Mozart Camargo Guarnieriのピアノ曲リスト
カマルゴ・グァルニエリのピアノ曲には組曲が多く、それらの作曲は何年間にも亘っていることが多いです(《練習曲集 Estudos》は40年もかかっている!)。また1928年以前の10代の頃にも多数の曲を作ったらしいのだが、カマルゴ・グァルニエリ自身が「1928年以前作曲の自筆譜は決して公開しないように」と言い残して亡くなっているとのこと。
1918
- Sonho de Artista (Valsa lenta) 芸術家の夢(ゆっくりしたワルツ)
1928
- Canção sertaneja カンサォン・セルタネージャ(奥地の歌)
- Dança brasileira (Dansa brasileira) ブラジル舞曲
- Sonatina nº 1 ソナチネ第1番
- Molengamente 元気なく
- Ponteado e bem dengoso とても気取って弾く
- Bem depressa とても急いで
1929
- Noturno 夜想曲
- Prelúdio e Fuga 前奏曲とフーガ
- Suíte infantil 子どもの組曲
- Acalanto 子守歌
- Requebrando 色っぽく
- Ponteio ポンテイオ
- Maxixando マシーシ風に
- Toada トアーダ
1930
1931
1931-1934?
- Cinco peças infantis 5つの子どもの小品集
- Estudando piano (1933) ピアノの練習
- Criança triste (1933) 悲しい子供
- Valsinha manhosa (1933) 小さなヴァルサ
- A criança adormece (1933) 寝入った子ども
- Polka (1931) ポルカ
1931-1935
- Ponteios (Prelúdios), 1º caderno (Da 1 a 10) ポンテイオス(前奏曲集)第1巻(第1番~10番)
- Calmo, com profunda saudade (1931) 穏やかに、深くサウダージで
- Raivoso e ritmado (1931) 怒って、リズミックに
- Dolente (1931) 悲しげに
- Gingando (1931) 揺れながら
- Fatigando (1932 ?) 疲れきって
- Apaixonado (1932 ?) 情熱的に
- Contemplativo (1933 ?) 瞑想的に
- Angustioso (1933 ?) 不安に
- Fervoroso (1934 ?) 熱烈に
- Animado (1935) 活き活きと
1932
- O Cavalinho de perna quebrada 脚の折れた子馬
- Lundu ルンドゥ
- Piratininga ピラチニンガ
1934
- Sonatina nº 2 ソナチネ第2番
- Alegre, com graça 陽気に、優雅に
- Ingenuamente 素朴に
- Depressa, Espirituoso 急いで、活気よく
- Valsa nº 1, Lentamente ヴァルサ第1番、ゆっくりと
1935
1936
1937
- Sonatina nº 3 (in the G-clef) ソナチネ第3番(ト音記号で)
- Allegro アレグロ
- Con tenerezza 柔らかく
- Ben ritmico (Two-Part Fugue) とてもリズミックに(二声のフーガ)
- Valsa nº 3, Com moleza ヴァルサ第3番、平静に
1939
1943
1944
1946
1947-1949
- Ponteios (Prelúdios), 2º caderno (Da 11 a 20) ポンテイオス(前奏曲集)第2巻(第11番~20番)
- Triste (1947) 悲しく
- Decidido (1949) 断固として
- Saudoso (1948) 懐かしく
- Confiante (1949) 確信して
- Incisivo (1949) 鋭く
- Tranqüilamente (1948) 平穏に
- Alegre (1948) 愉快に
- Nostálgico (1949) ノスタルジックに
- Calmo - Homenagem a Ernesto Nazareth (1949) 穏やかにーエルネスト・ナザレへのオマージュ
- Vagaroso (1949) 彷徨うように
1948
1948-1981
- Improvisos 即興曲集
- Calmo (1948) 穏やかに
- Lentamente - Homenagem a Villa-Lobos (1960) ゆっくりとーヴィラ=ロボスへのオマージュ
- Nostálgico (1970) ノスタルジックに
- Saudoso (1970) 懐かしく
- Alegre (1981) 愉快に
- Tristonho (1974) 悲し気に
- Tranqüilo (1978) 平穏に
- Profundamente triste (1980) 深く悲しく
- Melancólico (1975) 憂うつに
- Dengoso (1981) 気取って
1949
1949-1954
- Estudos, 1º volume (de 1 a 5) 練習曲集、第1巻(第1番~5番)
- Deciso (1949) 決然と
- Brilhante (1949) 輝かしく
- Appassionato (1949) 情熱的に
- Animato (1954) 活発に
- Con moto (1950) 動きをもって
1952
- Acalanto 子守歌
1953
- Suíte mirim 小さな組曲
- Ponteando つま弾き
- Tanguinho タンギーニョ
- Modinha モジーニャ
- Cirandinha シランジーニャ
1954
1954-1955
- Ponteios (Prelúdios), 3º caderno (Da 21 a 30) ポンテイオス(前奏曲集)第3巻(第21番~30番)
- Decidido (1954 ?) 断固として
- Triste (1954) 悲しく
- Vigoroso (1954 ?) 力強く
- Tranqüilo (1954) 静かに
- Esperto (1955) 機敏に
- Calmo (1955) 穏やかに
- Cômodo e expressivo (1955) 心地よく、表情的に
- Calmo e sentido (1954) 穏やかに、感情的に
- Saudoso (1955) 懐かしく
- Sentido (1955) 感情的に
1956-1957
- Ponteios (Prelúdios), 4º caderno (Da 31 a 40) ポンテイオス(前奏曲集)第4巻(第31番~40番)
- Triste (1956) 悲しく
- Com alegria (1957) 愉快に
- Queixoso (1956) 泣き言をいって
- Calmo e solene (1956) 穏やかに、荘重に
- Dengoso (1957) 気取って
- Tristemente (1957) 悲しく
- Com humor (1957) 滑稽に
- Hesitante (1957) 躊躇って
- Dengoso (1957) 気取って
- Con moto (1957) 動きを持って
1957
1958
- Sonatina nº 4 ソナチネ第4番
- Com alegria 愉快に
- Melancólico 憂うつに
- Gracioso 優雅に
1958-1959
- Ponteios (Prelúdios), 5º caderno (Da 41 a 50) ポンテイオス(前奏曲集)第5巻(第41番~50番)
- Tristemente (1958) 悲しく
- Dengoso, mas sem pressa (1958) 気取って、しかし急がずに
- Grandeoso (1959) 大げさに
