Marlos Nobreのピアノ曲リスト
1959
1960
- Nazarethiana, Op. 2 ナザレ風に、作品2
- 1º Ciclo Nordestino, Op. 5 第1ノルデスチーノ組曲、作品5
- Samba matuto 森林のサンバ
- Cantiga カンチーガ
- É Lamp ランプだ
- Gavião 鷹
- Martelo マルテーロ
1961
1962
1963
- Tocatina, Ponteio e Final, Op.12 トッカッティーナ、ポンテイオ、終曲、作品12
- 2º Ciclo Nordestino, Op. 13 第2ノルデスチーノ組曲、作品13
- Batuque バトゥーキ
- Praiana 海辺の人
- Carretilha 小さな滑車
- Sêca 乾期
- Xenhenhém シェニェニェン
1966
- 3º Ciclo Nordestino, Op.22 第3ノルデスチーノ組曲、作品22
- Capoeira カポエイラ
- Côco I コーコ1番
- Cantiga de cego 盲人の歌
- Côco II (Fuguetta) コーコ2番(フゲッタ)
- Candomblé カンドンブレ
- Sonata Breve, Op.24 小さなソナタ、作品24
1973
1977
- 4º Ciclo Nordestino, Op. 43 第4ノルデスチーノ組曲、作品43
- Cabocolinhos カボクリーニョス
- Cantilena カンチレーナ
- Maracatu マラカトゥ
- Ponteado ポンテアード
- Frevo フレーヴォ
- Quatro Momentos, Op.44 4つのモーメント、作品44
- Luminoso 明るく
- Lírico 叙情的に
- Sarcástico 辛辣に
- Dramático 劇的に
- Sonata (sobre tema de Bartok), Op. 45 ソナタ(バルトークの主題による)、作品45
- Con Giúbilo
- Estático
- Vivo-Nervosamente (Toccata)
1984
2006
2007
- Frevo Nº 2, Op. 105 フレーヴォ第2番、作品105
2016
- Nazarethiana nº 2 ナザレ風に 第2番
Marlos Nobreのピアノ曲の解説
1959
- Homenagem a Ernesto Nazareth, Op. 1 (bis) エルネスト・ナザレへのオマージュ、作品1(bis)
嬰ハ短調、ロンド形式。ナザレを思わせるシンコペーションとアルペジオのちょっと落ち着きない伴奏にのって、旋律が奏される。冒頭の旋律が数小節〜途中で自由に展開〜フェルマータで小休止、を何度も繰り返す。1960
- Nazarethiana, Op. 2 ナザレ風に、作品2
レシフェで行われたドイツ・ブラジル州立文化協会コンクールで一等賞を得た作品。ノブリ(ノブレ)の作品にしてはまだ和音も分り易く、愛嬌ある楽しい曲で、彼のピアノ曲の中でおそらく一番親しみやすい曲かな。ト長調。左手の16分音符ソ-レ-シ-ソ-ファ#-レ-シ-ソ-という古典的ながらベースの半音階進行が粋な伴奏にのって、右手の快活な旋律が奏される雰囲気は曲名通りナザレを思わせる。(といっても伴奏も旋律もナザレに同じものは無く、ノブレのオリジナルである。)これが6小節演奏される度に、長二度の不協和音に中断されるーが繰り返される。- 1º Ciclo Nordestino, Op. 5 第1ノルデスチーノ組曲、作品5
