Sérgio de Vasconcellos-Corrêaのピアノ曲リスト
1952
1954
1954-1956
- Ponteios (revisão de 1998) ポンテイオス(1998年改訂)
- Con sentimento (N.º 1. Pregão na revisão de 1998) 感情を込めて(1998年改訂:物売りの声)
- Brincando (N.º 2. Brincando na revisão de 1998) 遊びながら(1998年改訂:遊びながら)
- Cantando (N.º 3. Cantando na revisão de 1998) 歌いながら(1998年改訂:歌いながら)
- Cantando (N.º 11. Feliz na revisão de 1998) 歌いながら(1998年改訂:幸福な)
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- Profundo e triste (N.º 7. Matutando na revisão de 1998) 深刻に、悲しく(1998年改訂:塾考しながら)
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- Depressa bem marcado (N.º 10. O samba nas mãos na revisão de 1998) 目立って急いで(1998年改訂:両手のサンバ)
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- Tristonho (N.º 9. Tristonho na revisão de 1998) 悲しげに(1998年改訂:悲しげに)
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- Triste e apaixonando (N.º 4. Falando sério na revisão de 1998) 悲しく、情熱的に(1998年改訂:真剣に話しながら)
- Gracioso (N.º 8. Bamboleando na revisão de 1998) 優雅に(1998年改訂:揺り動かしながら)
- Gingando (N.º 5. Boas lembranças na revisão de 1998) 揺れながら(1998年改訂:いい思い出)
- ?
- Allegremente (N.º 6. Requebrando na revisão de 1998) 陽気に(1998年改訂:心地よく動かしながら)
1955
1957
1958
- Coral figurado 装飾的コラール
1959
- Matutando 熟考しながら
- Valsa chôro N.º 2 (revisão de 1980) ヴァルサ・ショーロ第2番(1980年改訂)
1960
- Cantilena カンチレーナ
- Cantilena N.º 2, Homenagem a Chopin (revisão de 2010) カンチレーナ第2番、ショパンを讃えて(2010年改訂)
- Suíte infantil 子どもの組曲
- Acalanto 子守歌
- Chorinho ショリーニョ
- Modinha モジーニャ
- Moda caipira モーダ・カイピーラ
- Baião バイアォン
1960-1961
- Suíte infantil n.º 2 子どもの組曲第2集
- Arrasta-pé (1961) アハスタ・ペ
- Cirandinha n.º 1 (1960) シランジーニャ第1番
- Cirandinha n.º 2 (1960) シランジーニャ第2番
- Baião (1961) バイアォン
1961
- Invenção N.º 1 インヴェンション第1番
- Invenção N.º 2 インヴェンション第2番
- Invenção N.º 4 インヴェンション第4番
- Seresta セレスタ
- Varioções sobre un tema de "Cana-Fita" 「カナ・フィータ」の主題による変奏曲
- Tema (Cânone) 主題(カノン)
- I variação - Acalanto 第1変奏:子守歌
- II variação - Dança 第2変奏:舞曲
- III variação - Modinha 第3変奏:モジーニャ
- IV variação - Pregão 第4変奏:物売りの声
- V variação - Valsa 第5変奏:ヴァルサ
- VI variação - Miudinho 第6変奏:ミウジーニョ
- VII variação - Baião 第7変奏:バイアォン
1962
1963
- Dobrado (da Suíte Piratininga) para dois pianos ドブラード(ピラチニンガ組曲より)、2台ピアノのために
- Introdução e chôros, Invenções a 2 partes 序奏とショーロ、二声のインヴェンション
- Introdução 序奏
- Chôro N.º 1 ショーロ第1番
- Chôro N.º 2 ショーロ第2番
- Chôro N.º 3 (Homenagem a Villa-lobos) ショーロ第3番(ヴィラ=ロボスを讃えて)
- Invenção N.º 3 インヴェンション第3番
1966
- Acalanto 子守歌
- Modinha モジーニャ
1968
- Contrastes (Varioções sobre un tema popular) コントラスト(民謡の主題による変奏曲)
- Selvagem (Tema) 粗野な(主題)
- Solene 厳粛な
- Saltitante 跳ねるような
- Calmo e sonoro 穏やかで柔らかい
- Agitato 激しい
- Nostálgico (Seresta) 郷愁(セレスタ)
