Remo Pignoniのピアノ曲リスト
ピニョーニについては情報が少なく、それぞれの曲の作曲年など不詳です。彼は主に43歳以降に作曲を始めたらしいという事くらいです。そのため彼の作品はアルファベット順に載せました。チャカレーラ、クエッカ、ウエジャ、マランボ、トナーダ、トリウンフォ、サンバは番号のみが付された作品が多いですが、これらの番号はアルゼンチンのEPSA Publishingの楽譜に依っており、ピニョーニ自身が付けた番号なのか否かも不詳です。
- Al final me gusta, Chacarera trunca 最後は私の好きに、チャカレーラ・トゥルンカ
- Algarrobo el abuelo, Zamba 古いアルガロボの木、サンバ
- Amargo me gusta, Chamamé 私の好きな苦み、チャマメ
- Bailecito バイレシート
- Canción del litoral Nº 1 カンシオン・デル・リトラル第1番
- Carnavalito カルナバリート
- Chacarera en mi menor チャカレーラホ短調
- Chacarera prometida 婚約者のチャカレーラ
- Chacarera trunca en Re menor チャカレーラ・トゥルンカニ短調
- Chacarera Nº 1 チャカレーラ第1番
- Chacarera doble Nº 2 チャカレーラ・ドブレ第2番
- Chacarera trunca Nº 3 チャカレーラ・トゥルンカ第3番
- Chacarera trunca Nº 4 チャカレーラ・トゥルンカ第4番
- Chacarera trunca Nº 5 チャカレーラ・トゥルンカ第5番
- Chacarera trunca Nº 7 チャカレーラ・トゥルンカ第7番
- Chacarera trunca Nº 8 チャカレーラ・トゥルンカ第8番
- Chacarera trunca Nº 9 チャカレーラ・トゥルンカ第9番
- Chacarera trunca Nº 10 チャカレーラ・トゥルンカ第10番
- Chacarera trunca Nº 12 チャカレーラ・トゥルンカ第12番
- Chacarera trunca Nº 13 チャカレーラ・トゥルンカ第13番
- Chacarera Nº 14 チャカレーラ第14番
- Chacarera trunca Nº 15 チャカレーラ・トゥルンカ第15番
- Chacarera Nº 19 チャカレーラ第19番
- Chacarera trunca Nº 20 (Chacarera cromática) チャカレーラ・トゥルンカ第20番(半音階のチャカレーラ)
- Chacarera doble Nº 23 チャカレーラ・トゥルンカ第23番
- Chacarera Nº 24 チャカレーラ第24番
- Chumbeao, Gato チュンベアオ、ガト
- Como la ven
- Como le guste, Chacarera お気に召すように、チャカレーラ
- Como queriendo, Zamba お好きなように、サンバ
- Coyita mia, Bailecito 私の彼女、バイレシート
- Cueca Nº 2 クエッカ第2番
- Cueca Nº 3 クエッカ第3番
- Cueca Nº 4 クエッカ第4番
- Danza folklórica argentina Nº 1 アルゼンチンのフォルクローレ舞曲第1番
- De angora, Gato アンゴラネコ、ガト
- De la quebrada, Bailecito 小川から、バイレシート
- De las cholitas, Bailecito チョリータから、バイレシート
- De las de siempre, Chacarera いつものように、チャカレーラ
- Desde el sur, Pampeana 南から、パンペアーナ
- El caballito del niño, Al paso, al trote, al galope y a la carrera, Estudio 小さな子馬、並足、速歩、ギャロップ、そして競走、練習曲
- En séptima, Chacarera 七度で、チャカレーラ
- Esto que estoy cantando, Chacarera 私の歌、チャカレーラ
- Florcita de baldio, Zamba 荒野に咲く小さな花、サンバ
- Herencia, Canción pampena 遺産、パンパの歌
- Hojita de trébol, Zamba クローバーの葉、サンバ
- Huella Nº 2 ウエジャ第2番
