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Francisco Pulgar Vidalについて
フランシスコ・ベルナルド・プルガル・ビダル Francisco Bernardo Pulgar Vidal は1929年3月12日、ペルー中部のワヌコに生まれた。子どもの頃よりピアノやヴァイオリンを習い、20歳でリマの国立音楽院に入学し、ファゴットを習った。1951年よりしばらくアンドレス・サスにも作曲を師事した。またリマの国立サン・マルコス大学でも学び、弁護士の資格を取得した。
1954年には《弦楽四重奏曲第1番》でドゥンケル・ラバージェ国家賞を受賞した。1957年にはコロンビアを訪れ、ロベルト・ピネダ・ドゥケ Roberto Pineda Duque に対位法や十二音技法を学んだ。1958年には《ピアノソナタ》で再びドゥンケル・ラバージェ国家賞を受賞。1971年にはカンタータ《アプ・インカ Apu Inqa》でペルー独立百五十周年記念作曲賞を受賞した。
2012年1月17日に亡くなった。
プルガル・ビダルの作品を記すと、管弦楽曲では、弦楽オーケストラのための《神秘的な組曲 Suite mística》(1956)、《交響曲第1番「チュルパス Chulpas」》(1968)、《交響曲第2番「クリオージョのバロック様式 Barroco Criollo」》(1978)、《ナスカ交響曲 Sinfonía Nazca》(1997) などがある。協奏曲では《ヴァイオリン協奏曲》(1991)、《ピアノ協奏曲》(1992) がある。室内楽曲では《弦楽四重奏曲第1番》(1953)、《弦楽四重奏曲第2番》(1955)、ヴァイオリンとピアノのための《Detenimientos》(1967)、《弦楽四重奏曲第3番》(1983) などがある。合唱曲では、アカペラ混声合唱のための《3つの叙情的な詩曲 Tres poemas líricos》(1955)、《ヒルカス Los Jircas》(1966)、《11の合唱小品集 11 piezas corales》(1968)、ソプラノ独唱・混声合唱・管弦楽のためのカンタータ《アプ・インカ》(1970) などがある。また、晩年に作曲されたギター曲《Despedida recordando a un adiós》(2010) は、日本人ギタリスト笹久保伸氏が初演している。
プルガル・ビダルのピアノ曲は、現代音楽家らしい音使いと、ペルーの民族音楽ー特にペルー先住民の音楽ーの影響が渾然とした響きである。我々にはちょっと馴染みのないその響きは彼独特の作曲技法なのだが、それが何百年前からのペルー伝統音楽の響きにも思えてしまうところが面白い。
Francisco Pulgar Vidalのピアノ曲リストとその解説
1951
- Cinco preludios 5つの前奏曲集
1952
- Escenas de ballet バレーの場面
1954
- Tres danzas 3つの舞曲
- Allegro apacible
- Andante
- Allegro primitivo
1955
- Tres movimientos obstinados 3つの執拗な楽章
1954年作曲の《3つの舞曲 Tres danzas》(未出版)を編曲・改訂し、《3つの執拗な楽章》として出版された。3楽章とも調性は殆ど無い、現代音楽らしい難解な曲です。
- Allegro
A-A'形式。左手8分音符のオスティナートにのって、右手に虚ろな雰囲気の旋律が奏される。- Andante con anima
5/8拍子で、気怠い音楽が流れる。- Allegro agitato
A-A'-コーダの形式。速い16分音符がのたうち回るように奏され、それにのって荒っぽい旋律が奏される。A'は概ねAを長3度上げて再現される。1956
- Taki Nº 1, Piezas para piano Op. 13 タキ第1番、ピアノのための作品集、作品13
「タキ」とはケチュア語で歌や詩、踊りを指す言葉である。8曲から成る組曲で、楽譜の解説によると1、3、4、5、8番はペルーの音楽学者Josafat Roel Pinedaが採譜したペルー民謡を元にしていて、2、6、7番はプルガル・ビダル自身の採譜とのこと。いずれもケチュア族やアイマラ族といったペルー先住民族の音楽を思わせる響きであると同時に、機能和声を極力排した響きは現代音楽家らしく、他の作曲家には見られない独特な作品と言えよう。この組曲は1960年に弦楽オーケストラに編曲された。
- Danza "Turcos" トゥルコスの踊り
ペルー中部のワヌコ県で、スペイン植民地時代にスペイン人が踊っていた舞踊の一つを "Danza Turcos" と呼んでいたらしい。快活な曲で、3小節または3小節半のド-レ-ミ-ソから成るモチーフが繰り返され、後半ではこのモチーフがカノンになって追唱されたり、モチーフが右手・左手交互に現れたりと面白い響きとなっている。- Canción de la pastora muerta 死にそうな羊飼いの歌
A-B-A'形式。静かな左手オスティナートにのって、右手に素朴な旋律が奏される。A'は旋律が左手で呟くように奏される。- Venta de telas 布売り
右手・左手と、流れるようなモチーフが掛け合いで奏される。右手モチーフはペンタトニックになっている。- Fuiste a la puna grande 君は広い高原へ行った
