Edino Kriegerのピアノ曲リスト
1945
- Peça para piano ピアノのための作品
1947-51
- Epigramas エピグラム集
- Lento (1947)
- Allegro giocoso (1947)
- Lento (1951)
- Scherzando (1951)
- Moderato (1951)
1949-52
- 3 Miniaturas 3つのミニアチュール
- Moderato (1949)
- Andante
- Andante moderato (1952)
1953
1953-54
- Sonata Nº 1 ソナタ第1番
- Andante (1953)
- Seresta, Homenagem a Villa-Lobos (1953)
- Variações e Presto (1953-54)
1954
1955
- Três invenções a duas vozes 3つの二声のインヴェンション
- Valsa ヴァルサ
- Chorinho ショリーニョ
- Seresta セレナード
1956
- Sonata Nº 2 ソナタ第2番
- Allegro
- Andantino
- Vivace molto e con spirito
- Chôro manhoso 器用なショーロ
- Estudo seresteiro セレナード練習曲
1957
- Sonatina ソナチネ
- Moderato
- Allegro
1962
- Os peraltas, para piano a 4 mãos 怠け者たち、4手1台ピアノのための
- Os 3 peraltas, para piano a 6 mãos 3人の怠け者たち、6手1台ピアノのための
1973
- Elementos 要素
1997
2001-12
- Estudos intervalares para piano ピアノのための音程の練習曲集
- Das segundas (2001) 二度の
- Das terças (2001) 三度の
- Das quartas (2001) 四度の
- Das quintas (2012) 五度の
- Das sextas (2012) 六度の
- Das sétimas (2012) 七度の
- Das oitavas (2012) オクターブの
2014
2017
2018
Edino Kriegerのピアノ曲の解説
1949-52
- 3 Miniaturas 3つのミニアチュール
クリーゲルが十代後半の頃に師事したケルロイターの影響の強い、ほぼ十二音技法で作られた作品である。
- Moderato (1949)
静かに鳴る付点リズムと、激しく響く和音連打やアルペジオが対比されたように奏される。- Andante
四度、五度、七度などの不協和音が響く。- Andante moderato (1952)
十二音技法で始まる静かなモチーフと跳ねるような16分音符の対比が奏される。1953
- Sonata, para piano a 4 mãos 連弾のためのソナタ
単一楽章のソナタ。一応ホ短調。はっきりソナタ形式とも言い切れないのですが、第1主題は醒めた雰囲気の8分音符のモチーフがプリモに奏され、繰り返しではプリモとセコンドの掛け合いで奏される。続いて第2主題らしき16分音符の分散和音のようなモチーフがセコンドに現れ、第1主題がその上に重なって奏されたり、第1主題と第2主題が掛け合いのように奏されたりと展開する。おそらく70小節目からが再現部で、第1主題が再現されるが、間もなく80小節目から16分音符が現れ、第2主題の上に第1主題が重なったりをして終わる。その曲は1968年に作曲者自身により、木管五重奏のための《セレナーデ Serenata》として編曲された。1953-54
- Sonata Nº 1 ソナタ第1番
新古典主義を思わせる作風ながら、セレスタやフレーヴォといったブラジル民族音楽を取り入れた興味深い作品である。この作品は後の1959年、作曲家自身により弦楽オーケストラのための《ディヴェルティメント Divertimento》に編曲され、《ディヴェルティメント》は第1回ブラジル教育省作曲コンクールで一等賞を受賞した。
- Andante (1953)
一応イ短調、ソナタ形式。古典派を思わせる第1主題が強いて言えばホ長調で奏され、主題のモチーフは調を変えつつあちこちに現れる。続いてAllegro Enérgicoと楽譜に記された、32分音符スタッカートの第2主題が現れ、所々32分音符はシンコペーションのアクセントが付いたりと躍動的。展開部は短く、前半は第1主題の、後半は第2主題の展開が奏される。再現部は第1主題、第2主題が奏される。- Seresta, Homenagem a Villa-Lobos (1953)