- Desconsolado (1959) 元気なく
- Com alegria (1959) 愉快に
- Íntimo (1959) 親密に
- Animado (1959) 活発に
- Confidencial (1959) 内密に
- Torturado - Homenagem a Scriabin (1959) 苦しんで ー スクリャービンへのオマージュ
- Lentamente e triste (1959) ゆっくりと、悲しく
1959
1960-1977
- Série dos curumins 小さな子供のための連作
- Brincando (1960) 遊び
- Valsa (1961) ヴァルサ
- Flavinha (1969) フラヴィーニャ
- Valsinha pretensiosa (1965) 気取った小さなヴァルサ
- Acalanto para Bárbara (1977) バーバラのための子守歌
- Valsinha (1971) 小さなヴァルサ
- Dança da pulga (1969) 蚤の踊り
1961
- Baião バイアォン
1962
- Sonatina nº 5 ソナチネ第5番
- Com humor ユーモアをもって
- Muito calmo とても穏やかに
- Com alegria 愉快に
1962-1964
- Estudos, 2º volume (de 6 a 10) 練習曲集、第2巻(第6番~10番)
- Impetusos, marcatissimo (1962) 性急に、強調して
- Sem pressa (1962) 速くならないように
- Cômodo (1962) 心地よく
- Furioso (1962) 猛烈に
- Movido (1964) 動かされて
1963-1971
- As três graças 三美神
- Acalanto para Tânia (1963) タニアのための子守歌
- Tanguinho para Míriam (1965) ミリアンのためのタンギーニョ
- Toada para Daniel Paulo (1971) ダニエル・パウロのためのトアーダ
1965
- Sonatina nº 6 ソナチネ第6番
- Gracioso 優雅に
- Etéreo 崇高に
- Humoristico (fuga em duas partes) ユーモアをもって(二声のフーガ)
1968
- Interlúdio 間奏曲
1968-1970
- Estudos, 3º volume (de 11 a 15) 練習曲集、第3巻(第11番~15番)
- Brilhante (1968) 輝かしく
- Dengoso (1968) 気取って
- Lento e fluido - "Homenagem a Claude Debussy" (1969) ゆっくりと、なめらかにー“クロード・ドビュッシーへのオマージュ”
- Sem pressa (1969) 速くならないように
- Maneiroso (1970) 礼儀正しく
1971
- Sonatina nº 7 ソナチネ第7番
- Rítmico e enérgico リズミカルに、力強く
- Suavemente 甘美に
- Requebrando 色っぽく
1972
- Em memória de um amigo ある友人の思い出に
- Sonata ソナタ
- Tenso 緊張して
- Amargurado 苦しんで
- Triunfante - Enérgico (fuga a três partes) - Triunfante 勝利して~力強く(3声のフーガ)~勝利して
1973
1978
1981-1988
- Estudos, 4º volume (de 16 a 20) 練習曲集、第4巻(第16番~20番)
- Caprichoso (1984) 気まぐれに
- Sem pressa (1985) 速くならないように
- (para a mão esquerda) - Dramático e Triste (1988) (左手のために)ー劇的に、悲しく
- "Ondeante" (1981) 波形の
- "Saramba" (1982) サランバ
1982
- Sonatina nº 8 ソナチネ第8番
- Repenicado 打鳴らす
- Profundamente íntimo 深く親密に
- Dengoso 気取って
- Toada sentimental 感傷的なトアーダ
1982-1988
- Momentos モメントゥス
- Dolente (1982) 悲痛に
- Lento e nostálgico (1982) ゆっくりと、ノスタルジックに
- Com alegria (1982) 愉快に
- Terno (1982) 柔らかく
- Desolado (1984) 悲嘆に暮れて
- Improvizando (1985) 即興的に
- Calmo e tristonho - Homenagem a Henrique Oswald (1985) 穏やかに、悲し気にーエンリキ・オスワルドへのオマージュ
- Gracioso (1986) 優雅に
- Sofrido (1987) 耐え忍び
- Íntimo (1988) 親密に
1992
- Improvisando 即興曲
Mozart Camargo Guarnieriのピアノ曲の解説
1928
- Canção sertaneja カンサォン・セルタネージャ(奥地の歌)
セルタネージャ sertaneja とは、奥地ー特にブラジル北東部の乾燥した内陸地帯を指す名詞「セルタン(セルタォン)sertão」の形容詞またはそこに住む人々を指しており、また20世紀初めに始まったブラジルのカントリーミュージックに相当する音楽ジャンルをセルタネージャ(またはセルタネージョ)と呼ぶ。但しセルタネージャが主に歌われているのはブラジル北東部ではなく、ブラジル中部〜南部の内陸地方である。へ長調、A-B-A'-コーダの形式。楽譜の冒頭には「悲痛に Dolentemente」と記されているが、曲調は微睡むような甘美な優しいシンコペーションの中音部和音で始まる。4小節目より始まる右手の旋律も息の長い子守歌のよう。Bは変ホ長調に転調し、優しいアルペジオの伴奏にのって旋律が新しくなる。やがてffまで盛り上がるも、やがてそれも静かになりA'は最初のヘ長調の旋律が繰り返され、コーダはBの旋律がヘ長調のまま静かに回想されppで終わる。以上4分程の短い小品だが、構成も良く、何よりも和声も旋律も甘美で、何だかブラジルの密林(はたまた大草原か)で蜃気楼を見たかのような幻想的で美しい曲である。- Dança brasileira (Dansa brasileira) ブラジル舞曲
カマルゴ・グァルニエリ自身の言によると「私はチエテという小さな町で生まれた。私の家はチエテ川に面した町の斜面にあった。ここブラジルでは5月13日は奴隷解放の記念日である。私が小さかった頃より、この記念日に黒人の踊りのリズムが聞こえていたのを覚えている。そのリズムは絶え間なく続いていた。私の "Dança brasileira" はこの記憶をを元に作曲したものだ」とのこと。なお、楽譜の1ページ目の綴りは "Dansa brasileira" となっている。ホ長調、A-B-A'-C-B'-A"形式。全体的に明るい響きの曲で、まずAはパンデイロ(ブラジルのタンバリン)の響きを思わせる♩♫♩♩の軽快なリズムが現れ、これはサンバの原型であるサンバ・ジ・ホーダ Samba de Roda を思わせる雰囲気だ。このリズムにのって、右手の高音部に8分音符の旋律が現れる。途中からこの旋律がレが♮のミのミクソリディア旋法なのがいい感じ。Bは8小節のみで、右手8分音符が続く下で、左手オクターブのシンコペーションが効いたモチーフが奏される。Cは右手オクターブ和音の新たな旋律が高らかに奏され、B'のロ長調を経て、A"は冒頭の旋律が高音部オクターブ和音ffで盛り上がる。この曲は1931年には作曲者自身により管弦楽にも編曲され、米国などでもよく演奏されたとのこと。- Sonatina nº 1 ソナチネ第1番
