Ernesto Lecuonaのピアノ曲リスト
レクオーナは中南米を代表する有名な作曲家だった割には、彼の作曲年代順作品リストを作るのは大変難しく、下記の作品リストも「‥‥年頃」とか、「‥‥年?」だらけになってしまいました。そもそもレクオーナは即興演奏が得意であったため、演奏の記録や録音はいくつもあるのに一度も楽譜にしていなかったり、初演→自筆譜を書く→楽譜初版がそれぞれ大きく年代を異にしていたりがあるため作曲年の決定を困難にしています。その上、同じ曲でも演奏するたびに中身が随分違っていたり、楽譜も出版するたびに内容がどんどん変わっていったりと、決定稿がどれなんだかがはっきりしない曲も少なからずあります。まあそれがレクオーナらしいところで、もし彼に「決定版はどれ?」と尋ねたところで、きっとレクオーナは「決定版?、そんなものないよ。毎回好きなように弾いているのさ。だいたい前にどういう風に弾いたかなんて、そんな細かいこと覚えちゃいないよ。」と答えるんじゃないかな~、って思います。
またレクオーナの作品の多くは、各々の曲にいくつかの楽器編成版が存在するのですが、上記の通り各曲の作曲年の特定が難しいことも相俟って、どの楽器編成版がオリジナルなのだが不明なことがしばしばです。このリストでは、劇場作品や管弦楽曲、協奏曲、歌曲がオリジナルでピアノ版は編曲と思われるものについては、ピアノ版が広く知られている曲のみ掲載しました。
なお斜字の曲は手稿譜、出版譜、録音ともに見つかっていないが、演奏または作曲されたという記録のみがある作品です。またアステリスク*の付いた曲は、楽譜は見つかっていないが、ピアノラ(自動演奏装置付きのピアノ)のためのピアノロール(演奏情報が穿たれた巻き紙)のみが現存している作品です。1907-1908
-1912
1912年頃-1928年頃
- 19th-century cuban dances 19世紀のキューバ舞曲集
- La primera en la frente (1912年頃) 最初のひたいの皺
- A la antigua (El tanguito de mamá) (1912年または1915年頃) 昔風に(ママのタンギート)
- Impromptu (1915年または1916年頃、1916年初演) 即興曲
- La danza interrumpída (1912年または1915年頃) 途絶えたダンサ
- La mulata (1912年初演) ムラータ
- Arabesque (1912年初演) アラベスク
- Ella y yo (1912年初演) 彼女と私
- La cardenense (1912年または1915年頃) カルデナスの女
- ¡Al fin te ví! (1915年または1928年頃) やっと会えた!
- Los minstrels (1925年頃) ミンストレル
1912-1930年頃
- Danzas afro-cubanas アフロ=キューバ舞曲集
- La conga de media noche (1925年頃又は1930?) 真夜中のコンガ
- Danza negra (1925年頃) 黒人の踊り
- ¡...Y la negra bailaba! (1925年頃又は1929?) そして、黒人が踊っていた
- Danza de los Ñáñigos (1927?) ニャニゴスの踊り
- Danza Lucumí (1924) ルクミの踊り
- La Comparsa (1912年初演) ラ・コンパルサ
1914
1915-1916
- Danza cubana No. 15 (1916年初演) キューバ舞曲第15番
- Mazurka (1916年初演) マズルカ
- Momento musical, Minué (1916年初演) 楽興の時、メヌエット
- Papillón, Vals (1916年初演) 蝶、ワルツ
1916
1916年頃
- Minuetto (1916年初演) メヌエット
- Romance, Fantasía (1916年初演) ロマンス、幻想曲
1917
1918
- Crisantemo (Crisanteme) 菊
- Cuba at arms, One-Step キューバよ武器を持て、ワンステップ
- Album de valses ワルツのアルバム
- Bon ton バン・タン(上流社会)
- Vals de las sombras 陰のワルツ
- Vals del ensueño 夢のワルツ
- Vals del Yumurí ユムリのワルツ
- Vals del Ebro エブロのワルツ
- Vals de las flores 花のワルツ
- Vals de la mariposa 蝶のワルツ
1919
1919-1927年頃
- Andalucía (Suite española) アンダルシア(スペイン組曲)
- Córdoba (1923年頃) コルドバ
- Andalucía (Andaluza) (-1922) アンダルシア
- Alhambra (1923年頃) アルハンブラ
- Gitanerías (1927年頃) ヒタネリアス
- Guadalquivir (1927年頃) グアダルキビル
- Malagueña (1919) マラゲーニャ
-1921?
- Three miniatures (Tres miniaturas) 3つのミニアチュール
- Bell-flower ベルフラワー
- Music box オルゴール
- Polichinella 道化師
1923年頃
- ¡Andar! 進め!
- Mosaico No. 4 モザイク第4番
- Vals ワルツ
1923-1935年頃
- Siete danzas cubanas típicas 7つの代表的なキューバ舞曲集
- Ni tú, ni yo (1924年頃) あなたでも私でもない
- Mientras yo comía, maullaba un gato (1925年頃) 食事中に、猫が鳴いていた
- Burlesca (1924年初演) おどけて
- Mis tristezas (1923年初演) 私の悲しみ
- El miriñaque (1935年初演) ミリニャーケ
- La 32 (1925年頃) 32
- ¡Cómo baila el muñeco! (1925) どうやって人形は踊るの!
1924年頃
1925-1926年頃
- Tres valses 3つのワルツ集
- Rococó (Vals en si mayor) ロココ(ワルツロ長調)
- Azul (Vals en la bemol mayor) 青(ワルツ変イ長調)
- Encantamiento (Enchantment) (Vals en re bemol mayor) (1926年初演) 魔法(ワルツ変ニ長調)
1926年?または1939年?
1925年頃-1928
- Danzas cubanas キューバ舞曲集
- ¡No hables más! (1926年頃) それ以上言わないで!
- No puedo contigo (1925年頃) 貴方にはかなわないわ
- Ahí viene el chino (1925年頃または1928) 中国人がそこに来る
- ¿Por qué te vas? (1925年頃) 何故行ってしまうの?
- Lola está de fiesta (1926年初演) ローラは御機嫌
- En tres por cuatro (1925年頃) 4分の3拍子で
1927年頃
1933年頃
1936年頃
- En las lomas de Trinidad (1936年初演) トリニダードの丘にて
- Mosaico Yumurí (1936年初演) ユムリのモザイク
1938年頃
1938または1940年?