「ヴィラ=ロボスへのオマージュ」と副題が付けられたこの楽章は、夜の街角でのショーロの演奏家達のセレナーデを思わせる一方、調性が定まらない複雑な和声は、(現実にはありえない響きの)クリーゲルの頭の中で思い描く幻のショーロのような曲だ。変奏曲形式。そこなかとなく哀愁漂う主題が静かに奏され、音高を変えつつ6回変奏される。ベースや内声が対旋律と化し、三声、四声と増して複雑に絡み合う様は、幻のショーロ楽団のインタープレイを思わせる。この楽章は元は主題+6つの変奏だが、2014年ブラジル音楽アカデミー Academia Brasileira de Música 校訂の楽譜では第7変奏が追加されている。- Variações e Presto (1953-54)
曲の前半は主題と変奏である。まずイ短調で始まり、すぐに調性が定まらなくなる主題が単音で静かに奏される(クリーゲル自身はヒンデミットに影響を受けた主題であると語っている)。第1変奏は左手に主題が移り、右手にアルペジオの対旋律が奏される。第2変奏はスタッカートの和音がシンコペーションする。第3変奏は内声の主題の上で16分音符の対旋律が、下で32分音符の対旋律が奏される。第4変奏は3/8拍子になり主題の反行形の旋律が奏される。第5変奏はショーロの雰囲気で旋律・対旋律が三声になって奏される。第6変奏は主題が重音で奏される。後半のプレストはブラジル北東部(ノルデスチ)の舞踊およびその音楽であるフレーヴォを元にしている。フレーヴォの楽団の金管楽器を思わせる両手ユニゾンの速い旋律が現れ、華やかに展開していく。1954
- Prelúdio (Cantilena) e Fuga (Marcha-rancho) 前奏曲(カンチレーナ)とフーガ(行進曲 - ハンショ)
曲名からも、また実際の音楽も、ヨハン・ゼバスティアン・バッハへの敬愛と、ブラジル風の情緒を重ね合わせたような感じで、ヴィラ=ロボスの連作《ブラジル風バッハ》と似た精神で作曲されたことを窺わせるような作品である。前奏曲(カンチレーナ)はイ短調、A-A'-B-A形式。Aは高音部に哀愁漂う旋律が何とも寂しげに奏され、中音部でハ短調で繰り返される。A'は同じ旋律がヘ短調〜変イ短調で奏される。Bは一応ニ短調で、無窮動の16分音符に付いたアクセントが3-3-2のリズムを刻み、♭混じりの謎めいた旋律がその上で奏されひとしきり盛り上がる。最後にAが再現される所がまた寂しげだ。フーガ(行進曲 - ハンショ)はニ短調。副題のハンショとはカーニバルの楽団のことである。中音部に旋律が主唱で現れ、次に五度上で応唱が始まると最初の声部は低音で行進のリズム宛らに8分音符を刻む。19小節目からは三声になって展開していき、華やかな響きで終わる。なお、1983年出版のLK produções artisticas版と、2009年出版のAcademia Brasileira de Música版では最後の8小節が異なっている(下記の楽譜)。
Prelúdio (Cantilena) e Fuga (Marcha-rancho)、167-176小節、LK produções artisticasより引用
Prelúdio (Cantilena) e Fuga (Marcha-rancho)、165-175小節、Academia Brasileira de Música - Banco de Partituras de Música Brasileiraより引用- Valsa antiga 古風なヴァルサ
ニ短調、A-A'-B-B-A-A'形式。ピアノ初心者向けの易しい曲。冒頭の低音部で音階を上がるような哀愁漂う旋律はミニョーネ作曲の《街角のワルツ第2番》にそっくりである。Bは右手の旋律を左手対旋律が追うように奏される。1956
- Sonata Nº 2 ソナタ第2番
クリーゲルがイギリスに留学していた時の作品である。
- Allegro
ソナタ形式。5拍子または6拍子のユニゾンの第一主題が嬰ヘ短調で奏されが、間もなくこの主題はト短調やニ短調になって繰り返される。続いて16分音符の落ち着きのない第二主題が奏される。展開部は第一主題の変奏で始まり、新たなモチーフ、第二主題、シンコペーションのリズムが加わって混沌とした響きとなる。再現部は第一主題、第二主題がそれぞれ調を変えて現れ、Prestoと記されたコーダが短く奏されて消えるように終わる。- Andantino