カマルゴ・グアルニエリは1928年から1982年までの長い年月の間に、8曲のピアノのためのソナチネを作曲した。彼の作曲法の変遷を辿れるような興味深い作品揃いである。ソナチネ第1番は、この頃民族主義思想を師事していた先輩マリオ・ジ・アンドラージに献呈された。ソナチネというヨーロッパ音楽の古典形式のスタイルを取りつつも、その中にブラジル音楽を強烈に押し込んだ曲で、民族主義作曲家としてのカマルゴ・グァルニエリの意欲を感じさせる作品です。
- Molengamente 元気なく
ハ長調、A-A'-B-A''-展開部-B'-A'''形式で、Bがト長調、B' がハ長調という調性からはソナタ形式の変型にも見える。冒頭Aはヴィオラ・カイピーラ Viola caipira(=ブラジルの10弦ギター)の音色を思わせる伴奏にのって、素朴な旋律が静かに奏される。この旋律は強いて言えばハ長調だが、左手伴奏はレのドリア旋法なのが独特の雰囲気(下記の楽譜)。
Sonatina nº 1、第1楽章1-6小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用
Bは楽譜に「快活に com alegria」と記されている通りシンコペーションの旋律が躍動的(下記の楽譜)。
Sonatina nº 1、第1楽章31-40小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用
続くA''は伴奏和音が微妙に変化し、32小節から成る展開部は、BのシンコペーションのモチーフとAの旋律が絡み合う。最後のA'''は、左手伴奏が5連8分音符になり滑らかに、消えるように終る。- Ponteado e bem dengoso とても気取って弾く
ホ短調、A-B-B'-A'形式。1929年初版の楽譜では「モジーニャ Modinha」(18~19世紀にブラジルで流行した歌謡曲のジャンルで、哀愁溢れる曲が多い)というタイトルが付いていた。楽譜の脚注には「このモジーニャはテンポを正しく、メロディーを十分に歌わせ、対旋律はギターの低弦のように演奏すること」と記されている。モジーニャらしい哀愁たっぷりの曲調で、Aは歌の前奏のような部分。BとB'が「歌」となり泣けてくるような旋律が切々と奏される(下記の楽譜)。三声〜四声のポリフォニックな旋律・対旋律・バスが絡み合うのも見事な出来だ。
Sonatina nº 1、第2楽章8-15小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用- Bem depressa とても急いで
イ長調、A-B-A'-コーダの形式。全曲続く16分音符の連打はピアニスティックで、左手の3-3-2リズムのシンコペーションや右手16分音符のアクセントはカテレテ cateretê(またはカチーラ catira)と呼ばれるブラジルの民族舞踊、またはバトゥーキ Batuque のリズムと思われる(下記の楽譜)。Bでは、16分音符の中から新たな旋律が聴こえてくる。曲の最後はグリッサンドとsfffz強打音で華やかに終る。
Sonatina nº 1、第3楽章1-4小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用1929
- Prelúdio e Fuga 前奏曲とフーガ
前奏曲は、前奏-A-B-A-コーダの形式。ギターのつま弾きのような左手伴奏にのって、ド♯のミクソリディア旋法の素朴な旋律が奏される。フーガは三声で作られていて、前奏曲の前奏部分を用いた無機質な主唱が展開して行く。やがて2倍および4倍の拡大フーガが現れ、フーガらしからぬカデンツァが華やかに奏され、主唱+4倍の拡大フーガ+8倍の拡大フーガの三声がいずれもオクターブで奏されて終わる。- Toada トアーダ
トアーダとは主にブラジルの中部〜南部で歌われる民謡の一つのジャンルで、一般的に単純なメロディーに自然や故郷を歌う哀愁のこもった歌である。ホ長調、A-B-A'形式。ミのオスティナートにのって、シンコペーション混じりの旋律が三度重音でゆったりと歌うように奏される。大草原を連想させるような空気感に満ちた響きである。時々レが♮(ミのミクソリディア旋法)になるのがいい感じで、またミのオスティナートと旋律の間でさり気なく奏される対旋律が絶妙だ。Bは変ホ長調になり、テンポを上げて軽快な旋律にコントラポント(対旋律)が絶妙に絡み、豊潤な響きで展開していく。最後はホ長調に戻り、消えるように終わる。1930
- Chôro torturado 苦悩のショーロ
1930年に、この年に結婚したカマルゴ・グァルニエリの妻でピアニストのLavínia Abranches Viottiによって初演された。前奏-A-B-A'形式。楽譜に「Restless」と記されたAは2/2拍子のリズムで、シンコペーションの旋律が現れて一応ショーロの雰囲気はあるが、和声や旋律進行もクロマティックで、もはや何調?と決めることは困難な響き。Aの後半はこの旋律が変形されて奏されるが、ねっとりとしたオクターブの旋律に3連符や変拍子がポリリズムで絡まり、題名通りのもがき苦しむような曲調。「やるせなく Disconsolate」と記されたBは、3連4分音符の流れるような旋律が一応イ短調で現れ、スラー+スタッカートの8分音符の左手伴奏はギターを思わせる。この流れるような旋律はイ長調になって、半音階進行がポリフォニックに展開されて複雑な響きだ。後年のカマルゴ・グァルニェリに見られるスタイルが現れている。1931
- Dança selvagem 密林の踊り
この作品も妻Lavínia Abranches Viottiにより初演された。演奏時間2分弱の短い作品だが、ブラジルの「踊り」を描いた彼のピアノ曲の中でも最も野性的で荒々しい響きの曲だ。A-B-A'形式。冒頭から低音部ffで奏される両手交互連打の不協和音と、その音に負けぬようアクセントで奏される旋律が強烈な響きだ。3拍子と2拍子が不規則に入れ替わるのも渾沌とした雰囲気。Bは、冒頭からのリズムが中音部でやや静かに2拍子で続く中、高音で3拍子(則ちポリリズム)の旋律が奏される。この旋律の繰り返しでは、短九度のアポジャトゥーラが現れるが、これはカマルゴ・グァルニエリが好んで使った用法だ。A'の後半は右手オクターブの旋律と、左手2オクターブ跳躍の伴奏(ここもポリリズム)がffで一層荒々しく奏され、熱狂的に終る。1931年には作曲者自身により管弦楽にも編曲された。1931-1934?
- Cinco peças infantis 5つの子どもの小品集
全5曲ともト音記号で書かれ、技巧的には子ども向きではある。が、少ない音の中に響くカマルゴ・グァルニエリらしい不協和音は子どもの耳にどう響くかな〜、でも先入観のない子どもって意外に受け入れ易いかも、と思ったりします。
- Estudando piano (1933) ピアノの練習
ハ長調、A-B-A'形式。Aは14/8拍子で、左手にソ-ファ-ソ-ファ-ミ-ソ-ファ-ミ-レ-ソ-ファ-ミ-レ-ドという指の練習のようなモチーフが繰り返され、それにのって右手に途切れがちの旋律が現れる。Bは4/8拍子になり、童歌風の旋律が静かに奏される。- Criança triste (1933) 悲しい子供
ロ短調、A-B-A形式。静かな左手伴奏にのって、悲しげな旋律が右手に奏される。この旋律はドが♮のフリギア旋法なのが、何とも言えぬ虚ろな響きを醸し出している。- Valsinha manhosa (1933) 小さなヴァルサ
イ短調、A-B-A形式。右手に可憐な旋律が奏されるが、左手伴奏のベース音が時折シ♭だのソ♭だのの不協和音で凝った響きだ。- A criança adormece (1933) 寝入った子ども
変ロ短調だが、左手伴奏の三度重音が音階を下がっていくのが独特のもの悲しい雰囲気。右手旋律は素朴に奏される。- Polka (1931) ポルカ
一応ハ長調、A-B-A形式。無窮動の左手伴奏にのって、あどけない旋律が流れる。1931-1935
- Ponteios (Prelúdios), 1º caderno (Da 1 a 10) ポンテイオス(前奏曲集)第1巻(第1番~10番)