1940
- La conga コンガ
- Luna azul, Vals ブルームーン、ワルツ
1943
1944
- No le pongas nada 何も置かないで
- Vals de la victoria 勝利のワルツ
1949
- Diary of a child 子どもの日記
- Good morning (Buenos días) おはよう
- The puppet's dance (El baile de la muñeca) あやつり人形の踊り
- Merry-go-round whirl (Carrusel) メリーゴーランドが回る
- The moon lights up (Canción de luna) 月明かり
- The dolls have a party (Bacanal de muñecos) 人形たちのパーティー
-1950
- Valses fantásticos 幻想的なワルツ集
- Vals apasionado (1933年初演) 情熱的なワルツ
- Vals romántico ロマンティックなワルツ
- Vals poético 詩的なワルツ
- Vals arabesque アラベスクのワルツ
- Vals patético (1955年初演) 悲壮なワルツ
- Vals maravilloso 素晴しいワルツ
- Vals brillante 輝かしいワルツ
- Vals gitano ジプシーワルツ
1951年頃
1952
- Aquella noche... あの夜・・・
1955
- Vals de las estrellas 星のワルツ
1955年頃
1959
- Popurrí メドレー
作曲年代不詳
- Amorosa 愛情深く
- Ante el Escorial エル・エスコリアル宮殿の前で
- Aragón (Vals españa) アラゴン(スペインのワルツ)
- Aragonesa アラゴンの女
- Barba-azul, Vals 青いあごヒゲ、ワルツ
- Bésame, Vals 私にキスして、ワルツ
- Blanca flor, Tango argentino* 白い花、アルゼンチン・タンゴ
- Broken blossoms, Vals 散りゆく花、ワルツ
- Canción revista レヴューの歌
- Doloretes, Danzón* ドロレーテス、ダンソン
- Dos berceuses* 2つの子守歌
- Dos danzas rusas* 2つのロシアの踊り
- ¡Échate p'allá, María! マリア、出て行きなさい!
- El caballero y la rosa, Vals 騎士とバラ、ワルツ
- El cisne, Estudio para la mano izquierda 白鳥、左手のための練習曲
- En el mar, Vals 海で、ワルツ
- Gardenia, Vals クチナシ、ワルツ
- Granada グラナダ
- Los papiros, Danzón* パピルス、ダンソン
- Mariposa blanca 白い蝶
- Mi amor, Vals* 愛しい人、ワルツ
- Moon light, Fox-trot* 月の光、フォクス・トロット
- Musetta, Vals ムゼッタ、ワルツ
- Noches de primavera, Vals 春の夜、ワルツ
- On the Nile, Fox-trot* ナイル川にて、フォクス・トロット
- Parisiana, Vals パリジェンヌ、ワルツ
- Popurrí de chotis* ショッティッシュのメドレー
- Popurrí de fados* ファドのメドレー
- Popurrí de tangos* タンゴのメドレー
- Quasi bolero ボレロのように
- San Francisco El Grande サン・フランシスコ・エル・グランデ
- Soñaba contigo, Vals あなたと夢見て、ワルツ
- Suite cubana - 1. Primavera, 2. Verano, 3. Otoño, 4. Invierno キューバ組曲ー1. 春、2. 夏、3. 秋、4. 冬
- Te espero a las doce, Tango argentino* 12時に貴方を待ってます、アルゼンチンタンゴ
- Vals del Nilo ナイル川のワルツ
- Vals de los mares 海のワルツ
- Vals del Sena セナのワルツ
- Voilà, Vals ほらそこに、ワルツ
- Yearning, Fox-trot* あこがれ、フォクス・トロット
- Zambra サンブラ
- Zambra gitana ジプシーのサンブラ
- Zapateo y guajira, Fantasía サパテオとグアヒーラ、幻想曲
Ernesto Lecuonaのピアノ曲の解説
1907-1908
- Cuba y America, March and Two-Step キューバとアメリカ、マーチとツーステップ
レクオーナの作品で初めて出版された曲。1902年にキューバはスペインの植民地から一応独立したが、独立とは名ばかりでスペインの代わりに米国の支配を受け、政府も米国の傀儡政権であった。ハ長調、A-A-B-B-C-D-B形式。曲は思いっきり米国風というかラグタイム風の曲である。華やかな曲調で、Bはヘ長調、Cは変ロ長調、Dはニ短調と転調もあり、12歳の少年レクオーナの才能を感じさせる。この曲は吹奏楽にも編曲されている。-1912
- Benilde ベニルデ
- Zenaida ハジロバト
- Melancolía 憂うつ
- Orquídeas 洋ラン
- No me olvides 私を忘れないで
これらの初期のピアノ曲は楽譜もほとんど現存せず詳細不明である。1949年に、レクオーナの知人で後にレクオーナの伝記を著したOrlando Martinezは作曲者自身のサインのある《Orquídeas》の楽譜を発見したが、それをレクオーナに伝えたところ、「私は自分の作品全部を覚えているわけじゃない。そんな曲作った覚えはないよ。」と答えたとのこと。1912年頃-1928年頃
- 19th-century cuban dances 19世紀のキューバ舞曲集
この舞曲集が《19世紀のキューバ舞曲集》として出版社によって纏められたのは後年のことであって、〈即興曲〉、〈やっと会えた!〉、〈ミンストレル〉以外の7曲が、まず1915年までに作曲・出版されたと思われる。最終曲〈ミンストレル〉を除いて大きく分けた構成はみなA-Bから成る二部形式で、伝統的なコントラダンサの形式を踏襲しており、また後のレクオーナの作品で見られるオクターブや十度バンバンの技巧的な難しいパッセージなどはそれほど見当たらないが、それでも左手伴奏の五度~六度の速い重音進行などレクオーナ節の片鱗が現れ始めており、「キューバ」を自分の音楽に十分に取り込んだ面白い作品集である。
- La primera en la frente (1912年頃) 最初のひたいの皺
「La primera en la frente」はスペイン語では「最初から(運が)ついていない」という意味もあるらしい。元は〈ダンサ第1番 Danza No. 1〉として出版された。嬰ヘ短調、前奏-A-B形式。シンコペーションの前奏に引き続き、左手シンキージョのリズムの伴奏にのって哀愁漂う旋律が奏される。自分の顔のひたいの皺を見て、年をとったな~とため息をついた気持ちを描いたのかな?。- A la antigua (El tanguito de mamá) (1912年または1915年頃) 昔風に(ママのタンギート)
元は〈ママのタンギート、ダンサ第3番 El tanguito de mamá, Danza No. 3〉という曲名である。この曲はレクオーナの母に献呈されたが、母は彼によく「私のタンギート(ちっちゃなタンゴ)を弾いて!」とせがんだとのこと。A-A-B-C-B形式。Aは嬰ハ短調で切ない旋律。BとCは変ニ長調になり、愛嬌ある曲調になる。- Impromptu (1915年または1916年頃) 即興曲
元は〈ダンサ第13番 Danza No. 13〉という曲名である。変イ長調、A-B-B形式。Aは右手重音と左手アルペジオ から成る16分音符が練習曲みたい。Bはテンポを落とし、メロディックになる。- La danza interrumpída (1912年または1915年頃) 途絶えたダンサ
ホ短調、A-B形式。Aはせわしない雰囲気。Bはホ長調になり、のびやかな旋律が歌われるが、途中で突然フェルマータで音が途切れ、名残惜し気に静かに終る。- La mulata (1912年初演) ムラータ
ムラートまたはムラータとは黒人と白人の混血のことで、「ムラータ」は女性形だから混血娘となる。この曲と後述の〈アラベスク〉、〈彼女と私〉は1912年にレクオーナ自身が初演している。ホ長調、A-B形式。Aは踊りを思わせるハバネラのリズムの繰り返しで、後半はのびやかな旋律がオクターブで高らかに奏される。- Arabesque (1912年初演) アラベスク
ホ短調、A-B-B'形式。Aは左手の3連16分音符はヨーロッパクラシック風なのだが、それにのっかる右手の旋律がいつものトレシージョやシンキージョのリズム混じりなのが奇妙な取り合わせ。Bはホ長調。陽気な舞曲で、繰り返しのB'は旋律はオクターブ和音となってとても華やか。- Ella y yo (1912年初演) 彼女と私
ト短調、A-B-B形式。Aはf~ffの力強い旋律は男性を表し、Bはト長調になって愛嬌ある女性を表しているみたい。- La cardenense (1912年または1915年頃) カルデナスの女
カルデナスはキューバ北部にある町。イ短調、A-A-B形式。Aはイ短調の物憂げな旋律。Bはイ長調になり、上記の〈彼女と私〉のAの旋律を長調に変えたような旋律が現れる。- ¡Al fin te ví! (1915年または1928年頃) やっと会えた!