- Huella Nº 3 ウエジャ第3番
- Huella Nº 4, Huella vieja ウエジャ第4番、古いウエジャ
- Huella Nº 5 ウエジャ第5番
- Huella Nº 6 ウエジャ第6番
- Huellas de regreso 戻りのウエジャ
- Intentango, Tango インテンタンゴ、タンゴ
- Lágrimas de nubes, Chacarera 雲の涙、チャカレーラ
- La niña y su muñeca, Escenas infantiles, Estudio 女の子と人形、子供の情景、練習曲
- La siguiente, Chacarera 次の人、チャカレーラ
- Llegándome a ella, Chamamé 彼女の所に着いて、チャマメ
- Malambo Nº 1 マランボ第1番
- Malambo Nº 3 マランボ第3番
- Malambo nuevo 新しいマランボ
- Manojito de Amancay, Pampeana 一輪の百合水仙、パンペアーナ
- Mas bien nunca 決して良くない
- Me estaría gustando, Chacarera お願いできれば、チャカレーラ
- Milonga ミロンガ
- Mi quena te llama, Bailecito 私のケーナが君を呼んでいる、バイレシート
- Negativo color, Preludio criollo カラーのネガ、クリオージョの前奏曲
- Negativo nuevo, Zamba 新しいネガ、サンバ
- Negativo viejo, Chacarera 古いネガ、チャカレーラ
- Pa'la Dorita, Gato ドリタのために、ガト
- Pa'la Lilucha, Gato リルーチャのために、ガト
- Pa' la yunta, Chacarera trunca ユンタのために、チャカレーラ・トゥルンカ
- Pa'l mamao, Gato cuyano ママのために、クヨ地方のガト
- Pal ñato, Chacarera 鼻ぺちゃちゃんのために、チャカレーラ
- Pa'l Turco Deb, Chacarera trunca トゥルコ・デブのために、チャカレーラ・トゥルンカ
- Pa'que más, Chacarera 何のために、チャカレーラ
- Pardo, Gato ヒョウ 、ガト
- Pa'su apero, Gato あなたのアペロのために 、ガト
- Pa'su rastra, Gato あなたのラストラのために、ガト
- Pa'zurdo, Chacarera 左手のために、チャカレーラ
- Por el Sur, Huella 南へ、ウエジャ
- Ramaje, Zamba 枝の茂み、サンバ
- Ramita nueva, Vidalita 新芽、ビダリータ
- Re-La-Mi-Do, Gato レ-ラ-ミ-ド、ガト
- Revoleando, Triunfo 飛び回って、トリウンフォ
- Romance de Santiago y Luna, Chacarera サンティアゴ・イ・ルナのロマンス、チャカレーラ
- Ronroneando, Gato 喉鳴らし、ガト
- Si te agarran..., Gato もし君をつかんだなら、ガト
- Sombrerito rojo, Bailecito 赤い小さな帽子、バイレシート
- Tiempo ayer, Vidalita 昨日の天気、ビダリータ
- Tientos cruzados, Malambo 綾織り、マランボ
- Tonada Nº 1 トナーダ第1番
- Tonada Nº 2 トナーダ第2番
- Tonada Nº 3 トナーダ第3番
- Tonada Nº 4 (María Luz) トナーダ第4番(マリア・ルス)
- Triunfo Nº 1 トリウンフォ第1番
- Triunfo Nº 2 トリウンフォ第2番
- Triunfo Nº 3 トリウンフォ第3番
- Triunfo Nº 4 トリウンフォ第4番
- Triunfo Nº 5 トリウンフォ第5番
- Triunfo Nº 6 トリウンフォ第6番
- Triunfo nochero, Triunfo 夜遊び好きのトリウンフォ、トリウンフォ
- Vidala chayera ビダーラ・チャジェーラ
- Vino nuevo, Cueca 新しいワイン、クエッカ
- Y qué parece, Chacarera いかがですか、チャカレーラ
- Y si no es?, Chacarera もしなければ?、チャカレーラ
- Zamba Nº 1 サンバ第1番
