Lina Pires de Camposのページ
Lina Pires de Camposについて
リナ・ピリス・ジ・カンポス Lina Pires de Campos は1918年6月18日、サンパウロに生まれた。彼女の本名はAngela del Vecchioで、リナ・ピリス・ジ・カンポスはペンネームである。彼女の両親はイタリアからの移民で、父親はヴァイオリンやギターなどの楽器製作者であった。子どもの頃からピアノを習い、後にピアニストのマグダ・タリアフェロに師事し、タリアフェロの助手を長年務めた。
彼女は15歳の頃からショーロやワルツ、マズルカ、フォックス・トロットなどの小品を作曲していて、それらのいくつかはLina del Vecchioの名前で出版された。しかし1958年からはカマルゴ・グァルニエリに本格的に作曲を師事し、1960年頃より歌曲やピアノ曲などを作曲。1961年には歌曲《エンボラーダ Embolada》がRádio MEC放送局主催の「ブラジル歌曲コンクール」で二等賞を得た。1979年にはギター曲《前奏、ポンテイオとトッカッティーナ Introdução, Ponteio e Toccatina》が「Vitale-Funarteギタークラシック音楽コンクール」で佳作に選ばれた。
リナ・ピリス・ジ・カンポスはピアノ教師として多くの生徒を育てた。教え子にはカイオ・パガーノ、カリン・フェルナンデス、ユキエ・ニシカワ、マリア・ジョゼ・カラスケイラ、フビア・サントスなどがいる。またサン・ジュダス・タデウ大学 Universidade São Judas Tadeu でピアノ教授法の講義を行った。更に1987年には『教授法とピアノの技法 Pedagogia e técnica pianística』という本を上梓している。
1998年にはリナ・ピリス・ジ・カンポスの弟子のカイオ・パガーノの演奏により彼女のピアノ曲のCDがリリースされ、また2000年には彼女の器楽曲および歌曲を集めたCDがリリースされた。
2003年4月14日、サンパウロで亡くなった。
リナ・ピリス・ジ・カンポスの作品を挙げると、フルートとピアノのための《ソナチネ Snatina》、フルートのための《即興曲1、2、3番 Improvisação I, II e III》、クラリネットとピアノのための《ヴァルサ・ショーロ Valsa choro》、ギター曲《前奏曲第1、2、3、4番 Prelúdio I, II, III e IV》(1975-1985)、《前奏、ポンテイオとトッカッティーナ》(1978)、何曲かの歌曲などがある。
リナ・ピリス・ジ・カンポスのピアノ曲はピアノ学習者のための曲集と、それ以外の作品に大きく分けられる。前者はピアノ初心者向けの《連作「お人形」》、《子どもの小品集》、中級者向けの《小さな物語第1〜5番》があり、いずれもピアノ指導者として多くの弟子を育てた彼女らしい、練習上の配慮の行き届いた作品揃いである。後者のピアノ曲では、2つの変奏曲、2曲の《ポンテイオ》、2曲の《ヴァルサ》はブラジルらしい作品であると同時に、リナ・ピリス・ジ・カンポスの作曲の師であるカマルゴ・グアルニエリの影響が強い、複雑な転調と不協和音の作品である。また晩年の《幻想ソナタ》では、新たな不協和音や無調音楽に挑戦して意欲的な作品である。
Lina Pires de Camposのピアノ曲リストとその解説
1960
- Acalanto 子守歌
素朴な旋律と、長調とも短調ともつかないような響きが子守歌らしい、いい雰囲気の曲。強いて言えばト短調、A-B-C-A'-C'形式。Aは左手3-3-2の静かな伴奏にのって、ト短調とも変ロ長調ともつかない素朴な旋律が呟くように奏される。Bの旋律はファのミクソリディア旋法になる。Cの旋律はBの変奏がニ短調で奏されるが、伴奏和音はこれも長調とも短調ともつかない響きだ。1961
- Ciclo da boneca 連作「お人形」