変ニ長調、A-B-B-コーダの形式。好きな人にやっと会えた喜びを描写したいるのかな。Aは高音で奏される転がるような16分音符が浮き浮きと軽快で、Bは胸が透くような大らかな旋律がオクターブ和音ffで奏される。- Los minstrels (1925年頃) ミンストレル
変ト長調、A-A'-B-A"形式。19世紀から20世紀初め頃まで、米国ではミンストレル・ショーという演劇があって、それは白人の芸人が顔を黒く塗り、アフリカ系米国人の歌や踊りを滑稽に演じた人種差別的なものであった。曲は愛嬌たっぷりの楽しい雰囲気。1912-1930年頃
- Danzas afro-cubanas アフロ=キューバ舞曲集
かつて奴隷として連れてこられたアフリカ人の文化はキューバのあらゆる所に影響を及ぼしているが、音楽においてもそれは顕著なのは言うまでもない。アフロ=キューバ音楽を強烈にピアノ曲に取り入れたこの曲集は、〈ラ・コンパルサ〉が1912年に、他の5曲が1924-30年頃に作られた。前作の《19世紀のキューバ舞曲集》より更にキューバ音楽の奥深い世界に踏み込んでいて、ピアノ技巧的にも本格的で、不協和音の使い方も見事。レクオーナの作品を代表するに相応しい曲集である。
- La conga de media noche (1925年頃又は1930?) 真夜中のコンガ
コンガとは、一般的に樽型の太鼓のことが知られているが、キューバではカーニバルの音楽やリズムを指している。ト長調~ハ長調、A-B-B'形式。キューバの夜、レクオーナが窓の外から聞こえてくる音を元に作曲したと言われるこの作品は、幻想的な真夜中の雰囲気と、野性的な黒人の踊りがうまく一曲の中にマッチした面白い曲で、私のお気に入りです。白人達が寝静まった夜中、黒人奴隷達が、真夜中の鐘を合図に一人一人と広場に集まり、ついには皆で陽気に踊り明かすーといったストーリーが浮かんで来そう(私の勝手な想像です)。冒頭は遠くから聞こえてくる夜中の12時の鐘の音を高音の不協和音で描写、もうこの6小節の前奏だけで真夜中の空気の透明感が伝わってきそう。続いてコンガのリズムにのって黒人の踊りが、最初は静かに恐る恐ると、段々と音量を増して奏される。踊りが一段落ついた所で、今度は夜空に響き渡る口笛のような高音の旋律がハ長調になって歌われ、繰り返しはfffで陽気に夜中の大宴会!といった感じで盛り上がる。最後は踊りの音がどんどん小さくなり、幻想的な一夜の夢?はpppのグリッサンドで消えるように終る。- Danza negra (1925年頃) 黒人の踊り
変ト長調、A-A'-B-A形式。左手にずっと続くシンコペーションのリズムが特徴的で、それにのって暢気な旋律が最初は六度重音で、A'の繰り返しではオクターブで奏される。Bは一転して華やかな右手のオクターブ旋律と左手の跳躍の大きい伴奏で、目が覚めるよう。- ¡...Y la negra bailaba! (1925年頃又は1929?) そして、黒人が踊っていた
変ニ長調、A-B-A'形式。踊っている黒人は "la negra" と女性形なので、跳ねるようにエネルギッシュに踊る黒人女性を描写しているのだろう。Bのpiù mossoの右手旋律は急速な16分音符オクターブのスタッカートの連続で、これをpやppで軽々と弾くのはとても難しく超絶技巧的。- Danza de los Ñáñigos (1927?) ニャニゴスの踊り
変ト長調、A-B-A'形式。ニャニゴスとは、アフリカのナイジェリア南東部あたりから連れてこられた奴隷(アバクア Abakua という)の子孫らによる秘密宗教団体?のことらしい。曲は最初はのどかな雰囲気で始まるが、途中のBでは変ロ短調のスタッカートの神秘的な旋律や、九度の和音が執拗に続きながらfffに向かう所など、踊る黒人に霊が憑依したみたいな盛り上がりにも思える。- Danza Lucumí (1924) ルクミの踊り
変ニ長調、A-B-A'形式。ルクミとは、かつてナイジェリア南西部やベナンのヨルバ語族が奴隷としてキューバ東部に連れてこられた、彼らの子孫のことをルクミ(ヨルバ語族)と呼ぶ。シンキージョ混じりの左手リズムにのってブルース風の旋律が奏される。Bは跳ねるように快活。再現部A'は両手ともオクターブになって力強い。- La Comparsa (1912年初演) ラ・コンパルサ
コンパルサとは主にキューバ東部の伝統的なカーニバル・パレードでの音楽隊や踊り手の一団のこと。この曲は元は〈ダンサ第2番 Danza No. 2〉として出版された。レクオーナ弱冠17歳にして作った彼の代表作であり、1912年にレクオーナ自身が初演している。後にピアノ連弾版も作られ、また後に〈For want of a star〉という題名で歌詞も付けられた。ピアノの書法としては特に凝った所もないのだが、リズムといい旋律といい、アフロ=キューバ音楽を簡潔に、かつ見事にピアノ曲に昇華させたこの曲は、キューバ音楽の歴史においての金字塔とまで言ったら言い過ぎであろうか。A-A'-B-B'形式。曲は前半が嬰ヘ短調で、左手にpppで奏される太鼓のリズムにのって切ない旋律が静かに歌われる。その後pp~p~mfと徐々に音量を増すのは、カーニバルの行進が遠くから段々近づいているのを描写しているよう。Bからの後半は嬰ヘ長調になり、左手のリズム、右手の旋律共にオクターブとなってクレッシェンドしfffで力強く興奮するように奏される。最後は行進が遠ざかるようにf~mf~p~pp~pppと音は小さくなり、消えるように終る。1914
1915-1916
- Mazurka マズルカ
- Momento musical, Minué 楽興の時、メヌエット
- Papillón, Vals 蝶、ワルツ
これら3曲はレクオーナ自身が1916年にハバナで初演したとする資料があるが、楽譜・録音共に存在しない。1916
1916年頃
1917
- Black cat, One-Step 黒猫、ワンステップ
イ短調、A-A'-B-B'形式。ブンチャッブンチャッの伴奏にのった軽快な曲で、猫が走ったり鳴いたりする様を描写したような小品。BとB'はイ長調になる。- Ojos triunfadores 自信に満ちた目
ニ長調、A-B-A-C-A形式。サロン音楽風の優雅なワルツ。Aは旋律・伴奏共に1918年作曲の《菊 Crisantemo》に似ている。Bはイ長調で華やかなワルツ。Cは変ロ長調になり、高音部オクターブに可憐な旋律が奏される。1918
- Crisantemo (Crisanteme) 菊
変ニ長調、A-B-A-C-A形式。1918年の初版の楽譜はニ長調で書かれていたが、レクオーナ自身の演奏や後の版は変ニ長調だったとのこと。また中間部のトリオも版や彼自身の録音によっては省かれたりしている。特に凝った所もない曲だが、愛らしい旋律にほのかな哀愁がただよい、何とも美しい作品だ。3拍子のワルツだが、自作自演のレコードを聴くと、Aの部分の最初のあたりは1拍目を長く引っ張っていて殆ど2拍子に聴こえる。Bは変イ長調、Cは変ト長調になる。- Cuba at arms, One-Step キューバよ武器を持て、ワンステップ
ヘ長調、前奏-A-B-B形式。トランペットのファンファーレのような前奏に引き続き、軽快ながら勇ましい曲が奏される。Bの最後のフレーズではキューバ国歌(1866年、ペドロ・フィゲレードにより作詞・作曲)が使われている。- Album de valses ワルツのアルバム
6曲から成るこの曲集は、19世紀ヨーロッパのサロン音楽風で和音も構成もありきたりではあるが、それはそれでよく出来た作品である。