3-3-2のリズムの旋律がゆっくりと気怠い雰囲気で奏されるる。一応ヘ長調だが、シが時折♮になったり、ベース音にラ♭やレ♭が現れる響きと相俟って、ブラジルの熱帯感を感じさせる。所々現れる、高音から静かに降ってくるような32分音符は幻を見ているよう。後半では、冒頭の旋律と高音32分音符が混然となって奏される。- Vivace molto e con spirito
A-B-C-A'-B'形式。トッカータ風で、16分音符や3連16分音符が快活。Bは3連符が鳴る中でヘミオラになって現れるファのミクソリディア旋法のモチーフがノルデスチの音楽を思わせる。- Chôro manhoso 器用なショーロ
クリーゲルは複雑な作曲技法を駆使したピアノ曲以外にも、この曲のような分かりやすい和声の、ピアノ初心者のためと思われるピアノ曲をいくつか作曲している。イ短調、A-A-B-B-A形式。ギターを思わせる左手ズチャンチャのリズムにのって、右手にフルートの調べのような哀愁漂う旋律が流れる。Bの部分は、Aと和音進行が似ているが新たな旋律が現れる。A、B共に最後がハ長調に転調するがすぐにイ短調に戻ってしまう所が切ない響きだ。- Estudo seresteiro セレナード練習曲
ニ短調、A-A'-A-A'形式。所謂ヴァルサ・ブラジレイラの雰囲気の曲。左手低〜中音部に陰うつな旋律が奏され、右手に合いの手のような和音が奏される。A'の後半では旋律が右手に受け継がれて奏される。1957
- Sonatina ソナチネ
クリーゲルのピアノ曲の中では演奏される機会が多い曲である。
- Moderato
一応イ短調、ソナタ形式ともロンド形式ともとれます。冒頭は左手ラ-ミ-ド-ミのアルベルティバスの伴奏にのって、ラのドリア旋法の旋律が透明感を醸し出している(ホ短調の旋律による多調ともとれる)。18小節目からはラッパの響きのようなモチーフや勇ましい左手オクターブが現れ、これは第2主題ともとれる。続いて冒頭の旋律が再び現れるが、間もなく左手オクターブのモチーフがいろいろ展開して奏され、冒頭の雰囲気の部分が8小節のみ現れると、楽譜に "Animado" と記された活発な部分がひとしきり盛り上がり、最後は冒頭の旋律が再度静かに奏されて終わる。- Allegro
ホ短調、A-A-A'形式。左手シンコペーションのリズムと右手の半音階上昇の音型が二声となっており、16小節目からそれにのって野性的な旋律が奏される。A'ではこの旋律がffで力強く奏され、高音部で16分音符が煌びやかに響く。1962
- Os peraltas, para piano a 4 mãos 怠け者たち、4手1台ピアノのための
- Os 3 peraltas, para piano a 6 mãos 3人の怠け者たち、6手1台ピアノのための
上の2曲はほぼ同じ曲で、ピアノ1台を2人で弾くか、3人で弾くかが異なる。ハ長調、A-A-B-B-A形式。Piano 1は高音部で両手で旋律を、Piano 2は中音部で8分音符の対旋律とワルツの伴奏を、「6手1台」版のみに存在するPiano 3は低音部でベース音を弾く。どのパートも初心者向きというか、ピアノ1台3人ともなると子どもでないと窮屈だが、難しい順にPiano 2→Piano 1→Piano 3となる。Bはイ短調になり、Piano 1とPiano 2が旋律の掛け合いをする。1997
- Nina, Valsa ニーナ、ヴァルサ
ニーナとはクリーゲルの孫娘の名前で、彼女に献呈された。イ長調、前奏-A-A-B-A-C-A形式。華やかなアルペジオの前奏が短く奏されると、Aの旋律が和音や重音となってしっとりと奏され、旋律の最後だけイ短調になる。Bは上に下へとひらひら舞うような旋律が艶やか。Cは中音部内声に伸びやかな旋律が現れ、右手高音16分音符の対旋律が煌びやか。2001-12
- Estudos intervalares para piano ピアノのための音程の練習曲集
全7曲から成る組曲で、第1番から3番まではリオデジャネイロ州文化省の委嘱により、「ピアノの三世紀」という催しのために作曲された。また第4番から7番まではブラジル芸術基金 Fundação Nacional de Artes (FUNARTE) の委嘱により、「第20回現代ブラジル音楽のビエンナーレ」の催しのために作曲され、2013年10月に初演された。クリーゲルはかつて、初期の作品ー《ピアノのための作品 Peça para piano》(1945)、《エピグラム集 Epigramas》(1947-51)、《3つのミニアチュール 3 Miniaturas》(1949-52)ーで十二音技法などを用いた前衛的なピアノ曲を書いたが、ここで再び実験的な現代作品を作っている。記譜法においては、楽譜の冒頭に「自由に延ばす Prolongar ad lib.」とか「自由に繰り返す Repetir ad lib.」といった取り決めを予め記している。
