Harold Gramatgesのピアノ曲リスト
1937
1942
- Sonata en sol sostenido menor ソナタ嬰ト短調
- Lento. Allegro moderato
- Tema con variaciones
- Allegro giubiloso
1943
- Pequeña suite 小品集
- Preludio 前奏曲
- Alemanda アルマンド
- Siciliana シチリアーナ
- Sarabanda サラバンド
- Minueto メヌエット
1947
1949
- Dos danzas cubanas 2つのキューバ舞曲
- Montuna モントゥーナ
- Sonera ソネーラ
1950
1952-53
- Tres preludios a modo de toccata トッカータ風の3つの前奏曲集
- Allegro
- Andante e molto espressivo
- Allegro
1956
- Guajira グアヒーラ
- Suite cubana para niños 子どものためのキューバ組曲
- Danzón ダンソン
- Guajira グアヒーラ
- Habanera ハバネラ
- Son ソン
1957
1969
1974
1977
1989
- Seis danzas antiguas 6つの古風な舞曲集
- La Begonia ベゴニア
- La Diamela ディアメラ
- La Clavelina カーネーション
- La Mariposa 蝶
- La Violetina スミレ
- La Acedonia アセドニア
Harold Gramatgesのピアノ曲の解説
1937
- Pensando en ti あなたを思って
グラマッチェスが婚約者のために作った曲とのこと。イ長調、A-B-A'-B-A'形式。この頃のグラマチェスの、まだ彼の頭の中に鳴っていた音楽がシューマンなどのヨーロッパ・ロマン派だったことを窺わせるような小品である。優しいアルペジオの伴奏にのって、伸びやかな旋律が抒情的に奏される。1942
- Sonata en sol sostenido menor ソナタ嬰ト短調
ピアノまたはチェンバロのために作曲された。1942年、グラマッチェスは自らチェンバロを演奏して初演し、これにより彼は米国留学の奨学金を得ることになった。嬰ト短調で、途中での臨時記号を全く使わない一方、和声的には三和音を殆ど使わず第3音を抜いた属七の和音を多用した響きで、新古典主義に近い、情感を排した冷めた響きに聴こえる音楽に思えます。
- Lento. Allegro moderato
A-B-A'形式。2小節のLentoの前奏でモチーフが力強く紹介された後、Allegro moderatoの快活な主題が左手16分音符アルペジオの伴奏にのって奏される。中間部は同じ主題がテンポを落としてカノンで奏される。- Tema con variaciones
まず素朴な4小節の主題が現れる。第1変奏 Andante (Legato) は静かな四声。第2変奏 Andantino (staccato) は左手に現れる主題の上でスタッカートの16分音符が彩る。第3変奏 Lento (espressivo) は主題が二度高く奏される。第4変奏 Andantino (senza pedali) は主題の上と下に対旋律が絡むが、主題自身は括弧書きで記され「no tocar el tema(主題を弾くな)」と注釈が付いていて、言わば主題は実際の音は出さず頭の中だけで鳴らせということだろう。最後に主題が1オクターブ低く再現されて終わる。- Allegro giubiloso
A-A-B-B-コーダ形式。バロック組曲のジーグを思わせる6/8拍子の快活な曲で、Bでは主題が左手や右手に目まぐるしく現れる。1943
- Pequeña suite 小品集
