Manuel Saumellのピアノ曲リスト
- Contradanzas コントラダンサ集
- La linda リンダ
- El bazar バザール
- El disimulo ごまかし
- La elegante 優雅な人
- La territorial 領土
- Los ojos de Pepa ペパの瞳
- El pañuelo de Pepa ペパのハンカチ
- Ayes del alma, Contradanza Estudio 心の嘆き、コントラダンサ練習曲
- La Tedezco テデスコ
- L' amitié 友情
- Luisiana ルイジアナ
- La virtuosa, Contradanza-Minuetto 高潔な女性、コントラダンサーメヌエット
- La Celestina セレスティーナ
- La Gassier ガシエール
- Dice que no 否定
- La Josefina ホセフィーナ
- La Irenita イレニータ
- ¡¡Toma, Tomás!! おや、トマース
- El somatén ソマテン
- La quejosita 嘆き女
- La asesora 相談役
- La pendencia 口論
- El cataclismo 大異変
- La nené 赤ん坊
- ¿Pero por qué? でも、何故?
- Tu sonrisa あなたの微笑み
- Las quejas 嘆き声
- Recuerdos tristes 悲しい思い出
- La suavecita 柔和な人
- Sopla, que quema わあ、熱い
- Los chismes de Guanabacoa グアナバコアの噂話
- La dengosa 勿体ぶって
- La Fénix フェニックス
- Saludo a Cuba キューバに挨拶
- La paila パイラ
- La cuelga クエルガ
- Lamentos de amor, Estudio y contradanza 愛の嘆き、練習曲とコントラダンサ
- La siempreviva 永久花
- La niña bonita 可愛い女の子
- La gota de agua 水滴
- La veleta 風見鶏
- La caridad 慈善
- La Matilde マティルデ
- Las bodas 結婚式
- La piñata habanera ハバナのピニャータ
- La María マリア
- El último golpe 最終打
- El huracán ハリケーン
- El jigote de Trinita トリニータのヒゴテ
- La luz 明かり
- Recuerdos de Gottschalk ゴットシャルクの思い出
- La guayaba グアバの実
- Fantasia y variación sobre temas de la Opera Montecchi e Capleti オペラ「モンテッキとカプレティ」の主題による幻想曲と変奏
- Preludio 前奏曲
- Tema 主題
- Variación 変奏曲
- Polaca Finale ポーランド人ー終曲
- Flores de Cuba, Final del 2º Acto del Macbeth キューバの花、「マクベス」第二幕より終曲
- Aria de soprano en el primer acto de la Opera La Traviata オペラ「椿姫」第一幕よりソプラノのアリア
- Romanza de baritono en la Opera La Traviata オペラ「椿姫」よりバリトンのロマンツァ
- Dueto de soprano y tenor en el tercer acto de la Opera La Traviata オペラ「椿姫」第三幕よりソプラノとテノールのデュエット
Manuel Saumellのピアノ曲の解説
- Contradanzas コントラダンサ集
キューバの民族舞踊・音楽であるコントラダンサの起源は、17-18世紀にイギリスで流行した民族舞踊の「カントリーダンス country dance」に遡る。イギリス発祥の「カントリーダンス」はフランスなどヨーロッパ各国にも広まり、フランス語で「コントルダンス contredanse」と呼ばれ人気となった。(カントリーダンスとコントルダンスは読みは似ているが、仏語の接頭辞 contre- は「反対」という意味で、英語の country の意味は無い。コントルダンスの代表的な踊りが、男性と女性が対面してそれぞれ一列になって踊る形態からcontredanseと呼ばれるようになったと思われる。)当時の「コントルダンス」とは踊りの形態を指していて、音楽のリズムは様々である。例えばモーツァルトはコントルダンスを多数作曲したが、その中には2拍子の他にも3/4拍子や6/8拍子の曲もある。