Osvaldo Lacerdaのピアノ曲リスト
1948
- Três corais (para piano a quatro mãos) 3つの合唱曲(ピアノ連弾のための)
- Freu dich sehr, o meine Seele 大いに喜べ、わが魂よ
- Ich freue mich in dir 私はあなたとの出会いを喜び
- Sei gegrüsset, Jesu gütig 喜び迎えん、慈しみ深きイエスよ
1953
1955
1956
1958
- Cinco invenções a duas vozes 二声による5つのインヴェンション
- Magoado 悲嘆に暮れて
- Movido 動かされて
- Sem pressa 急がずに
- Melancólico 憂うつに
- Com flexibilidade, não muito rápido しなやかに、あまり速くなく
- Valsa Nº 1 ヴァルサ第1番
1960
- Estudo Nº 1 練習曲第1番
- Série na clave de sol ト音記号による連作
- Desafio (Invenção a duas vozes) 歌合戦(二声のインヴェンション)
- Ciranda シランダ
- Valsa ヴァルサ
- Modinha モジーニャ
- Arrasta-pé アハスタ・ペ
- Suíte Miniatura 小さな組曲
- Chorinho ショリーニョ
- Toada トアーダ
- Valsa ヴァルサ
- Modinha モジーニャ
- Cana-Verde カーナ・ヴェルジ
- Valsa Nº 2 ヴァルサ第2番
1961
- Suíte Nº 1 組曲第1番
- Dobrado ドブラード
- Chôro ショーロ
- Toada トアーダ
- Baião バイアォン
1962
1964
1965
- Brasiliana Nº 1 ブラジリアーナ第1番
- Dobrado ドブラード
- Modinha モジーニャ
- Mazurca マズルカ
- Marcha de rancho ランチョの行進
1966
- Brasiliana Nº 2 ブラジリアーナ第2番
- Romance ロマンス
- Chote ショッチ
- Moda モーダ
- Côco コーコ
1967
- Brasiliana Nº 3 ブラジリアーナ第3番
- Cururú クルルー
- Rancheira ランチェイラ
- Acalanto 子守歌
- Quadrilha クァドリーリャ(カドリーユ)
1968
- Brasiliana Nº 4 (para piano a quatro mãos) ブラジリアーナ第4番(ピアノ連弾のための)
- Dobrado ドブラード
- Embolada エンボラーダ
- Seresta セレスタ
- Candomblé カンドンブレ
- Ponteio Nº 4 ポンテイオ第4番
- Ponteio Nº 5 ポンテイオ第5番
1969
- Brasiliana Nº 5 ブラジリアーナ第5番
- Desafio デザフィーオ(歌合戦)
- Valsa ヴァルサ
- Lundú ルンドゥー
- Cana-verde カーナ・ヴェルジ
- Estudo Nº 2 練習曲第2番
- Estudo Nº 3 練習曲第3番
- Estudo Nº 4 練習曲第4番
- Estudo Nº 5 練習曲第5番
- Estudo Nº 6 練習曲第6番
- Estudo Nº 8 練習曲第8番
1970
1971
- Pequenas lições (1º caderno) 小さなレッスン集(第1巻)
- Seis por oito sincopado シンコペーションの6/8拍子
- Polegares presos 押し続ける親指
- Mudança de compasso 拍子の変化
- Mãos cruzadas 交差する両手
- Cromos (1º caderno) クロモス(第1巻)
- No balanço ブランコに乗って
- Pequeno estudo 小さな練習曲
- Lamurias 嘆き
- Sanfoneiro em ré レを鳴らすサンフォーナ弾き
- Cromos (2º caderno) クロモス(第2巻)
- Menino manhoso 器用な少年
- Valsinha sincopada シンコペーションの小さなヴァルサ
- A flauta do indiozinho 先住民のフルート
- Tagarelice おしゃべり
- Ponteio Nº 7 ポンテイオ第7番
- Brasiliana Nº 6 ブラジリアーナ第6番
- Roda ホーダ
- Ponto ポント
- Toada トアーダ
- Baião バイアォン
1972
- Cromos (3º caderno) クロモス(第3巻)
- Pingue-pongue ピンポン
- Jogando xadrez チェスをする
- Gangorra シーソー
- Brincando de pegador 鬼ごっこで遊ぶ
- Galopando ギャロップして
- Pequena canção 小さな歌
- Estudando piano ピアノの練習
- Melodia na esquerda 左手の旋律
- De duas em duas 2音づつ
- Contra-ritmo ポリリズム
- Legato e staccato レガートとスタッカート
- Terças 三度
- Oitavas na esquerda 左手のオクターブ
- Oitavas na direita 右手のオクターブ
- Ornamentos 装飾音
- Toada Nº 6 トアーダ第6番
1973
1975
- Cromos (4º caderno) クロモス(第4巻)
- Mixolídio ミクソリディア旋法
- Dórico ドリア旋法
- Lídio リディア旋法
- Pentafônica 五音音階
- Valsinha brasileira 小さなブラジル風ヴァルサ
- Sonata para cravo ou piano チェンバロまたはピアノのためのソナタ
- Allegro giusto
- Andantino con moto
- Allegro vivo
1976
- Brasiliana Nº 7 ブラジリアーナ第7番
- Samba サンバ
- Valsa ヴァルサ
- Pregão 物売りの声
- Arrasta-pé アハスタ・ペ
- Estudo Nº 10 練習曲第10番
- Estudo Nº 11 練習曲第11番
- Estudo Nº 12 練習曲第12番
1978
- Brasiliana Nº 8 (para piano a 4 mãos) ブラジリアーナ第8番(ピアノ連弾のための)
- Canto de trabalho 労働歌
- Frevo フレーヴォ
- Abôio アボイオ
- Terno de zabumba ザブンバの合奏
1979
1981
- Pequenas lições (2º caderno) 小さなレッスン集(第2巻)
- Contratempo オフビート
- Segundas 二度音程
- Canto do polegar 親指の歌
- Notas repetidas 繰り返す音符
1982
1983
1984
- Brasiliana Nº 9 ブラジリアーナ第9番
- Ponteio ポンテイオ
- Polca ポルカ
- Bendito ベンジート
- Forró フォホー
1987
- Brasiliana Nº 10 ブラジリアーナ第10番
- Cantoria カントーリア
- Recortado ヘコルタード
- Canto de cego 盲人の歌
- Marchinha マルシーニャ
1988
- Cromos (5º caderno - Aparelhos) クロモス(第5巻 - 道具)
- Metrônomo dodecafonico 十二音技法のメトロノーム
- O canto do ventilador 換気扇の歌
- Caixinha de música 小さなオルゴール
- Máquina de escrever タイプライター
1989
- Brasiliana Nº 11 ブラジリアーナ第11番
- Tango タンゴ
- Maxixe マシーシ
- Choro ショーロ
- Polca sertaneja 奥地のポルカ
- Valsa Nº 4 (binária) ヴァルサ第4番(2拍子)
1990
- Sonatina Nº 1 ソナチネ第1番
- Allegro moderato
- Andante con moto
- Allegreto
- Sonatina Nº 2 ソナチネ第2番
- Allegro non tropo
- Lento
- Vivace
1991
- Sonatina Nº 3 ソナチネ第3番
- Con moto moderato
- Andante lento, sostenuto
- Commodo e con grazia
1993
- Brasiliana Nº 12 (para piano a 4 mãos) ブラジリアーナ第12番(ピアノ連弾のための)
- Cateretê カテレテ
- Canto de bebida 酒飲みの歌
- Canção 歌
- Maracatú (Passacalha) マラカトゥ(パッサカリア)
1995
1996
- Oito variações e fuga sobre um tema de Camargo Guarnieri カマルゴ・グァルニエリの主題による8つの変奏とフーガ
- Tema: Andantino
- Var. I: Andante
- Var. II: Andante
- Var. III: Allegro moderato
- Var. IV: Vivace quasi presto
- Var. V: Allegretto alla marcia
- Var. VI: Allegro moderato
- Var. VII: Con moto