- Rude (Epílogo) 粗野な(エピローグ)
1971
1972
- Moda モーダ
1973
1978
- Amoroso (Chôro n.º 1) 愛情を込めて(ショーロ第1番)
1979-1982
- Simples coletânea 単純な選集
- Ritual 儀式
- Tanabata no 七夕の
- Enarmonia 異名同音
- Moda baiana バイーアの旋法で
- Moda paulista サンパウロの旋法で
- Fanfarra (1979) ファンファーレ
- Acalanto para Isabelle (1980) イザベルのための子守歌
- Moda molenga (1981) モレンガの旋法で
- Carnaval (1980) カーニヴァル
- Marcha nupcial 結婚行進曲
1981
- Três estudos sobre Luiz Gonzaga ルイス・ゴンザーガによる3つの練習曲
- A dança da moda 流行の踊り
- Assum preto アスン・プレット(黒いキツツキ)
- Juazeiro ジュアゼイロ
1984
- Sonatina ソナチネ
- Alegre 陽気に
- Andante (Acalanto para Isabelle) アンダンテ(イザベルのための子守歌)
- Descontraído 弛んで
1985
- Caiximúsica オルゴール
1986
1987
- Caricatura n.º 1 カリカチュア第1番
- Cinco peças do álbum 5つの小品のアルバム
- Sonhando 夢を見て
- Canto nordestino ノルデスチの歌
- Na corda da viola ギターの弦で
- Pequeno estudo 小さな練習曲
- Rondó do jegue destrambelhando はぐれてしまったロバのロンド
2003
- Quem vê caras..! 顔が見えても・・・
- Sambossa N.º 1 サンボッサ第1番
2006
- Sambossa II (para a mão esquerda) サンボッサ第2番(左手のために)
- Valsa choro N.º 1 ヴァルサ・ショーロ第1番
2008
- Tangos "A los hermanos" タンゴ「仲間たちへ」
作曲年代不明
Sérgio de Vasconcellos-Corrêaのピアノ曲の解説
1952
- Malagueña マラゲーニャ
A-B-A'形式。ラ♭-ド-ミ♭とラ-ド♯-ミの和音が交互に奏される3拍子の伴奏にのって、コブシのきいた陰うつな旋律が奏される。Bは単音の旋律がレチタティーヴォ風に奏される。1954
- Dança brasileira N.º 1 ブラジル舞曲第1番
ヴァスコンセロス=コヘーアの最初期のピアノ曲と言える2曲の《ブラジル舞曲》は、後年の成熟した彼の作品に比べると構成も和声もまだまだ単純な習作のような感じである。A-B-A'形式。Aは強いて言えばハ短調。3-3-2の左手リズムにのって、右手に16分音符のモチーフが繰り返される。Bはテンポを落としてト短調になり、寂しげな旋律が奏される。- Dança brasileira N.º 2 ブラジル舞曲第2番
ト短調、前奏-A-B-A-B'形式。Aは哀愁漂う旋律がゆったりと奏される。Bはテンポを速めて3-3-2のリズムで和音が鳴る。1954-1956
- Ponteios (revisão de 1998) ポンテイオス(1998年改訂)
ポンテイオ Ponteio という言葉は、ポルトガル語のpontear(=ギターなど弦楽器などをつま弾く)とprelúdio(=前奏曲)を混ぜた造語である。言わば、ヨーロッパの「前奏曲」のスタイルを受け継ぎながらも、ギターのつま弾きなどの響きを用いて、ブラジル人の魂を音楽にした作品である。ヴァスコンセロス=コヘーアの師である作曲家のカマルゴ・グァルニエリの代表作である、50曲からなるピアノ曲集《ポンテイオス》により、20世紀ブラジルのクラシック作曲家にとっては一つのジャンルとして数々のポンテイオが作曲されている。ヴァスコンセロス=コヘーアは1954年から1956年まで22曲から成る《ポンテイオス Ponteios(ポンテイオ集)》を作曲したらしいが、楽譜が出版されたのは以下に解説を記した曲のみで、それらは1998年に番号を振り直し、一部の曲は新たな曲名が付けられて再出版された。全ての曲がト音記号で書かれて音数も少な目だが、ブラジル音楽らしい哀愁漂う旋律やシンコペーションのリズムと、少ない音から響く絶妙な不協和音や旋法のコンビネーションは、カマルゴ・グァルニエリが提唱した「ポンテイオ」に相応しい組曲である。
- Con sentimento (N.º 1. Pregão na revisão de 1998) 感情を込めて(1998年改訂:物売りの声)
8分音符の伴奏にのって、物売りの声を思わせる旋律が2回繰り返される。旋律はドのミクソリディア旋法で、素朴な響きを醸し出している。- Brincando (N.º 2. Brincando na revisão de 1998) 遊びながら(1998年改訂:遊びながら)
8分音符ラ-ド-レ-ミ-ファ♯ミ-レ-ド(ラのドリア旋法に近い)のオスティナートの伴奏にのって高音部に無邪気な旋律が奏される。後半は重音の16分音符がトリルや音階となって上下するが、これが何とも魔法がかったような響きで面白い。- Cantando (N.º 3. Cantando na revisão de 1998) 歌いながら(1998年改訂:歌いながら)
ト長調。3連符の左手伴奏にのって、鳥のさえずりのようなモチーフが奏される。- Cantando (N.º 11. Feliz na revisão de 1998) 歌いながら(1998年改訂:幸福な)
3拍子の左手伴奏にのって、歌うような旋律が奏される。伴奏和音はラ-ド♯-ミ-ソが6小節続いて調性が不明瞭で、最後にホ短調に落ち着く。- ?
