Nicolás Ruiz Espaderoのピアノ曲リスト
エスパデロの一部の作品には作品番号があるが、これは初版時の楽譜出版社(主にパリの出版社Léon Escudier)が、楽譜の到着順または出版順で適当に作品番号を付けたものである。例えば、1850年作曲の《舟歌 Barcarolle》、《バラード Ballade》、《無邪気 Innocence》の3曲は作曲から19年後の1869年にLéon Escudier社に届き出版されたため、1858〜9年作曲の作品より後の作品番号である、それぞれ作品18、20、23として出版された。
エスパデロのピアノ曲(連弾曲を含む)には、オリジナル曲に加えてオペラのアリアのピアノ編曲や、ショパンなどの作品の編曲が多数あり、それらのピアノ曲も下記のリストに記した。
斜字は出版譜、手稿譜ともに現存せず、どんな曲だか不明な作品です。1840
- Mazurka Nº 1 マズルカ第1番
- Mazurka Nº 2 マズルカ第2番
- Mazurka Nº 3 マズルカ第3番
1848
- Romance sin palabras 無言歌
1850
- Barcarolle, Op. 18 舟歌、作品18
- Ballade, Op. 20 バラード、作品20
- ¡Ay! Un poquito más, Contradanza ああ!もう少しだけ、コントラダンサ
- Innocence, Caprice , Op. 23 無邪気、奇想曲、作品23
1851
- Mazurca マズルカ
- Mazurka マズルカ
- Tarentella de Rossini (piano 4 manos) ロッシーニのタランテラ(連弾)
1852
- Gran galop cromático de Liszt (piano 4 manos) リストの半音階的大ギャロップ(連弾)
1853
- Capricho de concierto de Prudent (piano 4 manos) プルーデントの演奏会用奇想曲(連弾)
- Estudio de Chopin (piano 4 manos) ショパンの練習曲(連弾)
1856
1857
- Gran capricho de concierto 演奏会用大奇想曲
1858
- La Erminia, Contradanza エルミニア、コントラダンサ
- Estudio de Chopin (piano 4 manos) ショパンの練習曲(連弾)
- Grande Fantaisie Cubaine キューバ風大幻想曲
- Irene, Vals, Op. 1, Nº 1 イレーネ、作品1の1
- Cuba, Polka, Op. 1, Nº 2 キューバ、作品1の2
- La plainte du poète, élégie, Op. 14 詩人の嘆き、エレジー、作品14
- Ossian, Polka de salón オシアン、サロン風ポルカ
- Ossian, Polka de salón Nº 2 オシアン、サロン風ポルカ第2番
- Valse por Sra. Ana de la Grange en la noche de su beneficio
1859
- Souvenir d'autrefois, Nocturne, Op. 11 昔の思い出、夜想曲、作品11
- Chant de l'âme, Caprice poétique de concert, Op. 13 魂の歌、演奏会用の詩的な奇想曲、作品13
- Partez, ingrate!, Romance sans paroles, Op. 15 出て行け、恩知らず!、無言歌、作品15
- Cantilène, Op. 19 カンティレーナ、作品19
- Ombre et Mystére 影と謎
- Potpourri cubano por José White ホセ・ホワイトによるキューバメドレー
- Un chubasco a tiempo, Contradanza ちょうど土砂降りの雨、コントラダンサ
- La melancolía, Contradanza 憂うつ、コントラダンサ
- La Reina de Chipre, Contradanza キプロスの女王、コントラダンサ
- La sacerdotisa, Contradanza 女祭司、コントラダンサ
1860
- La chute des feuilles 落葉
- El Topey (dos pianos) トペイ(2台ピアノ)