- Zamba Nº 2 サンバ第2番
- Zamba Nº 3 サンバ第3番
- Zamba Nº 4 サンバ第4番
- Zamba Nº 5 サンバ第5番
- Zamba Nº 6 サンバ第6番
- Zamba Nº 7 サンバ第7番
- Zamba Nº 8 (Cielo viejo) サンバ第8番(古い空)
- Zamba Nº 9 サンバ第9番
- Zamba Nº 10 サンバ第10番
- Zamba Nº 11 サンバ第11番
- Zamba Nº 12 サンバ第12番
- Zamba Nº 13 サンバ第13番
- Zamba Nº 14 サンバ第14番
- Zamba Nº 15 サンバ第15番
- Zamba Nº 16 サンバ第16番
- Zamba Nº 17 サンバ第17番
- Zamba de las nubes 雲海のサンバ
Pignoniのピアノ曲の解説
ピニョーニの作品の殆どは、アルゼンチンの様々なフォルクローレの様式で作曲されている。ChacareraとZambaで書かれた作品が一番多いが、それ以外にもBailecito、Carnavalito、Cueca、Chamamé、Gato、Huella、Malambo、Milonga、Pampeana、Tango、Tonada、Triunfo、Vidalaと、アルゼンチンのフォルクローレをほぼ網羅するようなバラエティに富んでいる。これらのフォルクローレの大体は踊りの音楽であり、そのため踊り方や小節数に元々決まりがある。以下にChacarera、Chacareraの変形であるChacarera dobleとChacarera trunca、Gato、Cueca、Zambaの構成を表にしました(数字は小節数を示す。また、全て最後まで演奏したらもう一度繰り返す決まりになっている)。但し、下記の小節数などには例外もあるようで、ピニョーニの作品もGato(下記の構成に、Zapateo y zarandeoを前奏として加える)やZamba(下記の構成に、オリジナルの前奏を加える)は比較的、決まりに忠実な構成だが、Chacarera、Chacarera doble、Chacarera truncaは下記の構成とは異なった作品が多い。
Chacarera Avance y retroceso → Giro → Vuelta entera → Zapateo y zarandeo → Vuelta entera → Zapateo y zarandeo → Media vuelta → Giro final 4 4 8 8 8 8 4 4 Chacarera doble Avance y retroceso → Giro → Vuelta entera → Zapateo y zarandeo → Giro → Vuelta entera → Zapateo y zarandeo → Giro → Media vuelta → Zapateo y zarandeo (Rombo) → Giro final 8 4 8 8 4 8 8 4 4 4 4 Chacarera trunca Avance y retroceso → Giro → Vuelta entera → Zapateo y zarandeo → Vuelta entera → Zapateo y zarandeo → Media vuelta → Giro final 4 4 6 8 6 8 4 4 Gato Vuelta entera → Giro → Zapateo y zarandeo → Media vuelta → Zapateo y zarandeo → Giro final 8 4 8 4 8 4 Cueca Vuelta entera → Arrestos → Media vuelta → Arrestos → Media vuelta → Arrestos → Media vuelta final 16 8 8 16 8 8 7 Zamba Vuelta entera → Arrestos → Media vuelta → Arrestos → Media vuelta → Arrestos → Media vuelta final 8 (16) 4(8) 4(8) 8 (16) 4(8) 4(8) 4(7)
- Al final me gusta, Chacarera trunca 最後は私の好きに、チャカレーラ・トゥルンカ
ホ短調。冒頭のVuelta enteraは華やかな響きで、続くZapateo y zarandeoはポルタメント混じりの哀愁ある旋律。- Algarrobo el abuelo, Zamba 古いアルガロボの木、サンバ