ブラジル北東部のことを「ノルデスチ(またはノルデステ)」と言うが、このノルデスチの民族音楽を用いてノブリが彼独自の現代的語法で書いた連作が "Ciclo Nordestino" である。西洋で言うと教会旋法にあたる音階を用いているのがノルデスチ音楽の一つの特徴だが、これは16世紀頃よりポルトガルから来た修道士たちが先住民にグレゴリオ聖歌を教えたのがきっかけで、その教会旋法が長い時を経て徐々に先住民やメスティーソの音楽に溶け込み、ついにはノルデスチの民族音楽の旋法自体がこうなったとのこと。響きが我々にはちょっと馴染み薄いのだが、その響きがブラジルらしい躍動的なリズムと相俟って独特の世界を作っているのが興味深い曲集である。多くの曲がポリフォニックなのも特徴的である。この1º Ciclo Nordestinoは1960年のサンパウロ州音楽委員会コンクールで第2位を受賞している。ピアノを始めて4、5年目の初心者向けとなっていて、技巧的には難しくはない。
- Samba matuto 森林のサンバ
ペルナンブーコ州でのサトウキビの収穫の労働歌の1つ〈カナ・フィータ Cana-Fita(縞模様のサトウキビ)〉の旋律を用いている。ニ短調。シンコペーション混じりの躍動的な旋律が右手→左手のカノンで奏される。9〜12小節は一時、ファが♯になったレのミクソリディア旋法になるのがいい響きだ。- Cantiga カンチーガ
ロ短調、A-A'-B-A'形式。悲し気な旋律がニ声(時には三声)で歌われる。A'では、Aの上声と下声が逆転して奏される。- É Lamp ランプだ
この曲は、ノブリと同郷のペルナンブコ州の詩人Ascenso Ferreira (1895-1965) が書いた詩集 "Catimbó" を題材にしている。"Catimbó" の詩に登場する "Lamp" とは、1920年代から30年代にかけて暗躍したノルデスチの盗賊団(カンガセイロと呼ばれる)の首領ヴィルグリーノ・フェレイラ・ダ・シルバ (Virgulino Ferreira da Silva, 1898?-1938) のことで、ランピアォン (Lampião) またはランプ (Lamp) というあだ名で当時有名であったとのこと。ランピアォンのカンガセイロは残虐冷酷であったが、一方で義賊として警察や大農場主と果敢に戦った彼の人生は、後のノルデスチの多くの吟遊詩人によって歌われている。4小節の前奏に引き続き、左手のオスティナートの伴奏にのって右手にシのフリギア旋法の野性的なーランピアォンの戦いを思わせるようなー旋律が現れる。後半は左手ー旋律、右手ー伴奏に変わる。- Gavião 鷹
この曲もAscenso Ferreiraの詩集 "Catimbó" を題材にした曲。A-A-B-A形式。最初はホ長調のカノンで、16分音符がせわしない。中間部はミのミクソリディア旋法になる。- Martelo マルテーロ
マルテーロとは決まった韻律(リズム)の詩をギターの伴奏で独特の節回しで歌う、ブラジルの伝統的な芸能である。A-A'-B-A"形式。左手のスタッカート16分音符の1、4、7拍にアクセントのある躍動的なリズムにのって、ソのリディア旋法の旋律が奏される。カポエイラでは基本の技の1つにMarteloというのが有り、それと関係あるのかな。1961
- Tema e Variações, Op. 7 主題と変奏、作品7
1961年のニューヨークBroadcasting Music Inc.による「学生作曲賞」受賞作品。この曲を作曲した頃に師事していたカマルゴ・グァルニェリの影響を感じさせる作品である。Tema (Calmo)は、ラのミクソリディア旋法による静かで柔らかい旋律で、左手のアルペジオは多調的。第1変奏 (Vivo e espirituoso) は、2声で軽快。第2変奏 (Energico) は、左手の和音跳躍が躍動的。第3変奏 (Molto lento e sonoro) は、3声のゆっくりとした旋律が流れ神秘的。第4変奏 (Animado) は、跳ねるように軽快。第5変奏 (Rubato, tranquilo) は、2声のしっとりとした感じ。第6変奏 (Vivo e obstinado) は、トッカータ風。1962