1861
- Chant de l'esclave, Op. 21, arrangement pour piano 奴隷の歌、作品21、ピアノ用編曲
- Ossian, Polka de concierto オシアン、演奏会用ポルカ
1862
- Cuarteto de Rigoletto リゴレットの四重唱
1865
- La folie 熱狂
1866
- Ave Maria アベ・マリア
- Gran trio de Rubinstein ルービンシュタインの大トリオ
- Gran vals satánico 悪魔的大ワルツ
- Nuit des tropiques de Gottschalk (dos pianos) ゴットシャルクの熱帯の夜(2台ピアノ)
- Scherzo, Op. 58 スケルツォ、作品58
1869
- Célèbre tarentelle de Gottschalk ゴットシャルクの有名なタランテラ
- Ejercicios, pasages, arpegios, sa., en el orden moderno, para lograr una gran articulación como igualmente una gran independencia en los dedos
- Método completo para la enseñanza, Primera parte enseñanza elemental 完全な教則本、第一部基礎課程
- Método completo para la enseñanza, Segunda parte escuela superior 完全な教則本、第二部高等課程
- Tarentella furiosa (dos pianos) 狂乱のタランテラ(2台ピアノ)
1870
- Grands transcriptions pour piano, Il Trovatore, Op. 44 ピアノのための大編曲、イル・トロヴァトーレ、作品44
- Grands transcriptions pour piano, Un ballo in maschera, Op. 46 ピアノのための大編曲、仮面舞踏会、作品46
- Grands transcriptions pour piano, Faust, Op. 51 ピアノのための大編曲、ファウスト、作品51
- Sur la tombe de L. M. Gottschalk, Op. 68 L. M. ゴットシャルクの墓に寄せて、作品68
- Grande étude d'execution transcendante Nº 1 en Si majeur, Combat d'amour 超絶技巧大練習曲第1番ロ長調、愛の闘い
- Scherzo, Capricho (dos pianos) スケルツォ、奇想曲(2台ピアノ)
- Sonata ソナタ
1871
- Grande sonate グランド・ソナタ
1872
- Fiesta, idilio y drama (dos pianos) 祭り、牧歌、ドラマ(2台ピアノ)
- Preludio de "Un ballo in maschera" (dos pianos) 「仮面舞踏会」の前奏曲(2台ピアノ)
- Sur la montagne sainte 聖なる山の上に
- Grande étude d'execution transcendante Nº 2 en La mineur, Chant du Roi Prophète (Pensée biblique) 超絶技巧大練習曲第2番イ短調、預言者の歌(聖書の思想)
- Étude d'exécution transcendante Nº 3 en La b 超絶技巧練習曲第3番、変イ長調
- Grande étude de mecanisme transcendante Nº 4 en Re mineur, Ossa sur Pélion 超絶技巧大練習曲第4番ニ短調、ぺリオン山の上にオッサ山
- Grande étude de mecanisme transcendante Nº 5 en Si b 超絶技巧大練習曲第5番変ロ長調
- Grande étude de mecanisme transcendante Nº 6 en Fa# mineur 超絶技巧大練習曲第6番嬰ヘ短調