- Var. VIII: Pesto
- Fuga: Andante lento
- Coda: Andantino
1998
- Cinco variações sobre "Escravos de Jó" 「ヨブの奴隷」による5つの変奏曲
- Tema: Allegro moderato
- Var. I: Lo stesso tempo
- Var. II: Andantino
- Var. III: Allegretto Grazioso
- Var. IV: Alla marcia, quasi funebre
- Var. V: Allegro grazioso, tempo di valsa
2000
2006
- Homenagem a Scarlatti スカルラッティを讃えて
- Sonata I - lá menor ソナタ第1番ーイ短調
- Sonata II - Mi maior ソナタ第2番ーホ長調
2009
2010
Osvaldo Lacerdaのピアノ曲の解説
1953
- Variações sobre "Mulher Rendeira" 「ムリュール・ヘンデイラ」による変奏曲
「ムリュール・ヘンデイラ」は「レース編みをする女性」という意味。ブラジル北東部(ノルデスチ)では昔からレースが民芸品として有名で、主にボビンレースを編む女性職人たちのことを「ムリェール・ヘンデイラ」と呼んでいる。この変奏曲の主題として用いられている旋律は「ムリュール・ヘンデイラ」という名のブラジル・ノルデスチの民謡で、民謡の作者は(一説ではあるが)カンガセイロと呼ばれるノルデスチの盗賊団の首領ヴィルグリーノ・フェレイラ・ダ・シルバ Virgulino Ferreira da Silva(1898-1938、ランピアォン Lampião というあだ名で有名)で、彼がレース編みをする祖母を讃えて1922年に作ったとされている。ラセルダはこの旋律を、ブラジルの詩人・民俗学者・音楽評論家であるマリオ・ジ・アンドラージの著書『Ensaio sôbre a música brasileira』(1928) 内の楽譜から引用している。また楽譜の主題の旋律の下には民謡の歌詞が記されていて、「ランピアォンが山からやって来た、カジャゼイラの木の下で踊った、若い娘たちがムリュール・ヘンデイラを歌った、オーレ、ムリュール・ヘンデイラ、オーレ、きれいなレース、レースの作り方を教えてよ、恋の仕方を教えてあげるから」という内容である。ノルデスチ民謡らしいリズムや教会旋法の使用など、現地感?たっぷりの組曲である。まず主題がホ長調の単音で奏される(楽譜の脚注には「可能なら歌詞を付けて歌うように」と記されている)。第1変奏は主題がゆったりと右手に奏され、左手は2つの対旋律が対話のように奏される。第2変奏はミのミクソリディア旋法でスタッカート16分音符となって主題が奏される。第3変奏は低音オスティナートが静かに鳴るのにのって、主題が神秘的な不協和音を伴って奏される。第4変奏は単音の旋律と力強い和音の掛け合いで、主題はリディア旋法とミクソリディア旋法の混合。第5変奏は左手中音部に主題が静かに奏され、右手高音に後打ちの和音が加わる。第6変奏はバイアォンのリズムに似た対旋律や和音がスタッカートで鳴る。第7変奏は低音の荘厳な和音の部分と、高音2オクターブのユニゾンのモチーフが交互に現れていて、アボイオ Aboio(ノルデスチの牧童の牛追いの唄)を模しているような気がする。第8変奏は四声のポリフォニックな作りで、リディア旋法とミクソリディア旋法の混合の変奏が静かに奏される。第9変奏は前打音を伴ったスタッカートが悪戯っぽく鳴る。第10変奏はリズムはポルカ風で、伴奏の短二度不協和音が引き締まった響き。第11変奏はトッカータ風。第12変奏(コーダ)は4段楽譜になり、低音オクターブで主題が、高音で合いの手の完全五度和音がそれぞれ力強く奏される。- Toada トアーダ
トアーダとはブラジルの民謡の一種で、一般的に単純なメロディーに自然や故郷を歌う哀愁のこもった歌が多い。ラセルダはこのトアーダと、《トアーダ第2番》(未出版)、《トアーダ第6番》(1972) の3曲を残している。A-B-コーダの形式。Aの十度重音で奏される穏やかな旋律はファソラシドレミ♭と、ファのリディア旋法とミクソリディア旋法の混合で、2/4拍子と3/4拍子が時々替わる可変拍子なのも相俟って、魂が漂白するようないい雰囲気。Bは左手アルペジオの伴奏にのって、右手高音に新たな旋律が現れ、上記の旋法に加え、レのドリア旋法にもなったりする。最後はAの冒頭の旋律が少しだけ静かに回想されて終わる。1955
- Ponteio Nº 1 ポンテイオ第1番
ポンテイオ Ponteio という言葉は、ポルトガル語のpontear(=ギターなど弦楽器などをつま弾く)とprelúdio(=前奏曲)を混ぜた造語である。言わば、ヨーロッパの「前奏曲」のスタイルを受け継ぎながらも、ギターのつま弾きなどの響きを用いて、ブラジル人の魂を音楽にした作品である。ラセルダの師である作曲家のカマルゴ・グァルニエリの代表作である50曲からなるピアノ曲集《ポンテイオス》により、20世紀ブラジルのクラシック作曲家にとっては一つのジャンルとして数々のポンテイオが作曲されている。ラセルダは1955年から1983年にかけて10曲のポンテイオを作曲した。第1番は一応ニ短調、A-B-C-A'-コーダの形式。右手は哀愁漂う旋律がギターのつま弾きを思わせる分散和音を伴ってゆったりと奏され、左手は低弦ギター(7弦ギター)がベースでの対旋律(ショーロではこの短い対旋律をバイシャリアと言う)を奏でるような音の動きだが、このベースの対旋律がミ♭ソ♭ラ♭など不協和音がしばしば出て多調に近い響きだ。この曲は1956年にラセルダ自身により管弦楽曲にも編曲された。1956
- Ponteio Nº 2 ポンテイオ第2番
A-B-A'形式。ゆったりとしたシンコペーションの左手伴奏にのって、彷徨うような旋律ラのミクソリディア旋法でが奏される。ゆったり歌うような雰囲気はトアーダであろう。A'は左手中音部に旋律が移る。この曲はラセルダ自身により、1959年に弦楽オーケストラにも編曲された。1958
- Cinco invenções a duas vozes 二声による5つのインヴェンション
二声の対位法、転調が多く調性が定まらない技法を用いた作品。第5番以外はブラジル音楽を感じさせるのも特徴的である。
- Magoado 悲嘆に暮れて
ホ短調で始まる。モジーニャの雰囲気の曲。- Movido 動かされて
ほぼ無調の響きだ。ヴァルサ・ブラジレイラの雰囲気を少し感じる。- Sem pressa 急がずに
ニ短調で始まる。シンコペーション混じりの旋律が、二人のショーロ楽士の即興演奏を感じさせる曲。- Melancólico 憂うつに
イ短調で始まる。この曲もショーロ楽士の即興演奏のようだが、第3番に比べて活気がない。- Com flexibilidade, não muito rápido しなやかに、あまり速くなく
ホ長調で始まる。9/8拍子および6/8拍子の軽快な踊りのような雰囲気はバロック組曲のジーグを思わせる。- Valsa Nº 1 ヴァルサ第1番
ラセルダは6曲のヴァルサ(ワルツ)Valsa を作曲している。ブラジルの作曲家達が挙って作った、いわゆるヴァルサ・ブラジレイラ Valsa brasileira(ブラジル風ワルツ)の流れを汲んだ作品群だが、師のカマルゴ・グァルニエリの影響の強い、全体的に不協和音の多い響きとなっている。ヴァルサ第1番はホ短調、A-B-A'形式。左手伴奏はベースが半音階を上がったり下がったりして、それにのって哀愁溢れる旋律がしっとりと奏される。Bの前半では右手は主旋律+対旋律、左手はまた別の対旋律+ベース音となり、四声の凝った作りで聴き所である。1960
- Estudo Nº 1 練習曲第1番
ラセルダは1960年から1976年にかけて3巻から成る計12曲の練習曲を作曲した。各曲にはそれぞれ重点を置いているテクニックがあって、音階、アルペジオ、重音、オクターブ、トレモロ、トリルなど様々なテクニックが現れる。ショパンやドビュッシーの練習曲集並みの高度な技巧を要する曲ばかりで、しかも現代作品らしい不協和音満載で無調の曲も多く、技巧的にも音楽的解釈の面からも難曲である一方、ブラジルらしいリズムやモジーニャ風の旋律、ブラジル北東部の民族音楽で用いられる教会旋法なども随所に現れて興味深い作品群である。第1番はハ短調。(強いて言えば)A-B-C-A'-コーダの形式だが、ABCいずれも3-3-2のリズムによるモジーニャ風の同じ主旋律で始まっていて、Aは上の音域から、右手は主旋律+16分音符の対旋律、左手の断片的な音+低弦ギターによるバイシャリアを思わせるベース進行、の4層構造のポリフォニーでショーロ楽団の合奏を思わせる。Bは上から16分音符の対旋律+主旋律、断片的な音+ベース進行に替わり、Cは変ロ短調になってオクターブ主旋律+16分音符の対旋律、断片的な音+オクターブ音のベース進行と音量を増して盛り上がる。A'はハ短調に戻り、右手16分音符の対旋律と左手低音の主旋律のみが静かに奏され、コーダは冒頭Aと同じ構造になって終わる。- Série na clave de sol ト音記号による連作
題名通り全曲がト音記号のみで書かれていて、第5番〈アハスタ・ペ〉を除いて右手・左手共にほぼ単音の二声から成っているシンプルな響きの組曲だが、その少ない音の中にブラジル民族音楽を詰め込んだ興味深い作品である。後年のラセルダの代表作である連作《ブラジリアーナ》の走りと言えよう。
- Desafio (Invenção a duas vozes) 歌合戦(二声のインヴェンション)
ポルトガル語のDesafioとは直訳すると「決闘」とか「挑戦」「口論」という意味だが、ここではブラジル(特にブラジル北東部)での2人の歌手による即興を競う歌合戦のようなものを指している。左手にソのミクソリディア旋法の旋律が現れ、4小節遅れて右手1オクターブ上で同じ旋律が追う。その後この旋律は旋法の終止音がド→ファ→シ♭と変りつつ何度も現れ、最後はソに戻って旋律は音価が2倍になる〜とフーガの形式を備えている。- Ciranda シランダ