- 16 variações sobre um tema de Fructuoso Vianna, Op. 8 フルトゥオーゾ・ヴィアナの主題による16の変奏、作品8
1962年のブラジル青年国際音楽コンクール一等賞作品。変奏曲でのノブリの実力を示した力作。主題はト短調の物憂い旋律。第1変奏は雰囲気は主題に同じながら和音に味が付く。第2変奏は熱情的になる。第3変奏は2オクターブ離れたユニゾンの16分音符。第4変奏は付点のリズム。第5変奏は16分音符のスタッカート。第6変奏は右手は2/4拍子、左手は6/8拍子の悲し気な曲想。第7変奏は殆ど単音からなるスタッカート。第8変奏はシンコペーションが躍動的。第9変奏はミニョーネへのオマージュらしく、ちょっと情熱的なValsa Brasileira。第10変奏はト長調になり可憐。第11変奏はカマルゴ・グァルニェリへのオマージュらしく、シンコペーションと不協和音が特徴的。第12変奏はまたト長調になり、右手3/8拍子、左手2/8拍子。第13変奏は2オクターブ離れたユニゾンでソのミクソリディア旋法の軽い旋律。第14変奏は流れるようなト長調~ト短調。第15変奏は両手オクターブのスタッカート。第16変奏はヴィラ=ロボスへのオマージュらしく、左手右手の躍動的なシンコペーションの曲で激しく終わる。1963
- Tocatina, Ponteio e Final, Op.12 トッカッティーナ、ポンテイオ、終曲、作品12
1963年のリオデジャネイロ連邦大学音楽学部の作曲コンクール受賞作。第1曲Tocatinaは、左手16分音符スタッカートの旋律と右手の途切れ途切れのたたみかけるような鋭い旋律の2声から成る曲。第2曲Ponteioは、左手の半音階進行のベースにのって右手にアルペジオがけだるく奏される曲。第3曲Finalは、左手2度・右手4度の練習曲みたいで、後半は3-3-2拍のシンコペーションが力強く奏される。- 2º Ciclo Nordestino, Op. 13 第2ノルデスチーノ組曲、作品13
ノブリがブエノスアイレス留学中に作曲したこの第2ノルデスチーノ組曲は、技巧的にはそれ程難しくはないが、第2、4曲あたりは和声も豊かになり曲想が大人っぽくなっている。
- Batuque バトゥーキ
左手のシンコペーション混じりのソ-ラ-シ-ド-レがずっと続くオスティナート(とは言え、リズムパターンは毎小節微妙に変化するのが面白い)にのって、右手にソのミクソリディア旋法の旋律が素朴な響き。- Praiana 海辺の人
A-B-B'-A'形式。楽譜の冒頭に "Con muita saudade" と記されている通りのしっとりとした、ソのミクソリディア旋法の旋律が右手と左手中声部にカノンで奏され、その下に半音階的進行のバスが動く三声〜四声の曲。旋法と半音階の使い方が、南国的なけだるい雰囲気を上手に描写している。- Carretilha 小さな滑車
七度の音程の、高音が愛嬌ある曲。旋律はこれまたソのミクソリディア旋法だ。- Sêca セッカ(乾期)
ブラジル北東部(ノルデスチ)は歴史上、Secaと呼ばれる乾期にしばしば旱魃の被害が起きていて、特に1877〜1878年の大旱魃では2年間ほとんど雨が降らず、数十万人の死者を出したとのこと。ノブリ自身によると、この大旱魃を音楽にしたとのことである。変ロ長調。ゆったりとした曲で、半音階進行の不協和音の使い方が何とも絶妙な効果で、暑さで気が遠くなるような「むわっ」とした雰囲気。- Xenhenhém シェニェニェン