- Étude de mecanisme transcendante Nº 7 en Si mineur 超絶技巧練習曲第7番ロ短調
- Étude transcendante Nº 8 en La b, Dans le style Creole 超絶技巧練習曲第8番変イ長調、クリオージョの様式による
1873
- Tristesse, Nocturne, Op. 53 悲しみ、夜想曲、作品53
- Chant du Guajiro (Canto del guajiro) (Campagnard créole), Grande scène caractéristique cubaine, Op. 61 農民の歌(田舎のクレオール)、キューバの性格的な大光景
1874
- 2me Ballade, Op. 57 バラード第2番、作品57
- Valse idéale, Op. 60 理想のワルツ、作品60
- Gran transcripción para piano, La Traviata ピアノのための大編曲、椿姫
1875
- Largo Solennel (dos pianos) 荘厳なラルゴ(2台ピアノ)
- Voix de Sion captive (dos pianos) シオンの捕われ人の声(2台ピアノ)
1880
- Cinco versiones del Segundo estudio de Chopin, del primer cuaderno (Op. 10) ショパンの練習曲集第1巻(作品10)第2番の5つのバージョン
- Dos versiones del Segundo estudio de Chopin, del segundo cuaderno (Op. 25) ショパンの練習曲集第2巻(作品25)第2番の2つのバージョン
- Estudio para fortalecer 4º y 5º dedo 4と5の指を強化するための練習曲
1881
- Grands transcriptions pour piano, Poliuto ピアノのための大編曲、ポリウト(殉教者)
1886
- Dos versiones del Primer estudio de Chopin ショパンの練習曲第1番の2つのバージョン
- Douleur et anxiété, Gran estudio dramático 苦しみと不安、劇的な大練習曲
1888
- Canto tropical, Estudio 熱帯の歌、練習曲
1889
- Aspiración al ideal, Gran Estudio Dramático 理想への憧れ、劇的な大練習曲
- La bataille de la vie 人生の戦い
- Conformité et cavilation
- Gran estudio transcendente 大超絶技巧練習曲
- Imbécité, chanson
- Norma ノルマ
- Pensée religieuse 宗教思想
- Pompa, incienso y nada (dos pianos)
- Preludio 前奏曲
- Primer estudio de Cramer, Versión Transcendente クラーマーの練習曲第1番、超絶技巧版
- Pureza y calma 純粋と平穏
- Puritanos 清教徒たち
- Rien ou quelque chose 無か有か
- Tema religioso 宗教的な主題
1890
- Caprice-Prelude 奇想曲ー前奏曲
作曲年代不詳
- Canto a la tarde 午後の歌
- Estudio Nº 12 de Chopin ショパンの練習曲第12番
- Estudio sol bemol de Chopin, Versión transcendente ショパンの練習曲変ト長調、超絶技巧版
- Improvisación 即興曲
- Mon bien perdu, Prelude
- Nocturno Nº 11 de Chopin (piano 4 manos) ショパンの夜想曲第11番(連弾)
- Obertura de Freyschutz (piano 4 manos) 魔弾の射手序曲(連弾)
- Serenade セレナーデ
Nicolás Ruiz Espaderoのピアノ曲の解説
1850
- Barcarolle, Op. 18 舟歌、作品18