- Bon ton バン・タン(上流社会)
ハ短調、A-A-B-C-A形式。題名通りの上品なワルツで、Aは女性がしずしずと登場するような感じ。Bは変ホ長調で踊りだすような雰囲気。Cはハ長調になる。- Vals de las sombras 陰のワルツ
ニ短調、A-B-C-D-A'形式。日陰者の哀愁を描いたかのような旋律で始まる曲。BとCはへ長調になる。Dはニ長調になり、大らかな旋律がオクターブで奏される。- Vals del ensueño 夢のワルツ
変イ長調、A-B-A-C-A形式。Aは中音部オクターブに流れるようなゆったりした旋律が奏される。Bは一転して高音部にスタッカートの旋律がオクターブで華やかに奏される。Cは変ニ長調になり、大らかな旋律が現れる。- Vals del Yumurí ユムリのワルツ
キューバのマタンサス州にはユムリ峡谷という景勝地がある。ヘ長調、A-B-A-C-A形式。のどかな雰囲気の楽しい曲。Aはスラーのかかった滑らかな旋律がオクターブで奏される。Bの旋律は高音部に移って溌剌とする。Cは変ロ長調になる。- Vals del Ebro エブロ川のワルツ
エブロ川はスペイン北部を東に流れ地中海に注ぐ大河である。イ長調、前奏-A-B-C-A形式。舟歌風の前奏に続いて、穏やかな川の流れのようなワルツが奏される。Bはホ長調。Cはニ長調になり、後半は華やかなワルツになる。- Vals de las flores 花のワルツ
変イ長調、A-B-A-C-A形式。大輪の花を思わせる華麗な曲で、全曲通して旋律はオクターブで奏される。Bは変ホ長調、Cは変ニ長調になる。- Vals de la mariposa 蝶のワルツ
レヴュー《ピニャータの日曜日 Domingo de piñata》の中の一曲で、ピアノ用に編曲されたもの。《ピニャータの日曜日》はレクオーナが初めて書いた劇場作品で、初演当時はハバナの劇場で二百回上演されるほど大成功した作品である。ニ長調、A-B-A-C-A-B形式。右手の軽やかな旋律は、まさに花から花へ蝶が舞うよう。Cはト長調になる。1919
- Adiós a las trincheras, One-Step 塹壕にさようなら、ワンステップ
ニ長調、A-B形式。第一次世界大戦が終ったのを祝って作った曲らしい。一分ほどの短い陽気な曲で、後半には米国民謡《ヤンキードゥードゥル Yankee Doodle》(日本では「アルプス一万尺」で歌われてる曲)の旋律が現れる。1919-1927年頃
- Andalucía (Suite española) アンダルシア(スペイン組曲)
この組曲を作り始めた頃、まだレクオーナはスペインを訪れたことがなく(彼が初めてスペインを訪れたのは1924年である)、彼にとって想像の「スペイン」である。この組曲、アンダルシア地方のリズムやミの旋法(アンダルシア地方などで使われる旋法で、ミファソラシドレミの旋法はフリギア旋法と同じであるが、しばしばソに♯が付く)を取り入れたりの工夫や、オクターブがガンガンと鳴って華やかな面が見られるのは確かだが、私個人的にですが、和声やピアノ技法などがレクオーナにしてはやや気合い不十分かな~といった感じがする。レクオーナはこの組曲以外にもスペインを題材にしたピアノ曲を多数作曲していて、いずれもスペイン情緒たっぷりなのだが、それは観光客の視線というか絵葉書的というか、スペインの魂にまでは踏み込めていないような気がする。そもそもレクオーナの本領はキューバ音楽であり、スペインの魂を描くには本国のアルベニス、グラナドス、ファリャのピアノ曲に足元にも及ばない感じがするのだが‥‥(あくまで個人的感想です)。そうは言え、この《アンダルシア(スペイン組曲)》の優れた所は何と言っても親しみやすい旋律で、レクオーナのピアノ曲の中でも最も有名な曲集となっている。特に第2番〈アンダルシア Andalucía (Andaluza)〉と第6番〈マラゲーニャ Malagueña〉は、歌詞も付けられ歌曲としても有名で、その作者がレクオーナだとは知らずとも誰もが聴いたことがあるであろう。
- Córdoba (1923年頃) コルドバ
嬰ヘ短調、A-B-A'形式。スペインのコルドバは、10世紀イスラム教カリフ王国の時代に最盛期を迎えたかつての古都。今は無きいにしえの栄光を偲ぶような、哀愁を帯びた旋律がギターのつま弾きのように奏される。冒頭の旋律は嬰へ短調というよりかは、ド♯が主音のミの旋法の響きに近く感じる。中間部は嬰ヘ長調になり、pppで幻想的な雰囲気。- Andalucía (Andaluza) (-1922) アンダルシア
〈そよ風と私 The breeze and I〉という題名で英語の歌詞が付けられ、1940年代からラテン音楽のスタンダードナンバーとなっている。ニ長調、A-A'-B-A"形式。冒頭に現れる旋律はレ-ミ-ファ♯-ソ-ラ-シ♭-ド-レの音階による旋律が何とも官能的な曲。左手の伴奏のベースも右手の旋律も、アクセント記号だらけで力強い演奏が求められる。中間部はニ短調になり、高音部スタッカートのフレーズから成り、それがクレッシェンドして冒頭の旋律になだれ込む煽り方は見事。- Alhambra (1923年頃) アルハンブラ
ロ長調、A-B-B'-A形式。冒頭は速いテンポの踊りのようなパッセージから成る。Bはうって変わり、まず中〜高音部の和音で「コプラ」と呼ばれる歌の朗唱を思わせる旋律が奏される。この旋律はアルベニスが作曲したピアノ曲集《スペインの歌、作品232》の第1曲〈前奏曲〉の中間部に似ている。旋律は3拍子の伴奏にのって何度も繰り返される。- Gitanerías (1927年頃) ヒタネリアス
ヒタネリアスとはロマの集団や、彼らの気質のことを指している(ロマはジプシーとほぼ同義であるが、近年「ジプシー」は差別的意味合いがあるとして「ロマ」と言い換えられることが多い)。ニ短調、A-B-A形式。曲はタブラオ(フラメンコ酒場)の光景を描いているような、速いフラメンコの踊りが最初は軽快に、中間部は音域を増してp~mf~f~ffと盛り上がる。- Guadalquivir (1927年頃) グアダルキビル
グアダルキビル川はアンダルシア州を貫く大河である。変ニ長調、A-B-A'-B'-A"-B"形式。曲はセギディーリャのリズム(ホタのリズムにも聞こえる)による軽快な曲調で始まる。続いて現れるゆったりとした旋律はレ♭-ミ♭-ファ-ソ-ラ♭-シ♭-ド♭という旋法(リディア旋法の変形)で独特の雰囲気を醸し出す。この2つの主題が転調しながら展開していく。- Malagueña (1919) マラゲーニャ
マラゲーニャとはフラメンコの曲種の一つで、アンダルシア州マラガの発祥とされている。フラメンコと言っても、踊りがなく歌とギターによる音楽だけのことも多く、曲の中でカンテ・リーブレ cante libre と呼ばれるリズムのない歌と、ギターの掛け合いの部分が特徴的である。A-B-C-B'-D-B"-C'形式。楽譜上の調号は嬰ハ短調だが、実際は主音がド♯のミの旋法なのがアンダルシア的な曲。陰うつな前奏が段々と音を増し盛り上がった所で、Bでは右手アルペジオの伴奏の下に、中音部に有名な旋律が現れる。その後Cの踊りのような速いパッセージを挟み、B'では旋律と和音アルペジオが正にカンテ(歌)とギターの掛け合いのように奏される。C'の終わりはfffの激情的な両手和音連打で変奏されて盛り上がる。この曲は1930年に米国で〈十字路で At the crossroads〉という題名で歌詞が付き、レクオーナを代表する有名曲となった。-1921?