シェニェニェンとはフォホー (Forró) と呼ばれるノルデスチの踊りの一つ。シェニェニェンは男女が密着して、腰をくねらせ足を絡め、結構エロチックな踊りだ。A-B-A'形式。16分音符連打の二声カノンの曲。ハ長調で始まるが、中間部はまたドのミクソリディア旋法だ。1966
- 3º Ciclo Nordestino, Op.22 第3ノルデスチーノ組曲、作品22
この第3集は、クラスターなどを含めた新しい奏法を取り入れ、ノルデスチの音楽を更に踏み込んで表現している組曲である。
- Capoeira カポエイラ
カポエィラとは、かつて格闘技の練習を禁止されていたブラジルの黒人奴隷達が、音楽にあわせダンスにカモフラージュしながら練習していた格闘技が元になってできたと言われている伝統芸のスポーツのこと。A-B-A'-B'形式。この曲は曲名通り響きは勿論のこと、奏法まで体育会系!。左手は、低音部のファ-ソ-ラ-シとファ#-ソ#-ラ#の交互連打で、楽譜にはファ-ソ-ラ-シを手首で叩き、ファ#-ソ#-ラ#を曲げた手指の背で叩くよう図解入りで説明がある(!)。右手の方は冒頭の4小節をピアノの蓋を叩いてリズムを打ってから、カポエィラの民謡の一つである "Esta cobra te morde" がペンタトニックの旋律で奏される。B、A'、B'で現れる半音階的な対旋律が音に色彩を加えている。- Côco I コーコ1番
Côcoとはブラジル北東部の沿岸地域特有の民謡の一種。「コーコ」とは椰子の実を意味していて、椰子の実穫りの仕事の歌だとか、椰子の実を叩きながら歌ったことに始まったなどと言われている。A-B-A'形式。Aは一応ニ長調で、快活な旋律の二声カノン。Bも二声のポリフォニックな掛け合いで、レのミクソリディア旋法やドリア旋法が聴かれる。- Cantiga de cego 盲人の歌
左手最低音部のミ-ミ♭-レ-レ♭-ド-シ-シ♭-ラと右手最高音部のファ-ファ#-ソ-ソ#-ラ-ラ#-シ-ドのクラスターのsff強打が轟き、その中から民謡 "Meus irmãos, me dê uma esmola" の旋律がファのリディア旋法で弱々しく奏される。その旋律を襲うように左手、右手のクラスターがスタッカートで叩かれる。何か意味深な曲だ。- Côco II (Fuguetta) コーコ2番(フゲッタ)
フーガ風の2声の曲。左手にドのミクソリディア旋法の主唱が現れ、2小節遅れて、右手五度上に応唱が現れる。その後はディヴェルティスマン、ストレッタのような部分が続いていく。響きはちょっとプロコフィエフっぽい。- Candomblé カンドンブレ
カンドンブレとはアフロ・ブラジリアン宗教の一種で、アフリカ的な響きを感じさせる曲。A-A'形式。2小節のピアノの蓋叩きに続いて、またファ-ソ-ラ-シとファ#-ソ#-ラ#の連打が右手で始まり、ソのミクソリディア旋法の旋律が左手低音で奏される。- Sonata Breve, Op.24 小さなソナタ、作品24
作曲されたのは1966年らしいが、初演は2001年にピアニストのClélia Iruzunにより行われた。単一楽章だが、大きく3部に分かれている。第1部"Vigoroso"は、最初の2小節で現れるMarcatoの2つのモチーフがあちこちで奏され力強い。第2部"Meno Mosso"は、第1部のモチーフが反行形(鏡面像のように変わったもの)となって繰り返され、繊細な半音階の伴奏が静かに奏される。第3部"Presto agitato"は16分音符が無窮動で、段々野性的に盛り上がる。1973