更にスペインでは「コントラダンサ contradanza」と呼ばれ、スペインの植民地であったキューバにも18世紀中頃には伝わったとされている。一方コントルダンスは、当時フランスの植民地であった、カリブ海のイスパニョーラ島西部にあるサン・ドマング(現在のハイチ共和国)に伝わっていた。サン・ドマングでは。フランス人植民者たちがアフリカから連れてこられた黒人奴隷を酷使していたが、1789年にフランス革命が起こると、その影響を受けてサン・ドマングでも1804年に黒人奴隷達による独立革命が起こった。これにより数千のサン・ドマングのフランス人と、彼らに忠実な一部の黒人奴隷がサン・ドマングの西隣のキューバ東部へ逃れ、彼等もこのコントルダンスを伝えた。そしてキューバではこれもまた「コントラダンサ」と呼ばれ、黒人音楽の影響を受けつつ、いつの間にかシンコペーションのリズムなどのキューバ色が強くなっていったとのことである。なお、Solomón Gadles Mikowsky氏の論文によると、スペイン経由とサン・ドマング(ハイチ)経由では、当時の踊り形態からは後者の影響が優勢と考えられている。
サウメルのコントラダンサは今の所、以下の52曲が知られている。彼の生前は、これらのコントラダンサは多くが1836年頃よりハバナのEdelmann社から次々と出版されたいたようだが、作曲年や初版年については資料が乏しくほとんど不明である。サウメルの没後、Edelmann社を承継したAnselmo López社が20世紀初頭に『マヌエル・サウメル・ピアノ曲アルバム Álbum de obras para piano de Manuel Saumell』という楽譜集を出版、51曲のコントラダンサが収められた。その後長く、サウメルのコントラダンサは全51曲として知られていたが、最近新たに《グアバの実 La guayaba》の楽譜がハバナの博物館で発見され、現在は全52曲となっている。各曲の構成はみなA-Bから成る二部形式で、曲によっては繰り返し記号でA-A-BとかA-A-B-Bという曲もある。多くの曲が32小節であるが、曲によっては最後にD. C.(ダ・カーポ)の指示があり、またその指示がなくても全体を繰り返してA-B-A-Bと弾くピアニストもいる。全体的に、前半Aは華やかだったり勇ましかったりで、一方後半Bはキューバらしいハバネラ habaneraや、トレシージョ tresillo
、シンキージョ cinquillo
のリズムにのった静かで甘い雰囲気のことが多い。半数以上の曲では前半と後半で調が異なっていて、下属調への転調が一番多いが、属調・同主調・平行調への転調の曲もある。コントラダンサは主に2拍子のリズムだが、この曲集の約三分の一が6/8拍子の曲で、また3/4拍子の曲もあり、サウメルはそれらも「コントラダンサ」と呼んでいる。
- La linda リンダ
ト長調。前半は両手オクターブの勇ましい旋律。後半はシンキージョのリズムを合図に、軽快な16分音符の旋律がハバネラのリズムの伴奏にのって奏される。- El bazar バザール
ト長調。前半は六度重音、後半は三度重音の旋律で、共にゆったりとした調べの優しい曲。- El disimulo ごまかし
親密な会話を思わせる雰囲気の曲。前半はハ長調で、優雅な旋律が高音部で奏される。後半はヘ長調になり、更に甘えるような雰囲気になる。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- La elegante 優雅な人
曲名通りの落ち着いた優雅な曲。前半は変ロ長調で、高音部を舞うように上下する旋律が艶やか。後半は変ホ長調で、高音の三度重音の旋律が美しい。- La territorial 領土
当時の砂糖輸出の商社 La compañia territorial terrestre に献呈された曲。ニ長調。前半は、右手和音と左手オクターブが吹奏楽を思わせる勇壮な響きだ。後半はハバネラのリズムの伴奏にのって3連符混じりの甘い旋律に変わる。- Los ojos de Pepa ペパの瞳
ヘ長調。愛嬌たっぷりの曲。前半はコントラダンサらしい溌溂とした調子。後半は3連符混じりの甘い旋律になったと思いきや、急にスタッカート混じりの三度重音の16分音符が下降して意表を突く。- El pañuelo de Pepa ペパのハンカチ
前半はト短調で、感傷的で切ない旋律だ。後半は変ロ長調になり、3連符混じりの優美な旋律になる。- Ayes del alma, Contradanza Estudio 心の嘆き、コントラダンサ練習曲
