく同年にゴンザーガが作曲したオペレッタ《ジジーニャ・マシーシ Zizinha Maxixe》の中で用いられた(しかし《Zizinha Maxixe》は上演僅か3日で打ち切られたらしい)。その後コメディアンのMachado Carecaが〈コルタ・ジャッカ O Corta Jaca〉の題名で歌詞を付け、この歌は1902年にレコード録音もされて有名になった(コルタ・ジャッカは「ジャックフルーツ(波羅蜜)を切る」という意味で、コルタ・ジャッカという名の民族舞踊があるらしいです)。そのまた後の1904年に、Bandeira de GouvêaとTito Martinsによる脚本のミュージカル・レヴュー《こことそこ Cá e lá》の中で用いられた。更に1914年には、ブラジル大統領エルメス・ダ・フォンセカの妻ナイール・ジ・テフェー Nair de Teffé が大統領宮殿(カテテ宮殿)でのレセプションでギターによりこの曲を演奏した。当時、大統領宮殿のようなエリート層の集まる所で《ガウショ》のような大衆音楽が、しかもギターで演奏されることは一つの事件であったらしい。曲はニ短調、A-B-A形式。Aは楽譜に「バトゥーキ Batuque」と記されたリズムをカヴァキーニョが刻んでいるような短い前奏に続いて、「歌 Canto」と記されたフルートを思わせる悲しい旋律が高音部で奏され、再びバトゥーキのリズムが繰り返される。Bはヘ長調で、楽譜には「合唱と踊り Coro e Danza」と記され、大勢が歌っているような切ない旋律が奏される。- Rosa, valsa característica ローザ、性格的なワルツ
ローザとはシキーニャ・ゴンザーガの母のことで、母Rosa de Lima Maria Gonzagaに献呈された。ゴンザーガの父は、娘シキーニャがかつて父が決めた夫と離婚したことを生涯許さなかったが1891年に亡くなっており、その後やっと母との仲を取り戻せたとのこと。ローザは1896年に亡くなっている。変イ長調。Aの旋律にはアルペジオ、前打音、速い音階などが現れ、上品ながらも華がある感じ。Bは変ホ長調、Cは変ニ長調になる。1896
- Amapá アマパー
《アマパー》は1896年11月に初演された4幕から成るミュージカル・レヴューで、劇中音楽は数人の作曲家によって作られたが、その何曲かがシキーニャ・ゴンザーガによって作られた。うち下記の2曲はピアノ譜として出版された。- Piu-dudo (Beija-flor), batuque brasileiro ピウ=ドゥード(蜂鳥)、ブラジル風バトゥーキ
ハ長調、前奏-A-B-前奏-A形式。前奏は太鼓を打つような低音ソ音オクターブの連打でバトゥーキらしいが、以降は陽気な雰囲気。Bはヘ長調になる。- Saudade, valsa de salão サウダージ、サロン風ワルツ
自筆譜には「カルロス・ゴメスへ A Carlos Gomes」と記されており、1896年に亡くなったブラジルの先輩作曲家カルロス・ゴメスを悼んで作曲したと思われる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は自筆譜が存在するのみで出版されず、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 1.ª série』に旋律のみの楽譜が収載されたが、献呈の事は記されなかった。変イ長調、A-B-C-A形式。静かなしみじみとしたワルツで、右手高音部単音の旋律と控え目な左手伴奏のみだが何とも繊細な響きの曲である。Bはヘ短調、Cはヘ長調になる。1897
- Agua do vintém, tango brasileiro ヴィンテムの水、タンゴ・ブラジレイロ
リオデジャネイロにある「ヴィンテムの泉」で採った「ヴィンテムの水」は、当時は飲料水として有名であった。ヘ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。ナザレ風の楽しい曲で、清らかな水のような右手の16分音符の旋律と、左手のシンコペーションの伴奏の取り合わせが何ともいいです。Bはニ短調、Cは変ロ長調。- Animatographo (Animatógrafo), valsa アニマトグラフォ(映写機)、ワルツ
アニマトグラフォとは、1895年頃に開発された初期の映画やその装置のことで、1897年にはリオデジャネイロにも「活動写真 fotografia vivente」の名称でアニマトグラフォが輸入されたとのこと。シキーニャ・ゴンザーガもアニマトグラフォの映像を見たのであろうか。ハ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。わくわくするような楽しいワルツ。BとCはヘ長調で華やか。- Catita, polka イエネズミ、ポルカ