- Homenagem a Arthur Rubinstein, Op. 40 アルトゥール・ルービンシュタインへのオマージュ、作品40
ルービンシュタインへ捧げるに相応しい名人芸的な曲で、「芸術は爆発だ~っ」といった感じ?。捧げられたルービンシュタインはこの曲を絶賛しながら「もう私は87歳で、この曲を人前で弾くことは不可能です」とノブリに手紙を出している。冒頭のPresto con fuocoは流れるような32分音符の速い音列が上へ下へと疾走する。(ドビュッシーの前奏曲集の「花火」を思わせる。)中間部はレシタティーボ風で高音や低音に打鳴らされる連打やクラスターが鋭い響き。最後は右手の32分音符の音列と左手の不規則なオクターブ連打で盛り上がる。1977
- 4º Ciclo Nordestino, Op. 43 第4ノルデスチーノ組曲、作品43
前作「第3ノルデスチーノ組曲」から十年以上間をおいて作られた、この「第4ノルデスチーノ組曲」は、ピアノ曲として一層円熟した出来を感じさせる作品である。全曲の楽譜はやっと2006年に出版された。
- Cabocolinhos カボクリーニョス
A-A'-B-B'-A"形式。殆どが高音部で奏される愛嬌たっぷりの曲。カボクリーニョスとは、ノルデスチ(ブラジル北東部)の民族舞踊の一つで、レシフェなどのカーニバルでこの踊りをする一団をもカボクリーニョスと呼ぶ。冒頭は左手シンコペーションのリズムにのって、右手に跳ねるようなスタッカートの旋律がレ-ミ-ファ#-ソ#-ラ-シ-ドの旋法(リディア旋法+ドリア旋法の混合)で奏される。短二度でぶつかる和音が刺激的に鳴り、今度は前述の旋律がラの旋法で奏される。中間部B-B'はやや静かになり、嬰ニ短調〜変ニ長調の旋律が右手に現れる。ここでは左手伴奏はレ-ソ#-ラとド-ファ#-ソ交互のシンコペーションであり、即ち多調の響きだ。その後は再び跳ねるようなスタッカートの旋律が再現され、左手シンコペーションは最高音部から最低音部まで奔放に飛び回って盛り上がり終わる。- Cantilena カンチレーナ
静かな曲。しいて言えばニ長調の響きで、哀愁ある気怠い旋律が奏され、対旋律やベースの半音階進行の含め、全部で四声のポリフォニックな旋律が絡み合う。- Maracatu マラカトゥ
Maracatuとは、ペルナンブコ州レシフェあたりの民族舞踊で、起源はアフリカのコンゴの王を祝う祭である。レシフェのカーニバルでは打楽器のリズムにのって、コンゴの王族を仮装した行列が練り歩くらしい。A-B-A'-B'形式。曲はザブンバ(大太鼓のような民族楽器)を思わせる最低音ラ+ソ#+シ♭のリズムにのって、アゴゴまたはゴンゲ(いずれも鐘のような民族楽器)を打つ音のような何調ともつかぬ野性的な旋律が、最初は低音pで〜徐々に音域を上げ音量を増して繰り返される。Bでは高音部に新たな旋律が現れ、A'、B'と徐々に音量を増し、正にカーニバルの行列が近づいて来るようで、fffで両手不協和音が強打されるまで盛り上がる。- Ponteado ポンテアード
題名通りギターのつま弾きを思わせる左手シンコペーションのって、フルートのような軽快な旋律が高音部で爽やかに奏される。両手共ミクソリディア旋法だが、所々下降する音階がフリギア旋法だったりと、どちらもノルデスチ音楽らしく独特の雰囲気。- Frevo フレーヴォ
ニ短調。フレーヴォ(フレヴォ)は19世紀末頃のレシフェのカーニバルあたりを始まりとする、2拍子の速いテンポの舞踊音楽。ノブリのこの曲はきびきびとした華やかな曲。16小節から成る旋律が変奏しながら繰り返される。シンコペーションたっぷりのリズムは活気があり、楽譜には弱拍のアクセント記号がたくさんある。和音も親しみ易くてアンコールピースあたりに向いていそう。- Sonata (sobre tema de Bartok), Op. 45 ソナタ(バルトークの主題による)、作品45