- Three miniatures (Tres miniaturas) 3つのミニアチュール
3曲共、各々1〜2分の曲から成る短い曲集だが、いずれも詩情溢れる素敵な作品である。
- Bell-flower ベルフラワー
変イ長調、A-A'-A"形式。ベルフラワーは、日本では「乙女桔梗」または「風鈴草」を指し、どちらも小さなベル形の可憐な花である。心が和むような優しい雰囲気の曲で、高音部に現れるミ♭の音はベルフラワーのベルの音がかすかに聞こえてくるよう。- Music box オルゴール
変ト長調、A-A'-B-A'形式。楽譜は両手ともト音記号で、高音部で可愛く鳴り続けるオルゴールの音色を描写。- Polichinella 道化師
変イ長調、A-A'-B-A-コーダの形式。道化師が歩いたり跳ねたりする様を滑稽に描写している。長調のI度の和音に第VI音、第VII音を付加して、和音に柔らかみを持たせている所はドビュッシーの影響を感じさせる。1923-1935年頃
- Siete danzas cubanas típicas 7つの代表的なキューバ舞曲集
この曲集はおおよそ1923年頃から1935年の間に別々に作曲されたが、1950年になって《7つの代表的なキューバ舞曲集》として自筆譜が書かれ、2000年にやっと全曲が出版された。1920~1930年台はレクオーナの作曲の筆に最も脂ののっていた時期であり、ピアノ曲としての技法は最高潮だが、弾く方にとっては技巧的に最難曲!。当時のレクオーナが、ピアニストとしていかにヴィルトゥオーゾであったかを雄弁に語るような作品集である。各曲は概ねA-B形式の繰り返しから成るキューバのコントラダンサの様式に従っているが、先輩作曲家のサウメルやセルバンテスがコントラダンサを「踊るため」から「聴くため」の音楽に発展させたのをレクオーナは更にピアニスティックに進化させ続け、コントラダンサ音楽の究極の姿を示したような傑作に思えます。ともあれ全体の曲の雰囲気は「陽気なキューバ」ムンムンで、卓越したピアニストの演奏でこの曲集を聴くことが出来れば、豪華なピアノの響きと相俟って楽しめること必定です。
- Ni tú, ni yo (1924年頃) あなたでも私でもない
ホ長調、A-B-A'-B-A"形式。Aの部分は三度重音混じりの16分音符のわくわくするような旋律。Bは右手オクターブでffで高らかに歌い上げるような旋律と、左手のシンキージョのリズム混じりの速い重音進行の伴奏が典型的レクオーナ節だ。- Mientras yo comía, maullaba un gato (1925年頃) 食事中に、猫が鳴いていた
変ト長調、A-B-B'-A-B-B' 形式。ある日、レクオーナが友人の家で夕食中、一匹の猫がレクオーナらの食卓に跳ね上がったり鳴いたりして皆を困らせた。彼は食後、その時の様子をピアノで即興演奏したのがこの作品になったとのこと。1928年にレクオーナ自身が演奏したレコードもある。この曲はその時の食卓の光景を楽しく、微笑ましく描いていて爽快!。Aは猫がミャオ~と鳴く声を描写するような旋律が小気味良く奏される。Bはf~ffの力強い響きで、ちょっとこれも猫が甘えているような雰囲気の旋律が歌われる。この右手旋律は16分音符も混じって結構速いのに全部オクターブで所々和音も付いていて、それに加え左手の伴奏はレクオーナお得意のパターンだが、この曲ではベースと和音の間の跳躍は頻繁に3オクターブを越えていてとっても技巧的。圧巻はB'の部分で、Bの旋律が1オクターブ高音に上がって奏されるのだが、前半はこの難しいパッセージをppで軽々しく、後半はfffの最強音でと、どちらも一層高度な技巧が必要。レクオーナ全集のCDを録音している技巧派ピアニスト、トーマス・ティリノの演奏でさえ、この曲ではスピードにブレーキがかかってしまっている。- Burlesca (1924年初演) おどけて
変イ長調、A-B-B'-A-B-B'形式。Aの部分は速いハバネラのリズムにのって、愛嬌ある下降音階の旋律が三度重音で奏される。Bは変ニ長調になり、ラグタイム風で、右手左手を交互に用いた滝のようなパッセージが面白い。- Mis tristezas (1923年初演) 私の悲しみ
変ト長調、A-B-B'-A-B-B' 形式。Aは軽快で、オクターブの旋律が16分音符で走り回るのはこれまた技巧的。Bは長調の明るい旋律の中にもちょっと哀愁感が混じる所が、この曲の題名の所以か。B'の前半はMeno mossoでぐっとテンポを落とし、しみじみと語りかけるよう。- El miriñaque (1935年初演) ミリニャーケ
変ニ長調、A-B-A-B形式。ミリニャーケとは英語ではクリノリン crinoline と言い、19世紀頃に流行した、スカートをふくらませて見せるためのフープ(枠)状の下着のこと。クレッシェンドしながらフワッと膨らむような旋律はミリニャーケを描写しているのだろう。- La 32 (1925年頃) 32
《32》の曲名の由来は不明です(曲中に32分音符は全く現れない)。変ト長調、A-B-B'-A-B-B' 形式。アップテンポで飛ばしまくって弾いてほしい、わくわくするような曲だ。Aの部分は鋭いシンコペーションの旋律で始まる。ここでも16分音符オクターブの旋律がアルペジオで駆け上り(技巧的には大変だが)颯爽としている。Bは嬰ヘ短調になり緊張感のある旋律が続く。B'では旋律は左手オクターブ和音に移り、16分音符で3-3-2のリズムの両手交互連打がレクオーナの作品では珍しい作りで、とてもスリリング。- ¡Cómo baila el muñeco! (1925) どうやって人形は踊るの!