シランダとは、歌いながら輪になっての踊りのことで、ブラジルでは子ども達の遊びとして有名。ハ長調、A-B-A'形式。童歌のような素朴な旋律が右手に、対旋律が左手に奏される。Bはイ短調になる。- Valsa ヴァルサ
イ短調、A-B-A'形式。楽譜に「左手を目立たせて」と記されており、哀愁漂う主旋律が左手、対旋律が右手に奏される。Bは新たな主旋律が右手に現れる。A'はAの右手左手の声部が逆転して奏される。- Modinha モジーニャ
モジーニャとは19世紀に起ったブラジルの歌のジャンルで、たいてい哀愁漂う短調の曲である。A-A'形式。強いて言えばト短調の寂しげな旋律が二声のカノンで奏され、いつの間にかニ短調になる。- Arrasta-pé アハスタ・ペ
アハスタ・ペとは直訳すると「足を引きずる」という意味だが、これはブラジルー特にブラジル北東部(ノルデスチ)ーの大衆のダンスパーティーのこと。ト長調、A-B-A'形式。陽気な旋律が奏される。Bはホ短調になり、左手に旋律が奏され、右手は後打ちの和音がスタッカートで奏される。- Suíte Miniatura 小さな組曲
ブラジル民族音楽の中でも比較的ポピュラーなものを題材にした親しみやすい組曲で、ピアノ技巧的にも初級〜中級程度である。
- Chorinho ショリーニョ
イ短調、A-A'形式。ギターの低弦で奏されるような旋律が左手に現れ、その上でフルートを思わせる合いの手のような対旋律(コントラポント)が右手で奏される。- Toada トアーダ
ハ長調、A-B-A'形式。単音の静かな左手伴奏にのって、穏やかな旋律が右手に奏される。Bはハ短調になる。- Valsa ヴァルサ
ニ短調、A-B-A'形式。左手単音のヴァルサのリズムにのって旋律が奏される。Bはヘ長調になり、左手はベース兼旋律となる。- Modinha モジーニャ
イ短調、前奏-A-A'-後奏の形式。4小節の前奏に引き続き、右手に哀愁漂う旋律が奏される。左手ベースは対旋律(バイシャリア)のように動くのが粋だ。- Cana-Verde カーナ・ヴェルジ
カーナ・ヴェルジは直訳すると「緑のサトウキビ」という意味だが、ポルトガル由来のブラジルの民族舞踊で輪になって踊られる。ハ長調、A-A'-B-A"形式。軽快な左手伴奏にのって楽しげな旋律が奏される。- Valsa Nº 2 ヴァルサ第2番
ニ短調、A-B-A形式。右手に哀愁漂う旋律が奏されるが、主旋律も、左手ベース兼対旋律も半音階だらけで調性がぼやけた響きになっている。Aの後半は旋律は左手低音に移る。1961
- Suíte Nº 1 組曲第1番
- Dobrado ドブラード
ドブラードとはブラジルの軍隊行進曲の一種で、スペインが起源とのこと。ラセルダはこの曲以外にも、組曲《ブラジリアーナ第1番》第1曲と、組曲《ブラジリアーナ第4番》第1曲でドブラードを作曲している。ト短調、A-B-A形式。Aは右手に主旋律と後打ちの8分音符リズム、左手に対旋律が奏される。対旋律がしばしばト短調以外の和音、則ち多調になるのがラセルダのピアノ曲らしい響きだ。Bは主旋律が左手に移り、チューバなど低音金管楽器を思わせる旋律が奏される。- Chôro ショーロ
ハ短調、A-B-A'形式。右手の16分音符スタッカート連続の旋律はフルートを思わせ、左手は四度または五度の和音の堆積をしばしば伴い、シンコペーション混じりの対旋律はギターを思わせる、言わばショーロのアンサンブルの掛け合いのような雰囲気の曲。Bでは16分音符スタッカートは左手に、シンコペーションは右手にと逆転し、Aに似た掛け合いが変ロ短調〜ホ短調〜ニ短調と転調していく。- Toada トアーダ
変ホ長調、A-B-A'形式。右手が主旋律をゆったりと奏で、左手は二声で、対旋律と♩. ♩. ♩のシンコペーションを静かに刻む。4/4拍子の曲だが、時々不規則に3/4拍子になるのが即興の歌のような雰囲気を醸し出している。- Baião バイアォン
バイアォンとは、ブラジル北東部(ノルデスチ)の踊りの一つ。A-B-A'形式。Aは一応ト長調のバイアォンのリズムが左手に絶え間なく続き、右手にレ♭のミクソリディア旋法で軽快な旋律が奏される、やがて旋律は二声となって盛り上がる。Bは左手に新たな野性的な旋律が現れ、旋律はやがて右手オクターブに引き継がれて華やかに奏される。1962
- Valsa Nº 3 ヴァルサ第3番
ロ短調、A-B-A形式。半音階を上がったり下がったりする左手ベースにのって、哀愁たっぷりの旋律が奏される。Bはテンポを速め、旋律は8分音符が続いて急き立てられるような雰囲気になる。1964
- Ponteio Nº 3 ポンテイオ第3番
ホ短調、A-B-C形式。半音階進行でゆっくり上がっていくオクターブのベースにのって、哀調ある旋律が奏される。Bは対旋律も加わり三声、四声と複雑な響きになる。Cはまた静かな響きに戻り、最後はギターの開放弦のつま弾きを思わせるアルペジオで終わる。1965
- Brasiliana Nº 1 ブラジリアーナ第1番
連作組曲《ブラジリアーナ Brasiliana》は、第1番から第12番まで作曲され、各組曲はそれぞれ4曲から成っているので計48曲となる。1965年作曲の第1番から、1993年作曲の第12番まで足掛け29年に亘っていて、ラセルダのライフワークであり、彼のピアノ曲の代表作である。ブラジル音楽の源となる様々な素材ー先住民由来のクルルー Cururú、アフリカからの黒人奴隷がもたらしたコーコ Côco やカンドンブレ Candomblé など、またヨーロッパからの移民がもたらしたドブラード Dobrado やマズルカ Mazurca、ショッチ Chote、ポルカ Polca、ヴァルサ Valsa、カーナ・ヴェルジ Cana-verde など、またブラジルの街角のポピュラー音楽として発生したエンボラーダ Embolada、フレーヴォ Frevo、フォホー Forróなどーを用いており、その素材の豊富さはブラジル民族音楽のパノラマの様相を呈していると言ってよさそうである。これらの豊潤なブラジル民族音楽をラセルダは高度な作曲技法で芸術作品に昇華しており、作曲技法が高度過ぎて不協和音が難解な所がしばしばあるものの、傑作揃いの組曲ばかりである。組曲ブラジリアーナ第1番は楽譜の冒頭の解説によると、ピアノを習い始めて4〜5年目向けに作曲されたと記されており、多くの部分が右手左手共に単音で書かれていて技巧的には簡単であるが、少ない音の中で絶妙な不協和音を醸し出している所はなかなかの出来である。
- Dobrado ドブラード
ドブラードとはブラジルの軍隊行進曲の一種。ト長調、A-B-A形式。Aはスタッカートの伴奏にのって勇ましい旋律が奏される。この旋律で聴かれる付点音符や3連符、装飾音風の3連16分音符などいずれもトランペットやフルートなどの管楽器の響きを思わせるリズムだ。中間部Bはホ短調になり、後打ち(アップビート)の右手リズムの下で。左手にチューバの音色を思わせる堂々とした旋律が奏される。- Modinha モジーニャ
ハ短調、A-B-A'形式。左手に段々下降していく陰うつな旋律が現れ、3小節遅れて右手で同旋律がカノンで追唱していく。Bは変イ短調〜ト短調になり、右手旋律が先行したり、また左手旋律先行に戻ったりと二声が絡んでいく。- Mazurca マズルカ
変ロ長調、A-B-A'形式。ショパンの《マズルカ第5番、作品7-1》をちょっと思わせる雰囲気の曲だが、2、3小節目などで属七の和音のベースをファではなくわざとミ♮の不協和音にしている所は、ラセルダの師カマルゴ・グァルニエリ譲りの不協和音と言えよう。Bは変ト長調になる。- Marcha de rancho ランチョの行進
ranchoとはカーニバルのパレードに出演する一団のこと。ト短調、A-B形式。太鼓の音のような左手伴奏にのって、右手に旋律が奏される。左手伴奏のベース音が本来ならレ音の所を、わざとド♯にして変な響きにしている所は、カーニバルの楽団の(ちょっとハズレた響きの)太鼓またはチューバの音色を面白く描写しているようにも思えて興味深い。後半Bはト長調になり、右手旋律は二声に増える。
1966
- Brasiliana Nº 2 ブラジリアーナ第2番
- Romance ロマンス
イ短調、変奏曲形式。最初に哀愁を帯びた3拍子の単旋律が主題として9小節奏される。続いて4つの変奏が現れるー第1変奏は左手が旋律に、第2変奏は5/8拍子や2/4拍子に度々変わる可変拍子、第3変奏は左手旋律と右手対旋律が掛け合うヴァルサ・ブラジレイラ風、第4変奏は旋律は断片的になり、静かに終わる。- Chote ショッチ
ショッチ Chote(ポルトガル語ではchótis、xote、xótisと綴られることもある)はヨーロッパのボヘミア地方辺りが起源の踊りで、ショッティッシュ Schottisch という名でヨーロッパに広く伝わっている。19世紀にブラジルに伝わると、ブラジル北東部を中心に独自に発展してきている。変ホ長調、A-B-A'形式。スタッカート混じりの軽快な伴奏にのって明るい旋律が奏される。Bはハ短調になる。- Moda モーダ
嬰ヘ長調、A-B-A'形式。十度音程の、静かに語りかけるような二重唱を思わせる素朴な旋律が続き、時々ギターを思わせる和音が合いの手のように奏される。この旋律の低音部の最後はフリギア旋法になり謎めいた雰囲気。中間部Bはフリギア旋法を時々織り込みつつ、イ長調〜ハ長調〜変ホ長調〜嬰ヘ長調と転調していき、また独特の雰囲気である。- Côco コーコ
コーコとはブラジル北東部の沿岸地域特有の民謡の一種。「コーコ」は椰子の実を意味していて、椰子の実穫りの仕事の歌だとか、またアフリカ起源で、ブラジルに連れて来られた黒人奴隷により伝えられてきたと民謡だとも言われている。イ長調、A-B-A'-B'形式。シンコペーションの左手リズムにのって、軽快な旋律が右手に奏される。Aの旋律の最後がラのミクソリディア旋法になっているのも面白い。Bはイ短調で早口で喋り捲るような16分音符が滑稽だ。A'は冒頭の旋律が1オクターブ高い所で変奏されつつ繰り返される。(この高音の旋律はブラジルの民族楽器ピフェ pife - 竹で作られた横笛 - の響きのようだとする文献がある。)1967
- Brasiliana Nº 3 ブラジリアーナ第3番
- Cururú クルルー