ニ長調。シンコペーションの伴奏にのって、愛嬌ある旋律が奏される。Bはイ長調、Cはト長調になる。- Evohé, tango carnavalesco エヴォエ、カーニバルのタンゴ
エヴォエとは、ローマ神話に登場するバッカス神を讃える巫子の叫びのこと。ハ長調、前奏-A-A-B-A形式。楽譜に「バトゥーキ Batuque」と記された太鼓を打ち鳴らすような前奏に続き、カーニバルの音楽らしい陽気な旋律が奏される。Bはヘ長調になり、2オクターブ半を上下する16分音符の旋律が華やか。- Heloisa, valsa de salão エロイーザ、サロン風ワルツ
シキーニャ・ゴンザーガの姪のエロイーザ・ゴンザーガに献呈された曲。変イ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。少女を描いたような可憐で、ちょっと哀愁漂う何とも趣深いワルツ。Bはヘ短調になり、翳りを感じる。Cは変ニ長調で華やか。- Itararé, polka イタラレ、ポルカ
サンパウロ州の東部にイタラレという町があり、それを指しているのかも。ハ長調。シンコペーションの伴奏にのってのどかな旋律が奏される。BとCはヘ長調になる。- O jagunço, tango característico brasileiro ならず者、ブラジルの性格的なタンゴ
"jagunço" は「ならず者」とか「用心棒」の意味だが、ブラジルでは1896-1897年に起こったカヌードス戦争という、バイーア州北東部の集落カヌードスの貧しい農民達と政府軍との間で起こった内乱での、カヌードスの民衆、特に民衆の指導者アントニオ・コンセリェイロ Antonio Conselheiro (1830-1897) を指している。ヘ長調、A-B-A形式。陽気ながら、旋律に時々現れるオクターブの連打が力強い曲。Bはハ長調になる。- Janniquinha, schottisch ジャニキーニャ、ショッティッシュ
へ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。可憐な旋律が奏される。Bはハ長調、Cは変ロ長調になる。後にこの曲は1912年上演のミュージカル・レヴュー《嘘と自慢話》の劇中音楽として用いられた。- Juracy, valsa de salão ジュラシ、サロン風ワルツ
ハ長調。サロン風の上品なワルツ。Aの左手伴奏リズムは1小節毎に交互に♩♩. ♪|♩♩♩になるのが特徴的。BとCはヘ長調になる。- Robertinha, valsa ホベルチーニャ、ワルツ
ホベルチーニャとは、女性名Roberta(ホベルタ)の指小辞。ヘ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。女性を描いたような可憐なワルツ。Aの旋律の一拍目は時々付点リズムになりマズルカ風。Bはハ長調、Cは変ロ長調になる。- Toujours et encore, polka いつも絶えずに、ポルカ
1898
1899
- O bandolim, serenata hespanhola バンドリム、スペインのセレナーデ
- Phalena (Falena), valsa ファレーナ(蛾)、ワルツ
変イ長調。Aは付点2分音符が多い、のびやかな旋律のワルツが流れる。Bは変ニ長調、Cは変ホ長調になる。- Maria, valsa マリア、ワルツ
「マリア」は女性名で、楽譜には「高貴なMaria Josefina Delpino嬢へ」と献呈が記されている。ニ長調、A-B-C-C'-A形式。しおらしい女性を描いたような曲。Bはイ長調になる。なおシキーニャ・ゴンザーガは1933年に同名のオペレッタ《マリア! Maria!...》 を作曲しているが、この曲とは関係ない。1900
- Angelitude, recitativo アンジェリトゥージ、レチタティーヴォ
曲名のAngelitudeは、この曲が献呈されたポルトガルの女優Rosa Angélica Damascenoを指していると思われる。へ長調、前奏-A-A'-B-A'形式。前奏は自筆譜では3/4拍子で書かれた11小節のものと4/4拍子で書かれた20小節のものの2種類の楽譜が残されている。(雑誌 Revista da Semana, No.265, 1905年に掲載された楽譜では3/4拍子となっている。またこの雑誌の楽譜にはゴンザーガの弟José Basileu Neves Gonzaga Filhoが書いた詩が添えられている。)AとBは優しいワルツが奏される。Bはハ長調になる。- Cananéa, valsa カナネア、ワルツ
カナネアとはおそらく人名であろう。ヘ短調。悲しい感傷的なワルツ。Bは変イ長調で、左手と右手で対話するような二声の旋律が現れる。Cも変イ長調。- Conspiradores, tango 共謀者たち、タンゴ