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- Profundo e triste (N.º 7. Matutando na revisão de 1998) 深刻に、悲しく(1998年改訂:塾考しながら)
嬰へ短調。左手重音のゆっくりとしたシンコペーションにのって、ファ♯が寂しげに繰り返し鳴る。- ?
- Depressa bem marcado (N.º 10. O samba nas mãos na revisão de 1998) 目立って急いで(1998年改訂:両手のサンバ)
僅か10小節の曲。嬰ハ短調。急き立てられるような16分音符旋律(内部に3-3-2のシンコペーションの強調を含む)が両手ユニゾンで奏される。- ?
- Tristonho (N.º 9. Tristonho na revisão de 1998) 悲しげに(1998年改訂:悲しげに)
A-B-A'形式。右手旋律は嬰ト短調だが、左手伴奏和音がシ-レ♯-ソ♮だったりシ-レ♮-ソ♯だったりと不安な雰囲気。Bは嘆くような旋律が十度重音で奏される。- ?
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- Triste e apaixonando (N.º 4. Falando sério na revisão de 1998) 悲しく、情熱的に(1998年改訂:真剣に話しながら)
へ短調。3連符の左手伴奏にのって、2拍子の寂しげな旋律がヘミオラで奏される。- Gracioso (N.º 8. Bamboleando na revisão de 1998) 優雅に(1998年改訂:揺り動かしながら)
ハ短調。左手シンコペーションの伴奏にのって、軽快な旋律が奏される。- Gingando (N.º 5. Boas lembranças na revisão de 1998) 揺れながら(1998年改訂:いい思い出)
A-B-A-B-A'形式。Aはハ短調で、シンコペーションの伴奏にのって、シ-ドのモチーフが現れる。Bは楽譜に「ファドのように imitando o Fado」と記され、へ短調になって哀愁漂う旋律が奏される。- ?
- Allegremente (N.º 6. Requebrando na revisão de 1998) 陽気に(1998年改訂:心地よく動かしながら)
ト短調、A-A'形式。短調ながら、快活な旋律と、16分音符半音階の対旋律やハバネラのリズムの伴奏などが賑やかな曲。1955
- Festa na roça 田舎の祭り
1分程の短い曲。ハ長調、A-A-B-A'形式。楽譜はト音記号の一段楽譜に収まっていて、旋律らしきものは無く、高音部の左手ー右手交互16分音符が和音を鳴らす中で、左手が3-3-2のリズムを弾く躍動的な曲。Aの終わりがファ♯になったり、突然の転調が現れたりと和声も捻りが効いている。1957
1960
- Cantilena カンチレーナ
1分少々の短い曲。二声から四声のポリフォニーで書かれていて、寂しげな旋律に対旋律が纏わりつく。へ短調に始まり、途中から変イ短調になる。- Cantilena N.º 2, Homenagem a Chopin (revisão de 2010) カンチレーナ第2番、ショパンを讃えて(2010年改訂)
これも寂しげな旋律が奏される。内声のアルペジオが和音を紡ぐ所はショパンの影響を感じるが、低弦ギターがベースと対旋律を兼ねるように動くのや、旋律・対旋律に所々現れるシンコペーションはショーロの雰囲気が優っている。へ短調で始まるが、変ロ短調〜ハ短調と転調していく。- Suíte infantil 子どもの組曲
当時ヴァスコンセロス=コヘーアが作曲を師事したカマルゴ・グァルニエリに献呈された。5曲共ト音記号のみで書かれ、音は白鍵のみで全く黒鍵は用いず、また右手・左手共に単音のみで、(旋律と伴奏がはっきりと分かれている)第5番を除いて二声のポリフォニーに聴こえる。少ない音数から豊かなブラジル音楽の響きを紡ぎ出していおり、ヴァスコンセロス=コヘーアの作曲技法が光るような作品に思います。
- Acalanto 子守歌