アルガロボは南米に自生する低木で、乾燥した土地に生えていることが多い。ハ長調。下行する旋律が落ち着いた雰囲気で奏され、途中で変ホ長調になってはハ長調に戻る。- Amargo me gusta, Chamamé 私の好きな苦み、チャマメ
チャマメはアルゼンチンは北東部のリトラル地方のフォルクローレの一つ。ヨーロッパ由来のポルカやマズルカと、アルゼンチン先住民の音楽が混じって出来た、3/4拍子と6/8拍子のポリリズムの踊りの音楽で、アコーディオン、バンドネオン、ギターにより合奏されることが多い。ヘ長調。3拍子の伴奏にのって、アコーディオンの即興演奏のような旋律が自由に飛び回るように奏される。- Canción del litoral Nº 1 カンシオン・デル・リトラル第1番
ヘ長調、A-B-A'形式。冒頭の旋律が音階を下がるだけの素朴なものだが、何とも郷愁溢れる雰囲気だ。中間部Bはヘ短調で、息の長い悲しげな旋律だ。- Carnavalito カルナバリート
カルナバリートはアルゼンチン北西部からボリビア、ペルーの山岳地帯の民族舞踊で2/4拍子。エドムンド・サルディバールの代表曲のカルナバリート《花祭り El Humahuaqueño》は日本でも知られている。イ短調。8小節の前奏に引き続き、2つの旋律が交互に奏され、変奏されていく。- Chacarera prometida 婚約者のチャカレーラ
ハ長調。十度の和音アルペジオが下がったり上がったりする艶やかな曲。- Chacarera trunca Nº 5 チャカレーラ・トゥルンカ第5番
ホ短調。楽譜は6/8拍子だが、2拍子と3拍子が頻繁に入れ替わり、1小節に8分音符が8個詰め込まれたりと、リズムの複雑さが何とも絶妙な曲。- Chacarera trunca Nº 8 チャカレーラ・トゥルンカ第8番
ハ長調。中音部で三度重音で旋律が奏される。左手のリズムは、ベース音のドが続く様はボンボの響きのようで、土臭い?雰囲気のいい曲。- Chacarera trunca Nº 13 チャカレーラ・トゥルンカ第13番
イ短調。Vuelta enteraの部分は高音部でリズムが奏される。Zapateo y zarandeoは素朴な二声の旋律が繰り返される。- Chacarera trunca Nº 20 (Chacarera cromática) チャカレーラ・トゥルンカ第20番(半音階のチャカレーラ)
ヘ短調。題名通り半音階進行だらけの曲。四声のポリフォニーで書かれていて、各声部が異なるペースで半音階を上がったり下がったりするのが興味深い(下記の楽譜)。ピニョーニのいくつかの作品ではこうした独特の半音階進行が認められており、彼は伝統的なフォルクローレを単に受け継いだだけではなく、新しいフォルクローレの開拓者としても特筆すべきであろうと思います。ちなみに、ピニョーニが作曲したチャカレーラのいくつかは6/8拍子と3/4拍子の可変拍子で書かれていて、この曲も6/8拍子と3/4拍子が毎小節交替する(1小節目は6/8拍子のため、1小節目左手レ♭-シ音は4分音符ではなく敢えて8分音符二つのタイと記してある)。
Chacarera cromática、1-5小節、Danzas tradicionales para piano, Editorial Lagosより引用- Chumbeao, Gato チュンベアオ、ガト
変ホ長調。速い曲。Vuelta enteraはガトらしい跳ねるような旋律。Zapateo y zarandeoは不協和音が独特の雰囲気。- Como le guste, Chacarera お気に召すように、チャカレーラ
ト短調。Vuelta enteraは左手のみでリズムを奏する。一拍目オモテが休符なのが面白い。Zapateo y zarandeoでは同じリズムが右手に移って、陰うつな旋律になる。- Como queriendo, Zamba お好きなように、サンバ
変ホ長調。しっとりとした美しい曲。最後のMedia vueltaの所で旋律が高音部を32分音符で駆け上がる所など、魅惑的な美しさだ(下記の楽譜)。
Como queriendo、26-31小節、Danzas tradicionales para piano, Editorial Lagosより引用- Coyita mia, Bailecito 私の彼女、バイレシート
変ホ長調。浮き浮きとした雰囲気の曲。- Cueca Nº 2 クエッカ第2番
ハ長調。前奏は華やかだが、その後の旋律は右手旋律+左手単音の伴奏のみと素朴だ。- Cueca Nº 3 クエッカ第3番
ト長調。華やかなアルペジオの旋律で始まり、賑やかな踊りの旋律が続く。- Cueca Nº 4 クエッカ第4番