- O diabinho, tango carnavalesco 小悪魔、カーニバルのタンゴ
1899年作曲の歌《さあ、道を開けなさい Ó abre alas》同様、シキーニャ・ゴンザーガがカーニバルのために作った曲。カーニバルでは小悪魔に扮する仮装は有名だったらしい。変ロ長調。Aは落ち着いた雰囲気だが、Bは変ホ長調になってオクターブで音階を駆け上がる旋律が華やか。Cも変ホ長調で賑やかな響き。- Polca militar 軍隊ポルカ
1901
- A bella jardineira (A bela jardineira), valsa 美しい花台、ワルツ
19世紀末から20世紀初頭にかけて、リオデジャネイロの中心街に "A la Belle Jardinière" という洋服屋があり、その店の宣伝のために作曲されたと思われる。変イ長調、A-B-C-A形式。旋律は上行アルペジオが多く華やいだ雰囲気。Bはへ短調、Cは変ニ長調になる。- Desejo, romance 望み、ロマンス
- A noite, 2ª gavota 夜に、ガボット第2番
ハ長調。トリルや前打音混じりの旋律が上品で、落ち着いたガボット。BとCはヘ長調。1902
- Conto do vigário, lundu 司教総代理のお話、ルンドゥ
- Em guarda!, dobrado 警戒せよ!、ドブラードゥ
ドブラードゥとは軍隊行進曲のこと。憲兵音楽隊長Antonio José da Rochaに献呈された。ハ長調。軍隊ラッパのような前奏に引き続き、速いテンポの元気な曲が奏される。Bはト長調。Cはヘ長調になり一層勇ましく、ラッパを思わせる連打音のリズムが度々鳴る。後にこの曲は1906年上演のミュージカル・レヴュー《赤裸々な Nu e cru》の劇中音楽として用いられた。1903
- Jandyra, quadrilha ジャンジーラ、クァドリーリャ(カドリーユ)
オペレッタ《ジャンジーラ Jandyra》の劇中音楽で、ピアノ版に編曲された。また1912年初演のブルレッタ《フォホボドー(浮かれ遊び)Forrobodó》にもこの曲の一部が用いられた。クァドリーリャとは、ヨーロッパで18〜19世紀に流行したカドリーユ Quadrille(フランス語)という歴史的ダンスのポルトガル語表記で、19世紀にはブラジルのサロンでも踊られていたらしい。クァドリーリャは五つの部分から成る。1904
1908
- Cá e lá, Café de São Paulo, tango こことそこ、サンパウロのカフェ、タンゴ
1904年にリオデジャネイロで初演されたミュージカル・レヴュー《こことそこ Cá e lá》では、シキーニャ・ゴンザーガの代表曲《ガウショ》が用いられたが、1908年に《Cá e lá》をポルトガルで再演するにあたっての編集で、この曲が作られ加えられたらしい。ヘ長調、A-B-A-B形式。うきうきするような軽快な曲。Bは変ロ長調になる。1909
- Alegre-se viúva, tango 陽気な未亡人、タンゴ
ハ長調。Aは題名通りの浮き浮きするような旋律だ。Bはイ短調になる。Cはへ長調になり、旋律は跳躍したり半音階を16分音符で転がるように下りてきたりとはしゃいでいるかのよう。- Bijou, tango 宝石、タンゴ
ヘ長調、前奏-A-B-B-前奏-A形式。軽快な曲。中間部Bは変ロ長調で優美な雰囲気。1911
- Forrobodó, marcha フォホボドー(浮かれ遊び)、行進曲
ブルレッタ《フォホボドー(浮かれ遊び)Forrobodó》はリオデジャネイロの庶民を描いた喜歌劇で、シキーニャ・ゴンザーガが全曲の音楽を作曲した。1912年に初演されるとゴンザーガが手がけた劇場作品の中でも最もヒットして、1500回の上演を重ねた成功作である。特に劇中で男女が交互に歌うハ短調の物悲しい曲(原曲の楽譜には二人の登場人物の名前〈Bico doce e Zefferina〉とのみ記されている)は、1929年に別の歌詞(作詞者不明)が付けられた〈白い月 Lua branca〉という題名で録音されて有名になり、現在もシキーニャ・ゴンザーガの書いた旋律の中でも最も美しい曲として知られている。劇中の〈行進曲〉はピアノ譜が出版された。変ホ長調、A-B-A-B形式。ブンチャッブンチャッの元気な左手伴奏にのって威勢の良い旋律が奏される。Bはハ短調になる。1912
1917
1919
- Linda morena, choro 美しい田舎娘、ショーロ
ゴンザーガの生前にはピアノ譜は自筆譜(ハ長調)が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたフルートのための楽譜集『Alma Brasileira, 2.ª série』にニ長調に移調されて収載された。A-B-C-A形式。自筆譜にはModeratoと記されており、少しゆったりとしたテンポでシンコペーションを刻むのがいい感じ。Cはヘ長調(またはト長調)になる。作曲年代不詳