イ短調、A-A'形式。3/4拍子の素朴な右手旋律と左手対旋律が奏される。A'では一時左手の旋律に4拍遅れて右手がカノンで追う。- Chorinho ショリーニョ
ショリーニョは「小さなショーロ」の意味。ハ長調。快活な主旋律が右手に奏され、左手対旋律はしばしば付点のリズムになり、ショーロの楽士たちの即興演奏の掛け合いを思わせる。- Modinha モジーニャ
モジーニャとは19世紀に起ったブラジルの歌のジャンルで、たいてい哀愁漂う短調の曲である。イ短調。左手〜右手と二声で、哀愁たっぷりの旋律が静かに奏される。- Moda caipira モーダ・カイピーラ
カイピーラとはブラジル中部から南部にかけての内陸の田舎を指しており、その地域の伝統音楽をムジカ・カイピーラと呼び、またその音楽で用いられる10弦のギターをヴィオラ・カイピーラと呼んでいる。ハ長調。重唱の思わせる曲で、威勢良く歌っては、静かに語るように歌う、のような繰り返しが奏される。- Baião バイアォン
バイアォンはブラジル北東部(ノルデスチ)の代表的な踊りとその音楽である。左手にバイアォンのリズムの伴奏が続き、それにのって素朴な旋律が奏される。ハ長調と言うより、ソのミクソリディア旋法の響きであり、その教会旋法の調べがまたノルデスチの音楽らしい。1960-1961
- Suíte infantil n.º 2 子どもの組曲第2集
前作の《子どもの組曲》(1960) と同様、4曲共ト音記号のみで書かれ、また右手・左手共に単音のみである。但し臨時記号が第1番、第4番で現れる。4曲共にテンポは速く、唯一の録音であるEudóxia de Barrosの演奏では、全曲合わせて2分で弾いている。
- Arrasta-pé (1961) アハスタ・ペ
アハスタ・ペとは直訳すると「足を引きずる」という意味だが、これはブラジルー特にノルデスチーの大衆のダンスパーティーのこと。イ短調。軽快な旋律が右手〜左手にカノンのように現れ(厳密にはそっくり同じではないのでカノンではない)、右手旋律が先行しては今度は左手旋律が先行する、といったように抜きつ抜かれつする。- Cirandinha n.º 1 (1960) シランジーニャ第1番
イ短調、A-A'形式。右手に自然短音階のあどけない旋律が奏され、左手に下行音階からなる対旋律が奏される。後半では一時右手対旋律・左手主旋律に交替する。- Cirandinha n.º 2 (1960) シランジーニャ第2番
ハ長調、A-B-A'形式。1〜2小節毎に拍子が3/4〜4/4〜3/4〜4/4〜5/4〜3/4〜‥‥と頻繁に変わり、落ち着きのない旋律が奏される。- Baião (1961) バイアォン
A-B-A'形式。Aはドのリディア旋法で、左手のバイアォンのリズムにのって軽快な旋律が奏される。Bはソのリディア旋法になる。1961
- Seresta セレスタ
セレスタとは「セレナード」のポルトガル語で、夜の街角でギターを伴奏に歌う様式であるが、ブラジルではポルトガル植民地時代から独自の音楽ジャンルとして発展してきている。変ロ短調。哀愁たっぷりの旋律の下で、ギターのつま弾きを思わせる対旋律やベースが複雑に絡んで、ほぼ四声のポリフォニーとなり、離れた音域のそれ全てを一人で演奏するのは技巧的に結構難しい(下記の楽譜)。
Seresta、5-6小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用- Varioções sobre un tema de "Cana-Fita" 「カナ・フィータ」の主題による変奏曲
ブラジルの詩人・民俗学者・音楽評論家であるマリオ・ジ・アンドラージの著書『Ensaio sôbre a música brasileira』(1928) に収められた、ペルナンブーコ州の労働歌の1つ〈カナ・フィータ Cana-Fita(縞模様のサトウキビ)〉の旋律を元に作られた変奏曲。歌詞は「私は太陽が照る所にサトウキビを植えた。よく育って、縞模様のサトウキビが育った‥‥ Eu aprantei cana, na resta do só. Pra nascê mió: nasceu a cana-fita....」と続く。ヴァスコンセロス=コヘーアのピアノ曲でしばしば見られる、両手共ト音記号のみ、かつ右手・左手共に単音で弾かれる曲で、少ない音数からブラジルの民謡や舞曲を豊かに描いた作品と言えよう。