前作《ソナタ嬰ト短調》と同様に新古典主義の作風で、「古風な組曲」という題名を付けたくなるようなバロック組曲である。全曲、調号はミとラとシが♭なので強いて言えばハ短調だが、縦の和声より横のポリフォニックな三声の旋律の流れを重視した作りで、長調とも短調ともつかぬ響きの組曲である。この「小品集」はJesús Ortegaによりギター用に編曲されている。
- Preludio 前奏曲
息の長い旋律の下でハープを思わせるアルペジオの伴奏が続く。- Alemanda アルマンド
中庸のテンポの曲。- Siciliana シチリアーナ
付点リズムの旋律がややもの悲しく奏される。- Sarabanda サラバンド
重々しい雰囲気の曲。- Minueto メヌエット
スタッカート混じりのちょっと気取った曲。1947
- Tres danzas "Homanaje a Ignacio Cervantes" 「イグナシオ・セルバンテスを讃える」3つのダンサ集
キューバの先輩作曲家イグナシオ・セルバンテス (1847-1905) の生誕百年に際して作られた曲。3曲共コントラダンスのリズムにのった舞曲で、セルバンテスの《キューバ舞曲集》からの引用もいくつかあり。但しグラマッチェスらしく、七度や九度の響きが独特である。第1曲Moderatoはホ長調。快活さと優雅な16分音符の流れが同居した作品で、《キューバ舞曲集》の〈3つの衝撃 Los tres golpes〉で現れる8分音符アクセント、〈行ってしまい、もう戻らない Se fué y no vuelve más〉や〈アーメン! ¡Amén!〉で現れる旋律などが現れ、最後は〈あなたの遠くで! ¡Lejos de ti!〉の終わり方にそっくり。第2曲Quasi Lentoは変イ長調。冒頭のアウフタクトは〈親密な Intima〉を思わせ、落ち着いた雰囲気の曲。第3曲Allegrettoは、前半はハ長調で無窮動な16分音符が快活。後半は変ホ長調で、優雅な響きになる。
- Moderato
- Quasi Lento
- Allegretto
1949
- Dos danzas cubanas 2つのキューバ舞曲
グラマッチェスが二度目の米国留学中に、ニューヨークで作った曲。1949年にニューヨークのカーネギホールで演奏された。彼が子どもの頃に聴いた、キューバ東部の民謡の記憶を元に作られた作品。グラマッチェスのピアノ曲の中では最もキューバらしい作品ではあるが、多調や不協和音などの彼の作曲技法の響きが強く出ていて、あまりキューバ情緒に浸れる感じではない。この組曲は1950年に作曲者自身により管弦楽曲にも編曲された。
- Montuna モントゥーナ
モントゥーナ(またはモントゥーノ)とは直訳すると「山地の」という意味。山の多いキューバ東部(オリエンテ地方)発祥の民族音楽「ソン」を「ソン・モントゥーノ」と呼ぶことがあり、また「ソン」の後半で踊りの延長のつなぎとして、ソロ歌手とコーラスが掛け合いながら2小節または4小節の同じフレーズを延々と繰り返す部分を特に「モントゥーノ」と呼ぶことがある。曲は「モントゥーノ」のリズムの6小節前奏(下記の楽譜)に引き続き、シンコペーションのきいたト長調の旋律が現れる。旋律は素朴だが、伴奏に絶妙な不協和音が絡み緊張感のある響きとなっている。その後、旋律はイ長調〜ニ長調と転調しながら繰り返され、華やかに変奏していく。
Dos danzas Cubanas, 1. Montuna、1-3小節、Peer International Corporationより引用- Sonera ソネーラ
ソネーラとは「ソンの歌い手(女性形なので女性歌手)」という意味。ソネーラ(またはソネーロ)は、曲の「ソネオ Soneo」と呼ぶ部分で即興の歌詞を歌うのが見せ所となっている。変ニ長調。南国的な雰囲気の8小節前奏に引き続き、2小節づつの掛け合いのフレーズや、変イ長調〜ヘ長調への転調が自由に奏される。1950
- Preludio para el álbum アルバムのための前奏曲