A-A-A'形式。5拍から成る軽快なペンタトニックのモチーフが右手・左手交互に奏される(そのため頻繁に2/4拍子と1/4拍子が入れ替わる)。- Cóndor de diamante ダイアモンドのコンドル
A-A'形式。この組曲8曲中で唯一、調号(ファ♯、ド♯)が付いている。ペンタトニックの旋律が表情豊かにに奏される。- Mi pobre pollo pintado 私の哀れなカラーひよこ
「カラーひよこ」とは、ひよこの羽毛に着色をした愛玩用の売り物で、かつては日本でもよく売られていた。買われてから間もなく死んでしまうことも多いらしい。A-A'-A形式。子守歌のような静かな右手ペンタトニックの旋律が、歌うように奏される。A'では旋律は左手に移り、右手に絶妙な対旋律が添えられる。- Lucero de la mañana 明けの明星
A-B-C-A'形式。シンコペーション混じりの快活なモチーフが和音で奏される。Cはレチタティーヴォ風で静かに歌われ、最後のA'は両手グリッサンドも現れ華やかな響き。- Quebrada pedregosa 石ころだらけの山道
A-B-A'-C-B'-D-C'形式。右手の軽やかな旋律、左手伴奏ともに、6/8拍子になったり3/4拍子になったりのヘミオラである。CとC'では一層テンポを速めて、お祭り騒ぎのさながらに盛り上がる。- Cuaderno secreto 秘密のノート
1958
- Sonata ソナタ
1960
- Paco Yunque パコ・ユンケ
この組曲は、3曲ともペルーの小説や詩を元に作られている(2曲目のみ筆者の調査では原典不明)。いずれの曲もほぼ無調と言える不協和音や風変わりな音階で、元の小説や詩を音楽で描いたと言うよりは、プルガル・ビダルが正に「霊感」を受けて作ったような感じの複雑な響きの作品である。
- Paco Yunque パコ・ユンケ
パコ・ユンケは、ペルーの作家・詩人であるセサル・バジェホ César Vallejo (1892-1938) が1931年に書いた短編児童小説である。小説のあらすじを記すと、主人公パコ・ユンケ少年の母親は、富豪ドリアン・グリエベ家でメイドとして働いていた。ドリアン・グリエベはイギリス出身で、鉄道会社の重役であり地元の町長もしていた。グリエベ家には息子ウンベルトが居て、パコと同い年であった。パコはウンベルトの遊び相手をするために町の学校に入学させてもらったが、同級生の殆どは富裕層ばかりであった。いつもパコはウンベルトに暴力をふるわれたり、いじめられたりであったが、親同士の身分の違いからパコはウンベルトに反抗できず、また先生も地元の実力者の息子であるウンベルトに贔屓してばかりであった。ある日、学校でテストがあった。パコは頑張っていい文章を書くが、テスト時間にウンベルトはノートにいたずら書きをしているだけであった。休み時間にウンベルトは誰もいない教室でパコのノートを盗み、自分の名前に書き換えて先生に提出。パコは何が起ったのかも分からず、解答を提出できないために先生に叱られ居残りを命じられる。一方ウンベルトは先生に「良く出来た」と褒められる。パコは落ち込んだまま…。という何とも救いようのない結末で、児童小説を装いながら社会の不条理を厳しく描いた作品である。曲の方はA-B-A-B-A'形式。左手の三度重音ファ-ラとソ-シのオスティナートにのって、子どもらしい快活な旋律が奏されるが、旋律の音階がファ-ソ-ラ♭-ラ-シ-レ-ミと変っていて、子ども達の険悪な関係を連想させる響きである。Bでは素朴な歌のような旋律が現れる。- La viajera 旅行者
A-B-A-コーダの形式。付点リズムの旋律と、長調とも短調ともつかない和音が、あてもなく彷徨うような雰囲気を出している。- Pedro de acero 鋼鉄のペドロ
鋼鉄のペドロは、ペルーの作家・詩人であるホセ・マリア・エグレン José María Eguren (1874-1942) が書いた詩である。A-B-A'-C-コーダ形式。左手低音8分音符ド♯-ソ♯の交互連打にのって、シ♭-ド-レ-ミ-ファの五音音階の勇ましい旋律が奏され、戦いを描くような雰囲気。Bの部分は高音部で完全五度の旋律が放たれるように奏され、低音部クラスターや両手グリッサンドなど、一層野性的な響きになる。1961
- Bulle bulle de mocoso
1972
- 7 suites peruanas 7つのペルー組曲
- Suite I
- Velación del toril
- Clarinada
- Harawi
- Ritmo campa
- Suite II
- Herranza
- Leñadores
- Wayño lento
- Canon
- Suite III
- Chimaicha
- Canción
- Sirenita
- Canto del prisionero
- Danza
- Suite IV
- Carnaval
- Cachua triste
- Cachua alegre
- Melodía
- Toril
- Suite V
- Pascalle
- Carnaval triste
- Danza
- Melodía de la noche
- Danza del pasacaballo
- Suite VI
- Wayno distante
- Wayno agreste
- Cachua lenta
- Allegro de carnaval
- Suite VII
- Diana
- Yarawi
- Pasacalle
- Toro valse
- Sonatina chuscada ソナチネ・チュスカーダ