楽譜には「ユリアン・フォンタナに捧げる Dedicada a Dr. Julio Fontana」と記されている。ポーランド人で作曲家・ピアニストのユリアン・フォンタナ (1810-1869) はショパンの友人とし有名だが、1844年から1845年にかけてキューバに滞在し、演奏会を催したりニコラス・ルイス・エスパデロにピアノを教えたり活動をしている。おそらくサウメルとも交流があったであろう。フォンタナはキューバ滞在中に知り合ったキューバ人女性のCamila Dalcour Tennantと、後の1850年に米国ニューヨークで結婚したが、1855年に彼女は妊娠中に肺炎で亡くなってしまった。サウメルはこの事を悼んで、親友フォンタナのためにこの曲を作ったとする資料がある。曲名通りの、何とも悲しい響きの曲だ。前半はイ短調、哀愁たっぷりのオクターブの旋律に纏わリ付く雨垂れの音のような16分音符の和音の連続が、強いて言えば「練習曲」なのかな(下記の楽譜)。後半はハ長調になり、これまた悩ましい旋律だ。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。
Ayes del alma, Contradanza Estudio、1-9小節、Manuel Saumell y la Contradanza、Editorial Letras Cubanasより引用- La Tedezco テデスコ
1846-1847年にキューバを訪れたイタリアのソプラノ歌手、Fortunata Tedescoに献呈された。前半はト短調で、両手オクターブが勇ましい。後半は変ロ長調になり、ここで現れる旋律はヴェルディ作曲のオペラ《エルナーニ》の第1幕でエルヴィーラ(ソプラノ)が歌うアリア〈エルナーニ!、エルナーニ、私を連れてって Ernani! Ernani, involami〉の後半の旋律とほぼ同じで、コロラトゥーラ・ソプラノを思わせる高音部の旋律がきらびやか。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- L' amitié 友情
1848にキューバを訪れたウィーン生まれのフランスの作曲家・ピアニスト、アンリ・エルツ Henri Herz (1803-1888) に献呈された(それでフランス語の曲名にしたのだろう)。変ホ長調。全曲ゆったりとしたハバネラのリズムの伴奏にのった、心安らぐ曲だ。後半は、左手に16分音符半音階が現れたり、右手旋律が三度重音で上行したりと豊かな響きである。- Luisiana ルイジアナ
「我が友、L. M. Gottschalkへ」と楽譜に記されているように、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身である作曲家・ピアニストのゴットシャルクに献呈された曲。前半はハ短調で、ラッパの響きを思わせ勇壮な行進曲風。後半のハ長調は一転してゆったりしていて、左手は3拍子のワルツのリズム(楽譜上は2/4拍子のまま、3連4分音符で記譜)となり、右手が普通の2/4拍子のコントラダンサの旋律となるので、4対3のヘミオラが現れるのが艶かしい雰囲気(下記の楽譜)。
Luisiana、13-25小節、Manuel Saumell y la Contradanza、Editorial Letras Cubanasより引用
この「ワルツの伴奏でコントラダンサ」については、サウメルの3連4分音符の記譜は実際に弾く時はワルツとせず、「トレシージョ tresillo」のリズム(♪. ♪. ♪)で弾くべきとする文献がいくつかある。それでは実際にピアニストたちはどう演奏しているのか?。手元に音源のある8名のピアニストの演奏について、3連4分音符の記譜のある以下の3曲(Luisiana、Tu sonrisa、La gota de agua)で、楽譜通りの「3連符(3連4分音符)」か「トレシージョ(♪. ♪. ♪)」のどちらで弾いているかを調べてみた。
ピアニスト[敬称略](出身国) Luisiana前半 Tu sonrisa前半 Tu sonrisa後半 La gota de agua前半 Frank Fernández(キューバ) 3連符 3連符 3連符 3連符(1回目)、トレシージョ(2回目) Yleana Bautista(キューバ) - 3連符 3連符 - Dagmar Muñiz Alonso(キューバ) 3連符 トレシージョ トレシージョ - Elizabeth Rebozo(キューバ) - トレシージョ 3連符 トレシージョ Sergio Alejandro(不明) トレシージョ トレシージョ トレシージョ トレシージョ 宮崎幸夫(日本) 3連符 - - - 森川実千代(日本) - トレシージョ トレシージョ - 下山静香(日本) 3連符 - - -
結果は以上の通り(- は録音なし)でピアニストによりまちまちである。キューバ出身のピアニストの間ですら解釈は分かれており、正統な解釈という定まったものはなさそうである。私個人の意見では、トレシージョは確かにキューバ音楽を代表するリズムであるが、それでもサウメルのこの曲は私は楽譜通りの3連符、すなわち「ワルツの伴奏でコントラダンサ」で弾くのが好きです。- La virtuosa, Contradanza-Minuetto 高潔な女性、コントラダンサーメヌエット