Rádio MEC放送局主催のコンクールで「ロケット・ピント・メダル」を受賞した作品である。5曲共にト音記号のみで書かれ、右手は全て単音、左手は単音ないし二音の重音とピアノ初心者向けの曲集である。楽譜には強弱記号(特にクレッシェンド、デクレッシェンド)が細かく記されていて、デュナーミクの練習を重視しているように見える。3-3-2のシンコペーションのリズムや、第4番のノルデスチの音楽を思わせる教会旋法など、ブラジル風味も感じられる。
- Boneca faceira 気取ったお人形
イ短調、A-A'-A"形式。自然短音階の右手旋律があどけない感じで、また左手伴奏の♩. ♩. ♩(3-3-2)のリズムがお茶目な雰囲気を醸し出している。- Boneca contente 満足しているお人形
ハ長調、A-A'形式。右手・左手共に単音で書かれていて、Aは左手中音部に歌うような旋律、右手高音部に8分音符の伴奏が穏やかに奏される。A'はAとほぼ同じ旋律・伴奏が右手高音部に旋律・左手中音部に伴奏と交替し、その響きの違いが面白い。- Boneca tristonha 悲しげなお人形
ホ短調、A-A'形式。右手に何とも哀愁漂う旋律が寂しげに奏される。左手伴奏は時々、対旋律のような音階進行を見せる。- Boneca feliz 嬉しそうなお人形
A-B-A'形式。速いテンポの曲。3-3-2の左手リズムにのって、AとBはレのドリア旋法の旋律が流れるように奏される。A'はニ短調になる。- Boneca brejeira いたずらなお人形
ハ長調、A-A'形式。右手の陽気な旋律に、左手スタッカートの対旋律が付く。1962
- Peças infantis 子どもの小品集
この曲集もピアノ初心者向けで、5曲共にト音記号のみで、各曲は最終小節の和音を除いて両手共に単音で書かれている。ミクソリディア旋法の第4番を除いてほぼ(狭義の)調性音楽の分かりやすい響きの曲となっている。
- Menina triste 悲しい女の子
イ短調、A-A'形式。3拍子の左手伴奏にのって、右手に悲しげな旋律が奏される。- Passeio matinal 朝の散歩
ハ長調、A-A'-コーダの形式。左手伴奏は16分音符の分散和音だが音形が3-3-2で、また右手旋律もシンコペーション混じりなのがブラジルらしい雰囲気。A'の前半はAの旋律・伴奏がハ短調に変奏され、その響きの違いを音楽的に表現するのも演奏者の工夫の一つだろう。- Valsinha 小さなヴァルサ
イ短調、A-A'形式。可憐ながらも哀愁漂う旋律が奏される。- Menina dengosa 気取った女の子
ソのミクソリディア旋法、A-A'-コーダの形式。左手オスティナートのリズムにのって、右手にシンコペーション混じりの旋律が奏される。- Regresso feliz 嬉しい帰り道
ハ長調、A-A'-コーダの形式。右手に楽しげな旋律が奏される。1963?
- Sete variações sobre tema de "Mucama Bonita" ムカマ・ボニータの主題による7つの変奏曲
ブラジルでは「ムカマ mucama」とは女性黒人奴隷の召使いのことで、家事労働や乳母、時には奴隷主の妾もさせられていた。〈ムカマ・ボニータ〉はブラジルで歌われている子守歌で、リナ・ピリス・ジ・カンポスはこの子守歌を主題に7つの変奏曲を作曲した。主題はへ長調、3/8拍子で、主旋律を含めて四声で書かれている。第1変奏はイ短調で、アルペジオの伴奏にのって主題が短調で奏される。第2変奏はハ長調で、主題の下で16分音符の対旋律が纏わりつく。第3変奏はイ短調で、中音部に奏される威勢の良い主題の上で、高音部から音階が下りてくる。第4変奏はイ短調で、シンコペーションのきいた主題の変奏の下で上行音階が急かすように奏される。第5変奏はト長調で、中音部内声に主題が気怠そうに奏される。第6変奏はへ長調で、主題がゆったりと奏されるが、主題の旋律に時々ラ♭やシ♮になって幻想的な響き。第7変奏は始め2/2拍子のガボット風で、後半は2/4拍子になって、主題は和音を伴って力強く奏されて終わる。この曲は1982年にギター四重奏に編曲された。1970?
