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João Nunesについて
João Sebastião Rodrigues Nunes(ジョアン・セバスチアン・ロドリゲス・ヌネス)は1877年1月20日、ブラジル北東部のマラニョン州の州都サン・ルイスに生まれた。子どもの頃にまずヴァイオリンを習い始め、次にピアノを姉から習った。11歳の時に彼の母が亡くなり、更に14歳の時に父が亡くなった。両親のいないヌネスは働くことになり、郵便局に勤めた。彼は働きながらピアノの練習を続け、演奏会に時々出演していた。
1902年にはリオデジャネイロに出てAlfredo Bevilacquaにピアノを師事。1904年にはリオデジャネイロの国立音楽学校 (Instituto Nacional de Música) のピアノコンクールに出場して一等賞の金メダルを得た。これによりヌネスはマラニョン州政府より奨学金を得て、1905年にフランスに留学。パリで(おそらく)ピアノと作曲を学んだ。
1906年にブラジルに帰国すると、サン・ルイスの師範学校(翌年にはマラニョン州立音楽学校になる)の教授を1911年まで務めた。またピアニストとしても活躍しており、1906年12月のリサイタルではベートーヴェンのピアノソナタ「熱情」、ショパンの練習曲集やスケルツォ第2番などを演奏している。
1912年頃にはリオデジャネイロに移り、国立音楽学校で長年に亘ってピアノを教えた。また楽譜校訂者として、楽譜出版社Casa Arthur Napoleãoより「教程本 (Edição Escolar)」と題して内外の作曲者のピアノ曲三百曲以上を6段階の難度別に分類して出版した。また音楽評論家として数々の雑誌に記事を投稿した。また1941年には「チェンバロからピアノへ (Do cravo ao piano)」という本を上梓し、その本の中で特に装飾音について詳しく考察している。
1951年8月18日にリオデジャネイロで亡くなった。
ヌネスの作品には、オラトリオ "O Mártir do Calvário" およびいくつかの歌曲がある以外はピアノ曲である。"Barcarola" や "Pièces drôles" はドビュッシーの影響の強く、後者は中々の精緻な作曲技法のピアノ曲である。また国立音楽学校で長年教鞭を執り、教育的な楽譜の校訂に携わるなど、ピアノ教育者として活躍した中〜後期は、初心者のための教本的なピアノ曲を多く作っている。
João Nunesのピアノ曲リストとその解説
斜字は出版がなく、かつ手稿譜が現存せず、どんな曲だか不明な作品です。
- Barcarola (1905-1906?) 舟歌
フランス留学中の作品。ニ長調、A-B-A'形式。ヌネスの初期の作品であり機能和声で書かれてはいるが、sus4の和音や属九の和音などを多用した、ドビュッシーの初期のピアノ曲を思わせる響きの曲である。舟歌らしい8/9拍子の穏やかなリズムにのって、水面のざわめきを描写したようなアルペジオやトリルを伴いながら断片的な旋律が現れる。Bはロ短調になる。- Caixinha de música (1924) オルゴール
嬰ヘ長調、A-B-A'形式。右手・左手共にト音記号で書かれており、楽譜の冒頭には "Automaticamente e non legato(自動演奏のように、またノンレガートで)" と記されていて、左手アルペジオの上で重音の旋律が奏される。Bは嬰へ短調になり、右手・左手の掛け合いのようになる。- La vie des abeilles (En lisant Maeterlinck) 蜜蜂の生活(メーテルリンクの詩を読んで)
- Les harmonies de la cathédrale (En lisant Victor Hugo) (1921) 大聖堂のハーモニー(ヴィクトル・ユーゴーの小説を読んで)
「大聖堂」とフランスの作家「ヴィクトル・ユーゴー」と言えば、小説『ノートルダム・ド・パリ』の舞台であるノートルダム大聖堂であろう。曲は大聖堂の荘厳な美しさと、ヴィクトル・ユーゴーの小説で語られるような教会の権力が持つ暗い影の部分の両方を描いたような作品である。ヌネスが留学によってフランス印象主義の作曲技法を身に付けたことを遺憾なく発揮したような繊細な音使いの作品で、特に九度の和音や全音音階の響きは何とも魅惑的である。A-B-A'-C-D-A-コーダの形式。Aは嬰ハ長調で、鐘の音のような和音と、4オクターブを上下する絶え間ないアルペジオの響きは大聖堂の豪華な内装やステンドグラスから射す光を思わせる壮麗な響きだ(下記の楽譜)。
Les harmonies de la cathédrale (En lisant Victor Hugo)、6-8小節、Casa Arthur Napoleãoより引用
Bは右手にアルペジオが続く下で、信者の祈りの声を連想させるようなモチーフが中音部でオクターブ和音を伴って現れ、モチーフが繰り返される時はホ短調になる所が暗い影を感じさせる。Dは嬰へ短調になり、忍び足かはたまた葬送行進曲かのような静かな8分音符+8分休符の伴奏にのって呟くような旋律が現れ(下記の楽譜)、旋律は苦悶するように音を増すが、直ぐに静まり返ってしまう。