この《舟歌、作品18》と下記の《バラード、作品20》を1850年作曲としているのは、後の1870年にエスパデロが書いた手紙に「1850年に作曲した」と記しているという資料からのみである。「舟歌」に「バラード」とは、この頃のエスパデロはショパンに傾倒していたのだろう。ホ長調、強いて言えば前奏-A-B-A'-C形式。舟歌のリズムにのったやや長い前奏はト長調〜ロ長調で、どこへ連れて行かれるのか?といった期待と不安を表すよう。やっとホ長調になり、主題の旋律がゆったりと奏される。この主題はロ短調〜ロ長調に転調して繰り返されつつ展開していく。やがて主題がホ長調に戻って再現されるが、旋律の上で技巧的な高音32分音符の対旋律が水のきらめきを描くように彩られる。最後は32分音符が徐々に下りてきて、突然のffで終わる(ショパンの舟歌の終わり方にかなり似ている)。- Ballade, Op. 20 バラード、作品20
イ短調、三部形式。前奏に引き続き。哀愁漂う主題が静かに奏される。中間部はイ長調になり、右手旋律は繰り返されながら技巧的な変奏が続く。- ¡Ay! Un poquito más, Contradanza ああ!もう少しだけ、コントラダンサ
キューバの民族舞曲であるコントラダンサをエスパデロは7曲作っている。エスパデロのコントダンサは全てA-B形式で、先輩作曲家サウメルのコントラダンサ同様、前半Aは華やかだったり勇ましかったりで、一方後半Bはキューバらしいハバネラやトレシージョのリズムにのった甘い雰囲気である。この曲はヘ長調。前半はアクセントの付いた両手8分音符が勇ましく、後半は3連符混じりの右手旋律が甘い雰囲気。- Innocence, Caprice , Op. 23 無邪気、奇想曲、作品23
変イ長調、前奏-A-A'-A-B-B'-A-C-C'-コーダの形式。無垢で穢れのない子どものような、穏やかなワルツが奏される。Bは変ニ長調になる。コーダは余韻たっぷりでいい雰囲気。1856
- Paul Julien, Contradanza ポール・ジュリアン、コントラダンサ
ポール・ジュリアンはフランスのヴァイオリニストで、当時演奏旅行でキューバを訪れたものと思われる。ニ長調。前半は両手オクターブが勇ましく、後半は左手はトレシージョのリズム、右手は16分音符とシンコペーションが交互に現れ粋な響き。
1858
- La Erminia, Contradanza エルミニア、コントラダンサ
イタリアのソプラノ歌手Erminia Frezzolini (1818-1884) が1858年に演奏旅行でキューバを訪れており、エスパデロは彼女のためにこの曲を作った。前半は変ホ長調で勇ましく、後半は変イ長調で優美な響き。- Grande Fantaisie Cubaine キューバ風大幻想曲
自筆譜には「1858年ハバナ協会でのコンクールで一等金メダル」と記されている。曲の構成、和音、変奏法など当時のヨーロッパロマン派作曲家たちの最先端には及ぶべくもないが、曲の後半ではリスト張りの難技巧をちりばめ、表面的ながらもキューバ音楽をクラシックに取り入れた演奏時間9分の大作として、当時のキューバでは飛び抜けて傑出した作品と言えよう。変ホ短調、三部形式。前奏に引き続き、コントラダンサの左手伴奏にのって憂うつな旋律が現れる。この旋律は変奏されながらト短調〜ト長調で繰り返される。(変ホ短調からト短調に転調する所の、B♭-D7-Gm♭の和音進行などなかなか垢抜けていてイイ。)中間部はホ短調になり、左手低音伴奏のリズムが野性的になって、右手旋律もシンコペーションがきいている。両手オクターブffが現れたり、ト長調〜変ロ長調と転調しつつ盛り上がる様はお祭り騒ぎのようである。曲は騒がしいままいつの間にか再現部となり、オクターブ旋律の上下でリスト風の華やかな16分音符重音が鳴りまくり、最後は変ホ長調で華やかに終わる。- Cuba, Polka, Op. 1, Nº 2 キューバ、作品1の2
ニ長調、A-B-A-C-D-C-A形式。旋律はスタッカートや3連符混じりで陽気な曲。曲名は「キューバ」だが、この曲にキューバ風味は全く無い。Bはイ長調、Cはト長調、Dはホ長調になる。1859
- Souvenir d'autrefois, Nocturne, Op. 11 昔の思い出、夜想曲、作品11
変ロ長調、前奏-A-A-B-A'-C-D-コーダの形式。2/4拍子の静かに語りかけるような前奏が奏されのに続いて、Aからは舟歌風の6/8拍子のリズムになり、夜想曲らしい澄んだ響きの旋律が高音に奏される。Bはショパンの夜想曲のような旋律の装飾音が聴かれる。A'は旋律が高音アルペジオのオクターブ和音で奏される。- Partez, ingrate!, Romance sans paroles, Op. 15 出て行け、恩知らず!、無言歌、作品15