- Ponteio N.º 1 ポンテイオ第1番
リナ・ピリス・ジ・カンポスの作曲の師であるカマルゴ・グァルニエリが作曲した連作《ポンテイオス Ponteios》に倣い、彼女は2曲の《ポンテイオ》を作曲した。第1番は嬰ハ短調、A-B-A'形式。左手3-3-2のリズムの和音にのって、哀しみに満ちたような旋律がしっとりと歌うように奏される。Bはモチーフが執拗に繰り返されながら転調する所は、何か切々と訴えかけているような雰囲気。A'はppで奏されながらも伴奏の音が厚くなり、Aと比べて所々で旋律や伴奏が半音変わっているのが絶妙である。- Valsa N.º 1 ヴァルサ第1番
リナ・ピリス・ジ・カンポスは《ヴァルサ》を2曲作っている。2曲共ヴァルサ・ブラジレイラ(ブラジル風ワルツ)らしい哀愁を湛えつつ、師のカマルゴ・グァルニエリ譲りの、対旋律が絡み合うポリフォニーや頻繁な転調が特徴的である。第1番は強いて言えばニ短調、A-A-B-A'形式。ギターのような旋律が左手に哀愁たっぷりと奏される。冒頭の6小節はイ短調だが、転調してニ短調に収まる。Bはへ長調で始まり、右手に情熱的な旋律が現れ、左手の内声の対旋律と伴奏と相俟って複雑なポリフォニーとなる。1975
- Estorietas I 小さな物語第1番
5曲から成る《小さな物語》は、1曲1曲が可愛らしくも不思議なお伽話のような子ども向けの音楽である。但しリナ・ピリス・ジ・カンポスの前作《連作「お人形」》や《子どもの小品集》に比べると、スタッカートとスラーの弾き分けや、重音、前打音など、やや進んだ技巧を要する曲揃いである。第1番はイ短調、A-A'形式。左手三度重音がスタッカートで奏される伴奏にのって、右手にスラーの付いた音階の旋律が奏される。- Estorietas II 小さな物語第2番
へ長調、A-B-A'形式。ポルカ風の左手スタッカートの伴奏にのって、右手高音部にスタッカートとスラーが混じった旋律が踊るように奏される。Bは伴奏・旋律共にスラーが付いて優雅な踊りに変わったような雰囲気。- Estorietas III 小さな物語第3番
A-A'-A"形式。スタッカート8分音符で奏される左手伴奏は終始長二度の堆積で調性感のない響きで、それにのってフルートを思わせる旋律が高音部に軽快に奏される。- Variações sobre tema brasileiro ブラジルの主題による変奏曲
主題と8つの変奏から成る曲。主題の旋律はブラジルの童歌〈サポ・クルル Sapo cururú〉(または〈サポ・ジュルル Sapo jururu〉とも呼ばれる)で、サポ・クルルとは主に南北アメリカ大陸に生息するヒキガエルの一種であるオオヒキガエルのこと。ヴィラ=ロボスもこの童歌をピアノ組曲《シランダス Cirandas》の第4番〈カーネーションはバラと喧嘩した(サポ・ジュルル) O cravo brigou com a rosa (Sapo jururu)〉の中間部で用いている。冒頭の主題の旋律は変イ長調で、四声〜五声の合唱のようなポリフォニーでゆったりと奏される。第1変奏もポリフォニックで、主題の上にも音階の対旋律が加わる。第2変奏は変ニ長調で始まり、不安定な調性となる。第3変奏は変イ長調に戻り、活発な旋律に変奏される。第4変奏は変ロ短調になり、旋律の下に16分音符の音階による対旋律が奏される。第5変奏は旋律が和音やオクターブで奏されて派手な響き。調性は一定しない。第6変奏は変イ長調になり、3連符アルペジオの左手伴奏にのって右手旋律が歌うように奏され、夜想曲風である。第7変奏は中音部内声に旋律が奏され、高音部に星が降ってくるような16分音符が優しく奏される。第8変奏は旋律が力強く奏され、最後は両手オクターブ和音ffで終わる。1976
- Ponteio N.º 2, Homenagem a Camargo Guarnieri ポンテイオ第2番、カマルゴ・グァルニエリを讃えて
A-B-A'形式。哀愁を帯びた旋律がねっとりと奏され、低弦ギターを思わせるバスが対旋律のように動く。冒頭は嬰へ短調だが、数小節毎に転調をし、途中から中音部内声にも対旋律が加わり、Bの後半では旋律はオクターブとなって情熱的に盛り上がる。1978?