Les harmonies de la cathédrale (En lisant Victor Hugo)、49-53小節、Casa Arthur Napoleãoより引用
最後のコーダは変イ長調で、天上の響きのようなアルペジオが繰り返されて終わる(下記の楽譜)。
Les harmonies de la cathédrale (En lisant Victor Hugo)、81-83小節、Casa Arthur Napoleãoより引用- Marionnettes マリオネット
- Minueto メヌエット
- Os três meninos 三人の男の子
ヌネスが自分の息子のために作曲した組曲で、和声は簡単で、ピアノ技巧的にも初心者向けの作品である。
- O menino sossegado 落ち着いた男の子
へ長調、A-B-A'形式。控えめな和音の伴奏にのって、穏やかな旋律が奏される。- O menino carinhoso 優しい男の子
ニ長調、 A-B-A'-コーダの形式。子守歌のような雰囲気の曲で、和音とラ音オスティナートから成る静かな伴奏にのって優しい旋律が奏される。Bは嬰へ短調になる。- O menino travesso 腕白な男の子
ト長調、A-B-A'形式。行進曲のような雰囲気で、左手は4分音符スタッカートが続き、それにのって威勢の良い右手旋律が奏される。Bは変ホ長調になり、時々左手4分音符の下で右手が低音を鳴らす。- Oublions le Passé (Valsa) 過ぎた事は忘れよう(ワルツ)
- Parque de diversões, Seis miniaturas 遊園地、6つのミニアチュール
ピアノ技巧的には中級で、子どもが弾いてもさほど無理はなさそうな範囲で、遊園地のアトラクションを表情豊かに描いた組曲である。
- Montanha russa ジェットコースター
ロ長調、A-B-A形式。不安げな不協和音の前奏に続いて、速くて愉快な旋律が奏される。アッチャッカトゥーラや短二度混じりの和音がジェットコースターの破茶滅茶な動きを描いているよう。- Os dois anões 二人のコビト
ト長調、A-B-B'-A'形式。落ち着いた可憐な旋律が奏される。BとB'はト短調になる。- Carrocel 回転木馬
ホ長調、A-B-A'形式。回転木馬が回り続けるのを描いたような伴奏にのって、ブラジルの童歌 "Ó ciranda, Ó cirandinha" の旋律が奏される。Bはイ長調になり、子どもの無邪気な様子を描いているよう。- A casa maluca 奇妙な家
ハ長調、A-A-B-A-A'形式。高音部の16分音符旋律に、短二度の音程でスタッカートが纏わり付き、悪戯っぽい雰囲気だ。- O chicote チコテ
ト短調、A-B-C-D-A'形式。16分音符の同音連打や半音階進行にのって忙しない旋律が現れる。- Despedida 終わり
ロ短調、A-B-A'形式。愉快だったり可愛らしかったりのこの組曲の中で、この最後の1曲のみが哀愁に満ちていて、それが組曲全体に奥行きを与えているように思えます。Aは寂しげな旋律が静かに奏される。Bはロ長調になり、楽譜に "com saudade" と記されている通り郷愁感溢れる雰囲気だ。夕暮れの中、遊園地からの帰り道の、名残惜しがる子どもながらの気持ちを描いているのだろうか。- Quatro peças fáceis 4つの易しい小品集
第1、2曲はピアノを習って1〜2年目くらい向け、第3、4曲は若干難しくなって3〜4年目くらい向けの小品集。第4曲を除いて、楽譜の全ての音符に指使いが記され、また音程はほぼ七度まででオクターブは殆ど使われない。4曲共に穏やかで抒情的な雰囲気である。
- História muito antiga 昔々のお話し
イ短調。おばあちゃんが子どもに「むかし、むかし・・・」と語っているような、落ち着いた旋律が奏される。- São horas de dormir おやすみの時間
ハ長調、A-B-A'形式。穏やかに歌うような旋律が奏される。曲の最後の旋律はシ♭音がディミヌエンドしながら続いて、宛ら子どもが眠りに入ったよう。- As duas amiguinhas 二人の仲良し
ト長調、A-B-A'形式。穏やかな雰囲気の重音の旋律が奏される。Bは変ロ長調になる。- Ouvindo a serenata セレナーデを聞きながら
ホ長調、A-B-A'-B'形式。ギターを思わせる伴奏にのって優しく歌うような旋律が奏される。- Peças infantis 子どもの小品集
- A boneca desprezada 放って置かれたお人形
ホ短調、A-B-A形式。何とも寂しげな旋律が静かに奏される。Bはト長調になる。- Marcha das formiguinhas アリさん達の行進
ト長調、A-B-A'形式。あどけない旋律の可愛らしい行進曲。Bでは右手左手がユニゾンになり、威勢を張っているような感じでそれも可愛らしい。- Quando eu era pequenino... 私が小さかった頃・・・