ペルーの代表的な民族音楽にワイノ huayno(またはワイニョ)があるが、北西部のアンカシュ県、ワヌコ県ではこのワイノの一種をチュスカーダ chuscada と呼んでいる。このソナチネ・チュスカーダでは第三楽章がチュスカーダとなっている。
- Allegro
A-B-A'形式。Aは太鼓の連打を思わせる左手ド-ソ-ドの繰り返しオスティナートにのって、右手にペンタトニックの旋律が奏される。中間部Bは半音階のモチーフが執拗に繰り返される。A'では旋律は左手に始まり、右手オクターブffに引き継がれて派手に騒ぎ、間もなくディミヌエンドして消えるように終わる。- Moderato
A-B-A'形式。左手4分音符シ♭-ミ-ファ-ミがトボトボ歩くように奏され、右手にレのペンタトニックの素朴な旋律が呟くように奏される。- Veloce - Allegro vivo
アルパ(アンデス・ハープ)を思わせる急速な上行半音階に引き続き、チュスカーダのリズムでペンタトニックの旋律が現れる(下記の楽譜)。この旋律のモチーフは3小節だったり、3小節半だったりと変則的なのがチュスカーダらしい雰囲気を出しているが、一方右手旋律に16分音符遅れて短9度下で左手が奏され、16分音符交互連打で多調の響きを出している所は、現代音楽家の作品らしい。曲は途中から右手旋律がオクターブに、次いで両手ともオクターブfffに盛り上がり、両手グリッサンドで終わる。
Francisco Bernardo Pulgar Vidal, Sonatina chuscada、1-6小節- Cuatro quiyayas 4つのキヤヤ
- Sonatina wallina ソナチネ・ワリーナ
1974
- Pases (con cajón opcional) パセス(オプションでカホン付き)
ペルーの民族舞踊「パサーダス(サパテオと呼ばれる、靴で床を打ち鳴らす踊りを2人で合戦のように競い踊る)」を元にしたピアノ曲で、サパテオではしばしばカホンという楽器(木製の箱形の打楽器で、奏者はカホンに跨がって素手で叩く)のリズムと共に踊るので、この曲ではピアノ独奏またはカホンとのデュオでも演奏される。一応ハ長調。6/8拍子の速いテンポの踊りの音楽が無窮動で続く。1978
- Torrejoniana
- Marinera マリネラ
1984
- Espirales 渦巻き状の
1985
- Toccata del mar (Toccata marina) 海のトッカータ(海辺のトッカータ)
- Suite "El Chibolito" 組曲「子ども」
- El tambor de Reynaldo レイナルドの太鼓
- Sueños 夢
- El tren 列車
1998
- Taki Bach タキ・バッハ
- 3 valses criollos 3つのクリオージョのワルツ
2010
- El torito Juancho Pancho y su bongó (para piano y bongó)
Francisco Pulgar Vidalのピアノ曲楽譜
Edición Anacrusa
- Taki Nº 1, Piezas para piano Op. 13
- Tres movimientos obstinados
Ediciones Nueva Música
- Paco Yunque
Edición del autor
- Sonatina chuscada
Pontificia Universidad Católica del Perú
- 7 suites peruanas
斜字は絶版と思われる楽譜
Francisco Pulgar Vidalのピアノ曲CD・LP
星の数は、は是非お薦めのCD、は興味を持たれた人にはお薦めのCD、はどうしてもという人にお薦めのCD・LPです。
Peruanische Klaviermusik
Ahl-Classics, AC-45798-2
- Tres Estampas de Arequipa (Roberto Carpio)
- Payaso (Roberto Carpio)
- Sonatina Chuscada (Francisco Pulgar Vidal)
- Pregón Y Danza (Enrique Iturriaga)
- Cuatro Poemas (Consuelo Leví de Stubbs)
- Bosquejos Peruanos (Consuelo Leví de Stubbs)
- Rapsodia (Triste y Tondero) (Luis Antonio Meza)
- Marinera de Concierto (Rosa M. Ayarza de Morales)
- Melgar (Benigno Ballón Farfán)
César Gustavo la Cruz (pf)
1999年のリリース。
Recital Iberoamericano De Piano
- Criollo-Clásico (Elsa Pulgar-Vidal)
- Malambo (Alberto Ginastera)
- Adiós Nonino (Astor Piazzolla)
- O Polichinello (Heitor Villa-Lobos)
- Odeón (Ernesto Nazaret)
- Allegro (Luis Antonio Escobar)
- Paco Yunque (Francisco Pulgar-Vidal)