変イ長調、A-B-B'-A'-A-B-B'-A' 形式。Aのリズムは《アフロ=キューバ舞曲集》の第2曲〈黒人の踊り〉にリズムが似ている和音連打で愉快、この「人形」はアフリカ系の人を描いたのであろう。BとB'はレクオーナらしいオクターブ和音の旋律が高らかに奏される。1924年頃
- Futurista 未来派
変ト長調、A-B-A-B 形式。この曲の楽譜はかつては出版されていなかったが、レクオーナは度々演奏していたらしく、レクオーナ自身の1928年の演奏の録音のSPが残されているとのこと。現在はピアニストのトーマス・ティリノが採譜・録音した楽譜および演奏が入手できる。Aの部分は右手高音の軽快な16分音符重音またはオクターブの旋律。Bはシンコペーションの効いた楽しい旋律が奏されるが、中音部の同音連打、引き締まったシンコペーション、そして最後の全音音階と「未来派」に相応しい響きの面白い曲だ。1925-1926年頃
- Tres valses 3つのワルツ集
- Rococó (Vals en si mayor) ロココ(ワルツロ長調)
A-B-A'形式。冒頭は落ち着いたワルツ。Bは嬰ヘ長調になり、一転してVivaceの速いテンポでショパンのワルツを思わせる跳ねるような華やかさ。- Azul (Vals en la bemol mayor) 青(ワルツ変イ長調)
A-B-A'-コーダの形式。左手のアルペジオの伴奏が豪華な雰囲気のワルツ。Bは少しテンポを速め、踊りだすような華やかなワルツになる。- Encantamiento (Enchantment) (Vals en re bemol mayor) 魔法(ワルツ変ニ長調)
A-B-A'-B'形式。Aは両手ともオクターブ和音がバンバン鳴り響く、華やかなワルツ。Bは静かで繊細な響きになる。中音部〜高音部の和音使いや内声の半音階進行が何とも魔法的な美しさだ。1926年?または1939年?
1925年頃-1929
- Danzas cubanas キューバ舞曲集
この曲集は1929年に出版されたが、各曲はもう少し以前に作曲されたと思われる。上述の《7つの代表的なキューバ舞曲集》に比べると各曲はややこじんまりとしているが、難技巧があちこちに見られ、ともかく右手も左手もffのオクターブ和音の連続の場面が多く、ピアノを上手に鳴らし切ることのできるピアニストの生演奏を聴けたら最高!と思える傑作です。
- ¡No hables más! (1926年頃) それ以上言わないで!
変イ長調、A-B-B'形式。Aは3度重音で音階を下りてくる旋律が愛らしい。Bは楽し気な会話が聞こえて来そうで、左手が右手より高音部に交差して旋律を奏する。- No puedo contigo (1925年頃) 貴方にはかなわないわ
変ト長調、A-A-B-A-A'-コーダの形式。ある日、レクオーナは知人の家でピアノを弾いたが、そこに居合わせた女性ピアニストLizzie Morales de Baletは、レクオーナの流暢な演奏を聴いて「エルネスト、貴方にはかなわないわ! Ernesto, No puedo contigo」と言ったとのこと。数日後、彼女はレクオーナから〈貴方にはかなわないわ〉という題名のこの曲を献呈された。Aは柔らかなオクターブ和音の旋律が高音で優しく奏されるが、左手伴奏はレクオーナお得意の、五~六度の重音の16分音符進行で、これをpで(うるさくならずに)崩れず弾き続けるのは結構大変。Bの前半は変ホ短調になり、力強いオクターブの旋律がffで奏される。- Ahí viene el chino (1925年頃または1928) 中国人がそこに来る
変イ長調、A-B-A'形式。キューバには1850年台から1874年までに、約12万人の中国人が移民として来ている。レクオーナの家でも洗濯係をしていたのは中国人で、その中国人に印象を受けてこの曲が作られたとのこと。冒頭の穏やかな旋律は、控えめで礼儀正しい中国人を描いてるよう。旋律に付く前打音の響きは中国の鐘の音かな。Bはうって変わってハ短調ffの強奏で、過酷な労働に耐えてきた彼等の逞しさを表しているかのよう。再現部A'の3小節目からは、冒頭の旋律が高音部十度の重音で奏される(手が大きくなけりゃ弾けない‥‥)。曲の最後には低音部で五音音階が下行するパッセージが奏される。- ¿Por qué te vas? (1925年頃) 何故行ってしまうの?
変ニ長調、A-A'-B-A'形式。レクオーナはこの曲を演奏するのを好み、1943年にカーネギーホールにデビューした演奏会でもこの曲を弾いた。Aの部分は颯爽とした旋律が粋だ。左手のいつもの重音伴奏は跳躍幅が広くて、乱れず速く弾くのは難しい。A'の終わりの3小節では、また十度重音の旋律が現れる。Bは変ロ短調になり、左手伴奏の和音を増していく16分音符が面白い。- Lola está de fiesta (1926年初演) ローラは御機嫌
変ト長調、A-A'-B-A'-コーダの形式。最初は軽やかにステップを踏むようなリズムにのって、浮き立つような楽しい旋律が奏される。Bは変ニ長調になり、左手伴奏、右手旋律ともffのオクターブ強奏でお祭り騒ぎのような賑やかさだ。- En tres por cuatro (1925年頃) 4分の3拍子で
変ホ短調、A-B-A'形式。レクオーナのキューバ舞曲集の中で4分の3拍子なのはこの曲だけの珍しい曲である。ちょっとショパンのポロネーズを思わせるリズムだが、シンコペーションが効いているのはやはりキューバ風。Bの旋律はヘキサトニックで独特の雰囲気だ。1927年頃
1933年頃
1938年頃
1938または40年?