ポンテイオ Ponteio という言葉は、ポルトガル語のpontear(=ギターなど弦楽器などをつま弾く)とprelúdio(=前奏曲)を混ぜた造語である。カマルゴ・グァルニエリが考案した単語であるとされているが、ハダメス・ニャタリも1931年作曲のピアノ曲に《ポンテイオ、ホーダ、バイレ Ponteio, roda e baile》と題名を付けており、おそらくこの時期にブラジルの音楽家達によって用いられ始めていた言葉であったと思われる。1931年から1959年までの29年間に書き続けられた各巻10曲づつ、全5巻計50曲から成る連作《ポンテイオス》はカマルゴ・グァルニエリのピアノ曲の代表作である。ヨーロッパの先輩作曲家が作り上げた数々の「前奏曲」の精神を受け継ぎながらも、ギターのつま弾きの響きなどを用いてブラジル人作曲家としての独自のアイデンティティーを持った前奏曲集を作り上げようとの思いが《ポンテイオス》にはぎっしり詰まっている。ブラジル音楽らしいシンコペーションは勿論、民族音楽の「モジーニャ」「トアーダ」「アボイオ」、ノルデスチ(ブラジル北東部)特有の教会旋法を用いた民謡などの豊かな素材を駆使しつつも、民謡そのものでは聴かれないようなカマルゴ・グァルニエリの作曲家の個性が前面に出た曲ばかりである。各曲はそれぞれ1~3分くらいの短い曲で、形式は決まったものはなく自由。各曲には曲名は付いてないものの、代わりに楽譜の1小節目に発想記号がポルトガル語で記されている(下記の解説には発想記号を載せました)。二十世紀の作曲家らしく和声は複雑で、あまり人に媚びるような所が無い曲ばかりなので、初めて聴く分には取っ付き難いのだが、何度も聴いて(ついでにいろいろ分析してみると)カマルゴ・グァルニエリの作曲上の面白いアイディアがあちこちに鏤められていて、私自身も《ポンテイオス》の魅力がだんだん分かってきたかな~、といった次第です。
- Calmo, com profunda saudade (1931) 穏やかに、深くサウダージで
カマルゴ・グアルニエリの音楽のリズムの基本と言っていい位よく現れる3-3-2拍のシンコペーションがゆったりと左手で刻みながら、(ハ長調の)V9とVI9の和音が揺りかごのように繰り返され(全くI度の和音に戻らないのも彼お得意の和声進行)、右手に子守歌のような旋律が歌われる。- Raivoso e ritmado (1931) 怒って、リズミックに
A-A'形式。5/4拍子で、左手の3-3-3-1拍の変ったリズムがオスティナートで続き、右手の3連4分音符混じりの旋律が絡み、複雑なポリリズムが何か野生的で面白い。ブラジルの民族舞踊バトゥーキのようにも聴こえる。後半は旋律がオクターブになったり、左手低音ffに旋律が移ったりと一層荒々しくなる。- Dolente (1931) 悲しげに
ハ長調、A-A'形式。ブラジルの民謡「トアーダ」はしばしば三度の重唱で歌われるが、この曲は正に「トアーダ」の雰囲気で、優しい伴奏にのって三度重音の旋律が奏される。一応ハ長調だが、時々シが♭でドのミクソリディア旋法になる。後半は右手旋律に対旋律が更に加わり、左手伴奏は低音に九度や十度の和音が加わって豊かな響きになる。- Gingando (1931) 揺れながら
A-A'-A"形式。第2番同様の5/4拍子で、無窮動の器械仕掛けみたいな騒がしい曲。ただでさえ5/4という変拍子なのに、左手伴奏にシンコペーションの内声がアクセントで聴こえ、その上に左手リズムとは無関係を装うような右手旋律が現れるーと複雑なリズムだ(下記の楽譜)。
Ponteio nº 4、1-4小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用
A'は左手内声と右手旋律がオクターブになり、A"では複雑なリズムに追い討ちをかけるように右手に更なる内声が現れて、殆どカオス状態‥‥(下記の楽譜)。
Ponteio nº 4、13-16小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用- Fatigando (1932 ?) 疲れきって
気怠い雰囲気を醸し出す付点リズムや、左手伴奏の属七和音(右手旋律も含めると属九や属七短九の和音)の半音階スライド、旋律の半音階の前打音など、ブルースの雰囲気を思わせる曲。一方、七度や九度の和音はカマルゴ・グァルニエリらしい熱帯の密林の風を思わせる、生暖かい雰囲気。- Apaixonado (1932 ?) 情熱的に
強いて言えば変ロ短調、A-B-A'形式。左手の16分音符伴奏、右手のオクターブの旋律共にピアニスティックで情熱的な曲で、名ピアニストのマグダ・タリアフェロに献呈したのに相応しい。Bは大部分が1/4拍子で、左手16分音符の上で奏される右手旋律は3連8分音符でポリリズムの響きが面白い。- Contemplativo (1933 ?) 瞑想的に
強いて言えばへ長調、A-B-A'形式。3-3-2拍の優しく生暖かい中音部の左手和音にのって、呟くような旋律が歌われる。Bの部分は和音コードがC6→E♭9→C6→B→D9→E9と遷ろうのが幻想的。- Angustioso (1933 ?) 不安に
6/8拍子のスケルツォ風の速い曲だが、右手の旋律が2/4拍子の8分音符になったり、5連符が現れたり、減8度の前打音があちこちに絡んだりし、調性も殆どなく、ちょっと狂っちゃったような雰囲気の曲。- Fervoroso (1934 ?) 熱烈に
3/4拍子と2/4拍子が度々入れ替わる。ファ♯-ソ♯-レ-ドという全音音階の静かな左手伴奏にのって、調性の定まらない旋律が彷徨うように奏される。最初静かな旋律が徐々に音域を広げて、旋律はオクターブになって盛り上がる。- Animado (1935) 活き活きと
全曲活発でシンコペーションが激しく、左手和音は十度を多用、右手旋律はオクターブで連打音も多い。またffでオクターブを鳴らしまくる所とppでスタッカートを刻む所が突然入れ替わる。最後のfffの盛り上がりはもう爆発的!。1932
- O Cavalinho de perna quebrada 脚の折れた子馬
A-B形式。前半Aはビッコを曳きながら歩く子馬のような左手♪♬♫のリズムにのって、ソのミクソリディア旋法の旋律が愛嬌たっぷりと奏される。後半Bは静かな旋律がため息をつくように奏される。- Lundu ルンドゥ
ルンドゥとはアフリカからブラジルに連れて来られた奴隷によってアンゴラ・コンゴ辺りから伝えられた踊りと、スペイン、ポルトガルのファンダンゴが混ざり合ったとされている歌と踊りである。カマルゴ・グァルニエリらしい不協和音と躍動的なリズムによるピアニスティックな、2分半ほどの小品である。A-B-A'形式。冒頭の右手のソ-ラ♭-シ♭-レ-ド-ファ-ファ♯-ラ♭-ソ-ソ-ファ-ミ♭-ド♯-シ-ラ-ラ♭というスタッカート8分音符の音形の繰り返しは調性はないもののソの旋法を感じさせ、4小節目から左手に現れるシンコペーションの効いた旋律はイ長調っぽい。ということで響きは多調で、曲は8分音符の音形に3連4分音符の旋律が絡んできてリズムの方もポリリズムだ。Bは旋律のリズムが少し変わって執拗に繰り返されてffまで盛り上がる。1934
- Sonatina nº 2 ソナチネ第2番
1928年の前作ソナチネ第1番と比べるとぐっと調性感が無くなっていて、その間にカマルゴ・グァルニエリがストラヴィンスキー、シェーンベルグやヒンデミットのスコアを分析していたという話が頷けるような、作風の変貌ぶりである。全曲ト音記号のみで書かれており、第1、3楽章はほぼ二声、第2楽章は三声のみで書かれているため、全体的に透明感のある響きの作品となっている。
- Alegre, com graça 陽気に、優雅に
ソナタ形式。第1主題は8分音符6つの繰り返しの伴奏にのって、2/4拍子の快活な旋律が(則ちヘミオラで)奏される。この旋律は強いて言えばソのミクソリディア旋法だが、途中から度々♯や♭が入って増々不協和音である。続く第2主題はラのドリア旋法の旋律が現れ、左手の対旋律が半音階進行だ。展開部な冒頭は第1主題が右手に現れると、1小節遅れて長七度下で同じ旋律がカノンで追う。再現部は第1主題、短い第2主題(レのドリア旋法)が奏されて終わる。- Ingenuamente 素朴に