- Das segundas (2001) 二度の
短二度および長二度の集積といった曲。ミ-ファのトリルで曲は始まり、32分音符で半音階を上下したり、グリッサンドしたりが現れる。中間部は全音音階(長二度)の音階や重音となり、後半は音高を厳密には指定しないクラスターの両手32分音符交互連打も現れる。- Das terças (2001) 三度の
低音ドのオクターブが鳴り響くのにのって、長三度または短三度のアルペジオが1回目はゆっくりと、2回目は速く奏される。続いて左手の増三和音と右手の短三長七和音が両手交互連打で荒々しく奏され、高音fffのバッテリーが炸裂する。- Das quartas (2001) 四度の
冒頭はオクターブでド-ファ-シ♭-ミ♭-ラ♭-レ♭-ソ♭-シ-・・・と完全四度の音程で上がっていく(12音鳴らされていて、ちょうど十二音技法になっている)。次は低音レ-ソ-ドのオスティナートにのって完全四度重音のモチーフ(ブラジル民謡を思わせる)が現れ、32分音符交互連打も加わり、野性的な盛り上がりとなる。- Das quintas (2012) 五度の
完全五度がずれる、または重音で奏される曲。それぞれの完全五度の間の音程は自由なので、しばしば半音階の響きも聴かれる。- Das sextas (2012) 六度の
- Das sétimas (2012) 七度の
バイアォンのリズムや教会旋法の使用が、ブラジル北東部(ノルデスチ )の民族音楽を思わせる曲。両手でそれぞれ短七度または長七度が鐘のように鳴る前奏に続き、左手低音に3-3-2のリズムが始まり(最後にアクセントがあるのでバイアォンのリズムに聴こえる)、それにのってハ長調のようで聴こえるもソやシが♭になる、即ちドのリディア旋法やミクソリディア旋法からなる旋律が七度重音で奏される。- Das oitavas (2012) オクターブの
ブラジルらしい3-3-2のリズムが全体的に流れる曲。冒頭はオクターブの16分音符交互連打で、その順番は左手-右手-右手-左手-右手-右手-左手-右手、と3-3-2のリズムが低音で鳴る。中間部では右手レ音オクターブが16分音符で連打され、その下で左手オクターブが3-3-2のモチーフを奏する。2014
- Passacalha para Nazareth ナザレのためのパッサカリア
イ短調、A-B-C-A-D形式。ナザレのピアノ曲《打ち明け、ワルツ Confidências, Valsa》と似た旋律が何とも寂しげに奏される。その後、伴奏の和音進行がほぼ同じで、Bは新たな旋律が低音部に、Cは熱情的な3連符が右手に奏され、Dは別の旋律が高音で奏されて終わる。2017
- Mondschein Chaconne (Chacona ao luar) 月光のシャコンヌ
ベートーベン生誕250年を記念して「ベートーベンのための250のピアノ曲 (250 piano pieces for Beethoven)」というプロジェクトが、ドイツのピアニスト、スザンヌ・ケッセルによって行われている。これは250名の現代作曲家にベートーベンに因んだピアノ曲の作曲を委嘱し、演奏・出版するというプロジェクトで、全10巻の内、2019年4月現在、6巻計151曲が出版されている。エジノ・クリーゲルもこの委嘱を受けこの作品を作曲、2017年5月22日にスザンヌ・ケッセルにより初演された。A-B-C-A-B'形式。ベートーベンの《ピアノソナタ第14番「月光」》の第1楽章の冒頭に現れる旋律をモチーフにしていて、嬰ハ短調でモチーフが左手中音部で奏され、ベースや対旋律が絡み、ハ短調に転調してクレッシェンドし、32分音符の激しいパッセージとなる。Bはモチーフが半音階で下行する和音の繰り返しと共にもう一度盛り上がる。Cはハ短調で、モチーフは左手伴奏音形となり、右手に3連4分音符混じりのベートーベンらしくない(ブラジル風にも聴こえる)旋律が奏される。2018
- Toccata arrabbiata (variantes rítmicas de uma estrutura harmônica) アラビアータ風トッカータ(一つの和声構造の中のリズムの変化)
アラビアータとは、パスタ料理などで用いられる、お馴染みの唐辛子入りのトマトソースを指している。イタリア語の「アラビアータ」の元々の意味は「怒った」であり、このトッカータはピリ辛であり、怒ったようなでもある曲に思えます。全体的に無調の鋭い響きで、まず増四度+完全四度の三和音による左手・右手の不規則なリズム連打で始まり、その後は増四度または完全四度の重音か、上述の三和音が打楽器的に鳴らされる。