米国の出版社Elkan-Vogel Co. が『Six Modern Cuban Composers』というピアノ曲アルバムを作るにあたって委嘱された作品。イ短調、A-B-A'形式。「ソン」のリズムが流れるように速く奏される。民族音楽「ソン」がクールに生まれ変わったようなモダンな響きだ。右手は一度づつ上行、左手は一度づつ下降して音域を増し、とつぜん変拍子の打楽器的なffやfff強打になって一区切りされる。Bもホ短調の流れるようなモチーフが奏されるや、変拍子のアクセントのきつい強打音になる。1952-53
- Tres preludios a modo de toccata トッカータ風の3つの前奏曲集
3曲とも調性らしきものは殆ど感じられず、グラマッチェスらしい現代音楽であるが、「トッカータ」であるために(特に1、3曲は)ピアニスティックな響きが躍動的で、またトレシージョやシンキージョなどのシンコペーションが現れキューバ的な曲でもある。
- Allegro
ソナタ形式。速いテンポの曲。第1主題はシンコペーションの(完全五度混じりの)モチーフと16分音符の対旋律が右手左手を頻繁に入れ替わって奏され、右手左手はヘミオラになり、その上毎小節ごとに拍子は変わるといった具合で、目まぐるしいリズムの変化が曲全体に緊張感を与えている。第2主題は速いテンポはそのままで、左手16分音符で完全五度の堆積がアルペジオで奏され、右手に新たなモチーフが現れる。この2つの主題が入り混じる展開部を経て、再現部では第1主題、(提示部より長二度高くなった)第2主題、コーダと奏されて終わる。- Andante e molto espressivo
緩徐楽章のような部分である。呟くような旋律がpで奏され、四度重音の合の手や、ギターのつま弾きを思わせるスタッカートのミ-ラ-レ-ソがまとわりつく。後半ではトレシージョのリズムが頻繁に現れる。- Allegro
A-B-A'形式。6/8拍子の♪♪♪♪♪♪と3/4拍子の♩ ♩ ♩が代わる代わる交替するモチーフが奏され、キューバの民族音楽グアヒーラのリズムの曲とも言えよう(但し、しばしば5/8拍子や9/8拍子にもなる所がグラマッチェスらしい)。曲は♩.=156ととても速く奏される。中間部は2/2拍子で、静かで冷たい雰囲気の旋律が流れる。1956
- Guajira グアヒーラ
グアヒーラとは、キューバの白人農民を指す「グアヒーロ」に由来するキューバの民族音楽で、6/8拍子と3/4拍子が交互に奏されるリズムが特徴的。グアヒーラはスペインに伝わるとフラメンコにも取り入れられている。イ長調、A-B-C-B'-A形式。全体的に南国的な雰囲気の曲。Aは前奏のような部分でグアヒーラのリズムが紹介されるように奏される(下記の楽譜)。Bで右手にスタッカートの旋律が現れ、嬰ハ長調やホ長調にも転調する。Cは12小節のみで、Bの旋律がニ短調になってテンポを落として奏される。
Guajira、11-15小節、Ediciones Nuestro Tiempoより引用- Suite cubana para niños 子どものためのキューバ組曲
子どものために作られた曲で、子どもの指を考慮して音程は七度まで、両手ともト音記号のみで書かれている。さすがに難しい不協和音は現れないが、対旋律の半音階進行やちょっと調性感がぼやけた雰囲気はグラマッチェスらしい。
- Danzón ダンソン
ハ長調、A-A'-B-A"形式。愛嬌ある旋律が奏される。- Guajira グアヒーラ
ニ長調、A-B-C-B'形式。6/8拍子と3/4拍子が交互に奏される。- Habanera ハバネラ
ハ短調、A-A'形式。左手ハバネラの伴奏にのって、もの悲しい旋律が奏される。- Son ソン
ホ短調、A-B-B'-B"-A形式。前奏のような8小節のAに引き続き、哀愁ただよう旋律が繰り返される。1957
- Sonatina hispánica (sobre un texto de Federico García Lorca) ソナチネ・イスパニア(フェデリコ・ガルシーア・ロルカのテクストによる)