冒頭の主題は、オリジナルの歌がA-B形式の所をA-B-A形式に変え、また二声のカノンに編曲している。第1変奏の子守歌はテンポを落とし、右手旋律はホ短調になり、左手はイ短調のままで旋律の音価が2倍に遅くなる拡大フーガのような変奏。第2変奏の舞曲は跳ねるようなスタッカートで、2/4拍子と3/4拍子が頻繁に入れ替わる。第3変奏のモジーニャは右手に哀愁漂う旋律が奏され、左手は伴奏だったり、時々右手旋律をカノンで反復する。第4変奏の物売りの声は、右手にちょっと寂しげな旋律が奏され、左手にさり気ない対旋律が加わる。第5変奏のヴァルサは右手旋律、左手対旋律だが、ここでも左手は時々右手旋律をカノンで反復したり先行したりする。第6変奏のミウジーニョとはサンバの踊りの一種で、男性が細かくステップを踏む独特な踊りらしい。左手スタッカートで奏されるイ短調の(主に4分音符の)軽快な旋律の上で、右手が1/2音価(2倍速)で旋律のモチーフを変形した(8分音符の)対旋律をホ短調で奏する。旋律と対旋律は属調または下属調の関係を維持しながら転調をしつつ、旋律は右手になったり左手に戻ったりと目まぐるしく攻守交替する。第7変奏のバイアォンは、左手のバイアォンのリズムにのって、右手に旋律がラのミクソリディア旋法で陽気に奏される。
- Tema (Cânone) 主題(カノン)
- I variação - Acalanto 第1変奏:子守歌
- II variação - Dança 第2変奏:舞曲
- III variação - Modinha 第3変奏:モジーニャ
- IV variação - Pregão 第4変奏:物売りの声
- V variação - Valsa 第5変奏:ヴァルサ
- VI variação - Miudinho 第6変奏:ミウジーニョ
- VII variação - Baião 第7変奏:バイアォン
1962
- Valsa (da Suíte Piratininga) ヴァルサ(ピラチニンガ組曲より)
ヴァスコンセロス=コヘーアは1962年、管弦楽のための5曲から成る《ピラチニンガ組曲 Suíte Piratininga》を作曲した。サンパウロ州中部にはピラチニンガという町があり、また16世紀半ばにポルトガル人が現在のサンパウロ市に到着した時の土地の名前がピラチニンガであった。この管弦楽組曲は第1曲〈ドブラード Dobrado〉、第2曲〈トアーダ Toada〉、第3曲〈ヴァルサ Valsa〉、第4曲〈ショーロ Chôro〉、第5曲〈バイアォン Baião〉からなり、うち第1曲〈ドブラード〉は2台ピアノ版に、第3曲〈ヴァルサ〉と第4曲〈ショーロ Chôro〉はピアノ独奏版に、第5曲〈バイアォン〉は連弾版にそれぞれ編曲された(第4曲〈ショーロ Chôro〉は1963年作曲の《序奏とショーロ、二声のインヴェンション》の〈ショーロ第3番〉に収載された)。〈ヴァルサ〉はへ短調、A-A'-A"-B-A-A'-A'"形式。「ヴァルサ・ブラジレイラ(ブラジル風ワルツ)」の世界はミニョーネが完成させ、カマルゴ・グァルニエリが不協和音や調性のぼかしなどの技法で発展してきたが、それを受け継いだような作品である。Aは左手中音部に哀愁たっぷりの旋律が現れるが、右手の伴奏は半音階進行を含む不協和音で、調性がはっきりしない響きとなっている。A'では旋律は右手に移り、中音部のコントラポント (対旋律)、低音部ベースも所々対旋律のような動きを見せる。A"は変ロ短調になる。Bはテンポを速め、旋律+対旋律+ベースのポリフォニックな動きはショーロ楽士達の即興的なインタープレイを思わせる。1963
- Dobrado (da Suíte Piratiningana) para dois pianos ドブラード(ピラチニンガ組曲より)、2台ピアノのために
管弦楽のための《ピラチニンガ組曲 Suíte Piratininga》の第1曲を2台ピアノ用に編曲したもの。ドブラードとはブラジルの軍隊行進曲の一種で、スペインが起源とのこと。原曲の管弦楽版も(弦楽器は休みで)管楽器と打楽器のみの吹奏楽で演奏される。変ロ短調、A-B-C-B-A'形式。Aは第2ピアノの低音でトロンボーンとチューバの力強い旋律を奏し、第1ピアノが木管楽器の装飾音を奏する。Bでは低音の旋律は第1ピアノに替わり、木管楽器の装飾音は第2ピアノとなる。Cではオーボエやトランペットなどで奏される旋律が第2ピアノのユニゾンで奏され、ホルンやファゴットで奏される8分音符伴奏は第1ピアノとなる。- Introdução e chôros, Invenções a 2 partes 序奏とショーロ、二声のインヴェンション