A-A'-コーダの形式。一応イ短調だが半音階進行の多い左手旋律の上で、右手二声のオスティナートの対旋律が静かに揺りかごのように続く。- Depressa, Espirituoso 急いで、活気よく
ハ長調、A-B-A-C-A-コーダのロンド形式。Aは変拍子で、3/4拍子(実際は6/8拍子のリズム)の左手8分音符伴奏にのって、右手2/4拍子の軽快な旋律が奏される。Bは旋律が左手となり、Aの伴奏音型が右手に現れる。Cは第2楽章の旋律に似たのが左手右手と何度も現れる。- Valsa nº 1, Lentamente ヴァルサ第1番、ゆっくりと
カマルゴ・グァルニエリは1931年から1959年までに10曲のヴァルサ(ワルツ)を作曲した。全曲短調で、ブラジル的哀愁が漂う所謂「ブラジル風ワルツ Valsas Brasileiras」である。このジャンルは他にもミニョーネが作曲した《街角のワルツ Valsa de esquina》を筆頭に、ロレンゾ・フェルナンデス、ニャタリ、ソウザ・リマらのブラジル作曲家がピアノ曲を作っている。カマルゴ・グァルニエリのヴァルサは主旋律こそブラジル的だが、彼独特の半音階的対旋律や、いつの間にか転調しているような複雑な和音進行のために、「ブラジル風」より「カマルゴ・グァルニエリ風」が勝って聞こえてくるように思える曲が多い。ミニョーネなどのピアノ曲に比べると、カマルゴ・グァルニエリらしい不協和音の響きは耳に取っ付き難い感じが歪めないが、考えようによっては「“ブラジル人の哀愁”の精神は本当は奥が深いんだよ」と彼が語っているように思えてくるような気もする。第1番はハ短調、A-A-B-A'形式。主旋律・対旋律共にあちこちで聴こえてくる半音階がくねくねとした響きの曲。Bは左手内声に旋律が現れ、右手スタッカートで対旋律が彩られているのがいい効果を出している。1935
- Toccata トッカータ
ピアニストのギオマール・ノヴァエス (1895-1979) に献呈された。この曲が出来た経緯には次のような逸話がある。この頃、作曲家としてまだ無名だったカマルゴ・グァルニエリはリオデジャネイロを初めて訪れていた。リオデジャネイロの市立劇場に行ってみた所、ギオマール・ノヴァエスの演奏会のプログラムが貼ってあり、プログラムの中にカマルゴ・グァルニエリのピアノ曲《苦悩のショーロ Chôro torturado》があるのに気付き大変驚いた。彼は演奏会のチケットを買うお金を持ち合わせていなかったが、チケット売り場に居たのがたまたまギオマール・ノヴァエスの夫のOctavio Pintoで(彼は建築家で、また作曲家でもあった)、チケットを譲ってもらうことができた。演奏会の日、ギオマール・ノヴァエスは《苦悩のショーロ》を弾き終えると、会場に座っているカマルゴ・グァルニエリを指差して紹介した。会場は拍手に包まれた。これがカマルゴ・グァルニエリのリオデジャネイロのデビューになったとのこと。その晩ホテルに戻ったカマルゴ・グァルニエリは、ギオマール・ノヴァエスのためにトッカータを作曲している夢を見た。夜中に目覚めた彼は、その夜の内にこのトッカータを殆ど書き上げたとのことである。曲はA-B-A'-コーダの形式。冒頭はケークウォーク風の滑稽な左手♪♬♪♬のリズムにのって、右手に16分音符重音スタッカートの不協和音が奏でられ不思議な響き。やがて右手にサンバの様な♪. ♪. ♬のモチーフが見え隠れし、Bは両手でシンコペーションのモチーフがしつこく奏される。A'がひとしきり奏され、コーダはシンコペーションのモチーフがゆっくりとfffで奏され終る。全体的にカマルゴ・グァルニエリらしい不協和音に満ちてはいるが、息もつかせぬリズムや華やかな音色といい、彼のピアノ曲の中の傑作の一つに数えていい作品だ。- Valsa nº 2, Preguiçoso ヴァルサ第2番、緩慢に
嬰ハ短調、A-A-B-A'形式。哀愁に満ちた右手旋律に左手内声に半音階進行する対旋律が絡む。Aの後半では旋律は左手中音部に移り、右手では対旋律が2本になり、絶妙なポリフォニックな展開が何とも見事。またナポリの六度(ナポリのII度)の使い方などお洒落でイイ雰囲気。但しBの装飾音などは複雑。1936
- Toada triste 悲しいトアーダ
A-B-A'形式。ホ長調ながら何とも哀愁を帯びた旋律が十度または六度、三度の重音で静かに奏される。時々レやソが♮になるのがいい雰囲気。Bは複雑に転調したり多調になったりと展開される。1937
- Sonatina nº 3 (in the G-clef) ソナチネ第3番(ト音記号で)
前作のソナチネ第2番同様、全曲ト音記号のみで書かれており、1945年に楽譜がアメリカで出版される際に "in the G-clef" という副題が付けられた。前作ソナチネ第2番に比べると、教会旋法の多用があるとは言え和声的には分かり易くなっていて、全体的に活気のある瑞々しい雰囲気の作品となっている。
- Allegro アレグロ
ソナタ形式。第1主題はヘ長調(またはドのミクソリディア旋法ともとれる)のスタッカート混じりの溌溂とした旋律と対旋律の二声~ハ長調の滑らかな旋律を含む四声、の2つから成る。続く第2主題に現れる右手旋律はブラジル民謡〈盲人の歌 cantiga de cego〉で、カマルゴ・グァルニエリの師であるマリオ・ジ・アンドラージの著書『Ensaio sôbre a música brasileira』(1928) に収められた〈盲人 O Cego〉の旋律を若干変えて使われている(下記の楽譜)。これはドのリディア旋法(ファが♯になる)によるノルデスチ(ブラジル北東部)の音階だ。展開部は主に第1主題および第2主題が変型して奏され、再現部は第1主題~ファのリディア旋法に転調した第2主題が現れて終る。
Sonatina nº 3、第1楽章28-35小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用- Con tenerezza 柔らかく
ヘ短調。モジーニャ風の静かな旋律がしっとりと歌われる。ギターのつま弾きを思わせる左手伴奏のバスは半音階進行が多用されていて粋な響きだ(下記の楽譜)。
Sonatina nº 3、第2楽章1-7小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用- Ben ritmico (Two-Part Fugue) とてもリズミックに(二声のフーガ)
二声のフーガ。提示部は左手に始まるファのリディア旋法(シが♮になる)の主唱(この主唱のモチーフは第1楽章の最終2小節で提示されている)を、4小節遅れで右手でドのリディア旋法が応唱していく(下記の楽譜)。その後、ディヴェルティスマンー提示部を繰り返し、最後のストレッタの応唱は2倍の拡大フーガとなって奏される。
Sonatina nº 3、第3楽章1-7小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用- Valsa nº 3, Com moleza ヴァルサ第3番、平静に
イ短調、A-A'-B-B'-A-A'形式。旋律は美しく、低弦ギターを思わせるベースや対旋律は複雑で、A'はベースを含めると四声〜五声のポリフォニーだ(下記の楽譜)。Bで内声に奏される旋律上に3連符で奏される即興的な対旋律はフルートみたいで美しい。
Valsa nº 3、27-30小節、Ricordi Brasileira S.A.より引用1939
- Ficarás sozinha 一人ぼっちになっちゃうよ
ブラジルの童歌〈一人ぼっちになっちゃうよ Ficarás sozinha〉(〈イトロロへ行ったら Fui no Itororó〉という題名の方が一般的)の旋律が曲の中間部に現れる曲で、オリジナルの部分と童歌の部分を組み合わせた曲作りはヴィラ=ロボスのピアノ曲の影響を受けたのであろう。全曲ト音記号で書かれ、両手ともほぼ単音で弾かれる子ども向けの曲である。A-B-A-コーダの形式。Aはイ短調の物寂しい旋律が奏され、左手伴奏の半音階進行が不安げな感じ。Bでは右手に〈Ficarás sozinha〉の旋律がハ長調で奏されるが、ここでも半音階進行の左手伴奏が何とも心細い雰囲気を醸し出している。1943