ト長調。伸びやかな旋律が繰り返される。- Danza folklórica argentina Nº 1 アルゼンチンのフォルクローレ舞曲第1番
ホ短調。マランボ風のリズムが8小節刻まれ、続いて素朴な旋律が8小節奏される、を交互に繰り返す曲。- De angora, Gato アンゴラネコ、ガト
ニ長調。猫のお茶目な動きを表すような付点混じりのスタッカートや、一転して甘えて戯れるようなスラーのアルペジオがほのぼのとした感じの曲。- De la quebrada, Bailecito 小川から、バイレシート
ホ短調。6/8拍子だが、右手2拍子・左手3拍子のヘミオラになったり、1小節が(2連8分音符で)4等分されたりとリズムが面白い。更に旋律がポルタメント風混じりで、正にフォルクローレといった曲。- De las cholitas, Bailecito チョリータから、バイレシート
ペルー、ボリビア、アルゼンチン北西部の先住民の血統を引く人達をチョロ Choro と呼ぶことがあり、チョロの女性形の指小辞であるチョリータ Cholita は「先住民の血を引く若い女性」の意味になる。ホ短調。しみじみとした雰囲気の曲。- De las de siempre, Chacarera いつものように、チャカレーラ
ホ短調。この曲も6/8 (3/4) 拍子の中に1小節を4等分や8等分するヘミオラが頻繁に現れ、また旋律はミのドリア旋法で、何とも泥臭い雰囲気のいい曲。- Desde el sur, Pampeana 南から、パンペアーナ
ホ長調。郷愁溢れる旋律がゆったりと奏される。後半はハ長調に転調する。- En séptima, Chacarera 七度で、チャカレーラ
ホ短調。活発な踊りを彷佛させる曲。七の和音が多用されているので、「七度で」という曲名なのであろう。- Esto que estoy cantando, Chacarera 私の歌、チャカレーラ
ホ短調。Vuelta enteraの部分は6小節から成るので、強いて言えばチャカレーラ・トゥルンカの形式。伴奏は十度和音、アルペジオ、分散オクターブなど色々変奏される。- Florcita de baldio, Zamba 荒野に咲く小さな花、サンバ
変ホ長調。郷愁漂う旋律が奏され、時おり高音に合いの手が可憐に奏される。- Herencia, Canción pampena 遺産、パンパの歌
ト長調。前奏-A-B-間奏-A-B-後奏の形式。ビダーラのリズムにのって優しい旋律がしっとり奏される。合いの手のような対旋律やベース進行もいい感じだ。Bは変ロ長調になり、新たな旋律が初めは静かに語るように、繰り返しでは情熱的に両手オクターブで奏される。- Huella Nº 2 ウエジャ第2番
ホ短調。哀愁ある旋律が奏される。- Huella Nº 4, Huella vieja ウエジャ第4番、古いウエジャ
ニ短調。前奏はピニョーニお得意の、高音部から星が降ってくるような旋律が美しい。続いて、もの悲しい旋律が切々と奏される。- Huella Nº 5 ウエジャ第5番
ニ短調。沈みこんでいくようなもの悲しい曲。- Lágrimas de nubes, Chacarera 雲の涙、チャカレーラ
ト短調。3拍子の伴奏にのって、高音部に重音で奏される旋律が華やか。- La siguiente, Chacarera 次の人、チャカレーラ
ト長調。左手のみで演奏できるように書かれており、《Pa'zurdo, Chacarera》と対になっている曲なのかもしれない(ピニョーニの自作自演LPでも続けて演奏されている)。- Llegándome a ella, Chamamé 彼女の所に着いて、チャマメ
ト長調。チャマメらしい楽しい曲で、前半はアコーディオンの即興演奏を思わせる旋律が上へ下へと舞うように奏される。6/8拍子の中に、時たま8分音符が8個詰め込まれる変拍子が愉快だ(下記の楽譜)。
Llegándome a ella、1-14小節、Danzas tradicionales para piano, Editorial Lagosより引用
後半は3拍子のギターの伴奏にのって、アコーディオンが興に乗って8分音符アルペジオを弾いているような雰囲気で(下記の楽譜)、田舎のお祭り騒ぎのような一曲。
Llegándome a ella、25-29小節、Danzas tradicionales para piano, Editorial Lagosより引用- Malambo Nº 1 マランボ第1番
ハ長調。最初は低音部単音のリズムのみで始まり、中音部〜高音部と音域を増し、一旦静まり返るが再び音量音域を増して、最後は両手オクターブ連打で騒がしく終わる。全体的に旋律らしきものは乏しく、リズムの盛り上がりで聴かせるマランボらしい曲。- Malambo Nº 3 マランボ第3番