クルルーとはトゥピ・グアラニー語でヒキガエルの意味だが、男性の歌に合わせて輪になって踊るブラジルの民謡の一種で、ブラジル先住民由来とされている。ニ長調、変奏曲形式。冒頭は男性二重唱を思わせる三度重音の主題が左手で奏される。第1変奏は即興的な歌の感じ。第2変奏はゆったりと朗唱するような感じ。第3変奏は楽譜にRubatoと記されている通り、変奏された旋律が抑揚を付けつつ上下する。第4変奏は重音の旋律を左手で奏し、右手でピアノのボディを手指の関節で叩いてリズムを取るように指示されている。- Rancheira ランチェイラ
ランチェイラとはリオ・グランジ・ド・スル州などのブラジル南部およびウルグアイ、アルゼンチンで演奏される舞曲の一つで、マズルカの影響を受けているらしい。変ロ長調、A-B-A'形式。右手旋律は陽気な旋律が奏されるが、左手伴奏はベースや対旋律の半音階進行も含め不協和音満載で、多調にも聴こえる。Bはホ長調になる。- Acalanto 子守歌
イ短調、A-B-A'形式。オスティナートの左手伴奏♪♩ ♪にのって旋律が静かに奏される。時折シがシ♭になったり、ファがファ♯になったりするのが素朴な子守歌の雰囲気らしくていい。- Quadrilha クァドリーリャ(カドリーユ)
クァドリーリャとは、ヨーロッパで18〜19世紀に流行したカドリーユ Quadrille(フランス語)という歴史的ダンスのポルトガル語表記で、19世紀にはブラジルのサロンでも踊られていたらしい。ニ長調、前奏-A-B-A-C-A-コーダのロンド形式。4小節の前奏に引き続き、着飾った男女が華やかに踊るような軽快な舞曲が奏される。Bはト長調になり、左手低音に滑稽な旋律が奏される。Cは変ロ長調になり、右手高音の旋律が煌びやかな響き。1968
- Brasiliana Nº 4 (para piano a quatro mãos) ブラジリアーナ第4番(ピアノ連弾のための)
ラセルダが作曲した連作組曲《ブラジリアーナ》の多くは、初心者でも弾けるようにと意図されたのか、全体的に音を切り詰めたような曲が多く、民族音楽の節回しやリズムの使用、高度な和声法など面白い所が満載ながら、ピアノの響きのゴージャスさや名人芸的技法に乏しい点が物足りないように私には思えるのだが、連弾のために書かれたこの《ブラジリアーナ第4番》と《ブラジリアーナ第8番》は、連弾曲らしい豊かな響きの作品となっていて聴き応えがある。《ブラジリアーナ第4番》はラセルダのピアノ曲の中でも一番弾かれる機会が多く、(ラセルダの作品では珍しく)録音が何種類もある。
- Dobrado ドブラード
《組曲第1番》および《ブラジリアーナ第1番》にも同名の〈ドブラード〉という曲があるが、《組曲第1番》や《ブラジリアーナ第1番》での右手左手とも単音ずつだったりというシンプルな響きと対照的に、この《ブラジリアーナ第4番》のドブラードは連弾曲らしく吹奏楽のゴージャスな響きを思わせる軍隊行進曲となっていて、ラセルダの作品の中でも最も親しみやすい作品に思えます。変ロ長調、A-B-A'形式。冒頭Aではセコンド (segundo) は左手ベース音でチューバや大太鼓を、右手アップビートの和音でホルンや小太鼓を、またプリモ (primeiro) は左手対旋律でサクソフォーン辺りを、右手主旋律でフルートやトランペット辺りを表現している。Bはホ短調になり、セコンドは低音管楽器がトゥッティで力強い旋律を吹くようにオクターブを弾き、プリモは高音楽器がアップビートの和音を吹くような和音を奏でる。A'ではセコンドの右手に主旋律が現れるのも、冒頭とは主旋律の演奏楽器が替わったような効果で面白い。- Embolada エンボラーダ
エンボラーダとはブラジル北東部の即興音楽の一種。大抵、パンデイロ(ブラジルのタンバリン)を持った二人が向かい合い、漫才のようにお互いに即興で早口の歌を歌い合い、パンデイロを叩いて相手を挑発していく。A-B-A'形式。まずプリモがソのミクソリディア旋法で、早口言葉のような16分音符スタッカートの旋律を高音部オクターブで弾き始める。4小節目から今度はセコンドがレ♭のミクソリディア旋法で、言い返すような16分音符の旋律を低音部オクターブで応酬し、プリモはパンデイロを叩くような不協和音をパンパンと弾く。Bではプリモが16分音符旋律を弾き続け、セコンドはパンデイロ役の和音をシンコペーションで奏する。A'は再び二人の掛け合いとなり、(冒頭Aでは一応相手の旋律が終わってからお互いに歌い返していたのが)ここでは二人の応酬は熱を帯び、相手が歌い終わらないうちに歌い返しが始まり、プリモとセコンドの旋律が喧嘩のように乱れまくる。- Seresta セレスタ
Serestaとはセレナードのこと。ホ短調、A-A'-A"形式。Aはセコンドのみの演奏で、ギターの音色のような十度和音にのって哀愁漂う旋律が静かに奏される。A'では旋律はプリモに引き継がれ、対旋律があちこちから現れて絡んで盛り上がる。A"では旋律は再びセコンド右手のみになり、セコンド左手とプリモによる和音がポロンポロンと鳴り、最後はセレナーデ歌いが夜の暗闇に消えていくように終わる。
- Candomblé カンドンブレ
カンドンブレとはアフロ・ブラジリアン宗教の一つで、かつてアフリカからブラジルに連れて来られた奴隷たちがもたらした宗教がブラジルで独自の発展を遂げ、彼らの子孫が現在に到るまでカンドンブレの信仰を続けている。A-B-A'-コーダ。プリモのペンタトニックの旋律も謎めいているが、セコンドによる不協和音でヘミオラの伴奏がオスティナートで続く様は、魔術的宗教儀式といった感じだ。無調的なBに続いて、再現部A'ではペンタトニックの旋律はセコンドによる低音オクターブに移る。コーダは聖職者にカンドンブレの神が憑依したようなアッチェレランド・クレッシェンドで盛り上がって終わる。- Ponteio Nº 4 ポンテイオ第4番
A-A'-B-A"-コーダの形式。ズンチャズズンチャズのリズムはショーロの演奏を思わせる。強いて言えばホ短調に近いが、減三和音や短二度のぶつかりの多用など硬い響きの不協和音だらけである。- Ponteio Nº 5 ポンテイオ第5番
半音階を多用した無調の旋律と、合いの手の和音や対旋律やが奏される、謎めいた雰囲気の曲。1969
- Brasiliana Nº 5 ブラジリアーナ第5番
- Desafio デザフィーオ(歌合戦)
デザフィーオの意味については、1960年作曲《ト音記号による連作 Série na clave de sol》の第1曲〈Desafio〉を参照下さい。曲は無調の旋律が右手に現れ、3小節遅れて左手に完全四度下で同旋律が現れる、その間に右手は別の旋律を演奏し始めるーとフーガの様式に似ていて、その後は前述の主唱や対唱の素材が入り乱れて展開していく。最後は追迫部(ストレッタ)となり、主題の音価は2倍となり、また僅か1小節後に応唱が始まる。無調にフーガとブラジル民族音楽とは一見かけ離れているが、ブラジルのデザフィーオの歌い手達が相手の歌を上手に変唱したり、即興ながら歌詞にはちゃんと韻を踏んでいたりと高度な様式を用いることで技を競い合う様を、ラセルダはフーガで表現したのかもしれない。- Valsa ヴァルサ
ニ短調、A-B-A形式。右手左手とも単音で書かれている。右手に哀愁漂う旋律が奏される。左手伴奏のベース音が本来ならラ音の所を、わざとソ♯にして変な響きにしている所は、ギターの調弦が狂っているのを描いているのかな。Bはヘ長調になる。- Lundú ルンドゥー
ルンドゥーはアフリカから連れて来られた奴隷達によってアンゴラから伝えられた踊りが起源とされているが、19世紀にスペイン、ポルトガルのファンダンゴが混ざり、庶民の踊りから上流階級の歌曲に様変わりしてきている(長調ながら哀調を帯びた歌が多いように思えます)。変ロ長調、A-B-A'形式。シンコペーション混じりながら奥ゆかしい旋律が奏される。Bは変ト長調になる。- Cana-verde カーナ・ヴェルジ
ヘ長調、A-B-A'形式。右手旋律は普通のI度ーV度の繰り返しだが、左手伴奏はI度の所をド-ファ-シ、V度の所をレ♭-ソ♭-ドとしているので滑稽な響きになっている。Bはヘ短調になる。- Estudo Nº 2 練習曲第2番
(強いて言えば)A-B-C-A'-コーダの形式だが、ABCいずれもほぼ同じミクソリディア旋法の旋律で始まる。この旋律はブラジル北東部(ノルデスチ)の民謡〈Lampião tava dormindo acordou〉に似ているとする文献があるように、ノルデスチ民謡の雰囲気と不協和音が妙にマッチしている。Aでは左手にラ♭のミクソリディア旋法が、右手に長七度上でソのミクソリディア旋法と、そのまた増四度上でド♯のミクソリディア旋法がそれぞれ旋律を奏でる。B、C、A'はそれぞれ上記の三声がいずれも旋法の終止音を変えて奏される。- Estudo Nº 3 練習曲第3番
A-B-C-C'-B'-コーダの形式。64分音符の半音階の練習曲。無調でありペダルも殆ど使わず弾くべきと思われ、無機質な雰囲気の曲である。Aは断片的な音階が段々伸びていき、三全音の両手音階が鳴る。Bはレシタティーボ風で、ここだけ速い音階はお休みする。Cは無調の息の長い左手旋律?の上で、右手64分音符の半音階が駆けずり回る。C'では64分音符の音階が左手に移り、右手に旋律が現れる。- Estudo Nº 4 練習曲第4番
A-A'-コーダの形式。両手交互打鍵の練習曲。左手はミ♭のペンタトニックの旋律を、右手は16分音符後を半音高いミのペンタトニックの旋律を交互にスタッカートで速く弾くー則ち楽譜上は多調に見えるが、実際聴こえてくる音は半音階の単旋律である。A'では左手ミの旋律が先行し、右手ミ♭の旋律が後を追う。- Estudo Nº 5 練習曲第5番
A-A'形式。両手重音の練習曲。右手・左手共に8分音符重音が続く。右手最上音の響きからはニ短調だが、重音が両手とも不協和音で無調にも聴こえる。(Aでは両手同時に弾いていた所を)A'では左手の重音を8分音符遅れで右手がカノンのように追いかけて奏する。- Estudo Nº 6 練習曲第6番
A-B-B'-A'形式。Aは主に両手分散オクターブが、楽譜の冒頭に「怒って com raiva」と記されている通り激しく鳴り響く。右手・左手が三全音であることが多いことも相俟って無調の響きだ。Bは左手16分音符分散音にのって、ちょっとモジーニャ風の無調の旋律が奏される。- Estudo Nº 8 練習曲第8番