イ短調、A-B-C-A'形式。3拍子の和音のリズムにのって、ちょっと哀愁漂う旋律が奏される。BとCはハ長調になる。- Soldadinhos da cabeça de papel 紙の帽子の小さな兵隊さん
ト長調、A-B-C形式。紙の帽子を被って、子ども達が兵隊さんごっこをしているような曲。- Ingenuidade 無邪気
イ長調、A-B-A'形式。無邪気な子どもの光景を微笑ましく眺めているような雰囲気の優しい曲。Bはニ長調になり、旋律に時々現れる16分音符や前打音が愛嬌たっぷり。- Tanguinho タンギーニョ(小さなタンゴ)
へ長調、A-B-A'形式。ヌネスのピアノ曲の中で唯一ブラジル風の作品で、ナザレのタンゴ・ブラジレイロを思わせる雰囲気だ。シンコペーションの伴奏にのってスタッカート混じりの軽快な旋律が奏される。Bはハ長調になる。- Pièces drôles 奇妙な小品集
正に知られざるピアノ曲であるが、ヌネスのピアノ曲の代表作と言えよう。第1、5曲は道化師(クラウンやアルルカン)の陽と陰の二面性を音楽で表現し、第2曲は「匂い」の移ろいの和声で描くなど、音楽の深みを味わえるような組曲である。
- Sérénade de clowns 道化師のセレナーデ
ニ短調、A-B-A-コーダの形式。道化師の陽気な姿と、その心の中の闇を同時に表現しているような意味深長な曲。Aは7/4拍子という変拍子と、ちょっと滑稽な音形のリズムが道化師らしいひょうきんな雰囲気を出す一方、全音音階で進行する旋律やバスが不安気な雰囲気を醸し出している(下記の楽譜)。
Pièces drôles N.º 1 - Sérénade de clowns、3小節、Casa Arthur Napoleãoより引用
Bはト長調になり、リラックスしたような旋律が現れるが、時折現れる減七の和音の半音階下行がスパイスを効かせたような感じ(下記の楽譜)。
Pièces drôles N.º 1 - Sérénade de clowns、20-21小節、Casa Arthur Napoleãoより引用- Parfum qui s'envole 匂い立つ芳香
へ長調の属九の和音のアルペジオに始まり、気怠い旋律を伴いながら属九の和音がイ長調→変ホ長調→ロ長調→ホ長調→イ長調と移って行く(下記の楽譜)。その揺らぎの雰囲気が「匂い立つ芳香」なのかもしれない。
Pièces drôles N.º 2 - Parfum qui s'envole、1-17小節、Casa Arthur Napoleãoより引用- Marche espiègle いたずらっ子の行進
変ニ長調、A-B-A'形式。Aは愛嬌たっぷりの行進曲で、和音の半音階下行や全音音階の和音が滑稽だ。Bは変ト長調になり落ち着いた雰囲気になる。- Morbidezza, Valse lente モルビデッツァ(柔らかく)、ゆっくりとしたワルツ
変ト長調、A-B-A'-C-A形式。穏やかな旋律が重音で奏される。旋律・中声部の対旋律共に半音階進行が多く、フランス風の艶かしい響きである。Bは変ロ短調になり、時々スタッカートが混じる気取った感じ。Cはロ長調になる。- Les plaintes d'Arlequin アルルカンの嘆き
A-B-A'形式。楽譜の冒頭には "Quassi una polacca(ポロネーズのように)" と記されており、調性が定まらない中で、ポロネーズを大袈裟にしたようなモチーフが奏され、アルルカン(イタリアの即興喜劇役者)が大見得を切るような動作を描いているよう(下記の楽譜)。
Pièces drôles N.º 5 - Les plaintes d'Arlequin、1-2小節、Casa Arthur Napoleãoより引用
Bはアルルカンが嘆いているようなポルタメントのモチーフとポロネーズのリズムが交互に奏される(下記の楽譜)。
Pièces drôles N.º 5 - Les plaintes d'Arlequin、10-12小節、Casa Arthur Napoleãoより引用
João Nunesのピアノ曲楽譜
Carlos Wehrs
- 4 peças fáceis N.º 1 - História muito antiga
- 4 peças fáceis N.º 2 - São horas de dormir
- 4 peças fáceis N.º 3 - As duas amiguinhas
- 4 peças fáceis N.º 4 - Ouvindo a serenata
- Marionnettes
Casa Arthur Napoleão
- Caixinha de música
- La vie des abeilles (En lisant Maeterlinck)
- Les harmonies de la cathédrale (En lisant Victor Hugo)
- Parque de diversões, Seis miniaturas N.º 1 - Montanha russa
