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Jayme Ovalleについて

 ジャイミ・オヴァーリ Jayme Ovalle(正式名はJayme Rojas de Aragón y Ovalle、姓をOvaleと綴る資料もある)は1894年8月6日、ブラジル北部のパラー州ベレンに生まれた。彼の父は賭博好きのため一家は経済的に安定せず、ジャイミ・オヴァーリは一時カルメル会修道院に入って学んだが直ぐに出てしまい、学校にも通わなかったため読み書きは独学であったとのこと。彼は、姉からもらった弦が一本だけの古いヴァイオリンで音楽を習い始めた。

 1904年に父が亡くなり更に経済的に困窮した一家は、1911年に職を求めてリオデジャネイロに移住した。リオデジャネイロで彼は印刷所の仕事に就いた。一方ギター弾きとして腕を上げ、「カニョート Canhoto(左利き)」というあだ名で呼ばれていた。更にオヴァーリは1912年に「グループ・カシャンガ Grupo de Caxangá」という6人組の楽団のメンバーに加わった。この楽団にはピシンギーニャやドンガといった、この後ショーロやサンバの名作曲家となる錚々たるメンバーがいて、彼らはリオデジャネイロのカーニバルでも演奏を行っていた。1913年頃にオヴァーリの妹Leolina Ovalleが軍人のエウクリデス・エルメス・ダ・フォンセカ Euclides Hermes da Fonseca と結婚したが、新郎の父は当時のブラジル大統領エルメス・ダ・フォンセカであった。(エウクリデス・エルメス・ダ・フォンセカはこの後、1922年のコパカバーナ要塞の反乱事件の首謀者として逮捕され服役したが、1930年の革命によりヴァルガスが大統領になると軍人として復権した。オヴァーリが後年、ブラジル財務省の高級官僚として働いたのはこの繋がりだったのかもしれない。)

 1920年後半に、オヴァーリは作曲家・指揮者のパウロ・シウヴァ Paulo Silva に師事し、作曲や対位法などを学んだ。また詩人のマヌエル・バンデイラ Manuel Bandeira (1886-1968) と出会った。後に、オヴァーリの曲にバンデイラが詩を付けた歌曲《青い鳥 Azulão、作品21》、逆にバンデイラが書いた詩にオヴァーリが曲を付けた《モジーニャ Modinha》はオヴァーリの代表曲となる。

 1930年初め頃、オヴァーリはリオデジャネイロ港の税関で働いていた。1933年にイギリスのロンドン駐在ブラジル財務省税関吏に任命された。英語を話せなかったオヴァーリはバンデイラから英語を教わり、ロンドンで4年間勤務した。1937年にはサンパウロ市文化局が主催した管弦楽曲コンテストに、オヴァーリ唯一の管弦楽曲となる交響詩《ペドロ・アルヴァレス・カブラル Pedro Álvares Cabral、作品16》をロンドンで作曲し、応募した。作曲にあたってはロンドン在住のブラジル人ピアニストのManoel Antônio Brauneにお願いして、オヴァーリがギターで弾く音楽や構想をBrauneに管弦楽にしてもらったらしい。しかしコンテストの結果は選外で、一等はジョアン・ジ・ソウザ・リマが受賞した。またロンドンでオヴァーリは《愚かな鳥 The Foolish Bird》という詩集も書いている。

 1937年にブラジルに帰国。

 1945年には同年に創設されたブラジル音楽アカデミーの会員に選ばれた。

 1946年から1950年まで、財務省職員として米国ニューヨークに赴任。オヴァーリは若い頃より数々の女性との交際関係があったが、この時まで未婚であった。が、当地で知り合いになった31歳年下の米国女性Virginia Peckhamとブラジル帰国後に結婚し、一人娘をもうけた。彼は再びリオデジャネイロ港の税関に勤務したが、1955年9月9日にリオデジャネイロで心臓発作のため亡くなった。

 ジャイミ・オヴァーリの作品には、前述の交響詩《ペドロ・アルヴァレス・カブラル、作品16》と3本のクラリネットのための《2つの即興曲 Dois improvisos》、14曲の歌曲がある。中でも前述の歌曲《青い鳥、作品21》はビクトリア・デ・ロス・アンヘレス、モンセラート・カバリェ、キャスリーン・バトルといった名歌手たちが録音している。

 ジャイミ・オヴァーリのピアノ曲は彼の作品の中心をなしており、下記の作品の存在が確認されている。作曲家として初期と思われる作品6、7、8あたりのピアノ曲はブラジル民族主義がはっきりした比較的分かりやすい作風だが、その後徐々に重く暗い作品になっていき、彼のピアノ曲の代表作と言える3曲の《伝説第1番》、《伝説第2番》、《伝説第3番》はオヴァーリ独特の和音やオクターブの重厚な響きに満ち、調性も定まらず曲がりくねるような和声の、聴き手に媚びることもない謎めいた作品である。オヴァーリはそもそもその生涯からして謎めいていて、読み書きですら独学で、音楽は個人的に習ったのみで音楽学校にも通わず、ヴァイオリンを少し習い街角でギターを弾くも、ピアノを本格的に習った形跡もない。その生涯と、相当にピアノを習った者でないと書けないような濃密な響きのピアノ曲の間にはギャップを感じずにはおれません。オヴァーリの伝記本でもその謎には迫っておらず、私個人的にはゴーストライターでもいたのではないかと訝ってしまうのだが、オヴァーリのピアノ曲は大変個性的であり、ヴィラ=ロボス、ミニョーネ、ロレンゾ・フェルナンデスなど当時ブラジルで活躍した作曲家の作風とは全く異なっていて、思い当たるようなゴーストライターも見当たらない。このような作曲家を生む、豊かで多様な土壌がブラジルにはあるのだ、としか言いようがありません。