- Valsa nº 4, Calmo e saudoso ヴァルサ第4番、穏やかに、懐かしく
嬰ヘ短調、A-A'-B-B'-A-A'形式。寂しげな曲。Aは右手に主旋律と対旋律が掛け合いのように奏され、左手伴奏のベースが半音階進行するのが複雑な響き。Bは旋律の上に下にと対旋律が絡まる。1944
- Maria Lúcia マリア・ルシア
カマルゴ・グァルニエリの知人のピアニストであるLídia Simõesの娘、Maria Lúcia Simõesのために作られた。イ短調、A-A'-コーダの形式。右手に可憐で寂しげな旋律が奏され、左手8分音符対旋律が静かに流れる小品。1946
- Dança negra (Dansa negra) 黒人の踊り
1937年、ブラジル北東部のバイーア州での第1回アフロ=ブラジル会議にカマルゴ・グァルニエリは参加したが、彼は更に15日間バイーア州を旅行し、現地の先住民やアフリカ系住民の音楽を採集した。そのある日、彼はカンドンブレの宗教儀式を見に行くため車も入れない奥地を歩いていた。すると山の向こう側から歌と踊りの音が遠くに聞こえてきて、だんだん音は騒がしくなってきた。彼は「音はピアニッシモで始まり、段々と最大音まで強くなってきた。そして音はまた小さくなっていった」と述べている。この時の印象を元に《Dança negra(楽譜の綴りはDansa negra)》は作曲されたらしい。3分程の小品だがカマルゴ・グァルニェリのピアノ曲のなかでは代表作で、作曲者自身により2台ピアノ用や管弦楽用にも編曲されている。2/2拍子。一応嬰ハ短調だが、旋律は長調と短調が揺れ動く。A-B-A'-B'-A"-B"-A"-B"'-A-B-A'-コーダの形式。Aはド♯-レ♯-ミ♯(またはミ♮)-ソ♯-ラ♯から成るコール・アンド・レスポンス型の旋律、Bはド♯-ミ-ファ♯-ソ♯-シから成る旋律の、2種類のいずれもペンタトニックの旋律が交互に何度も繰り返しながらfffまで段々盛り上がっていく。左手の踊りの伴奏は最初はだいたい4拍子だが途中から6/8拍子の刻みとなり、右手の旋律とのズレが出てきてポリリズムになっているのが面白い。最後は段々pppまで静かになり消えるように終わる。1947-1949
- Ponteios (Prelúdios), 2º caderno (Da 11 a 20) ポンテイオス(前奏曲集)第2巻(第11番~20番)
前作の《ポンテイオス第1巻》から10年余を置いて作られたこの第2巻は、前作に比べて音数が減ってすっきりした響きの曲が多い。また1937年にカマルゴ・グァルニエリはブラジル北東部(ノルデスチ )で民俗音楽の採集を行ったが、その影響と思われる、ノルデスチの音楽でしばしば聴かれる教会旋法がしばしば用いられている。
- Triste (1947) 悲しく
A-A'-A"形式。悲しい子守歌風の旋律が静かに奏される。右手旋律重音・左手アルペジオ共に四度音程が多用され、幻想的な雰囲気だ。- Decidido (1949) 断固として
この曲は、ブラジル北東部の即興音楽の一種であるエンボラーダ Embolada の影響を受けて作曲されている、とする文献もある。エンボラーダは大抵、パンデイロ(ブラジルのタンバリン)を持った二人が向かい合い、漫才のようにお互いに即興で早口の歌を歌い合い、パンデイロを叩いて相手を挑発していく。左手8分音符の中で3-3-2拍のリズムのアクセントの付いた軽快な伴奏はパンデイロの音色を思わせるし、その上の高音の16分音符が騒がしく奏されるのは歌い手の早口言葉の様だ。2/4拍子と3/4拍子を行ったり来たりするので、伴奏の3-3-2のアクセントが2-2-2になったり、2-3-3-2-2になったりと即興的で、先が読めず緊張感に溢れている。- Saudoso (1948) 懐かしく
A-B-A形式。ゆったりとしたギターの伴奏を思わせるアルペジオにのって感傷的な旋律が現れる。一応変ホ短調だが、不規則な半音階進行が不安げな雰囲気を醸し出す。曲の最後のアルペジオの音ははギターの開放弦に近い。- Confiante (1949) 確信して
強いて言えば変ト長調、A-B-A-C形式。中声部に現れる3連符混じりの旋律は十度の和音を伴いねっとりと熱帯的で、その上に右手で16分音符アルペジオがppで奏される。- Incisivo (1949) 鋭く
強いて言えばハ長調、A-B-A'形式。2/2拍子。速い8分音符が3-3-2拍のアクセントで続く曲で、バトゥーキ風(ルンドゥのリズムとしている文献もある)。3-3-2拍のまま突進するかと思いきや、3/2拍子になるため突然3-3-3-3拍になったりするのがスリリングで絶妙。- Tranqüilamente (1948) 平穏に
穏やかな右手ppのアルペジオの下に、中音部の旋律がファのミクソリディア旋法で呟くように歌われ、ノルデスチの民謡のような雰囲気だ。終わり方も余韻たっぷりのいい雰囲気。- Alegre (1948) 愉快に
A-A'-A"-A"'形式。右手高音に聴かれる旋律はミのリディア旋法で、サンパウロ州あたりの農民に歌われていた「ムジカ・カイピーラ」の雰囲気の曲。A"ではひそひそ話しのような高音にギターのようなアルペジオが挿入される。- Nostálgico (1949) ノスタルジックに
ソのリディア旋法による右手の弱々しい旋律は物乞いの声を、左手の途切れることのない8分音符は人通りを描写しているとのこと。右手の旋律は一時fまでクレッシェンドするが、やがて力尽き、町中の雑踏の中に消えて行くように低音部に消えていく。- Calmo - Homenagem a Ernesto Nazareth (1949) 穏やかにーエルネスト・ナザレへのオマージュ
A-B-A'形式。バスの♩. ♪♪♩♪のシンコペーションや、内声の8分音符、和音進行などがナザレ風だが、ナザレを思いきり遅くして、幻想的にした曲。- Vagaroso (1949) 彷徨うように
A-B-A'-C-A形式。冒頭の2オクターブ離れたユニゾンの旋律(ラ-シ-ド♯-レ♯-ミ-ファ♯-ソ、すなわちラのリディア旋法とミクソリディア旋法の混合)はレシタティーボ風で、アボイオ Aboio(ブラジルの牧童の牛追いの唄)を描写しているのだろう。一方、BとCの速いパッセージは、牛追いが走り出したような光景を思わせる。対照的な両者が交互に現れるのは、何か幻を見ているような不思議な雰囲気。1948
1948-1981
- Improvisos 即興曲集
この即興曲集は、カマルゴ・グアルニエリが1948年から1981年までの間に折に触れて作曲した小品を集めたもので、全10曲は1988年に初版された。形式的に複雑なものは無く、ピアノの即興演奏が得意であったカマルゴ・グァルニエリがさらっと弾いたのを楽譜にしたような、肩肘張らない作品ばかりである(実際にいくつかの曲は、彼が知人の家でピアノを即興で弾いたのを楽譜にしている)。とは言え、さらっとした中に彼らしい高度な作曲技法が詰まっていて、また彼お得意の3-3-2や3-3のブラジルを感じさせるリズムが多用されており、正にカマルゴ・グァルニエリらしいピアノ曲と言えよう。
- Calmo (1948) 穏やかに
作曲家・ピアニストのAntonio Sá Pereira (1888-1966) の家でカマルゴ・グアルニエリが即興演奏したのを元にしている。A-B-A'-B'-コーダの形式。3-3-2のリズムで高音部オクターブでミのフリギア旋法の旋律が静かに流れる。Bは旋律のリズムは3-3-2のままだが、内声に半音階の対旋律が加わったりとポリフォニックに盛り上がる。最後はAが短縮されて再現され、Bが五度低くなって少し再現され、コーダでAの冒頭が三たび回想されて終わる。- Lentamente - Homenagem a Villa-Lobos (1960) ゆっくりとーヴィラ=ロボスへのオマージュ