A-B形式。重音の半音階進行の練習曲。左手の重音は常に長二度だが、右手の重音はAは長二度、Bは減五度となる。無調で、不協和音がすっと続く。1970
- Estudo Nº 7 練習曲第7番
A-B-A'形式。トレモロの練習曲で、両手ともそれぞれ三度〜オクターブのトレモロがずっと続くので(A'で左手のトレモロは一時止むが)、演奏するには結構体力を要する曲である。右手トレモロの中から聴こえてくる旋律はレのドリア旋法である。1971
- Pequenas lições (1º caderno) 小さなレッスン集(第1巻)
この組曲は第1巻が1971年に、第2巻が1981年に作曲された。第1巻の楽譜の扉には「これらの "小さなレッスン集" は以下のピアノの練習を示している 1)技巧やリズムの問題、2)ブラジルの旋律の姿」と記されている。ピアノ初心者向けの小品で、各曲とも1分前後の短い曲から成っている。
- Seis por oito sincopado シンコペーションの6/8拍子
イ短調。右手旋律はずっとシンコペーションの続いている曲。楽譜の解説には「旋律はモジーニャの性質である」と記されていて、哀愁漂う雰囲気だ。- Polegares presos 押し続ける親指
右手親指はソ、左手親指はファを押さえながら 、他の指を用いてソのミクソリディア旋法の右手旋律・左手対旋律がスタッカートで奏される(時折ソのリディア旋法にもなる)。- Mudança de compasso 拍子の変化
2/4拍子〜3/4拍子〜4/4拍子と頻繁に拍子が変る中、レミファソラドレのヘキサトニックの素朴な旋律が奏される。- Mãos cruzadas 交差する両手
ミ-ファ♯-ソ-ラ-シ-レのヘキサトニックの単旋律を右手・左手で手分けして弾く曲。- Cromos (1º caderno) クロモス(第1巻)
Cromoとは石版画の一種のこと。ラセルダが身の回りのいろんな事象を音楽にー遊びの光景のような標題音楽から第4巻で見られる教会旋法までー描きこんだ組曲である。各4曲から成る組曲が1巻から5巻まであり、計20曲が1971年から1988年にかけて作曲された。各曲の楽譜の冒頭には、ラセルダ自身による演奏上の指示の説明文が記されている。
- No balanço ブランコに乗って
A-B-A形式。右手旋律はファソラドレのペンタトニックの穏やかな旋律を奏で、左手はブランコが揺れるような♩ ♪♩ ♪のオスティナートが続く。左手和音がFとG7の和音の繰り返しでいい雰囲気。Bは和音がDmとG7になり、レのドリア旋法の旋律が奏される。- Pequeno estudo 小さな練習曲
A-B-A-コーダの形式。5/8拍子で、8分音符スタッカートが続く旋律がソのミクソリディア旋法で奏される。Bはト短調になる。- Lamurias 嘆き
16分音符半音階のモチーフと、前打音混じりの4分音符のモチーフが単音または二声で奏される。- Sanfoneiro em ré レを鳴らすサンフォーナ弾き
サンフォーナとはブラジル北東部(ノルデスチ)でのアコーディオンの呼び名。サンフォーナの調べを思わせる左手16分音符アルベルティバスの伴奏にのって、右手に朗々と歌うような旋律が奏される。伴奏・旋律ともにレのミクソリディア旋法なのがノルデスチの音楽らしい雰囲気。旋律が一段落すると右手も16分音符となり、サンフォーナ弾きが興に乗っているような感じだ。- Cromos (2º caderno) クロモス(第2巻)
- Menino manhoso 器用な少年
楽譜の冒頭に「クロモス(第1巻)第3曲 "Lamurias" の編曲である」と記されている通り、16分音符半音階のモチーフと、前打音混じりの4分音符のモチーフが用いられた単旋律の曲。- Valsinha sincopada シンコペーションの小さなヴァルサ
イ短調、A-B-A-コーダの形式。左手単音で奏されるヴァルサの伴奏にのって、素朴な旋律が奏される。Bはハ長調〜ハ短調になる。- A flauta do indiozinho 先住民のフルート
両手ともレ♯-ファ♯-ソ♯-ラ♯-ド♯のペンタトニック(則ち黒鍵のみ)で書かれた曲で、左手オスティナートの伴奏にのって、右手高音部に民謡風の素朴な旋律が奏される。- Tagarelice おしゃべり
楽譜の冒頭には「この曲の演奏のために、3人のおしゃべりをイメージすること。中音部(左手)は同じ事をしつこく言い続ける人を、高音部はくだらないことを喋る人を、低音部は同じコメントを口出しをする人で、最後は他の二人を黙らせる。」と記されていて、以上の曲の意図を知って聴くと結構面白い。左手中音部ミとファの短二度8分音符連打が延々と続く中、右手高音部でちょっとヒステリックなしゃべりのようなモチーフが奏され、(手を交差して)右手低音でソ-ファ♯-ファ-ミ-レ♯と奏される16分音符が何度も同じように奏される。最後に煩さかった中音部と高音部が黙り、今まで口数の少なかった低音部がソ-ファ♯-ファ-ミ-レ♯を何度も呟いて終わる。- Ponteio Nº 7 ポンテイオ第7番
A-B-A'-コーダの形式。右手はミのドリア旋法で♩.♩.♩のシンコペーションの旋律が奏され、中音部では半音階進行の対旋律が絡み、左手伴奏は増4度や長7度の不協和音が4分音符スタッカートで奏される。- Brasiliana Nº 6 ブラジリアーナ第6番
- Roda ホーダ
ホーダとは主に子ども達が輪になって歌いながら踊る遊びのこと。ハ長調。主題と変奏曲で、主題の旋律の童歌〈Ó ciranda, Ó cirandinha〉は「輪になって踊ろう、皆で輪になって踊ろう‥‥」という歌詞のブラジルでは有名な童歌で、ヴィラ=ロボスもこの旋律を《赤ちゃんの家族第1集》の〈道化人形 O Polichinelo〉などの作品に用いている。主題が高音部で奏された後は、第1変奏は「行進曲のように」と記され、高音部で勇ましく奏されるも、間もなく変イ長調に転調して柔らかい響きに変る。第2変奏は二声の掛け合いのような旋律がゆったりと奏される。第3変奏は6/8拍子になり、タランテラ風の快活な変奏がスタッカートで奏される。- Ponto ポント
ポントとは、ブラジルのアフリカ系住民達が宗教儀式など歌うものらしい。変ロ短調、A-B-A'-コーダの形式。ほぼペンタトニックと言っていい快活な旋律が、太鼓の合いの手を思わせる和音を伴って奏される。Bは変ニ長調というか、レ♭のミクソリディア旋法の旋律がスラーで優雅に奏される。- Toada トアーダ
ヘ長調、A-B-A'形式。微睡むような左手リズムにのって、右手重音で伸びやかな旋律が奏される。Bはヘ短調になる。- Baião バイアォン
ハ長調、A-B-A'形式。左手伴奏にバイアォンのリズムが刻まれ、右手にドのミクソリディア旋法の軽快な旋律が奏されて、ノルデスチらしい雰囲気たっぷり。Bはハ短調になる。1972
- Cromos (3º caderno) クロモス(第3巻)
第3巻は「遊び」または「ゲーム」を音楽にしている。それら対象の描写方法は(1971年作曲の)第1巻、第2巻と比べて進化しているのに伴って、4曲共ほぼ無調で作曲されている。
- Pingue-pongue ピンポン
A-B-A'形式。二人が卓球をしているが如く、レ♯-ラの持続音の上下で、ボールが卓球台を打つ音がピンポン、ピンポン、・・・・と続く。時々ボールが床に落ちて中断しまうのを表す不協和音のff強打が奏される。ラリーが長く続いたり、お互いの打つ速度が速くなったりと変化があるのも上手に音にしている。- Jogando xadrez チェスをする
二声のフーガによる曲。チェスをする2人の頭脳プレイをフーガで表現したのだろう、左手に現れる主唱を3小節遅れて右手の応唱が続き、反行形の主題も度々現れる。後半には拡大フーガも現れる。無調の響きが二人のプレイヤーの冷静な判断を思わせる。曲の最後は楽譜に「葬送行進曲のテンポで Tempo de marcha funebre」と記され陰うつな葬送行進曲が流れるが、これはチェックメイト(詰み)になったのを描写している。- Gangorra シーソー
A-B-A'形式。シーソーが上下するのを描いたような6/8拍子の左手付点リズムにのって、即興的な旋律が奏される。- Brincando de pegador 鬼ごっこで遊ぶ
A-B-A'形式。ブラジルにも「ペガ・ペーガ」という鬼ごっこがあり、ルールが日本と同じなのかは分かりませんが、Aの部分は走り回っている様子を速い8分音符スタッカートやアッチャッカトゥーラで表し、Bの部分は鬼が探しているか、子が隠れているかを表すような不安げな旋律が単音で奏される。A'の最後はグリッサンドが何往復もして愛嬌たっぷりに終わる。- Galopando ギャロップして
初心者向けの小品。レのミクソリディア旋法で書かれていて、ギャロップするような左手リズムのオスティナートにのって、右手に素朴な旋律が奏される。- Pequena canção 小さな歌
この曲も1分少々の初心者向けの小品。ニ短調。モジーニャ風の物悲しい旋律が静かに奏される。- Estudando piano ピアノの練習
ピアノ演奏上の習得すべきいくつかの課題を各曲に組み入れた作品集。ピアノ初心者〜中級者向けに書かれたのであろうが、右手・左手の独立性や各音の明瞭な響きを求められているように思え、技巧的に簡単とも言い切れません。
- Melodia na esquerda 左手の旋律
ホ短調、A-B-A'形式。左手低音でミのドリア旋法の旋律が陰うつに奏され、右手和音が後打ちで奏される。- De duas em duas 2音づつ
ト長調、A-B-A-コーダの形式。メヌエット風の曲で、8分音符の続く右手旋律は2音ずつスラーとなっている。時々ファ♮ー即ちソのミクソリディア旋法になる。Bはト短調〜変ロ長調になる。- Contra-ritmo ポリリズム
ホ短調、A-B-A形式。全曲、左手4分音符の伴奏にのって右手の旋律は3連4分音符で奏され、則ち左手:右手が2:3のヘミオラのポリリズムになっている。Bはハ長調になる。- Legato e staccato レガートとスタッカート