バルトークが1943年に作曲した「管弦楽のための協奏曲」の第一楽章 Introduzioneの展開部の最後に現れる、金管楽器によるフーガの部分を主題としたピアノソナタである。全曲通して「調性」などは殆どない現代音楽らしい作品であるが、とてもピアニスティックな華やかな響きに満ちているお蔭で、聴いていて退屈しない面白い作品に感じます。第一楽章Con Giúbiloは、まずバルトークの四声のフーガが第1主題として奏される。続いて静かな旋律の第2主題が奏され、両手ユニゾンが執拗な展開部へと続く。展開部から流れる3連16分音符が続く中、左手に静かに第1主題が再現され、続いて第2主題も旋法を変えて現れ、ひとしきり激しい展開が行われて終わる。第2楽章Estáticoは緩徐楽章にあたり、短二度の冷たい響きのモチーフが繰り返される。中間部では謎めいた旋律が高音部に現れ、瞬く間に嵐のように激しく変奏される。最後に短二度のモチーフが5小節だけ短く回想されて終わる。第3楽章Vivo-Nervosamente (Toccata)は、正にトッカータ風の軽快で心地良い曲。5/4拍子と4/4拍子が頻繁に入れ替わる変拍子に加え、リズムはシンコペーションがバッチリ効いていて、これはもはやブラジル音楽の響きだ。A-B-A'-C-A"-B'-A"'-C'-コーダのロンド形式で、この軽快な主題に挟まれて、同音連打の部分や、第1楽章展開部で聴かれた両手ユニゾンが現れる。
- Con Giúbilo
- Estático
- Vivo-Nervosamente (Toccata)
1984
- Tango, Op. 61 タンゴ、作品61
最初の2小節で現れる(しいて言えば)ト短調の右手の神経質な旋律と左手の半音階進行がモチーフとなり変奏曲風の作り。7度や9度を多用した鋭い響き、前へつんのめるような攻撃的なリズム、曲全体に流れる「どす黒い」雰囲気~半分はノーブレの響きだが、もう半分はピアソラの影響を感じさせる曲だ。曲全体に緊張感が漲っていて、特に左手低音オクターブのド-シ-シ♭-ラがほぼ28小節続きながら右手の旋律がじわじわと盛り上がっていく所は見事。- Sonatina, Op. 66 ソナチネ、作品66
ブラジルのピアニスト、ネルソン・フレイレに献呈された。A-A-B-A'-C-B'-A"-C'-B"-A'"形式。力強く乾いた響きの作品の多いノブリにしては珍しく、ホ短調の冒頭Aは感傷的な旋律が流れる。Bでは神経質な旋律が現れ、Cでは力強い両手オクターブと、静かな下降旋律が奏される。2006
- Toccata Nº 2, Op. 102 トッカータ第2番、作品102
楽譜は2009年に出版、献呈されたピアニストのBernardo Scaramboneにより2011年に初演された。ボサノヴァのリズムを用いながらも、ノブリお得意の不協和音が轟く力強い作品である。A-B-C-D-A'-B'-C'-D'形式。冒頭Aは、ボサノヴァのリズムにのって、低音で半音階を下がるだけの旋律というかモチーフだが、何音か毎にオクターブを上げたり下げたりすることで独特の雰囲気を作っていて、アイデアの勝利!といった感じである。このモチーフは分散オクターブになり、五度上の重音が加わったり、和音になったりと発展する。次のBは半音階下行に加えて半音階上行のモチーフも重なりffまでヒートアップするも一旦治まる。次のCは左手低音16分音符が不気味に轟く上で、新たなシンコペーションのモチーフが現れる。Dは左手低音16分音符の上で、高音部でも16分音符が妖しげに鳴るのが印象的だ。後半はA, B, C, Dがそれぞれ短く変奏されて、もう一度盛り上がって終わる。