- Valsa N.º 2 ヴァルサ第2番
強いて言えばへ短調、A-B-A'形式。陰うつな旋律が右手中音部に奏され、途中から内声の対旋律も加わって盛り上がる。調性はハッキリせず転調を繰り返すが、Aの終わりでへ短調に収まる。Bは概ねへ短調で、フルート思わせる高音部旋律に始まり、途中から高音部旋律はオクターブ+中音部内声の対旋律+伴奏和音と分厚い響きになる。1982
- Estorietas IV 小さな物語第4番
イ短調、A-B-A'形式。可憐な雰囲気の曲。右手旋律と左手対旋律の二声で書かれていて、最初の3小節はカノンになっている。Bの前半は主旋律が左手に現れ、後半はその繰り返しが右手で奏される。1983
- Estorietas V 小さな物語第5番
へ長調、A-B-A'形式。Aはスタッカート重音の右手旋律と前打音付きの左手スタッカートが悪戯っぽい雰囲気。Bはハ長調になる。1985-1995
- Sonata fantasia 幻想ソナタ
このリナ・ピリス・ジ・カンポスが晩年に作曲したソナタは、彼女の今迄のピアノ曲で聴かれる、転調が頻繁で調性が定まらないながらも和声感のある音楽から一転して、全体的にほぼ無調で不協和音がぶつかる新たな作品である。
- Allegro marziale (1985)
一応ソナタ形式。6/8拍子の第1主題は♩♩♫のモチーフが繰り返される荒々しい雰囲気。第2主題は陰うつな旋律が現れる。第3主題は3/8拍子になり、楽譜に「勇壮に Marziale」と記され、両手に完全五度堆積和音が派手に鳴る。主に第1主題を用いた展開部を経て、再現部は第1主題と第2主題の混合〜第3主題が奏されて終わる。- Andante senza rigore - Allegretto molto ritmato (1995)
前半Andante senza rigoreは無調の気怠い旋律が変奏されながら奏される。後半Allegretto molto ritmatoは3/8拍子と4/8拍子の可変拍子で、最後は第1楽章の第1主題・第3主題が力強く奏されて終わる。
Lina Pires de Camposのピアノ曲楽譜
Irmãos Vitale
- Acalanto
- Coleção de Peças infantis, N.º 1. Menina triste
- Coleção de Peças infantis, N.º 2. Passeio matinal
- Coleção de Peças infantis, N.º 3. Valsinha
- Coleção de Peças infantis, N.º 4. Menina dengosa
- Coleção de Peças infantis, N.º 5. Regresso feliz
- Ponteio N.º 2
- Variações sobre tema brasileiro
Ricordi Brasileira S.A.
- Ciclo da boneca
- Estorietas IV
- Estorietas V
- Ponteio N.º 1
- Sete variações sobre tema de "Mucama Bonita"
- Valsa N.º 1
- Valsa N.º 2
Musicália
- Estorietas I
- Estorietas II
- Estorietas III
斜字は絶版と思われる楽譜
Lina Pires de Camposのピアノ曲CD・LP
星の数は、
は是非お薦めのCD、
は興味を持たれた人にはお薦めのCD、
はどうしてもという人にお薦めのCD・LPです。
Obra para piano
Régia Música
- Valsa N.º 1
- Valsa N.º 2
- Sete variações sobre tema de "Mucama Bonita"
- Ponteio N.º 1
- Ponteio N.º 2
- Estorietas I, II, III, IV, V
- 5 Peças infantis
- Ciclo da boneca
- Variações sobre tema brasileiro
- Acalanto
- Sonata fantasia
Caio Pagano (pf)
1998年のリリース。
Cromo
Odradek Records, ODRCD706
- Quando te vi pela primeira vez (Mozart Camargo Guarnieri)*
- Dentro da noite (Oscar Lorenzo Fernandez)*
- Cromo No. 2 (José Vieira Brandão)*
- Cantiga I (Osvaldo Lacerda)*
- Soneto da separação (Ronaldo Miranda)*
- Ponteio No. 49 (Torturado) (Mozart Camargo Guarnieri)
- Eu sou como aquela fonte (Lina Pires de Campos)*
- Coração triste (Alberto Nepomuceno)*
- Modinha (Heitor Villa-Lobos)*
- Casulo (Edmundo Villani-Côrtes)*
- Destino de areia (Oswaldo de Souza)*
- Ponteio No. 1 (Lina Pires de Campos)
- Cantiga (Mozart Camargo Guarnieri)*
Eliane Barni (voz)*, Antonio Vaz Lemes (pf)
2018年の録音、2020年のリリース。
Eudóxia de Barros apresenta jovens compositores paulistas (LP)
Ricordi, SRE-7
- 9 variações sobre Ciranda cirandinha (Mariza Tupinambá)
- Valsa No.2 (Pérsio Moreira da Rocha)
- 7 Variações sobre Mucama bonita (Lina Pires de Campos)
- Suíte infantil No.2 (Sérgio de Vasconcellos-Corrêa)
- Seresta (Sérgio de Vasconcellos-Corrêa)
- Ciclo miniatura (Nilson Lombardi)
- Ponteio No.3 (Nilson Lombardi)
- 14 variações sobreXangô (Almeida Prado)
Eudóxia de Barros (pf)
1963年のリリース。
Lina Pires de Camposに関する参考文献
- Ellen de Albuquerque Boger Stencel. "As Bonecas" de Oscar Lorenzo Fernandez e Lina Pires de Campos : aspectos pianísticos para o ensino da performance, Tese. Universidade Estadual de Campinas, Instituto de Artes 2016.