副題通りの3/4拍子の「メヌエット」の曲。前半は変ホ長調で、メヌエットらしい優雅な旋律。前半の終わりから後半はハ短調になり、物悲しい旋律が三度重音で奏される。- La Celestina セレスティーナ
女優のCelestina Frankに献呈された。6/8拍子。前半はハ長調で、両手オクターブが力強い響き。後半はヘ長調になり、グアヒーラのリズムの伴奏にのって女性らしい優しい三度重音の旋律が奏される。Celestinaさんは、力強く、かつ優しい女性だったのかしら?。- La Gassier ガシエ
ハ長調、6/8拍子。前半はユニゾンやオクターブの勇ましい響きだが、後半はベネズエラワルツ風の♩♫♩の伴奏にのって優美な旋律が歌われる。この曲は、1858-1860年にキューバを訪れたバスク地方出身のソプラノ歌手Josefa Cruz de Gassier (1821-1870) に献呈された。彼女は3オクターブの広い音域の声を出すことが出来たとのこと。サウメルのこの曲も3オクターブとまでは行かずとも、旋律の音域は広く、1オクターブ半を駆け上がる部分などがり、Gassierの声を表しているのだろう。- Dice que no 否定
この曲もゴットシャルクに献呈された。ゴットシャルクが1859年に作曲したピアノ曲《私に答えて、華やかな奇想曲 Réponds-moi (Di que si), caprice brillant》への返礼として作曲されたと思われる。6/8拍子だが、実際は3拍子のリズム。前半はヘ長調で、華やかな雰囲気。後半は変ロ長調で、穏やかな三度重音の旋律が流れる。- La Josefina ホセフィーナ
Josefa Herreraという女性に献呈された。JosefinaとはJosefaの示小辞。ト長調。前半は左手低音のオクターブと右手和音が勇ましい。後半は伴奏が中音部の柔らかい響きになる。- La Irenita イレニータ
変ロ長調。前半、後半とも三度重音の旋律が爽やかな曲。後半の旋律は3連符混じりで甘い雰囲気。- ¡¡Toma, Tomás!! おやっ、トマース
サウメルの友人で作曲家・ピアニストのTomás Ruizに献呈された。「Toma(おやっ)」という語が「Tomás」に似ているので、この曲名はスペイン語の駄洒落なのだろう。6/8拍子。題名と曲はあまり関係無さそうで、前半は変ホ長調の落ち着いた調べ。後半は変イ長調になり、左手の低音オクターブ+アルペジオの伴奏が豊かな響き。- El somatén ソマテン
ソマテン somatén はカタルーニャ語で「我々は注視している」という意味の "som atents" に由来した言葉。スペイン北東部にあるカタルーニャ地方は当時のスペイン王国の一部であったが、スペインからの独立運動が昔も今もあって、当時は非合法の独立運動組織やその組織の新聞をソマテンと呼んでいた。同じくスペインの支配下にあったキューバで、サウメルがこの曲に《ソマテン》と名付けた真意は何かあったのであろうか?。ハ長調。前半は両手オクターブの響きが兵隊らしく精悍だが、後半はシンコペーション混じりで、シンキージョのリズムも現れ、何か兵隊が陽気に踊り始めた風で面白いけど‥‥。- La quejosita 嘆き女
Dolores Herreraという女性に献呈された。「Dolores」が、「Dolora(苦悩)」という言葉に似ているので、それを茶化して「嘆き女」という曲名を付けたのかな。曲は題名とは全然逆で陽気で活発。前半はニ長調で、楽譜は6/8拍子だが、1小節が2拍子~3拍子と毎小節変わる可変拍子なのが緊張感があって面白い。後半はト長調で、左手伴奏はだいたい6/8拍子なのだが、右手旋律の方は前半同様2拍子になったり3拍子になったりと目まぐるしい(キューバのサパテオ Zapateo cubano という民族舞踊風である)。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- La asesora 相談役
6/8拍子。前半はニ長調で、両手オクターブで華やかな響き。後半はニ短調になり、グアヒーラのリズムの伴奏にのって優しく語りかけるような旋律が奏される。- La pendencia 口論
ニ長調。前半は曲名通り、16分音符分散オクターブによる騒がしい旋律。後半はやや穏やかになり、高音部に三度重音の旋律が奏される。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- El cataclismo 大異変
変ロ長調、6/8拍子。前半は対話のような左手・右手の掛け合い。後半は、ベネズエラ・ワルツ風の伴奏にのって三度重音の伸びやかな旋律が奏される。- La nené 赤ん坊
変イ長調。赤ん坊がすやすやと眠っている情景を描写したような、穏やかな曲。前半は眠っている赤ん坊に静かに語りかけるような曲調で、後半は(ハバネラのリズムによる)優しい子守歌風。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- ¿Pero por qué? でも、何故?