- Mazurka en glissando グリッサンドのマズルカ
ハ長調、A-B-A'形式。曲名通りの、右手グリッサンドが2〜4オクターブの音域を行ったり来たりする。粒を揃えてグリッサンドが弾ければ、魔法のように魅惑的だ。1943
- Porcelana china (Danza de muñecos) 中国の磁器(人形の踊り)
ハ長調、A-B-B'-A-コーダの形式。正に人形の踊りのような愛嬌ある曲。B'は大勢の人形が踊ってるみたいに豪華な響き。この曲の冒頭の旋律は下記の《子どもの日記》の第5曲〈人形たちのパーティー〉にも用いられた。1949
- Diary of a child 子どもの日記
子どもの情景を描いた組曲。各曲とも微笑ましく無邪気な雰囲気で、また組曲としての全体の繋がりも良い。《キューバ舞曲集》ほどには超絶技巧ではないものの、子どもが弾くのは殆ど不可能な結構テクニックを要する作品である。各曲の題名は英語で付けられた(後にスペイン語の題名も加えられた)。
- Good morning (Buenos días) おはよう
変ホ長調、A-B-A'形式。題名通りのすがすがしい雰囲気の曲で、小鳥のさえずりのようなスタッカートや連打音が現れる。Bのト長調への転調や、A'の冒頭のハ長調への転調は、朝日が色を変えながら輝いていく様を描写しているみたいだ。- The puppet's dance (El baile de la muñeca) あやつり人形の踊り
ト長調、A-B-C-A'形式。あやつり人形がワルツを踊っているような曲で、左手伴奏の短二度不協和音の響きが滑稽な雰囲気を醸し出している。- Merry-go-round whirl (Carrusel) メリーゴーランドが回る
ハ長調。16分音符音階が上下するのが無窮動に続く。この旋律は調を変えたり、左手に移ったりと目まぐるしく、カラフルなメリーゴーランドが回る様を描写。ひとしきり遊んだ子供は最後は走るように消えていく。- The moon lights up (Canción de luna) 月明かり
変ホ長調、A-B-A'形式。正に月が静かにゆっくりと上がって行く様を描いたような美しい作品だ。月明かりの中、子供は夢をみているのかな?。- The dolls have a party (Bacanal de muñecos) 人形たちのパーティー
ハ長調、A-B-C-A'形式。この曲は1943年作曲の〈中国の磁器(人形の踊り)〉を改変したもので、組曲を大団円で締めるに相応しくff~fffと華やかに盛り上がる。最後はpでグリッサンドが柔らかく舞い上がり、突然のff強打でー今までの全ては夢の中の話だったかのように終る。-1950
- Valses fantásticos 幻想的なワルツ集
この7曲から成る曲集は1950年に《幻想的なワルツ集 Valses fantásticos》として纏められたが、各曲はそれ以前に作られたらしい。1950年の出版では下記の〈ジプシーワルツ Vals gitano〉も曲集に含まれていたが、翌1951年の版では〈ジプシーワルツ〉は省かれ、替りに〈情熱的なワルツ Vals apasionado〉が加えられた。更に1954年の版では多くの改訂が見られ、どれが決定版なのかはよく分からない。これらのワルツはキューバ風味はないものの、レクオーナの天性の歌心を堪能できる美しい曲ばかりで、また彼らしいオクターブと和音でピアノをガンガン鳴らす豪快(?)なワルツ揃いである。
- Vals apasionado (1933年初演) 情熱的なワルツ
変イ長調、A-A'-B-A'形式。Aは中音部に半音階進行の旋律が見え隠れする、フランス風のお洒落で気取ったワルツで、直ぐにff~fffと盛り上がるのが情熱的。Bの旋律は装飾音混じりで軽やかに奏される。- Vals romántico ロマンティックなワルツ
変イ長調。この曲は1922年に作曲された《海で En el mar》(ト長調)を改変したもの。Aはウィンナ・ワルツのような気取った感じ。Trioは楽譜の版により全く異なったものが存在していた。(現在出版されているトーマス・ティリノ校訂版は、2つのTrioを入れてA-B-A-C-A形式としている。)Bは変ニ長調の、落ち着いて優雅なワルツ。Cは変イ長調で、 旋律が付点2分音符で伸ばしている間に挿入される3オクターブの両手アルペジオが華麗。- Vals poético 詩的なワルツ
変ホ長調、A-A'-B-B'-A-A"形式。オクターブ和音の高音旋律が奏され、夜景を見下ろすナイトクラブの光景(?)みたいな、ゴージャスながら落ち着いた音楽が流れる。Bは楽譜に「ウィーン風に alla Vienese」と記されている通り、気取ったウィンナ・ワルツが奏される。- Vals arabesque アラベスクのワルツ
変イ長調、A-A'-B-B'-A-A"形式。速いテンポで8分音符の旋律が無窮動に続く。ちょっとショパンの小犬のワルツに似てるかな。- Vals patético (1955年初演) 悲壮なワルツ
変ホ短調、A-A'-B-B'-A"-A"'形式。悲しみに満ちたワルツが歌われる。BとB'は僅かに変ト長調にもなるが、間もなく奈落の底へ落ちるようなffの音階下降和音に導かれ、再び最初の旋律が切々と奏される。- Vals maravilloso 素晴しいワルツ
変ホ長調、A-A'-B-B'-A-A'形式。両手和音連打で始まる豪華な雰囲気のワルツ。BとB'はは気取ったウィンナ・ワルツだ。- Vals brillante 輝かしいワルツ
ホ短調、A-A'-B-B'-A-A"形式。最初の8小節は和音混じりの3オクターブで旋律が奏され、力強くきびきびとしている。- Vals gitano ジプシーワルツ
元は上記の《幻想的なワルツ集》に含まれていた曲である。ハ短調、A-B-A'-コーダの形式。3連符の「こぶし」が効いたスペイン風の溌溂としたワルツ。半音階進行する対旋律があちこちに現れるのが絶妙な効果だ。1951年頃
- Polka de las enanos こびとのポルカ
ニ長調、A-B-A'-C-A"形式。陽気なポルカ。旋律は三度やオクターブになったりと、華やかな響きなのはレクオーナらしい。Cはト長調になる。- Preludio en la noche 夜の前奏曲
変ホ長調、A-A'形式。夜想曲風の曲で、冒頭のE♭-D♭-E♭-Eの和音進行がお洒落というか、都会派(摩天楼の夜か、はたまたハバナのホテルの夜かな?)ってな感じのムードたっぷりの曲。徐々に盛り上がり、潮が引くようにまた静かになって終る。1955年頃
- Canto del guajiro グアヒーロの歌
グアヒーロとはキューバの農民のこと。レクオーナが、自宅の窓の外から聞こえてくる庭師の歌を元にこの曲を思いついたとのこと。曲は変ニ長調、A-A'-A"-A"'形式。素朴な歌が、口笛か鳥のさえずりのような高音で奏される。旋律は繰り返される毎に重音になったりオクターブになったりと変奏される。- La habanera ハバネラ
1946年作曲のレクオーナの唯一のオペラ《椰子の帽子 El sombrero de yarey》の第二幕で現れるアリアの、作曲家自身によるピアノ編曲。変ホ長調、A-B-A-コーダの形式。甘い旋律の落ち着いたハバネラの曲。Bは変ホ短調になる。作曲年代不詳
- Amorosa 愛情深く