イ短調、A-A'形式。Aは重々しい雰囲気の旋律が左手低音でレガートで奏され、一方右手は(主に)音階を下りる16分音符がスタッカートで奏される。ちょっとバッハの曲を思わせる。A'ではレガートの旋律は右手に、16分音符音階の上行するスタッカートが左手に奏される。- Terças 三度
ヘ長調、A-B-A'形式。右手に三度重音の旋律がゆったりと奏される。ブラジルの民謡の一種であるトアーダの雰囲気だ。Bは変ニ長調になり、右手・左手とも三度重音でになる。- Oitavas na esquerda 左手のオクターブ
ト短調、A-B-A'形式。右手に民謡風の旋律がソのドリア旋法で奏され、左手はオクターブのバス兼対旋律がスタッカートで奏される。Bは変ロ長調になる。- Oitavas na direita 右手のオクターブ
イ短調、A-B-A形式。ミニョーネ作曲の《街角のワルツ Valsa de esquina》の特に第3番の影響を思わせる曲。ヴァルサ・ブラジレイラ風の悩ましい旋律が右手オクターブで奏される。Bはハ長調になり、感情の起伏を描いたような頻繁な転調が見られる。- Ornamentos 装飾音
A-B-A'形式。スタッカートとスラーのめりはりがはっきりした、チェンバロの響きを思わせる曲。ソのミクソリディア旋法の旋律や対旋律には前打音やトリル、グリッサンドがたっぷり付いている。テンポを落としたBはト短調になり、プラルトリラーやモルデントが沢山現れる。- Toada Nº 6 トアーダ第6番
ヘ長調、A-B-A'形式。ド音のオスティナートにのって、微睡むような旋律が概ね三度重音で奏される。Bはヘ短調になる。1973
- Estudo Nº 9 練習曲第9番
一応嬰ヘ短調、A-A'形式。Aは、モジーニャ風の旋律が聴かれるのだが、複前打音や半音階などがあちこち纏わり付いて旋律は不明瞭。A'になって左手に旋律がはっきりと現れ、右手は3連16分音符の半音階オブリガートが軽やかに奏される。1975
- Cromos (4º caderno) クロモス(第4巻)
このクロモス(第4巻)の楽譜の冒頭には以下の解説が記されている。
「ブラジルー主に北部や北東部ーの音楽では、長調や短調の旋法以外の、少ない音または異なった全音や半音の配置の音階が使われている。それらはペンタトニック、ヘキサトニック、ドリア、リディア、ミクソリディア旋法である。またリディア旋法とミクソリディア旋法を組み合わせた「混合」旋法も用いられる。このクロモスではブラジルで用いられる次の4つの旋法を紹介することを目論んでいるー曲順にミクソリディア、ドリア、リディア、ペンタトニックである。」(Cromos para piano, 4º caderno, Irmãos Vitaleより引用)
- Mixolídio ミクソリディア旋法
ソのミクソリディア旋法の曲。A-B-A'形式。バイアォンのようなシンコペーションの左手和音伴奏にのって、軽快な旋律が右手に奏される。Bはテンポを速めて左手〜右手で戯けた旋律が奏される。- Dórico ドリア旋法
ミのドリア旋法の曲。A-A'-B-A"形式。右手旋律はドリア旋法だが、左手伴奏はホ短調に近い和音で半音階で変わっていく。- Lídio リディア旋法
大部分がファのリディア旋法の曲。A-B-A'形式。子守歌のような穏やかな伴奏にのって、素朴な旋律が流れる。Bは旋律に少し活気が出てきて、ドビュッシー風の和声進行が現れる。- Pentafônica 五音音階
ソ♭ラ♭シ♭レ♭ミ♭のペンタトニック(則ち黒鍵のみ)で書かれている。前奏-A-B-A形式。Aは大部分が右手旋律を同じ左手旋律が追うカノンになっている。- Valsinha brasileira 小さなブラジル風ヴァルサ
イ短調、A-B-A形式。ピアノ初心者向けと思われる小品。可憐な旋律が右手→左手と奏される。Bはハ長調になる。- Sonata para cravo ou piano チェンバロまたはピアノのためのソナタ
3楽章から成り、アルペジオの和音や装飾音、またスタッカートとスラーの明瞭な使い分けなど、チェンバロで演奏するのに相応しい書法である。教会旋法が多用されている所はバロック風にも聴こえるし、同時にブラジル北東部(ノルデスチ)民謡風にも聴こえ、面白い味わいの作品である。
- Allegro giusto
一応ニ長調、ソナタ形式。第一主題はレのミクソリディア旋法で、対旋律を伴ったり、アルベルティバスの伴奏が現れたりの古風な雰囲気。一方第二主題は左手で男声を思わせる低音部の主題がラのフリギア旋法やドリア旋法の混合で現れる。展開部は主に第一主題の変奏だが、シ-レ♯-ファ-ラの和音が多用されている。再現部は第一主題が左手に現れ、第二主題はレのフリギア旋法やドリア旋法の混合になる。- Andantino con moto
ト短調、A-A'-コーダの形式。モジーニャ風の哀愁漂う旋律がしっとりと奏され、ギターの低弦を思わせるベースは対旋律を作っている。- Allegro vivo
A-B-A'-B'-コーダの形式。3/8拍子の属七和音によるアルベルティバスの伴奏にのって、レのミクソリディア旋法の旋律が奏される。属七和音が半音階で上がっていき、Bのシ♭のリディア旋法の可憐な旋律が奏される。A'はラのミクソリディア旋法の旋律、B'はファのリディア旋法の旋律となって再現される。コーダでは第1楽章の第一主題の断片が現れて終わる。1976
- Brasiliana Nº 7 ブラジリアーナ第7番
- Samba サンバ
ヘ長調、A-B-A形式。シンコペーションが効いた旋律に、スタッカートの和音が伴い、サンバらしい陽気な雰囲気だ。Bは変ロ長調になり、旋律は左手低音に移り、合いの手のような右手スタッカート和音がまた粋だ。BとA'のそれぞれ終盤にフェルマータ記号で音楽が一時止まる所があるが、これは曲のクライマックスにいきなりポーズを入れる "samba de breque" という手法であろう。- Valsa ヴァルサ
この曲はラセルダが1965年に作曲した、吹奏楽のための《グアナバラ組曲 Suíte Guanabara》の第3曲〈ヴァルサ Valsa〉を編曲したもの。ハ長調、A-B-A-コーダの形式。右手8分音符の旋律が優雅に舞うような雰囲気の、速いテンポのヴァルサが奏される。Bはイ長調になり、左手に旋律が移る。- Pregão 物売りの声
この曲は三部から成っており、3つの物売りの声を音楽にしたものが順番に奏され、夫々の物売りの掛け声のセリフが楽譜の上に記されている。最初はサンパウロの行商人が「リボン、レースにボタン・・・ Fita, renda e botão, …」と服飾物を売る声で、ヘ長調。声を模したユニゾンの主題に続き、スタッカート半音階の対旋律を伴って主題が繰り返される。次はリオデジャネイロのコカーダ(ココナッツ菓子)売りの声で、「黒いコカーダと白いコカーダ・・・ Cocada preta e branca, …」の掛け声が、変ニ長調のミ♭シ♭抜きの(いわゆる琉球音階と同じ)旋律となって、3連符アルペジオの伴奏にのって奏される。最後はサンパウロののラランジャ・ペラ(ミカン)売りの声で、ハ長調。「御覧なさいラランジャ・ペラを・・・ Olha a laranja pera, …」と言う威勢の良い旋律が奏される。- Arrasta-pé アハスタ・ペ
アハスタ・ペの意味については、1960年作曲《ト音記号による連作 Série na clave de sol》の第5曲〈Arrasta-pé〉を参照下さい。ヘ長調、A-B-A'形式。陽気なリズムにのって現れる旋律はミやラやレが♭で、ラセルダらしい多調っぽい響き。Bでは旋律は三度重音となり、一層賑やかになる。- Estudo Nº 10 練習曲第10番
A-B-A'形式。Aでは右手はミ♭のドリア旋法、左手はミのドリア旋法となる減八度の重音による旋律が軽快に奏され、その重音の間で3連16分音符の伴奏が纏わり付く。Bは半音階がしばしば現れる。A'では冒頭の旋律と3連16分音符の伴奏は左手のみで奏され、右手高音に新たな対旋律が奏される。- Estudo Nº 11 練習曲第11番
一応イ短調、A-B-A'形式。右手トリルの練習曲。右手高音でペンタトニックで奏される寂しげな旋律はずっとトリルで奏される。- Estudo Nº 12 練習曲第12番
ニ短調、A-A'形式。両手オクターブの練習曲。3連8分音符の両手オクターブが劇的な響きを奏でる。A'ではオクターブは左手のみになり、右手は和音や対旋律を奏するが、やがて両手オクターブに戻り、最後はリスト風の急速な両手での分散オクターブで終わる。1978
- Brasiliana Nº 8 (para piano a 4 mãos) ブラジリアーナ第8番(ピアノ連弾のための)
- Canto de trabalho 労働歌
「労働歌」はブラジルにも多数あり、牧童の歌、黒人奴隷の歌、物売りの歌などが知られている。この曲はRossini Tavares de Lima著の『民謡のABC Abecê de Folclore』という本に収められた〈農民の労働歌〉(サンパウロ州で採譜)を引用して作曲された。イ長調。主題と7つの変奏から成る曲で、まずセコンド (segundo) により主題が奏され、引き続きプリモ (primeiro) に旋律が受け継がれる。第1変奏は、主題が軽快に変奏される。第2変奏は、3連16分音符による半音階進行の変奏。第3変奏は、サンバ風のシンコペーションに変奏。第4変奏は、気取った旋律に変奏。第5変奏は、セコンドがレ♯音を中心に半音階で活発に動き回る上で、プリモが主題を断片的に弾く多調の響き。第6変奏は減五度の和音の連続で主題が変奏される。Episodeと記された部分を経て、最後の第7変奏は変ホ長調で、プリモにより高音部三度重音で静かに主題が奏される。- Frevo フレーヴォ
フレーヴォとは、19世紀末頃のレシフェのカーニバルあたりを始まりとする、2拍子の速いテンポの舞踊およびその音楽。この曲は楽しい!。心地よいフレーヴォのリズムにのってカーニバルの一団のお祭り騒ぎが迫ってくるような愉快な曲です。ヘ長調、A-B-A'形式。太鼓のリズムがセコンドの左手で奏され、アポジャトゥーラ混じりの軽快な主旋律がプリモの右手に奏されるが、プリモの左手パートとセコンドの右手パートはリズムを刻んだり対旋律を奏で始めたりで、また主旋律以外のパートは殆ど無調の不協和音や半音階進行だったりするのが、何ともハチャメチャな賑やかな響きである。Bは変ロ長調になり、セコンドは両手ユニゾンで低音金管楽器の響きのような力強い旋律を奏し、プリモは高音木管楽器の響きのようなアップビートのリズムや対旋律を奏する。再現部A'では主旋律はセコンド右手で始まり、最後は賑やかに盛り上がって終わる。