ブラジル音楽研究センター Centro de estudos de música brasileira が1963年に催した作曲コンクールで3等賞を受賞した作品である。
- Introdução 序奏
二声のフーガに近いが応唱は属調でない。左手に現れる無調の主唱が、5小節目から右手で1オクターブ上の応唱が始まり、主唱は音高を変えつつ左手・右手あちこちに現れながら展開していく。曲の最後では拡大フーガのような音価が2倍の主唱も現れる。- Chôro N.º 1 ショーロ第1番
へ短調。冒頭の右手旋律は16分音符だが、ショーロらしい哀調を帯び、二声が絡みながら展開する。- Chôro N.º 2 ショーロ第2番
強いて言えばイ短調。エルネスト・ナザレのピアノ曲《オデオン》に似た音形の旋律が右手に現れ、左手に引き継がれる。この音形が調を頻繁に変えながら現れ、最後はまた音価が2倍となって再現される。- Chôro N.º 3 (Homenagem a Villa-lobos) ショーロ第3番(ヴィラ=ロボスを讃えて)
管弦楽のための《ピラチニンガ組曲 Suíte Piratininga》の第4曲〈ショーロ〉をピアノ独奏用に編曲したもの。強いて言えばニ短調。原曲の管弦楽版ではクラリネットとファゴットで奏される二声の旋律・対旋律をピアノで演奏する。16分音符スタッカートの対旋律の上で悲しげな旋律が歌うように奏される場面は、ヴィラ=ロボスの《ブラジル風バッハ第5番 Bachianas Brasileiras N.º 5》の第1楽章〈アリア Ária〉に少し似ている。1968
- Contrastes (Varioções sobre un tema popular) コントラスト(民謡の主題による変奏曲)
サンパウロ・ゲーテ・インスティトゥートの賞を1969年に受賞した作品である。民謡の主題と6つの変奏から成る作品。多調だったり無調に近かったりと調性が殆ど感じられない部分が大部分で、ヴァスコンセロス=コヘーアの作曲技法の更なる進化が感じられるピアノ曲である。冒頭の〈Selvagem (Tema)〉は右手高音部にト長調で民謡の旋律が速いテンポのffで奏され、1小節遅れて左手低音部で同じ旋律がへ長調(すなわち長二度のカノン)で奏される。〈Solene〉からが変奏で、テンポを落として四声のコラール風に奏される。テノール声部に主題のモチーフが時折聞かれる。〈Saltitante〉は右手主題はスタッカート、左手も主に16分音符と跳ねるような感じで、右手の臨時記号は全て♭、左手は♯で多調となっている。〈Calmo e sonoro〉では穏やかになって、主題の旋律を含め四声〜五声のポリフォニーが静かに奏される。半音階進行の多用で気怠い雰囲気だ。〈Agitato〉は主題の旋律ははっきりせず、激しく飛び跳ねるような16分音符が技巧的。〈Nostálgico (Seresta)〉はへ短調で、変奏された陰うつな旋律の下で、ギターの音色を思わせる中音部対旋律と低音部ベースがポリフォニックに奏される。最終変奏の〈Rude (Epílogo)〉は冒頭の主題同様に、左手・右手がずれて主題の旋律を奏するが、両手オクターブになって余計荒々しく、所々で調を変えたりする混乱した響きとなる。
- Selvagem (Tema) 粗野な(主題)
- Solene 厳粛な
- Saltitante 跳ねるような
- Calmo e sonoro 穏やかで柔らかい
- Agitato 激しい
- Nostálgico (Seresta) 郷愁(セレスタ)
- Rude (Epílogo) 粗野な(エピローグ)
1971
- Tocatina トッカッティーナ
約1分程の短い曲。♩=184とメトロノーム記号が記され、速い8分音符のイ短調のモチーフが変形しながら何度も現れるが、時々ドとレとファが♯になったり♮に戻ったりして、ドリア旋法やリディア旋法になったりするカメレオンのような色彩的な響きである。後半は低音ラのオクターブがffで鳴り響く上で、二声の旋律が対話のように奏される。1973