変イ長調、A-B-B'形式。親密なカップルの楽しい会話が聞こえてきそうな小品。Aは高音部の旋律と伴奏和音が可愛らしい。Bは上行音階の旋律が甘えるような雰囲気だが、重音またはオクターブの右手旋律、シンキージョのリズムの幅広い音程の重音左手伴奏共に、いかにもレクオーナ的で技巧的だ。- Ante el Escorial エル・エスコリアル宮殿の前で
1944年初版。スペインのマドリッド近郊、エル・エスコリアルの町にある宮殿(兼修道院)は、 フェリペ2世が1563年から20年余りをかけて建てさせたもので、長さ207メートルの壮大な建築物である。曲は変ホ短調。A-B-C-B'-A形式。深刻な雰囲気の、襟を正すような(レクオーナの作品の中では少数派の)作品である。冒頭のAはミ♭の最低音の響きの上に高音の和音が静かに鳴り響き、荘厳な宮殿を描くよう。続くBは吟遊詩人が歴史をしみじみと歌うような哀愁ある旋律がゆったりと歌われる。カデンツァ挟んで後に現れるCの変ト長調は、いにしえの栄光を偲ぶような情感溢れる旋律が美しい。その後はBの旋律が高音部アルペジオに伴われ奏され、最後はAの荘厳な和音で消えるように終る。旋律も美しいし雰囲気もいいが、こういったシリアスな作品は他の同世代の印象派の作曲家などのピアノ曲と比べると、やや和声やピアノ書法が繊細さに欠け、面白みが今一歩かな~と個人的には思ってしまう。やはりレクオーナの本領は、陽気なキューバ舞曲の方にあるのかな?。- Aragón (Vals españa) アラゴン(スペインのワルツ)
自作の《スペイン、華やかなワルツ、作品10 España, vals brillante, opus 10》という草稿を改変して作られた曲。アラゴンはスペイン北部の州の一つで、また中世スペインにあった王国の名でもある。変ニ長調、前奏-A-A'-B-A'-C-A"-コーダの形式。速いテンポのひたすら技巧的で華やかなワルツ。20小節の派手なカデンツァによる前奏に引き続き、楽しい踊りの光景が目に浮かぶようなワルツ(スペインだから、むしろホタのリズムかな)。ピアニストのトーマス・ティリノによるオリジナル1923年バージョンによると、レクオーナはピアノロールへの録音でBの前に変ト長調の部分31小節およびA'を弾いてからBに進んだとのこと。Bは変イ長調になり、右手ド-ミ♭音連打が華やかで技巧的。Cの旋律はチャイコフスキーのバレエ音楽《くるみ割り人形》の〈花のワルツ〉に似ている。Cの後半は派手に盛り上がり、そのまま最後のA"は右手旋律はオクターブ、左手伴奏の跳躍は広く最高に華やかで技巧的になり大団円で終わる。- Aragonesa アラゴンの女
ハ短調、A-A'-B-A"-コーダの形式。旋律は随所でオクターブになりレクオーナらしく華やかで情熱的な一方、Aで旋律が伸びている間に合いの手のように現れる半音階や、A'の左手伴奏で現れる半音階が妖しげな雰囲気を醸し出していて、妖艶な女性を描写したような曲。Bの部分はハ長調になり魅惑的になる。- Barba-azul, Vals 青いあごヒゲ、ワルツ
ト長調、A-B形式。1分程の短い曲で、サロン音楽風の陽気な軽いワルツ。- Bésame, Vals 私にキスして、ワルツ
ト長調、三部形式。優雅なワルツ。中間部はハ長調になる。- Broken blossoms, Vals 散りゆく花、ワルツ
ト長調、前奏-A-B形式。長調ながら一抹の寂しさを感じさせるのは、散りゆく花を描写しているのだろう。Bで半音階を下がったり上がったりする3連符の旋律が、花びらが一つ一つと散ってゆく様を表している。- ¡Échate p'allá, María! マリア、出て行きなさい!
A-A-B-B形式。Aはハ短調で、雷のような16分音符下降の三度重音旋律はさながら、おそらく母親が少女マリアに「(そこにいちゃダメ!) 出て行きなさい!」と叱っているよう。Bはハ長調になり、マリアはそんな母親の怒鳴りも何のそのと、跳ねるように遊ぶようなフレーズが奏される。- El cisne, Estudio para la mano izquierda 白鳥、左手のための練習曲
レクオーナ自身が演奏会で何度かこの曲を弾いたらしいが、楽譜は残されていない(おそらく楽譜を書かなかったと思われる)。- Gardenia, Vals クチナシ、ワルツ
変ホ長調、A-B形式。優雅で落ち着いたワルツ。- Granada グラナダ
ニ短調、A-B-A'-C-C'-コーダの形式。リズムは軽快だが、半音階が多用された旋律は哀愁漂う曲。- Musetta, Vals ムゼッタ、ワルツ
変ホ長調。ムゼッタは女性の名前で、優雅なワルツ。- Noches de primavera, Vals 春の夜、ワルツ
ヘ長調、A-A-B-A形式。三度重音の旋律が奏され、春の夜のほんわかとした雰囲気を描いたような、のんびりとしたワルツ。Bはハ長調になる。- Parisiana, Vals パリジェンヌ、ワルツ
ハ長調、A-B形式。パリの街をお洒落して、足取りも軽く歩くパリジェンヌを描写しているようなワルツ。- San Francisco El Grande サン・フランシスコ・エル・グランデ
マドリッドにあるサン・フランシスコ・エル・グランデ教会は、1784年に完成した大きなドームが特徴的な壮麗な教会である。この曲は《エル・エスコリアル宮殿の前で》と並ぶ、レクオーナの作品ではシリアス系?のピアノ曲である。嬰ヘ短調、A-B-B'-C-A-B"-コーダの形式。Aは、低音オクターブの荘厳な旋律の上に、教会の鐘の音のような高音が鳴る。Bはド♯が主音のミの旋法による旋律がスペイン的。中間部にあたるCは嬰ヘ長調、ppで教会のコラールが静かに流れる。遠くに鐘の音が高音で響き、教会の聖堂の空気が伝わってくるよう。B"は左手伴奏は32分音符アルペジオ、右手旋律はオクターブ強奏で劇的。最後は冒頭の旋律が静かに奏される。- Soñaba contigo, Vals あなたと夢見て、ワルツ
ニ長調、A-B-A形式。浮き浮きするような恋の夢でも見てるのかしら~といった感じの明るい曲。Bはト長調になる。- Vals del Nilo ナイル川のワルツ
変ホ長調、A-B-A-C-A形式。これは絶対に夜の光景だろう。月明かりにゆったりと流れるナイル川を描いた、絵葉書のようなワルツ。Bは変イ長調、Cはロ長調になってやや華やかな雰囲気。- Vals de los mares 海のワルツ
変イ長調、A-B-A-C-A形式。大海原を滑るように進む航海を描いたようなワルツ。但しBの部分は、荒波にでも出くわしたようなハ短調のffの旋律が突然現れる。Cは変ホ長調になり、新たな光景が現れたかのよう。- Vals del Sena セナのワルツ
変ホ長調。冒頭の旋律はアルペジオが上下に軽やかに舞う。Trioはオクターブ+和音がレクオーナらしく力強く派手。- Voilà, Vals ほらそこに、ワルツ
ハ長調、A-B-A-C-A形式。愛嬌たっぷりの軽快ワルツ。Bはト長調に、Cはへ長調になる。- Zambra サンブラ
レクオーナが作曲したサイネーテ(軽い音楽喜劇)の《劇場のないハバナ La Habana sin teatros》の一場面のピアノ譜スケッチ。ミの旋法の変形(ミ-ファ-ソ-ラ-シ-ド-レ♯-ミ)の「スペイン情緒たっぷり〜」な曲。- Zambra gitana ジプシーのサンブラ
サンブラとはロマ(ジプシーとほぼ同義)の祭りとか、アンダルシア地方のロマの踊りとかの意味がある。レクオーナの自筆譜や初版譜はホ短調だが、彼自身はいつも変ホ短調で弾いていたらしい。A-A'-B-A'-コーダの形式。床を重々しくドンドンと踏み鳴らしながら、悲しい歌を歌うような旋律が現れる。Bは高音部オクターブで新たな旋律がこれも哀愁たっぷりに奏される。