- Abôio アボイオ
アボイオとはブラジルの牧童の牛追いの歌で、決まったリズムはなく、歌はだいたい母音のみで発せられるので歌詞はあるようなないようなである。A-B-A'形式。プリモが両手ユニゾンで弾く、息の長いレシタティーヴォ風のソのミクソリディア旋法から成る旋律は、広大な草原を彷徨う牧童の歌の雰囲気を醸し出している。拍子が度々変わり、テンポはルバートがかかり、クレッシェンド・デクレッシェンドも頻繁であり、こうしたアゴーギクやディナーミクの多さは、ブラジルの大草原の風向きや牛の群れの気まぐれな動きをも感じさせるように思える。中間部Bはラ♭のミクソリディア旋法に成る。曲の最後はレ♯-ファ-ソ-ラ-シの全音音階の和音が鳴り、牧童が草原の彼方に消えていくように終わる。- Terno de zabumba ザブンバの合奏
"Terno de zabumba" は直訳すると「大太鼓の合奏」だが、これはブラジル北東部の民族音楽の一つで、ピフェ pife(横笛の一種)、カイシャ caixa(小太鼓)、ザブンバ zabumba(大太鼓のような民族楽器)の合奏で演奏される軽快な音楽である。イ長調、A-B-A'形式。セコンドが弾く、カイシャとザブンバを模したバイアォンの軽快なリズムの伴奏にのって、プリモは高音部でピフェの二重奏を弾く。Bはホ短調になる。1979
- Ponteio Nº 6 ポンテイオ第6番
イ短調、A-B-A'-コーダの形式。左手中音部にモジーニャ風の寂しげな旋律が奏され、旋律の上の高音部で合いの手が鳴る。拍子が4/4、3/4、2/4と頻繁に変化する所は即興で歌っているような雰囲気だ。1981
- Pequenas lições (2º caderno) 小さなレッスン集(第2巻)
- Contratempo オフビート
ホ短調。右手に8分音符の続く旋律が奏され、左手は裏拍に8分音符が鳴る。- Segundas 二度音程
ハ長調。楽譜の冒頭には「遊び好きで brincalhão」と記されていて、戯けるような短二度重音のスタッカートの旋律を右手・左手が手分けして弾く曲。- Canto do polegar 親指の歌
ヘ長調、A-B-A'形式。右手親指・左手親指で三度重音の穏やかな旋律を奏で、裏拍で右手ミ(またはレ、レ♭)・左手ドのオスティナートが続き、子守歌風の静かな雰囲気。Bはへ短調になる。- Notas repetidas 繰り返す音符
ハ長調。8分音符または3連8分音符の連打の旋律が右手に奏される。数小節毎にfとpが入れ替わる。1982
1983
- Ponteio Nº 9 ポンテイオ第9番
強いて言えばホ短調、A-B-A'-コーダの形式。楽譜にVivace scherzosoと記されている通りスタッカート混じりの軽快な曲だが、左手伴奏のベース音や和音は半音階が下がったり上がったりしていて、ちょっと不気味な雰囲気を出している。- Ponteio Nº 10 ポンテイオ第10番
変ホ短調、A-B-A'形式。旋律が奏されるだけの曲だが、旋律は下行するアルペジオ3オクターブで奏され、大袈裟な響き。1984
- Brasiliana Nº 9 ブラジリアーナ第9番
- Ponteio ポンテイオ
ニ短調、A-A'-B-A"形式。Aは左手和音が2分音符または4分音符でペンタトニックの旋律を奏し、右手はほぼ同じ音部で8分音符不協和音を叩き、合わせてクラスターになっている。A'では左手旋律は拍より16分音符早く奏される。Bは単音旋律に装飾音が纏わり付く。- Polca ポルカ
ポルカは19世紀中頃にブラジルにも伝えられた。ポピュラー・クラシックを問わず、当時ブラジルの多くの作曲家がポルカを作曲し、ショーロなどのブラジル音楽にも大きな影響を与えている。ト長調、A-B-A'-C-A"-コーダの形式。スタッカート混じりの愛嬌ある旋律のポルカだが、左手伴奏は短二度の不協和音を多用したラセルダらしい響き。Bはホ短調、Cは一応ロ短調になる。- Bendito ベンジート
ベンジートはカトリックの宗教歌の一つ。Rossini Tavares de Lima著の『民謡のABC Abecê de Folclore』という本に収められたサンパウロ州内陸のベンジートを用いて、主題と5つの変奏曲として作曲された。全体的に多調の部分が多い曲である。まず、落ち着いた変イ長調の主題がユニゾンで奏される。続いて第1変奏は右手主題は同じだが、伴奏和音に減五度や増五度が多用される。第2変奏は主題は変イ長調のままだが、左手にニ長調の8分音符音階が奏される。第3変奏は右手左手ともに力強い和音だが、右手と左手で全く和音が異なる不協和音になっている。第4変奏は主題は左手低音で、ほぼ無調に変奏された主題の上で、ラ♭-レ-ソの和音が3連符で奏される。第5変奏は低音で変イ長調I度和音がドローンで流れ、その上で主題がニ長調の三度重音で奏され、消えるように終わる。- Forró フォホー
フォホーはブラジル北東部のダンスパーティーのことで、パーティーなどで皆でワイワイ踊るならバイアォン Baião、ショッチ Chote、コーコ Côco などがフォホーに入るらしく、サンフォーナ(ブラジルのアコーディオン)、トライアングル、ザブンバ(大太鼓)の三重奏で演奏されるのが典型的である。A-B-A'形式。ザブンバを叩くのを思わせるような左手のバイアォンのリズムにのって、サンフォーナを滑らかに弾くような16分音符の旋律がニ長調またはレのミクソリディア旋法で奏される。1987
- Brasiliana Nº 10 ブラジリアーナ第10番
- Cantoria カントーリア
カントーリアとは、ブラジル北東部(ノルデスチ)での2人の歌手による即興を掛け合いで歌いながら競う歌合戦のようなもので、《ブラジリアーナ第5番》第1曲の〈デザフィーオ〉とほぼ同じ意味。一応ト長調、A-B-A'-B'-A"-コーダの形式。Aはギターを模したと思われるバイヨンのリズムの伴奏にのって、一人目の歌手が叫ぶような旋律がソのミクソリディア旋法で奏される。Bは二人目の歌手がくぐもった声で歌うような旋律が奏される。A'は相手の挑発に乗って一層大袈裟に歌うような様を表現しているのが面白い。- Recortado ヘコルタード
ヘコルタードとはブラジルの踊りの一つで、手を叩いたり足を鳴らしたりしながら踊るとのこと。ブラジルの民族舞踊のカテレテ cateretê(またはカチーラ catira)の最後に踊られるらしいです(よく分かりません)。イ長調、A-B-A'-コーダの形式。手や足を鳴らすような威勢の良い左手リズムにのって、三度重音の明るい旋律が奏される。Bは不協和音が高音で打ち鳴らされたり、低音でレ-ミ♭の短二度が連打されたりする。- Canto de cego 盲人の歌
一応変ニ長調、A-B-A'-C-A"-コーダの形式。Aは寂しげな旋律がユニゾンで奏される。BとCは呟くような弱々しい単旋律が奏される。- Marchinha マルシーニャ
マルシーニャとは直訳すると「小さな行進曲」で、リオデジャネイロなどのカーニバルの行進曲の一種で速いテンポで奏される。ト長調、A-B-A-コーダの形式。太鼓を打ち鳴らすような低音部和音のリズムにのって、高音部に陽気な旋律が奏される。Bはイ短調になり、ちょっと哀愁のこもった旋律が奏される。1988
- Cromos (5º caderno - Aparelhos) クロモス(第5巻 - 道具)
- Metrônomo dodecafonico 十二音技法のメトロノーム
左手はド-レ♭とファ♯-ソの短二度重音のオスティナートがずっと続き、メトロノームの音を模している。それにのって十二音技法で書かれた音列が快活に奏される。この音列は音価やリズムを色々変えたり、逆行形になったりして何度も現れる。最後はメトロノームのぜんまいばねが戻りきってしまったように左手オスティナートが遅くなり、止まって終わる。- O canto do ventilador 換気扇の歌
A-A'形式。レ♯-ミ-ファ-ミ-ミ♭-レの半音階が最初は4分音符+4分休符〜4分音符〜3連4分音符〜8分音符〜3連8分音符と徐々に速度を増す様は、換気扇が回り始めたのを描いていて、3連8分音符が延々と続く以上の半音階の下で、和音を伴った旋律が穏やかに奏される。- Caixinha de música 小さなオルゴール
A-B-A'形式。両手ともト音記号で書かれている。スタッカートのリズムの上で、一応ホ短調の旋律が高音部で奏される。- Máquina de escrever タイプライター
楽譜のあちこちにタイプライターの操作の場面が記されている(「」内に訳を載せました)。「紙をローラーにセットする」は半音階の繰り返し、「タイプを打つ」は両手交互16分音符、改行を促す「ベル」がチーンと高音で鳴り、改行のために「ローラーを引く」は上行グリッサンドで表している。「タイプを打つ」「ベル」「ローラーを引く」が変奏されつつ繰り返され、「語句に下線を引く」では両手交互連打音となり、最後に「ローラーから紙を引いて出す」で3オクターブの上行グリッサンドで終わる。1989
- Brasiliana Nº 11 ブラジリアーナ第11番
- Tango タンゴ
A-B-A形式。ハバネラまたはアルゼンチンタンゴのリズムの曲。右手旋律は強いて言えば変ホ短調だが、左手伴奏はイ長調またはイ短調で、多調の不安な雰囲気となっている。Bはニ長調になり、やや明るい雰囲気。- Maxixe マシーシ
変ホ長調、A-B-A'-C-A"形式。全曲単旋律で作られていて、スタッカート混じりの戯けた旋律が奏される。Bは一応ハ短調、Cはト短調になる。- Choro ショーロ
一応ハ短調、A-A'形式。フルートを思わせる陰うつな旋律に、ギターを思わせるスタッカートの伴奏が付く。- Polca sertaneja 奥地のポルカ