スペインの劇作家フェデリーコ・ガルシーア・ロルカ (1898-1936) の戯曲『ドン・ペルリンプリンとベリサの庭での恋 Amor de don Perlimplín con Belisa en su jardín』のための劇音楽をグラマチェスは作曲。このソナチネ・イスパニアはその前奏曲である。曲はA-A'-B-A"-C-A形式。リュートの響きのような9度和音アルペジオの前奏に引き続き、6/8拍子の2声の快活な音楽が奏され、ちょっとスカルラッティを思わせる。Bの部分は3/4拍子で、静かな旋律が現れる。Cは楽譜に「ベリサの歌」と記されており(ベリサとは、主人公ドン・ペルリンプリンの新妻の名前)、リュートをつま弾きしながらベリサが歌うもの悲しい歌が奏される。1969
- Móvil I モビール I
モビールとは、針金や糸でいくつもの軽い素材を吊るした室内装飾品。わずかな風で静かに不規則に動くモビールを題材として作曲をした現代作曲家が何人もいる。グラマッチェスはこのピアノ曲《モビール I Móvil I》に続き、1968-1970年にフルート・ホルン・ピアノ・ビブラフォン・シロフォンと打楽器のための《モビール II Móvil II》、1977年にフルートとピアノのための《モビールIII Móvil III》、1980年にギターのための《モビール IV Móvil IV》を作曲した。この《モビール I》は演奏時間8-9分。グラマッチェスのピアノ曲の中でも最も前衛的な作品で完全に無調。クラスター奏法や、図形楽譜が記されて即興的に弾く所がしばしば現れる。ピアノの内部奏法が曲の半分位を占めていて、ピアノの弦をバチで(柔らかいバチ、硬いバチ、バチの柄をそれぞれ使い分けて)叩く、弦をつまむ、爪で弦をつま弾くなどの奏法が詳細に楽譜に記されている。1974
- Estudio de contrastes 対比の練習曲
元々は舞踊のための音楽として作曲されたものだが、演奏会用の練習曲に相応しいような技巧的な作品である。A-B-A'形式。楽譜に拍子記号が無く、速いテンポで両手に無窮動で続く不規則な8分音符が緊張感ある響きを作っている。右手または左手がピアノの白鍵を弾いている時は、もう片方の手は黒鍵を弾いており(それが頻繁に入れ替わる)、多調的な響きとなっている。中間部BはAndante molto espressivoとなり、無調の無機質な音楽が静かに流れる。1977
- Incidencias 影響
演奏時間は約12分。1969年作曲の《モビール I》同様、図形楽譜や内部奏法を多用した前衛的作品。この曲を演奏するには「長さ30-40cmの鎖」と「低音部の弦をこする硬貨」を用い、鎖で弦を擦ったり、弦の上で鎖を落としたり(鎖を拾う所もちゃんと指定)、チューニングピンを鎖でトレモロしたりという奏法が楽譜に指示されている。内部奏法も弦を「指先の腹で叩く」などの指示があり、加えてピアノのボディを叩く奏法も現れる。曲中ではキューバの作曲家のピアノ曲の断片ーアレハンドロ・ガルシア・カトゥルラの《田舎の子守歌 Berceuse campesina》、グラマチェス自身の《2つのキューバ舞曲 Dos danzas cubanas》より〈モントゥーナ Montuna〉、レクオーナの《コンパルサ La comparsa》、セルバンテスの《招待 Invitación》ーが途中で少しずつ現れ、キューバ音楽の歴史的流れと現代音楽が出会ったような光景を想像させる。1989
- Seis danzas antiguas 6つの古風な舞曲集
6曲とも殆どが二声か三声のポリフォニックなスタイルで書かれており、カノンやフーガを用いたバロック風の書法と、キューバらしいシンコペーションが効いたリズムが同居した独特の雰囲気の組曲である。
- La Begonia ベゴニア
哀愁漂う曲。ヘ短調で始まるが、次々と転調しヘ長調で終わる。- La Diamela ディアメラ
軽快な16分音符が小気味よい曲。ニ長調で始まるが、嬰ヘ長調で終わる。- La Clavelina カーネーション
軽快な曲。ヘ長調で始まり、ハ長調で終わる。- La Mariposa 蝶
可憐な雰囲気の曲。ハ長調。- La Violetina スミレ
流れるような16分音符の曲。ハ短調で始まり、ヘ長調で終わる。- La Acedonia アセドニア
シンコペーションが溌剌とした曲。ハ短調。