変イ長調、A-B-C-A'形式。後打ちの伴奏のって抒情的な旋律がゆったりと奏される。Bはハ短調、Cはハ長調になるが、いずれもAの旋律が若干変奏される程度で殆ど繰り返しのような感じ。最後は変イ長調に戻り、リタルダンドして終わる。- Ombre et Mystére 影と謎
上記の《出て行け、恩知らず! Partez, ingrate!》とほぼ同一曲。《Partez, ingrate!》はパリのLéon Escudier社より出版、《Ombre et Mystére》はニューヨークのFirth Pond & Co.社より出版で、エスパデロが二重投稿したようなもの。- Un chubasco a tiempo, Contradanza ちょうど土砂降りの雨、コントラダンサ
変ホ長調。前半の降ってくるような右手16分音符は土砂降りの雨なのかしら。後半は一転して、落ち着いた南国風。- La melancolía, Contradanza 憂うつ、コントラダンサ
この頃、エスパデロの友人であった米国の作曲家・ピアニストのゴットシャルクに献呈。変ホ長調。前半は両手オクターブだが、半音階進行混じりの旋律がやや憂いを帯びているかな。後半は艶かしい雰囲気。- La Reina de Chipre, Contradanza キプロスの女王、コントラダンサ
ト長調。前半は16分音符で下りてくる旋律が華やか。後半は跳ねるような旋律。- La sacerdotisa, Contradanza 女祭司、コントラダンサ
ホ短調。前半は力強く、後半はもの寂しげな雰囲気。1861
- Ossian, Polka de concierto オシアン、演奏会用ポルカ
オシアンとは、スコットランドの伝説上の英雄で長編叙事詩を書いた語り手の名前(現在では18世紀の作家ジェイムズ・マクファーソンの作であろうとされている)。変ト長調、前奏-A-B-A-C-D-A'-E-コーダの形式。演奏会用と題するだけあって対旋律や同音連打、アルペジオなどが技巧的で華やかな響きの陽気なポルカ。Bは変ニ長調、CとDはロ長調になる。この曲は「演奏会用」の他にも、やや簡単に編曲した「サロン版 Edition de salon」と「連弾版 Edition à 4 mains」(いずれもト長調に移調)の楽譜が出版された。1866
- Scherzo, Op. 58 スケルツォ、作品58
1850年作曲の《舟歌、作品18》や《バラード、作品20》と同様、ショパンの影響を強く感じさせる作品。ヘ短調、A-B-A-C-A-D形式。冒頭は右手の急速な8分音符の旋律で始まる。Bは速いテンポのまま両手オクターブなどが技巧的。Cは変イ長調の穏やかな旋律が奏され、愛嬌あるスタッカートの部分など明るい雰囲気。Dはヘ短調〜ヘ長調で8分音符は上へ下へと舞うように奏されて華やかに終わる。1870
- Sur la tombe de L. M. Gottschalk, Op. 68 L. M. ゴットシャルクの墓に寄せて、作品68
エスパデロは米国の作曲家・ピアニストのゴットシャルクがキューバに来訪する度にピアノリサイタルで共演するなど、二人は深い交流を持っていた。この曲は、ゴットシャルクが1869年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで客死したのを悼んで翌年に作られたピアノ曲で、演奏時間10分以上の大作である。楽譜はスペインのAndres Vidal版と米国のWilliam Hall & Son版の2種類が存在していて、曲の後半で楽譜に「神格化 Apothéose」と記された部分はAndres Vidal版では54小節あるのに対しWilliam Hall & Son版は18小節と短くなっている。全体的に葬送行進曲の雰囲気であるが、重厚な響きの前奏、感傷的な嘆きの旋律、そして神格化された故人の勇壮な佇まいなど、まるで歴戦を経た国家的英雄を描いたかのような感じで、作曲家を悼む曲にしては派手すぎるような気がします。変ホ短調、前奏-A-B-C (Apothéose) -後奏の形式。まず前奏は重々しい鐘の音のような和音とティンパニーのような低音連打が厳かに響く。Aは嘆くような旋律が綿々と奏され、楽譜には個々のフレーズに発想記号などが細々と書かれている(下記の楽譜)。Bは変ホ長調になり、楽譜には「Religioso」と記されており、故人の安息を神に願うような穏やかな旋律が現れ、繰り返しながらffまで盛り上がる。Apothéoseと記されたCはオクターブの旋律が変イ短調から度々転調しつつ力強く奏され、変ホ長調になると両手オクターブ和音の旋律と伴奏が高らかに鳴り響く(William Hall & Son版はこの変ホ長調の部分が無い)。最後の後奏は変ホ短調に戻り、葬送行進曲が静かに奏されて終わる。