- Danza ritual de fuego (Manuel de Falla)
- La comparsa (Ernesto Lecuona)
- Zapateo, Huayno (Elsa Pulgar-Vidal)
- Marinera y Tondero (Ernesto López Mindreau)
- Travesía de la vida (Elsa Pulgar-Vidal)
Elsa Pulgar-Vidal (pf)
このCDでは、《Paco Yunque》は組曲の第1曲のみを収録。
PULGAR VIDAL - FIEGE - BISETTI (LP)
- Pases (Piano y Cajón) (Francisco Pulgar Vidal)* **
- Taki Nº 1 (Francisco Pulgar Vidal)*
- Tres preludios, Op. 4 (Alejandro Bisetti)***
- Meditacion (Juan Fiege)****
- Nocturno (Juan Fiege)****
- El mar (Juan Fiege)****
- Nocturno, Op. 20 (Alejandro Bisetti)***
- Estudio, Op. 23 (Alejandro Bisetti)*****
Elsa Pulgar-Vidal (pf)*, Juan Román (Cajón)**, Ewald Hesse (pf)***, Juan Fiege (Violin)****, Rafael Prieto (pf)****, Aldo Rossi (pf)*****
1978年のリリース。
Lupe Parrondo y un siglo de música Peruana (LP)
Virrey, VIR-818
- 5 zamacuecas (Claudio Rebagliatti)
- Suite 'De mis montañas': El eco, Carnaval (Manuel Aguirre)
- El cóndor pasa (Daniel Alomía Robles)
- La ronda de las colinas (Theodoro Valcárcel)
- Kachampa (Theodoro Valcárcel)
- Vírgenes del Sol (Jorge Bravo de Rueda)
- Cholita, vals característico (Luis Dunker Lavalle)
- Tres piezas para piano (Andrés Sas)
- Taki (Francisco Pulgar Vidal)
- Marinera de concierto (Rosa Mercedes Ayarza de Morales)
Lupe Parrondo (pf)
1972年頃の録音。
Antología de música peruana Siglo XX, Vol. II - Piano (2枚組LP)
EDUBANCO
- Suite hospital (Roberto Carpio)*
- Preludio
- Pacientes
- Sor X
- La capilla
- Ronda de la muerte
- Ronda de veladoras y mortuorio
- Postludio
- Danza mestiza (César Bolaños)*
- Arrullo y tondero (Andrés Sas)*
- Pequeña suite peruana (Celso Garrido Lecca)*
- Juego de terceras
- Negrito de Malambo
- Sicuri
- Quena y antara
- Torito de Pucará
- Tondero
- Paco Yunque (Francisco Pulgar Vidal)*
- Paco Yunque
- La viajera
- Pedro de acero
- Pregón y danza (Enrique Iturriaga)*
- Quenas (Luis Dunker Lavalle)**
- Poemas ingénuos (Alfonso de Silva)**
- La mañana
- La tarde
- Buenas noches
- Variaciones sobre un tema pentafónico (Enrique Pinilla)**
- Kachampa (Theodoro Valcárcel)**
- Sombras y eco (Manuel Aguirre)***
- Acuarelas infantiles (Carlos Sánchez Málaga)***
- Escala menor
- La queja
- Terceras
- Cuento del gallinero
- Clase de canto
- Primera pequeña suite (Rodolfo Holzmann)***
- Prelude
- Impromptu
- Canon
- Berceuse
- Toccata
César Gustavo la Cruz (pf)*, Monica Cardenas Ormeño (pf)**, Lidia Hung Wong (pf)***