- Ada, polka inglesa アーダ、イギリスのポルカ
自筆譜には「私の弟子Ada Baduchiへ」と献呈が記されている。変ホ長調。ラッパの響きを思わせる勇ましい前奏、AとBのお転婆な雰囲気の旋律と楽しい曲。Bは変ロ長調、Cは変イ長調になる。- Aguará (Garça vermelha), valsa アグアラ(ショウジョウトキ)、ワルツ
アグアラ Aguará (現在はグアラ Guará の名称の方が一般的)はベネズエラやブラジルの海岸や川岸に生息するトキの一種のこと。ニ長調、A-B-A-C-B-A形式。優雅で流れるような旋律のワルツ。Bはト長調、Cはハ長調になる。1932年に出版されたフルートのための楽譜集『Alma Brasileira, 2.ª série』に旋律の楽譜が収載された。- Alerta!.., polka militar 警戒せよ!‥、軍隊ポルカ
- Angá, chôro-tango アンガー、ショーロ=タンゴ
1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 3.ª série』に収載された。変ホ長調(ハ長調の楽譜で書かれたE♭管のアルト・サクソフォーン用)。陽気な旋律が奏される。Bは変ロ長調、Cは変イ長調になる。- =Antoinette, tango brasileiro アントニエッテ、タンゴ・ブラジレイロ
上述の《Angá》とほぼ同一曲で、おそらく《Antoinette》の方が先と思われるがこちらは自筆譜のみが残されている。但しAはハ長調、Bはト長調、Cはへ長調になっている。自筆譜には「高貴な芸術家Antoinette Villardへ」と献呈が記されている。- Ararigboia (Araribóia), polka アラリボイア、ポルカ
- Ary, Filha do céu, valsa de sãlon アリー、天国の娘、サロン風ワルツ
ハ長調、Aは楽譜に「詩的に Poetizando」と記されていて抒情的。へ長調のBは対照的に「華やかに brilhante」と記され高音部を上下する旋律が華やか。Cもへ長調になる。- =Cariry, valsa
《Ary》とほぼ同一曲である。- Bella fanciulla io t'amo, walzer d'amore 私の好きな可愛い少女、愛のワルツ
楽譜には「私の妹、ジョアンナ・ゴンザーガ Joanna Gonzaga 嬢へ」と記されている。ジョアンナ・ゴンザーガはシキーニャの末妹で、ジョアンナが生まれた時にはシキーニャは最初の夫と離婚したため父にも勘当されて家を出てってしまっていたとのことである。ト長調、前奏-A-B-前奏-A(-B)形式。前奏に引き続き可憐な旋律が奏される。Bはハ長調になり、旋律は六度や三度の重音で少し華やかになる。- Borboleta, valsa 蝶々、ワルツ
ハ長調。蝶がひらひらと舞うような8分音符のトリルや上下するアルペジオの旋律が奏される。Bはト長調、Cはへ長調になる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は自筆譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 3.ª série』で変ホ長調(ハ長調の楽譜で書かれたE♭管のアルト・サクソフォーン用)に移調されて収載された。- Burro de carga 荷役用のロバ
- Carijó, tango-chôro カリジョー、タンゴ
カリジョーには白黒の斑点のある鳥の意味だが、同時に「白人と先住民との混血児」という意味もあるらしい。変ロ短調、A-A-B-A形式。寂しげな鳥の鳴き声のような前奏に引き続き、何とも寂しげな旋律が奏される。Bは変ニ長調になる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は手稿譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 3.ª série』に収載された。- Cecy, valsa セシー、ワルツ
ニ長調。自筆譜では8小節の前奏があり、それを横線で消そうとした跡がある。楽譜のAの旋律の冒頭にはCantabileと記され、ゆったりとした優雅なワルツが奏される。BとCはト長調になる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は手稿譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 3.ª série』に収載された。- Choro, tango-choro ショーロ、タンゴ・ショーロ