Sur la tombe de L. M. Gottschalk, Op. 68、71-73小節、William Hall & Sonより引用1873
- Chant du Guajiro (Canto del guajiro) (Campagnard créole), Grande scène caractéristique cubaine, Op. 61 農民の歌(田舎のクレオール)、キューバの性格的な大光景
エスパデロのピアノ曲の代表作と言っていい作品。和音がちょっと単純なきらいがあるものの、両手を総動員した十度の開離和音の多用による新鮮な音色、リズムがずっと一定なのにも関わらず頻繁な転調やテンポの変化で飽きさせない構成力、そして何よりもキューバはもとより宗主国スペインでも民族音楽を題材にしたこれだけの本格的なピアノ曲は他に当時他に無く、正に知られざる傑作に思います。この作品はスペインのアルベニスやグラナドスに大きな影響を与えているに違いないと分析する文献もあります。変イ長調、A-B-C-A'-コーダの形式。全曲3連符のリズム(サパテアードのリズムに近い)が続いていて、中声部に素朴な旋律が奏される。冒頭から3連符の毎2拍目の高音ミ♭音は(右手の上を飛び越えて)左手で弾くように楽譜に指示されている。この指示は35小節目までずっと続いており、左手は低音ベースも弾きながらなのでかなり忙しくて弾き難い。なので高音ミ♭音は右手で弾き、中音部ド音を左手に振り分けることにすれば楽になるが、そうしてしまうと(ト音記号部では)高音ミ♭音のみスタッカートとする作曲家の意図通りの表現ができるかな〜というジレンマで、演奏者としては悩ましい所である(下記の楽譜)。
Chant du Guajiro (Campagnard créole), Grande scène caractéristique cubaine, Op. 61、1-5小節、Léon Escudierより引用
Bは32小節目からで、リズムは今までと同じだが旋律が新たになり、時々ハ短調に転調し、テンポも "Un poco piu mosso" と記されている通り急き立てられるような感じになる。Cはハ短調で始まるが、やがてハ長調に転調しテンポものりにのって、農民達の楽しいお祭り騒ぎのような雰囲気になる(下記の楽譜)。
Chant du Guajiro (Campagnard créole), Grande scène caractéristique cubaine, Op. 61、93-98小節、Léon Escudierより引用
A'は冒頭の旋律が再び奏され、一時ロ長調に転調するが、最後はff〜fffで3連符のリズムが高らかに奏され、トレモロのコーダで華やかに終わる。1874
- 2me Ballade, Op. 57 バラード第2番、作品57
嬰ヘ短調、前奏-A-B-A'-コーダの形式。演奏時間約13分と、エスパデロのピアノ曲の中でも多分最長であるが、それだけ冗長にも思える作品である。レシタティーボ風の前奏に引き続き、もの悲しい旋律が奏される。中間部はいっときイ長調で穏やかな雰囲気になるが、間もなく嬰ヘ短調に戻り重苦しいモチーフが繰り返される。やがて最初のもの悲しい旋律が再現されるが、伴奏が両手オクターブ連打で悲劇的。コーダは嬰ヘ長調になり、左手は16分音符アルペジオ、右手旋律はショパン風の細かい装飾音が付く。- Valse idéale, Op. 60 理想のワルツ、作品60
変ホ長調、前奏-A-B-C-D-E-A'-コーダの形式。速いテンポの華やかなワルツが次々と現れ、舞踏会の光景を思わせるような曲である。Bは変イ長調、Cは変ロ短調、Dは変ニ長調、Eは変ト長調になる。1889
- Preludio 前奏曲
1分半ほどの短い曲。へ長調の穏やかなモチーフで始まり、モチーフを繰り返しながらイ長調になったりへ長調に戻ったりする。- Pureza y calma 純粋と平穏
変ニ長調、A-B-A'形式。舟歌のような6/8のリズムにのって穏やかな旋律が奏される。Bは嬰ハ短調になる。