変ホ長調。前半は流れるような16分音符の旋律。後半は三度重音の旋律が3連符混じりとなり甘い雰囲気に。- Tu sonrisa あなたの微笑み
前半はニ長調。曲は2/4拍子だが、前出の〈ルイジアナ Luisiana〉と同様、左手伴奏だけが3連4分音符で書かれたワルツのリズムとなる「ワルツの伴奏でコントラダンサ」である。この曲についても、この3連4分音符は実際にはトレシージョのリズムで弾くべしとする文献があるが、私はこの意見にはやっぱり反対で、楽譜通り弾くことで、左手ワルツのリズムとヘミオラになった右手16分音符の旋律の艶やかさが素敵だと思う。後半はト長調になり、(3連4分音符で書かれた)3拍子と2拍子が交互に現れる。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- Las quejas 嘆き声
ニ長調。前半は優しい旋律。後半は、いっときニ短調になり沈んだ雰囲気だが、同じ旋律がニ長調で繰り返され優しく終る。- Recuerdos tristes 悲しい思い出
6/8拍子。前半はホ長調、昔をしみじみ思い出すような落ち着いた雰囲気で、三声のポリフォニーで書かれている。後半は嬰ハ短調になり、何とも悲しげな右手旋律と、低音オクターブの重々しいベースが掛け合いのように奏される。- La suavecita 柔和な人
ト長調、6/8拍子。サウメルが考える「柔和な人」の姿が思い浮かぶような曲だ。前半は落ち着いたメヌエット風で、後半は前出の〈嘆き女 La quejosita〉とほぼ同じ旋律で若干和音進行が異なるのみである。- Sopla, que quema わあ、熱い
前半は変ホ長調で、伴奏の音も分厚い華やかな響き。後半は変ロ長調になり、シンコペーションの旋律が陽気だ。- Los chismes de Guanabacoa グアナバコアの噂話
変イ長調、6/8拍子。前半はメヌエット風の優雅な曲調。後半は高音の旋律が伸びやかな雰囲気。- La dengosa 勿体ぶって
6/8拍子。前半はト長調で、右手→左手と旋律がカノンで引き継がれる。何か話したいことがある様子?。後半はハ長調になり、8分音符の伴奏にのった旋律が可憐。- La Fénix フェニックス
宝飾品・工芸品販売のある店に献呈された。ト長調、6/8拍子。メキシコ南部の民族舞踊「サンドゥンガ sandunga」のリズムにのった曲。前半は両手オクターブの華やかな響きが大勢の賑やかな合奏を思わせる。後半は対照的にpになって可憐な旋律が重音で奏される。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- Saludo a Cuba キューバに挨拶
前半は変ホ長調、行進曲風で勇ましい。後半は変イ長調になり、一転して3連符混じりのリズムにのって甘い旋律が奏される(右手旋律が3連符混じりになるのはサウメルのコントラダンサではしばしば見かけるが、左手伴奏リズムに3連符が続くのは珍しい)。最後は変イ長調のV度の和音で終わる。- La paila パイラ
パイラとはハバナ近郊の地名で、「Madrugaの泉」で有名らしい。ハ長調、6/8拍子。前半は左手の対旋律が後打ちで、ちょっとシューマン風。後半はベネズエラワルツ風で流れるような旋律になる。- La cuelga クエルガ
前半はイ長調、後半はニ長調で、いずれも3連符混じりの旋律がのんびりした雰囲気。- Lamentos de amor, Estudio y contradanza 愛の嘆き、練習曲とコントラダンサ
前半は変イ長調で、愛の語らいのような甘い旋律。後半はヘ短調になり、曲名通りの「嘆き」の旋律になりそのまま寂しく終る。何か意味深なストーリーでもありそうな曲だ。- La siempreviva 永久花
6/8拍子、軽快な曲。前半はハ長調で、スタッカートの上行音階の旋律が浮き立つように軽やか。後半はヘ長調になり、今度は左手の十度跳躍の伴奏が跳ねるように楽しげだ。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- La niña bonita 可愛い女の子