 

Jayme Ovalleのピアノ曲リストとその解説

 オヴァーリのピアノ曲の作曲年は殆どが不明であるが、大部分は1920年後半から1930年代にかけて作曲されたとされている。

 

Jayme Ovalleのピアノ曲楽譜

Casa Arthur Napoleão

斜字は絶版と思われる楽譜

 

Jayme Ovalleのピアノ曲CD・LP

星の数は、は是非お薦めのCD、は興味を持たれた人にはお薦めのCD、はどうしてもという人にお薦めのCDです。

The Ovalle Project

CD 1

  • Aboio, Op. 8
  • Preludio, Op. 12
  • Romança, Op. 29
  • Nininha, Op. 15
  • Devaneio, Op. 24
  • Lamuria, Op. 26
  • I. Legenda, Op. 19
  • Dois retratos, Op. 14
    1. Manuel Bandeira
    2. Maria do Carmo
  • Estudo, Op. 9, No. 1
  • Scherzo, Op. 9, No. 2
  • Improviso I, Op. 27
  • Improviso II, Op. 30
  • II. Legenda, Op. 22

CD 2

  • Ninanatatana, Op. 18
  • Martello, Op. 6, No. 1
  • Desafio, Op. 6, No. 2
  • Xangô, Op. 6, No. 3
  • Noturno, Op. 25
  • Lembranças de São Leopoldo, Op. 11
    1. Curiatã de coqueiro
    2. Paquetá
  • Cantos Romeiros, Op. 13
  • Valsa, Op. 32
  • Dois tangos, Op. 20
    1. Tango I
    2. Tango II
  • Habanera, Op. 28
  • Album de Isolda, Op. 17
    1. Allegretto
    2. Allegretto
    3. Allegretto
    4. Andante cantabile
    5. Moderato
    6. Moderato
  • Cantilena, Op. 7
  • Madrigal, Op. 31
  • III. Legenda, Op. 23

Andree-Ann Deschenes (pf)

 2018年のリリース。オヴァーリのピアノ曲のおそらく全曲を録音したCD。

 

Noturnos Brasileiros
Funarte, ATR 32056

  • Noturno (Brasílio Itiberê da Cunha)
  • Noturno Op. 6 (Manoel Faulhaber)
  • Noturno Op. 6 no. 2 (Henrique Oswald)
  • Noturno Op.10 (Leopoldo Miguéz)
  • Noturno (Alberto Nepomuceno)
  • Noturno Op. 3 (Loenzo Fernandez)
  • Noturno Op. 25 (Jayme Ovalle)
  • Noturno (homenagem a Chopin) (Heitor Villa-Lobos)

Ana Cândida (pf)

 1961年録音のLPより復刻CD。

 

O Piano de Norte a Sul (LP)
Sociedade Cultural e Artistica Uirapuru, LPU-1012

  • Valsa Amazônica No.1 (Arnaldo Rebello)
  • Lundú Amazonense (Arnaldo Rebello)
  • Cantilena (Jayme Ovalle)
  • Tanguinho (João Nunes)
  • Prece (Alberto Nepomuceno)
  • Lundu da cobra cega (Baptista Siqueira)
  • Festa de chuva (Baptista Siqueira)
  • Canção de amor (Julio Braga)
  • Canto de adormecer (Aloysio de Castro)
  • Confissão (Ormy Toledo)
  • Plaisanterie (Leopold Miguéz)
  • Crê e espera (Ernesto Nazareth)
  • Favorito (Ernesto Nazareth)
  • Yara (Anacleto de Madeiros)
  • Querida por todos (Joaquim Callado)
  • Ali-baba (Henrique Alves de Mesquita)
  • 4a. seresta (Carlos de Almeida)
  • Homenagem a Sinhô (Fructuoso Vianna)
  • Murmúrio (Carlos Gomes)
  • Xangó (Brasílio Itiberê)
  • Casinha pequenina (Arranjo de J. Octaviano)
  • Prenda minha (Ernani Braga)

Arnaldo Rebello (pf)

 

Duo Kaplan-Parente - Piano Brasileiro a 4 Mãos (LP)
Discos Marcus Pereira, MPA-9359

  • Lundu (Francisco Mignone)
  • Duas modinhas (José Alberto Kaplan)
    1. Azulão
    2. Casinha pequenina
  • Duas miniaturas (Octavio Maul)
    1. Cirandinha
    2. Polka antiga
  • Seresta opus um (Aylton Escobar)
  • Brasiliana Nº 4 (Osvaldo Lacerda)
    1. Dobrado
    2. Embolada
    3. Seresta
    4. Candomblé
  • Sarau de sinhá (Aloysio de Alencar Pinto)
    1. Schottish
    2. Polca
    3. Romance
    4. Contradança
    5. Valsa
    6. Noturno
    7. Capricho
    8. Lundu
    9. Recitativo
    10. Galope

José Alberto Kaplan (pf), Gerardo Parente (pf)

 1977年の録音。《Azulão》はジャイミ・オヴァーリ作曲の歌曲をピアニストのJosé Alberto Kaplanがピアノ連弾に編曲したもの。

 

Jayme Ovalleに関する参考文献