イ短調、A-B-A'形式。1959年に亡くなったヴィラ=ロボスを悼んで作曲されたと思われる。ヴィラ=ロボスのピアノ曲《ショーロス第5番(ブラジルの魂)》の冒頭と同じリズムの左手シンコペーションの伴奏と、哀愁帯びた右手3連符混じりの旋律が奏される。ヴィラ=ロボスの原曲より陰うつで、先輩作曲家を悼むに相応しい雰囲気の曲。A'の部分では旋律は中低音でー宛らヴィラ=ロボスが好んだチェロの響きのようにー再現される。- Nostálgico (1970) ノスタルジックに
強いて言えばホ短調、A-A'-コーダの形式。中音部和音にのって、右手に「ドーシーーー」と溜息をつくような旋律が奏される。ショパンの前奏曲集 第4番ホ短調に似ているが、左手和音の伴奏が3-5または3-3-2のリズムなのは、やはりカマルゴ・グァルニエリらしい。- Saudoso (1970) 懐かしく
カマルゴ・グァルニエリの友人であった駐サンパウロ・アメリカ合衆国領事Alan Fischerの家で即興演奏したのを元にしている。ヘ長調、A-B-A'形式。甘い雰囲気の旋律と和声で、題名通りの "Saudoso" の雰囲気たっぷりの曲。3-5のリズムの左手和音伴奏にのって、静かに語りかけるような旋律が奏される。内声のさり気ない対旋律や、ベースのギターの低弦を思わせる動きなども粋である。- Alegre (1981) 愉快に
A-B-A-B'形式。即興曲集の中でも速いテンポの曲はこの5番と10番のみである。冒頭Aは完全四度または五度が進行する8分音符が両手反行形で快活に奏される。Bは左手中声部の3-3-2や3-3のリズムが刺激的。- Tristonho (1974) 悲し気に
イ短調、A-B-A'-コーダの形式。左手3-5または3-3-2のリズムにのって、哀愁漂う旋律が静かに奏される。中間部Bでは旋律は3連符混じりで、左手伴奏の和音も艶かしくなる。A'の再現部では右手旋律がfのオクターブで、左手もベースのオクターブ+3-3-2リズムの和音と立体的な響きとなる。コーダではBが回想される。- Tranqüilo (1978) 平穏に
A-コーダの形式。中低音に十度の和音がppで静かに鳴り渡り、その上で中高音にpで五度や六度重音の透明な響きのモチーフが現れる。中低音と中高音が会話のように交互に奏されるのは、カマルゴ・グァルニエリのピアノ曲集《ポンテイオス》でもしばしば見られる彼お得意の作風だ。- Profundamente triste (1980) 深く悲しく
A-B-A'-コーダの形式。ゆっくりと下降していく左手アルペジオの伴奏にのって、陰うつな旋律が奏される曲。- Melancólico (1975) 憂うつに
イ短調、A-A'形式。ギターのつま弾きのような左手伴奏にのって、右手の音階を降りる旋律が何とも寂しげに奏される。- Dengoso (1981) 気取って
A-A-コーダの形式。左手ベースが3-3-2のリズムで進むのにのって、ミ-ファ♯-ソ♯-ラ♯-シ-ド♯-レ-ミの旋法の旋律が題名通り気取った雰囲気で奏される。1949
Valsa nº 6, Lento ヴァルサ第6番、ゆっくりと
イ短調、A-A-B-B-A'形式。対旋律やベースの動きが半音階的で、また多調的な不協和音な響きの曲。中間部Bの後半は低音部にヴァルサの刻み+中音部に旋律+高音部に3連符アルペジオの対旋律と三層構造になっている。1949-1954
- Estudos, 1º volume (de 1 a 5) 練習曲集、第1巻(第1番~5番)
カマルゴ・グァルニエリは、1949年から1988年までの足かけ40年に亘って練習曲20曲を作った。いずれも上級者向けの技巧的な曲ばかりで、メカニックにかなり難しいのは勿論、音楽的にもポリフォニー、ポリリズム、可変拍子など高度な技巧を要する。片手で和音を押さえながら旋律を弾く場面は小さな手にはキツいし、不協和音も多く一部の曲は無調であり、弾くのも聴くのもちょっと近寄り難い曲集であるが、ピアノの「練習曲」の歴史に足跡を残すような気合のこもった曲集と言えよう。第1巻の5曲はアルペジオ、オクターブ、重音といった特定の技巧が曲中ずっと続く、練習曲らしい作品揃いである。
- Deciso (1949) 決然と
強いて言えばホ長調、A-B-A'形式。右手は16分音符アルペジオが主に完全四度堆積で奏され、左手は8分音符アルペジオのスタッカートが完全五度堆積で奏され、それが無窮動で快活に続く。概ね2/4拍子(時々3/4拍子になる)だが、左手8分音符が3音ずつのグループになっているので(右手と)ポリリズムになって緊張感が途切れない。- Brilhante (1949) 輝かしく
強いて言えば変ニ長調、A-B-A'形式。右手は16分音符、左手は8分音符のスタッカートが無窮動に早いテンポで続くのは第1番に似ているが、左手に時々シンコペーションが挟まれるのが躍動的だ。- Appassionato (1949) 情熱的に
強いて言えば嬰二短調、A-B-A-コーダの形式。右手は高音部の短2度とオクターブの組み合わせの16分音符が続き、左手は3連4分音符を多用した息の長い旋律が奏される。Bでは16分音符は左手低音部に移り、右手に前打音が執拗に付いた旋律が奏される。- Animato (1954) 活発に
A-B-A'の形式。右手16分音符オクターブが無窮動に続く。左手はシンコペーションの伴奏で、時々拍子が2/4から3/4や3/8に変わるのも緊張感がある。Bは左手は16分音符オクターブ、右手がシンコペーションのリズムに交替する。- Con moto (1950) 動きをもって
一応変ト長調、A-B-A'の形式。右手16分音符重音が無窮動にレガートで奏され、左手伴奏リズムは時々シンコペーションが混じって愉快な雰囲気だ。1953
- Suíte mirim 小さな組曲
各曲1分少々の短い組曲。
- Ponteando つま弾き
ギターの二重奏を思わせる曲。右手は旋律にアルペジオが絡み、左手はギターの低弦のような対旋律を奏でる。不協和音で調性が定まらない。- Tanguinho タンギーニョ
A-B-A'形式。タンゴというかミロンガ風で哀愁漂う曲。この曲も調性が定まらない。- Modinha モジーニャ
ニ短調の切々とした悲しい歌で、旋律と2つの対旋律による三声のポリフォニーが奏される。- Cirandinha シランジーニャ
シランジーニャとは歌いながら輪になって踊るブラジルの子どもの遊びのこと。"A Megume Tukushima" と楽譜の上に記されていて、おそらく日系人の「と(つ)くしま めぐみ(?)」さんに献呈されたらしい。どたなだろう?。A-A'-コーダの形式。曲は右手の16分音符の速いパッセージの下に左手にファのリディア+ミクソリディア旋法(長調の音階で第IV音が半音上がり、第VII音が半音下がる)の旋律が聴かれ、ノルデスチの民謡風の響きだ。A'では16分音符は左手中音部に、旋律は右手高音部に交替する。1954
- Valsa nº 7, Saudoso ヴァルサ第7番、懐かしく
イ短調、A-B-A形式。哀愁漂う冒頭の左手の旋律はギターのつま弾きを思わせる。Bの高音で弾かれる弱々しい旋律はフルートまたはカバキーニョを模したのかな?。- Valsa nº 8, Calmo ヴァルサ第8番、穏やかに
ホ短調、A-A'-B-A-A'形式。和音はやはり不協和音が多く、ホ短調とは言え、冒頭のミ-ソ-シ-ド♯の和音から調性が落ち着かない雰囲気で、8小節目辺りからいつのまにかイ短調の響きになって、でもやはりホ短調に戻り一段落する。Piu mossoと記されたBはフルートを思わせる8分音符の旋律が舞うように上下を行き来する。1954-1955
- Ponteios (Prelúdios), 3º caderno (Da 21 a 30) ポンテイオス(前奏曲集)第3巻(第21番~30番)
前作の《ポンテイオス第2巻》から5年を置いて作られたこの第3巻は、作曲上もアイディアに満ちていて曲調も美しいのが多く、充実の10曲である。
- Decidido (1954 ?) 断固として
半音とオクターブから成る速い音列の羅列のような曲で、技巧的にかなりの難曲である。右手と左手の音型は鏡合わせのように対称的に書かれている。拍子が毎小節5/4~2/2~5/4~3/2~2/2~と変わるので、シンコペーションのパターンも♪♩♩♪♩♩|♪♩♪♩♩|♪♩♩♪♩♩|♪♩♪♩♪♩♩. | と次々と変化する緊張感ある曲。- Triste (1954) 悲しく