ホ短調。曲の後半は♩ ♪♩ ♪のリズムで和音がずっと続き盛り上がっていく。- Malambo nuevo 新しいマランボ
ト長調。ミ-レ---の繰り返しの旋律というかモチーフとマランボのリズムが続き盛り上がっていく。途中で変ホ長調〜ハ長調と転調し、4〜5オクターブを上下するグリッサンドが頻発するなど、斬新な響きの曲で「新しいマランボ」に相応しい。- Manojito de Amancay, Pampeana 一輪の百合水仙、パンペアーナ
変ホ長調。可憐な旋律がしっとりと奏される。- Mas bien nunca 決して良くない
ホ短調。物寂しげな旋律が三度重音で奏される。- Me estaría gustando, Chacarera お願いできれば、チャカレーラ
ハ長調。ポルタメント混じりの旋律が甘えるような雰囲気。属七の和音が半音階進行する所もいい感じ。- Milonga ミロンガ
アルゼンチンでは比較的都会の音楽である「ミロンガ」をピニョーニが作曲するのは珍しい。ニ短調。テンポは楽譜に "Lento" と記されており、哀愁漂う旋律が切々と奏される。- Mi quena te llama, Bailecito 私のケーナが君を呼んでいる、バイレシート
ホ短調、前奏のアルペジオが何とも哀愁漂ういい雰囲気。シンコペーションが粋な旋律が奏される。旋律の下の対旋律は半音階進行が多く、和声進行としても凝っている。- Negativo color, Preludio criollo カラーのネガ、クリオージョの前奏曲
変ホ長調。マランボ風のリズムが勇壮な曲。- Negativo nuevo, Zamba 新しいネガ、サンバ
一応ホ短調。ナポリの六度の多用や属七・長七の和音の平行移動など、和音の響きが独特な曲。- Pa'la Dorita, Gato ドリタのために、ガト
Doritaとはピニョーニの妻の愛称で、妻に献呈。ニ長調。ちょっと野性的な踊り。ピニョーニ自身の演奏を聴くと、テヌート記号の付いた8分音符の所のリズムの崩し方が絶妙。- Pa'la Lilucha, Gato リルーチャのために、ガト
ニ長調。全曲高音部からなり、オルゴールを聴いているような曲。Vuelta enteraはヘミオラの旋律が奏され、Zapateo y zarandeoは両手交互のスタッカートが流れる。- Pa'l mamao, Gato cuyano ママのために、クヨ地方のガト
ト長調。Vuelta enteraの旋律は甘えるようなポルタメント混じりの旋律でガトらしい。Zapateo y zarandeoは上行音階の旋律が浮き浮きしている。- Pal ñato, Chacarera 鼻ぺちゃちゃんのために、チャカレーラ
ホ短調。全体的に各小節の頭の拍(オモテ)は前小節からタイで繋がっていて、「ウラ」を強調するようなリズムが特徴的な曲。Vuelta enteraの旋律は特にシンコペーションが効いている。- Pa'l Turco Deb, Chacarera trunca トゥルコ・デブのために、チャカレーラ・トゥルンカ
トゥルコ・デブはアルゼンチンの打楽器奏者の名前。イ短調。Zapateo y zarandeoでは三度重音の上行する旋律が繰り返される。- Pa'que más, Chacarera 何のために、チャカレーラ
ホ短調。1小節中の8分音符が4+2と3+3のリズムを交互に繰り返したり、1拍目が8分休符だったりと、リズムの変化がスリリングな曲。- Pardo, Gato ヒョウ、ガト
変ホ長調。颯爽とした軽快な旋律の曲。- Pa'su apero, Gato あなたのアペロのために、ガト
アペロとは馬具の部品の一つらしいです。変ホ長調。Zapateo y zarandeoは高音の旋律と対旋律が煌びやかな響き。- Pa'su rastra, Gato あなたのラストラのために、ガト
ラストラとはアルゼンチンのガウチョ(牧童)たちが身に着ける腰ベルトの装飾品のこと。ト長調。Vuelta enteraはヨタヨタするような8分音符の旋律。Zapateo y zarandeoは左手の分散オクターブに右手高音の和音が騒がしくて賑やか。- Pa'zurdo, Chacarera 左手のために、チャカレーラ
変イ長調。左手のみで演奏できるように書かれた曲だが、旋律は低音から高音まで行ったり来たりする。- Por el Sur, Huella 南へ、ウエジャ
ピニョーニの作品の中でも代表作。ハ短調。前奏はピニョーニお得意の、瞬く星空か、またはひらひらと舞い落ちる枯葉を思わせるような高音部のアルペジオが美しい(下記の楽譜)。その後に現れる旋律は何とも哀愁を帯びている。この曲はArmando Tejada Gómezの歌詞が付いた歌曲版もある。