- Serenateira, Valsa セレナテイラ、ヴァルサ
イ短調、A-A-B-A'形式。二人のセレステイロ(セレナード弾き)が夜更けの街角で、悲しげな調べをギターを弾いているような雰囲気の曲。二声のシンプルな曲で、和声も分かりやすいが、旋律と対旋律の掛け合いのタイミングや、対位法に則った旋律の動きが絶妙な出来である。A'は(Aとは逆に)旋律が低音部、対旋律が高音部で奏される。1979-1982
- Simples coletânea 単純な選集
10曲から成る曲集で、各曲は1〜2分の短い曲ばかりである。曲の題材は全体的に子ども向けのような趣向であるが、いろいろな旋法の処理方法など、単純な作りの曲だけに作曲者の腕の良さが良く見えてくるような曲集である。なお、楽譜によっては第7曲と第8曲の曲順が逆である。
- Ritual 儀式
イ短調。左手・右手それぞれでラ-ミの完全五度が鳴る中から、ミ-レ-ファ-ミのモチーフがアクセントで奏される。- Tanabata no 七夕の
カノンで書かれた曲。左手にミ♭-ソ♭-ラ♭-シ♭のみの旋律が奏され、1小節遅れて五度上のシ♭-レ♭-ミ♭-ファを同じ旋律が追う。「五音音階マイナス1」が日本民謡風で〈七夕の〉なのだろう。- Enarmonia 異名同音
上記の〈七夕の Tanabata no〉を左手レ♯-ファ♯-ソ♯-ラ♯、右手ラ♯-ド♯-レ♯-ミ♯に書き換えただけの曲で、ピアノで弾く分には全く同じ音である。- Moda baiana バイーアの旋法で
低音で完全五度が鳴るのにのって、概ねソのミクソリディア旋法の旋律が静かに奏され、繰り返される。- Moda paulista サンパウロの旋法で
ハ長調、A-A'形式。左手完全五度に2分音符にのって、右手重音の旋律が奏される。繰り返しのA'では左手は3-2-3または3-3-2のシンコペーションのリズムになって躍動的。- Fanfarra (1979) ファンファーレ
ハ長調。前半は音階の旋律が勇ましく奏される。後半は鐘が連打される音のような8分音符が続く。- Acalanto para Isabelle (1980) イザベルのための子守歌
イザベルとはヴァスコンセロス=コヘーアの孫娘の名前である。和音はド-ミ-ソとレ-ファ♯-ラが交互に繰り返されるだけで、素朴で静かな旋律が4小節ないし2小節毎に右手・左手交互に奏される。- Moda molenga (1981) モレンガの旋法で
強いて言えばイ短調。呟くような静かな旋律が奏され、後半ではその旋律が反行形(上下転回される)となって現れる。- Carnaval (1980) カーニヴァル
多くの音をクラスターで弾く曲。冒頭は楽譜に「大太鼓のように como um bombo」と記され、低音ソ-ラ-シ-ド-レ〜ラ-シ-ド-レ〜レ-ミ-ファ-ソが8分音符のリズムで鳴らされる。- Marcha nupcial 結婚行進曲
1981
- Três estudos sobre Luiz Gonzaga ルイス・ゴンザーガによる3つの練習曲
ルイス・ゴンザーガ Luiz Gonzaga (1912-1989) はブラジルの作曲家・歌手・アコーディオン奏者。彼はブラジル北東部(ノルデスチ)の音楽による歌を多数自作自演し、特にそれまであまり知られていなかったバイアォンを世に広め「バイアォンの王様 Rei do Baião」と呼ばれた伝説的な音楽家である。彼が1949年から1950年に録音した歌から3曲を選んでピアノ曲に編曲したのが、この作品である。ヴァスコンセロス=コヘーアのピアノ曲としては不協和音の使用は少な目だが、所々で現れる半音階進行や第3曲での旋法の扱いなどが興味深い作品である。
- A dança da moda 流行の踊り
ハ短調、前奏-A-B-A-B-コーダの形式。前奏でバイアォンのリズムが奏され、Aはそのリズムの中から旋律が聴こえる。Bは歌のサビの部分で、旋律の下の対旋律のさり気ない半音階進行が粋な響きだ。- Assum preto アスン・プレット(黒いキツツキ)