A-B-A'形式。急き立てられるような速いテンポのポルカ。Aの右手旋律はハ長調、左手伴奏は概ね変イ長調と多調である。Bの旋律は嬰ヘ長調、伴奏は半音階混じり。- Valsa Nº 4 (binária) ヴァルサ第4番(2拍子)
ホ長調、A-B-A形式。3/8拍子で左手伴奏は(1拍目休符の)3拍子を奏するが、右手旋律は付点8分音符で1小節2拍のヘミオラとなっている。Bは変ロ短調になり、左手に付点8分音符の旋律が移って奏される。1990
- Sonatina Nº 1 ソナチネ第1番
- Allegro moderato
ソナタ形式。第一主題は一応ホ短調ながら半音階混じりの旋律が奏され、続く第二主題はイ長調の抒情的な旋律が穏やかに奏される。展開部は主に第一主題の変奏だが、不協和音で無調に近い。再現部は第一主題は一応ハ短調、第二主題はハ長調で奏される。- Andante con moto
イ短調、A-B-A'形式。3拍子の左手伴奏にのって右手に歌うような旋律が現れるが、旋律はミ♭やラ♭が混じって陰うつな雰囲気。Bは嬰ハ短調になり、陰のあるような旋律が左手に奏される。- Allegreto
ホ長調、A-B-A'-B'-A"形式。Aの旋律は戯けた感じで、時々レが♮(ミのミクソリディア旋法)になる。Bは変イ短調になり、左手♫γ♪のリズムのオスティナートにのって重々しい旋律が奏される。A'の旋律はラ-シ-ド♯-レ♯-ミ-ファ♯-ソ(ラのリディア旋法とミクソリディア旋法の混合)となる。B'はニ短調になり、A"はホ長調(ミのミクソリディア旋法)に戻る。- Sonatina Nº 2 ソナチネ第2番
ラセルダの作曲の師であるカマルゴ・グァルニエリに献呈されたこの曲は師ゆずりの不協和音満載だが、活気溢れる第1・3楽章、気怠い雰囲気の第2楽章と、表情豊かな作品である。
- Allegro non tropo
ソナタ形式。ヘ長調主和音ラ-ド-ファ-ラと全音音階和音シ♭-レ-ミ-ソ♯が交互に奏されるリズミックな第一主題で始まる。一旦これが静まると、左手低音ミ♭-ラ-レ-ソ♯の不気味なアルペジオ伴奏にのって、右手に半音階進行の旋律の第二主題が奏される。展開部は低音3オクターブのミ♭が鐘のように鳴るのにのって、第二主題、第一主題の断片が現れる。再現部は、提示部第一主題は長二度高く、第二主題は長二度低く奏され、コーダは低音3オクターブのソにのって各主題が静かに回想されて終わる。- Lento
A-B-A'形式。レチタティーヴォ風の旋律が呟くように奏される。中間部は一応ニ短調で、五音音階の旋律がサンパウロ州の田舎風?だ。- Vivace
A-B-A'-C-A"-コーダのロンド形式。Aは軽快なスタッカートの旋律が奏される。Bは第1楽章の第一主題が変形して現れ、Cは第2楽章の冒頭の旋律が変形して現れる。A'はAを半音下げて変奏される。1991
- Sonatina Nº 3 ソナチネ第3番
- Con moto moderato
短いながらもソナタ形式。ソのリディア旋法とミクソリディア旋法の混合(ドが♯、ファが♮)の軽快な第一主題が現れ、続いてミのヘキサトニック旋法の哀愁漂う第二主題が奏される。展開部は短く12小節のみで、再現部が奏される。- Andante lento, sostenuto
一応変ロ長調、A-B-A'形式。静かな左手和音オスティナートの伴奏にのって半音階混じりの旋律が奏され、全体的に気怠い雰囲気でトアーダ(ブラジル民謡の一種)を思わせる。Bは一応ニ短調になる。- Commodo e con grazia
ソナタ形式。第一主題はト長調の無邪気な旋律が奏される。第二主題は一転して変ホ短調の暗い旋律が左手低音に奏される。1995
- Berceuse de um gato que morreu (Mini-drama) 亡くなったネコの子守歌(小さなドラマ)
ラセルダ夫妻が飼っていた "Docinho de Coco" というネコが1995年7月30日に亡くなり、その思い出に作曲した小品。ハ長調、A-B-A'形式。Aは子守歌風の素朴な旋律が静かに奏される。Bは楽譜に「ネコがいなくなった」「どこにいるのだろう」「不安になって探す」「期待」と記されたレシタティーボ風の部分を経て、「亡くなっていた」が3オクターブの重々しいユニゾンで奏される。A'は「悲痛な回想」と記されていてAがハ短調になって6小節奏され、最後は「諦め…サウダージ…」と記され、Aの旋律が高音でppで消えるように奏されて終わる。1996
- Oito variações e fuga sobre um tema de Camargo Guarnieri カマルゴ・グァルニエリの主題による8つの変奏とフーガ
ラセルダの師カマルゴ・グァルニエリ (1907-1993) のピアノ曲《黒人の踊り Dança Negra》を基にした、主題と8つの変奏、フーガから成る作品である。主題Andantinoは、原曲の《黒人の踊り》で現れる2種類の旋律が夫々単音・オクターブで奏され、続いて原曲同様のオスティナートの左手伴奏にのって最初の旋律がほんの少し奏される。第1変奏Andanteは旋律は主題同様のシンコペーションを引き継いでいるが、半音階進行や三全音の響きが多い。第2変奏Andanteは主題や和音が全音音階で静かに奏され神秘的。第3変奏Allegro moderatoは付点のリズムが快活。第4変奏Vivace quasi prestoは主題の音列が8分音符スタッカートで奏される。第5変奏Allegretto alla marciaは主題がタランテラ風のリズムで奏され、三全音の和音が付く。第6変奏Allegro moderatoは主題がオクターブで奏されるのと和音が付くのが交互に現れる。第7変奏Con motoは6/8拍子で主題が8分音符スタッカートのオクターブで勇ましく変奏される。第8変奏Pestoは3連16分音符で主題が変奏される。フーガAndante lentoは主題が三声で展開していく。最後のコーダAndantinoは原曲同様の伴奏、旋律が少し回想されて終わる。
- Tema: Andantino
- Var. I: Andante
- Var. II: Andante
- Var. III: Allegro moderato
- Var. IV: Vivace quasi presto
- Var. V: Allegretto alla marcia
- Var. VI: Allegro moderato
- Var. VII: Con moto
- Var. VIII: Pesto
- Fuga: Andante lento
- Coda: Andantino
1998
- Cinco variações sobre "Escravos de Jó" 「ヨブの奴隷」による5つの変奏曲
「ヨブの奴隷」は、サンパウロ州やミナスジェライス州あたりで有名な子どもの遊び歌の一つ。子ども達は輪になって座り、歌を歌いながらコップなどを隣の人に素早く渡す遊びらしい。遊び歌を原曲とするのに相応しく、子どもの無邪気な遊びから不安な気持ちまでを描いたような作品である。主題と5つの変奏から成る。主題Allegro moderatoはハ長調で、オクターブで始まり、次に右手・左手と旋律が現れる。第1変奏Lo stesso tempoは、ハ長調の主題に大きな変化はないが、スタッカートの伴奏和音は長七度の不協和音やB♭、A♭7の和音が多調の響きである。第2変奏Andantinoはハ短調になり、左手低音に主題の変奏が重々しく奏される。第3変奏Allegretto Graziosoはハ長調に戻り、愛嬌ある主題の変奏に、スタッカートの伴奏が付くが、時々現れる半音階進行が影を落とす雰囲気。第4変奏Alla marcia, quasi funebre(葬送の行進風に)はヘ短調、陰うつな雰囲気の行進曲が奏される。第5変奏Allegro grazioso, tempo di valsaは一応ハ長調ーと言うよりファは大抵♯になってるのでドのリディア旋法で、可愛らしいワルツが奏される。
- Tema: Allegro moderato
- Var. I: Lo stesso tempo
- Var. II: Andantino
- Var. III: Allegretto Grazioso
- Var. IV: Alla marcia, quasi funebre
- Var. V: Allegro grazioso, tempo di valsa
2000
- Acalanto singelo 簡単な子守歌
楽譜の冒頭に「Vasco e Marla da Cruz夫妻へ、息子Heitorが生まれたのに際して」と記されている。ハ長調、A-B-A'形式。Aの静かな旋律は(ラ♭とファ♯が現れるのを除いて)ほぼペンタトニックで、子守歌らしい素朴でいい雰囲気。Bはハ短調になる。2006
- Homenagem a Scarlatti スカルラッティを讃えて
- Sonata I - lá menor ソナタ第1番ーイ短調
A-A-B-A'-B-A'形式。左手4分音符で刻まれる和音にのって、寂しげな旋律が奏される。- Sonata II - Mi maior ソナタ第2番ーホ長調
A-A-B-A'-B-A'形式。右手の快活な旋律は半音上がる2音の繰り返し。Bはホ短調になる。2009
- Didí (Valsa Nº 5 para mão esquerda) ジジ(左手のためのヴァルサ第5番)
この曲はラセルダの従姉妹Ana Ricarda Reimão de Lacerda(愛称Didí)に献呈された。ニ短調、A-B-C-A形式。左手のみで弾く曲で、中音部旋律に和音や断片的な対旋律が絡む。BとCはニ長調になり、CはテンポがVivaceと速くなり軽快な旋律となる。2010
- Saudades de Oruro (Valsa Nº 6) オルロの郷愁(ヴァルサ第6番)
ラセルダ晩年の小品。ボリビアのオルロ出身の医師でラセルダの友人でもあったFreddy Goldberg Eliaschewitzに献呈。ホ短調、A-B-A形式。左手伴奏、右手単音の旋律ともシンプルで、哀愁帯びたヴァルサが静かに奏される。中間部Bは2/4拍子になり、楽譜には「フルートを模した旋律はボリビア民謡の五音音階で、小太鼓の伴奏が控えめに奏される」と記されていて、左手シ-ド重音のオスティナートにのって、民謡風の旋律が右手高音に奏される。