Por el Sur、1-8小節、Danzas tradicionales para piano, Editorial Lagosより引用- Ramaje, Zamba 枝の茂み、サンバ
変ホ長調。左手はサンバのリズムを取りつつ、右手旋律は即興演奏のように自由に舞うような曲。- Ramita nueva, Vidalita 新芽、ビダリータ
変ホ長調。アルベルト・ウィリアムスが1909年に作曲(厳密には採譜・編曲)した《インカの歌曲集、作品45 Canciones incaicas (初版ではCanciones incásicasと綴った)》の第3曲〈ビダリータ Vidalita〉で用いられた旋律を変形したモチーフに、控えめながら粋な和声を付けたような曲。- Re-La-Mi-Do, Gato レ-ラ-ミ-ド、ガト
ト長調。《レ-ラ-ミ-ド》という曲名はどう考えても音名だとは思うが、どこにもレ-ラ-ミ-ドの旋律も和音も現れない。強いて言えば属九の和音が度々現れるので、その構成音にはレ-ラ-ミ-ドは含まれてはいるが‥‥。Vuelta enteraはお茶目な旋律で、Zapateo y zarandeoは急き込むようなリズムとなり愉快な曲である。- Revoleando, Triunfo 飛び回って、トリウンフォ
変ホ長調。Zapateo y zarandeoは飛び跳ねるようなリズムが続き、その間に朗々と歌うような部分が挟まれる。- Ronroneando, Gato 喉鳴らし、ガト
ト長調。"Ronroneando" とは猫などが喉を鳴らすことを指していて、しばしば現れる高音から降ってくるような旋律が、猫がニャーゴと鳴く声のようで愛嬌たっぷり。- Sombrerito rojo, Bailecito 赤い小さな帽子、バイレシート
ト長調。四度または五度、六度の重音の旋律が可憐で気取った雰囲気の曲。- Tiempo ayer, Vidalita 昨日の天気、ビダリータ
変ホ長調。ゆったりとした旋律は素朴だが、内声やベースの半音階進行が凝っていて、増三和音の響きも印象的。- Tientos cruzados, Malambo 綾織り、マランボ
変ホ長調。右手旋律が8分音符が無窮動に続く曲。- Tonada Nº 4 (María Luz) トナーダ第4番(マリア・ルス)
ト長調。アルゼンチンの田舎の光景が目に浮かぶようなゆったりとした曲。途中で現れる16分音符のアルペジオの旋律は、ピニョーニらしい美しさだ。- Triunfo Nº 2 トリウンフォ第2番
トリウンフォは「勝利」という意味で、アルゼンチンのフォルクローレの一つ。19世紀初頭の中南米各国の独立時に歌われた愛国歌が始まりとされている。6小節が一区切りとなっている。変ホ長調。勝利のラッパの音のようなモチーフの主題と、踊りの旋律が6小節づつ交互に繰り返される。- Triunfo Nº 3 トリウンフォ第3番
ト長調。高音部の和音が華やかな響きの主題と、踊りの旋律が交互に繰り返される。- Triunfo nochero, Triunfo 夜遊び好きのトリウンフォ、トリウンフォ
ト長調。2部からなる。題名通りの軽くて遊びっぽい雰囲気の曲で、途中で突然、変ホ長調に転調する。第2部は変奏になっていて、ガラッと半音階混じりのお洒落な和音になっていて素敵です。- Vidala chayera ビダーラ・チャジェーラ
ビダーラ・チャジェーラとは、チャジャ (Chaya=ボリビアやアルゼンチン北部の踊りの一つで速いリズム)風のビダーラという意味。ホ短調。三度重音の素朴な旋律はドが♯であるミのドリア旋法で、素朴ないい雰囲気の曲。- Vino nuevo, Cueca 新しいワイン、クエッカ
ト長調。冒頭では両手16分音符が駆け回り、その後の旋律は浮き浮きと楽しい曲。この曲はAlberto Domenellaの歌詞による歌曲版もある。- Y qué parece, Chacarera いかがですか、チャカレーラ
ヘ短調。低音オクターブで旋律が蠢き、対旋律が半音階で下がる、重い雰囲気の曲。- Zamba Nº 4 サンバ第4番
ホ短調。重音の旋律が重々しくゆったりと奏される。- Zamba Nº 8 (Cielo viejo) サンバ第8番(古い空)
ト短調。半音階混じりの陰うつな旋律が繰り返される。Arrestosの部分では、分散オクターブや速い3連8分音符が現れ結構技巧的。- Zamba Nº 10 サンバ第10番
ヘ長調。郷愁溢れる旋律がしっとりと奏される曲。- Zamba de las nubes 雲海のサンバ
ホ短調。短七長九の和音やナポリの六度、半音階的和音進行が謎めいた響きで、ピニョーニが和音使いの妙に、実は優れていることを感じさせる作品。