ニ短調、前奏-A-A-コーダの形式。元の旋律も翳のある暗い雰囲気だが、ヴァスコンセロス=コヘーアが作った左手伴奏はニ短調 I 度の和音の中に所々ミ♭、ラ♭、シ♮を混ぜていて、一層響きに影を落としている。- Juazeiro ジュアゼイロ
ジュアゼイロブラジルはナツメの木の親戚で、主にブラジル北東部に自生している。へ長調、前奏-A-A-コーダの形式。ルイス・ゴンザーガの原曲はバイアォンのリズムにのった曲だが、この編曲では前奏は静かに左手旋律〜右手拡大カノンが追う凝った形だ。Aは主旋律を合わせて四声のポリフォニーになっていて、主旋律はファのミクソリディア旋法、内声の対旋律は半音階進行だったり、シが♮(ファのリディア旋法)になったりと複雑な響きとなっている。1984
- Sonatina ソナチネ
- Alegre 陽気に
A-A-B-B形式。冒頭のユニゾンで奏されるモチーフが、その後レのドリア旋法の二声の旋律の中で度々現れ、インヴェンション風に続く。- Andante (Acalanto para Isabelle) アンダンテ(イザベルのための子守歌)
上記のピアノ曲集《単純な選集》の第7曲〈イザベルのための子守歌〉(1980) と全く同じ。- Descontraído 弛んで
A-B-A'-C-A"-コーダの形式。右手旋律・左手伴奏共にファ-ソ-ラ-シ-ド-レ-ミ♭(ファのリディア旋法+ミクソリディア旋法の混合)で、左手伴奏が無窮動に8分音符を続けているにも関わらず、気怠く弛んだ雰囲気の響きだ。コーダでは第1楽章冒頭のモチーフが再現される。1986
- Valsa de antigamente 昔のヴァルサ
ホ短調、A-A-B-B-A形式。哀愁漂うヴァルサ・ブラジレイラらしい曲で、旋律の上または下で控え目な伴奏が奏される。曲名通りヴァスコンセロス=コヘーアの作品にしては殆ど不協和音を用いていないが、Aの終わりのミ-ソ-ラ♯-ド♯-レ♯の和音などは粋である。Bは4小節だけホ長調に成るが、すぐにホ短調に戻る。1987
- Cinco peças do álbum 5つの小品のアルバム
どの曲も1〜2分の小品である。
- Sonhando 夢を見て
イ短調。素朴な旋律+一部現れる対旋律のみの単純な曲。- Canto nordestino ノルデスチの歌
ソのミクソリディア旋法で旋律が奏される。- Na corda da viola ギターの弦で
へ長調。ギターの開放弦の音を思わせるファ-ドまたはド-ソの重音にのってブラジルの童歌《飛べ、飛べ、鷹よ Passa, Passa Gavião(または、通る、通る、ガブリエル Passa, passa Gabriel)》の一部が奏される。- Pequeno estudo 小さな練習曲
ずっとド-ミ-ソ-シ♭の和音にのった旋律が続く。所々両手の音階が現れて練習曲らしい。- Rondó do jegue destrambelhando はぐれてしまったロバのロンド
旋律、伴奏共に全音音階で書かれた滑稽な雰囲気の曲。2003
- Quem vê caras..! 顔が見えても・・・
へ短調、A-A-B-B-A-C-C-B-A。ナザレのピアノ曲を少し思わせる、哀愁漂うショーロらしい曲。所々で内声のコントラポント (対旋律)や低弦ギターを思わせるベースが絶妙な半音階進行をとる場面などが聴きどころ。Bの前半は変イ長調、Cの前半は変ニ長調に成る。2006
- Valsa choro N.º 1 ヴァルサ・ショーロ第1番
元は1959年にギター曲として作られたが、2006年に編曲された。イ短調、A-A-B-B-A形式。感傷的な旋律が右手に奏され、所々ベースが対旋律となって動く。Bでは旋律、内声の対旋律、低音ベースがそれぞれ絡み合うように奏される。作曲年代不明
- Baião (da Suíte Piratiningana) para piano a quatro mãos バイアォン(ピラチニンガ組曲より)、連弾のために
管弦楽のための《ピラチニンガ組曲 Suíte Piratininga》の第5曲をピアノ連弾用に編曲したもの。原曲の管弦楽版では冒頭の16小節はバイアォンのリズムを打楽器のみで奏するが、この編曲ではセコンドが短九度などの不協和音でそれを表現。バイアォンのリズムがノッてきた所で、プリモが高音でドのミクソリディア旋法の旋律を奏し、金管楽器や弦楽器での繰り返しを表現していく。