前半は変イ長調で、可憐な響き。後半はヘ短調になり、ちょっと哀愁漂う。ちなみにこの曲の左手伴奏の所々で、1小節が[♩♩♪]となっていて、それに跨がるように"3"(3連符)と記されているが、どうやって弾いたらいいのだろう?(キューバのピアニスト、フランク・フェルナンデスが校訂した楽譜は、この部分を3連4分音符[♩♩♩]にしている)。- La gota de agua 水滴
イ長調。前半は右手旋律は16分音符だが、左手伴奏は3連4分音符が現れる変拍子。後半は賑やかな響き。- La veleta 風見鶏
前半はニ長調で、右手の分散オクターブの旋律が騒がしい。後半はト長調になり、3連符混じりの旋律が優雅。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- La caridad 慈善
ト長調、6/8拍子。前半はffの両手オクターブが重厚な響き。後半は穏やかで可憐な曲調。- La Matilde マティルデ
Matilde Gutiérresという女性に献呈された。6/8拍子。前半は変ロ長調で、優雅な雰囲気。後半はヘ長調になり、グアヒーラのリズムでのどかな曲調になる。- Las bodas 結婚式
前半はイ長調。三度重音の下降音階の旋律は賑やかで、結婚式に人が集まった光景かな。後半はホ長調になる。ハバネラのリズムにのった甘い旋律は愛の語らいのよう。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- La piñata habanera ハバナのピニャータ
ピニャータとは、お菓子やおもちゃなどを入れた紙製のくす玉で、お祭りでは子どもが棒で叩いて割って楽しむ。ニ長調。前半は、右手の分散オクターブの旋律がお祭り騒ぎのような感じ。後半は3連符混じりの落ち着いた曲調になる。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- La María マリア
María de R. C. という女性に献呈された。ホ長調、6/8拍子。前半は2オクターブユニゾンの騒々しい旋律。後半は、グアヒーラのリズムにのった六度重音の旋律が華やかな響き。- El último golpe 最終打
前半はイ短調で、悲劇調の旋律で重々しい。後半はハ長調になり、急に軽やかな3連符混じりの旋律になる。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- El huracán ハリケーン
キューバは今も昔もハリケーンの来襲を度々受けており、サウメルも暴風雨を経験したことがあるのかな。前半はニ長調、後半はニ短調で、全曲殆どが両手オクターブの連打の、題名通りの激しい曲だ。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- El jigote de Trinita トリニータのヒゴテ
ヒゴテとは鶏肉の煮込み料理のこと。ト長調。前半は上行する16分音符の旋律が威勢良い。後半は旋律が3連符混じりとなり艶かしくなる。- La luz 明かり
全体的にゆったりとした趣深い曲。前半はニ長調で、高音にのびやかな旋律が奏される。サウメルのコントラダンサは後半で転調しても大抵は近親調に行くのだが、この曲の後半は例外的にヘ長調になり、月夜に囁くようなひっそりとした旋律が奏され、最後はニ短調のV度の和音で終るのが謎めいている。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- Recuerdos de Gottschalk ゴットシャルクの思い出
友人ゴットシャルクのためにサウメルが作った曲はこれで3曲目。前半は変ホ長調で、六度重音でゆったりと奏される旋律は何とも優しい音色だ。後半はハ短調になり、一転して哀愁溢れる調べが奏される。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。- La guayaba グアバの実
最近になって、キューバの出版社Botella y Tres puentesから19世紀に出版されたこの曲の楽譜が発見され、キューバ国立音楽博物館から出版された。ロ長調。南国的なのどかな雰囲気の落ち着いた曲。前半は、グアバの実が転がるような愛嬌ある伴奏にのった旋律が軽やか。後半は三度重音や六度重音で奏でられる半音階混じりの旋律が艶かしい。楽譜には最後まで演奏した後、ダ・カーポするように指示がある。