自筆譜に書かれた曲名は "Choro" と、その左下に "Tango"と書いてあるのが読み取れる。ゴンザーガの生前には自筆譜が存在するのみで出版されなかった。変ホ長調、前奏-A-B-前奏-A形式。シンコペーションのリズムも、上下に舞うような旋律も賑やかな曲。Bは変イ長調になる。この曲は1912年にオペレッタ《女子中学校 Coléxgio de senhoritas》の中で用いられたらしい。- Eu já volto, polka
- Fado de Coimbra コインブラのファド
1分程の短い曲。へ長調、A-B-A形式。全曲通して左手は16分音符のアルベルティ・バスで和音はI度とV7度のみである。Aの右手旋律は16分音符で、Bで歌うような旋律が現れる。- Fantasia, Ato 1. Introdução no. 1 幻想曲、第1幕、序曲第1番
オペレッタなど何かの劇場作品の序曲として作られたと思われるが、シキーニャ・ゴンザーガのどの劇場作品として作曲したのか、未完の作品だったのかは不明である。ト長調、序奏-A-B-C-B'-コーダの形式。ゆっくりとした序奏に始まり、管弦楽の勇壮な響きを思わせる部分や、行進曲の部分など、華やかな曲。- Fênix, habanera フェニックス、ハバネラ
- Gondoleira, barcarola ゴンドラ漕ぎ、舟歌
へ長調、A-B形式。♩♪♩♪の伴奏にのって穏やかな旋律が奏される。Bの冒頭3小節はニ短調で、波立つような16分音符になるが、また穏やかな雰囲気の戻って終わる。- Guayanazes (Guaianases), polka brasileira グアイアナ族、ブラジル風ポルカ
グアイアナ族はブラジルの先住民族の一つで、かつてはサンパウロの辺りに居住していたとのこと。この曲も含めて、シキーニャ・ゴンザーガはブラジル先住民の民族名を題名とした曲を6曲作っている。1932年に出版された全3集計30曲から成る楽譜集『Alma Brasileira』(第1集および第3集はサクソフォーン、第2集はフルート)のためにこれらの6曲は作られたと思われるが、6曲ともサロン風の曲で先住民の音楽らしきものは全く現れず、ブラジル風味はない。《グアイアナ族》のピアノ譜はゴンザーガの生前はニ長調の手稿譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 3.ª série』に変ロ長調に移調されて収載された。うきうきするような曲。Bはイ長調(へ長調)、Cはト長調(変ホ長調)になる。- Guasca, polka グアスカ、ポルカ
- Oh! Não me illudas..., habanera ああ!、私を惑わさないで…、ハバネラ
ヘ長調、A-A-B-B'-A形式。艶やかながらちょっと悩ましい雰囲気の旋律がゆったりと流れる。BとB'はニ短調になる。- Ortruda, valsa オルトゥルーダ、ワルツ
曲名のオルトゥルーダは、おそらく女性の名前を指していると思われる。ハ長調、A-B-A-C-A-B-A形式。舞踏会の光景を思わせるような華やかなワルツ。BとCはヘ長調になる。- Paraguassú (Paraguaçu), habanera-chôro パラグアス、ハバネラ - ショーロ
ブラジル中部のミナス・ジェライスにパラグアス郡という所がある。自筆譜では最初 "Habanera" という曲名だったのを、"Paraguassu" に書き換えた跡がある。ニ短調、A-A-B-A形式。こぶし(複前打音)混じりの旋律はちょっと演歌みたいな?雰囲気の曲。Bはヘ長調。最後はピカルディ終止なのが珍しい。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は手稿譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 3.ª série』に収載された。- Passos no chôro, polka brazileira ショーロの足音、ブラジル風ポルカ
ニ短調。当時シキーニャ・ゴンザーガがリーダーをしていたショーロ楽団 "Grupo Chiquina Gonzaga" のフルート奏者Antonio Maria Passosに献呈された(曲名は彼の姓 "Passos" を指しているとも言える)。全曲通して旋律がフルートの音色を思わせる高音部で奏される。"Grupo Chiquina Gonzaga" が1912年に演奏した録音では、実際にフルートが旋律を吹いている。Bはヘ長調、Cは変ロ長調になる。- Prelúdios 前奏曲
- Primeira gavota ガボット第1番
- Promessa!..., valsa americana 誓い!…、アメリカのワルツ