- Parque de diversões, Seis miniaturas N.º 2 - Os dois anões
- Parque de diversões, Seis miniaturas N.º 3 - Carrocel
- Parque de diversões, Seis miniaturas N.º 4 - A casa maluca
- Parque de diversões, Seis miniaturas N.º 5 - O chicote
- Parque de diversões, Seis miniaturas N.º 6 - Despedida
- Peças infantis N.º 1 - A boneca desprezada
- Peças infantis N.º 2 - Marcha das formiguinhas
- Peças infantis N.º 3 - Quando eu era pequenino...
- Pièces drôles N.º 1 - Sérénade de clowns
- Pièces drôles N.º 2 - Parfum qui s'envole, N.º 3 - Marche espiègle
- Pièces drôles N.º 4 - Morbidezza, Valse lente
- Pièces drôles N.º 5 - Les plaintes d'Arlequin
Editora Arthur Napoleão
- Os três meninos (completo)
- Peças infantis N.º 4 - Soldadinhos da cabeça de papel
- Peças infantis N.º 5 - Ingenuidade
- Peças infantis N.º 6 - Tanguinho
The University society, Inc., New York
- A melhor música do mundo, Tomo V
- Caixinha de música
斜字は絶版と思われる楽譜
João Nunesのピアノ曲CD・LP
星の数は、は是非お薦めのCD、は興味を持たれた人にはお薦めのCD、はどうしてもという人にお薦めのCDです。
Zezé Cassas interpreta João Nunes
- Os três meninos
- Parque de diversões
- 6 peças infantis
- 4 peças fáceis
- Caixinha de música
Zezé Cassas (pf)
O Piano de Norte a Sul (LP)
Sociedade Cultural e Artistica Uirapuru, LPU-1012
- Valsa Amazônica No.1 (Arnaldo Rebello)
- Lundú Amazonense (Arnaldo Rebello)
- Cantilena (Jayme Ovalle)
- Tanguinho (João Nunes)
- Prece (Alberto Nepomuceno)
- Lundu da cobra cega (Baptista Siqueira)
- Festa de chuva (Baptista Siqueira)
- Canção de amor (Julio Braga)
- Canto de adormecer (Aloysio de Castro)
- Confissão (Ormy Toledo)
- Plaisanterie (Leopold Miguéz)
- Crê e espera (Ernesto Nazareth)
- Favorito (Ernesto Nazareth)
- Yara (Anacleto de Madeiros)
- Querida por todos (Joaquim Callado)
- Ali-baba (Henrique Alves de Mesquita)
- 4a. seresta (Carlos de Almeida)
- Homenagem a Sinhô (Fructuoso Vianna)
- Murmúrio (Carlos Gomes)
- Xangó (Brasílio Itiberê)
- Casinha pequenina (Arranjo de J. Octaviano)
- Prenda minha (Ernani Braga)
Arnaldo Rebello (pf)
João Nunesに関する参考文献
- Daniel Lemos Cerqueira. O Piano no Maranhão: uma pesquisa artística. Universidade Federal do Estado do Rio de Janeiro, Programa de Pós-Graduação em Música 2019.