ニ長調、前奏-A-B-C-A形式。Aは息の長い旋律が奏され、Bは優雅に舞うような旋律になる。Cはト長調になる。この曲は、後の1915年にPaulo Araújoにより歌詞が付けられた。- Sabiá da mata, choro ココアムジツグミ、ショーロ
ココアムジツグミはツグミ科の一種で、南米に生息している鳥である。へ長調。前打音混じりの高音の旋律はツグミの鳴き声を描いているのだろう。Bはニ短調、Cは変ロ長調になる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は手稿譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたフルートのための楽譜集『Alma Brasileira, 2.ª série』に収載された。- Soberano, tango
- Só na flauta, tango-choro フルートだけで、タンゴ=ショーロ
ヘ長調、A-A-B-A形式。フルートの軽やかな響きを思わせる曲だが、楽譜はピアノ曲である(但しゴンザーガの生前の1911年に、楽団 "Grupo Chiquinha Gonzaga" がフルートを旋律にした録音が残されている)。Bは変ロ長調になる。- Tamoyo (Tamoio), pas-de-quatre タモイオ族、パ・ドゥ・カトル
タモイオ族はブラジルの先住民族の一つ。へ短調。ため息をつくような、哀愁たっぷりの曲。Bは一時変イ長調、Cはへ長調になる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は自筆譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 1.ª série』でハ短調(イ短調の楽譜で書かれたE♭管のアルト・サクソフォーン用)に移調されて収載された。- Tapuya (Tapuia), 2ª mazurka タプイア族、マズルカ第2番
- Timbyra (Timbira), valsa チンビラ族、ワルツ
チンビラ族はブラジルの先住民族の一つ。ト長調。華やかな雰囲気のワルツ。Bはホ短調、Cはハ長調になる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は自筆譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 3.ª série』で変ホ長調(ハ長調の楽譜で書かれたE♭管のアルト・サクソフォーン用)に移調されて収載された。- Tupi, valsa トゥピ族、ワルツ
変イ長調。しっとりとしたワルツが優しく奏される。Bはヘ短調、Cは変ニ長調になる。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は自筆譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 1.ª série』に旋律のみが収載された。- Tupiniquins, valsa トゥピニキン族、ワルツ
トゥピニキン族はブラジル先住民族の一つで、現在はブラジル南東部エスピリト・サント州に住んでいる。ハ長調。Aは分散和音の旋律が艶やか。Bはト長調、Cはへ長調になり息の長い旋律が奏される。ゴンザーガの生前にはピアノ譜は手稿譜が存在するのみで出版されなかったが、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 1.ª série』に旋律のみが収載された。- Vida ou morte, dobrado 生か死か、ドブラード
- La violette, pas-de-quatre スミレの花、パ・ドゥ・カトル
へ長調、A-B-A形式。のどかな旋律の曲。Bはハ長調になる。- Viva la gracia, valsa hespanhola 恩寵に万歳、スペイン風ワルツ
ニ短調、A-B-A-C-A-B-A形式。こぶしのような複前打音混じりの旋律が奏される、スペイン風の速いテンポの情熱的なワルツ。Bはヘ長調、Cはニ長調になる。- =Rancheira=Platina ランチェイラ=プラチナ
《Viva la gracia》とほぼ同じ曲で、《Platina》という曲名の手稿譜が残されている。また、1932年に出版されたサクソフォーンのための楽譜集『Alma Brasileira, 1.ª série』に《Rancheira=Platina》の題名で旋律のみが収載された。ランチェイラ Rancheira とはリオ・グランジ・ド・スル州などブラジル南部で演奏される舞曲の一つで、マズルカの影響を受けているらしい。- Vou dar um banho em minha sogra, polka 私の義母を入浴させる、ポルカ
変ロ長調。ポルカのリズムにのって愛嬌ある旋律が奏される。BとCは変ホ長調になる。