モジーニャの雰囲気で、僅か16小節の曲。静かなシンコペーションのリズムで七度の和音が上昇するのにのって、もの悲しい旋律が奏される。- Vigoroso (1954 ?) 力強く
左手2/4拍子(時々3/4拍子にもなる)の無窮動に続く16分音符の急速な旋律?も不規則なシンコペーションが効いているが、それに右手3/4拍子のギターかカヴァキーニョのアルペジオのような和音が重なり、そのポリリズムの複雑さにもう頭がおかしくなりそー!な曲。- Tranqüilo (1954) 静かに
変ロ長調、A-A'形式。穏やかに流れるシンコペーションの伴奏にのって、美しい旋律がシ♭のミクソリディア旋法で奏される静かな曲。キツい響きの前後の23番・25番の間で一服の清涼剤のよう。- Esperto (1955) 機敏に
強いて言えば変ロ短調。右手の無窮動の速い16分音符はフルートを思わせる。左手の流れるようなスラーの8分音符の伴奏は5/8拍子の刻みで、そのリズムの面白さにあれあれ~、と思っているうちに曲は終わってしまう。- Calmo (1955) 穏やかに
A-A'-A"形式。寂しげな旋律が静かに奏される。右手旋律に加え、左手内声、バスの三声がそれぞれ別のシンコペーションを奏でるのが興味深い。A'では冒頭の左手内声とバスが右手に、旋律が左手中声部に移り、その下に新たなバスが加わって四声になる。- Cômodo e espressivo (1955) 心地よく、表情的に
強いて言えばハ短調、A-B-A'形式。ギターを思わせる音型で、ナザレ風のショーロを思いきり遅くして幻想的にしたような曲。- Calmo e sentido (1954) 穏やかに、感情的に
A-A'形式。中音部に眠るような旋律が歌われる。その上下を舞う伴奏は豊かな和音の響きで甘美。- Saudoso (1955) 懐かしく
A-B-A'-コーダの形式。十度重音で静かに奏される旋律はミのリディア旋法で、ノルデスチの民謡に神秘感が加わったような感じ。Bではギターのアルペジオのような和音が付く。- Sentido (1955) 感情的に
変イ短調、A-B-A'形式。《ポンテイオス》全50曲の中で一番親しみやすい曲であろう。嘆きの旋律が綿々と歌われる。曲は高潮してffが鳴り響いたところで突然音が途切れ、subito pで曲が再開する所(14小節目、26小節目)などいい効果を出している。A'は主旋律が低音に移って再現される。思いっきり情熱的に、感傷的に弾きたい。ただ、左手の3-3-2拍のシンコペーションがカマルゴ・グァルニエリ的とは言え、全体的に音の響きがスクリャービンかラフマニノフっぽいかな。1956-1957
- Ponteios (Prelúdios), 4º caderno (Da 31 a 40) ポンテイオス(前奏曲集)第4巻(第31番~40番)
この第4巻は、各曲のバラエティにはやや乏しいが、モジーニャを思わせるようなカマルゴ・グァルニエリお得意の「歌」がたくさん現れる。
- Triste (1956) 悲しく
ホ長調、A-A'形式。微睡むような旋律。ゆったりとしたシンコペーションが熱帯的な雰囲気。- Com alegria (1957) 愉快に
A-B-A形式。2/4拍子。子どもの遊びのような無邪気な雰囲気の曲。16分音符が3-3-2拍となるところが、所々5連16分音符が現れて3-3-3拍と成る。Bは、それまでの不協和音の混沌とした響きを抜け出してハ長調の明るい調べになる。- Queixoso (1956) 泣き言をいって
カマルゴ・グァルニエリが友人のピアニストNorma Bojungaの家でピアノの即興演奏をしたのを元にして、この曲は書かれたとのこと。一応ヘ長調、A-A'形式。寂しげな旋律がゆっくりと奏される。旋律はシ抜きのヘキサトニックで、時々ミが♭のミクソリディア旋法になるのもいい雰囲気。- Calmo e solene (1956) 穏やかに、荘重に
A-B-A'-B'-A形式。中低音部の十度の旋律はファのリディア旋法で、響きは重々しく神秘的で、教会のオルガンを音を思わせる。A'とB'は音域が広がる。- Dengoso (1957) 気取って
A-A'形式。ブンチャッブンチャッの伴奏に3-2-3のシンコペーションの旋律が奏されてケークウォーク風だが、調性が定まらず落ち着かない響きだ。- Tristemente (1957) 悲しく
ホ短調、A-A'形式。ゆったりとした十度和音のシンコペーションの伴奏にのってモジーニャを思わせる旋律が盛り上がり、消えていく。- Com humor (1957) 滑稽に
強いて言えばホ長調。ひそひそ話しをしているみたいな曲。- Hesitante (1957) 躊躇って
強いて言えばイ短調、A-B-A'形式。36番同様、ゆったりとした十度和音のシンコペーションの伴奏にのってモジーニャを思わせる旋律が奏される。中間部Bは和音進行がお洒落だ。- Dengoso (1957) 気取って
A-B形式。ゆっくりとしたショーロ風。右手にラのミクソリディア旋法の旋律、左手中音部には対旋律が現れて主旋律との掛け合いのようにシンコペーションし、その下でラ音のベース音がまたシンコペーションする。- Con moto (1957) 動きを持って
強いて言えば変ト(または嬰ヘ)長調、A-B-C-A-B-コーダの形式。川の流れのような流暢な曲で、印象主義風。右手16分音符は6拍子だが、左手付点8分音符は4拍子でヘミオラになっているのが面白い。1957
- Valsa nº 9, Calmo ヴァルサ第9番、穏やかに
1957年、ブラジルのVera Cruz社製作の映画『ヴィラ・ヒカの抵抗 Rebelião em Vila Rica』(ヴィラ・ヒカは現在のミナス・ジェライス州にある町オウロ・プレットのこと)の音楽を担当したカマルゴ・グァルニエリは、この映画のための音楽を何曲か作曲した。その中の1曲がこの《ヴァルサ第9番》である。映画の中程で初めピアノで、次に管弦楽で演奏される。曲はイ短調、A-A-B-A形式。10曲のヴァルサの中では一番分かりやすい和音で、何とも言えぬ哀愁に満ちた雰囲気の曲。Aは、カマルゴ・グァルニエリのヴァルサにしては珍しく、対旋律を伴わず右手旋律が寂しく奏される。Bは旋律と対旋律が掛け合いのように奏される。1958
- Sonatina nº 4 ソナチネ第4番
- Com alegria 愉快に
ソナタ形式。冒頭の右手の16分音符が続く軽快な第1主題はドのリディア旋法だ。左手のしゃっくりのような伴奏が面白く、また頻繁に拍子が変わるのが緊張感を与えている。次にPoco menoした三度重音で奏されるニ長調の第2主題はちょっと甘くてブラジル風味。展開部は第1主題、第2主題と変奏される。再現部は第1主題、ト長調の第2主題が奏され、コーダでは今一度第1主題が現れる。- Melancólico 憂うつに
A-B-A'形式で、郷愁を誘うようなゆったりとした旋律はモジーニャだろう。Aはファのリディア旋法の旋律に、ギターを思わせるアルペジオが静かに添えられる。Bは左手中音部に旋律が奏される。- Gracioso 優雅に
A-B-A'-C-A"-B'-A"'のロンド形式。全体的に溌溂とした曲。Aの部分は古典的なソナチネっぽいが、Bは旋律の3-3-2のリズムがサンバ風になる。Cの冒頭の旋律はレのミクソリディア旋法で、その下で奏される太鼓を打つようなオスティナートと4拍目のアクセントはバイアォン Baião のリズムに聴こえる(下記の楽譜)。
Sonatina nº 4、第3楽章91-98小節、Musicália S/A. より引用1958-1959
1959
- Ponteios (Prelúdios), 5º caderno (Da 41 a 50) ポンテイオス(前奏曲集)第5巻(第41番~50番)
この第5巻は、それ以前のポンテイオスより内省的な曲が多い。
- Tristemente (1958) 悲しく
ハ短調、A-A'-A"形式。哀愁漂う旋律はモジーニャ風だが、不協和音の伴奏が瞑想的な雰囲気を作る。A'では左手伴奏は対旋律をなして、カノンになったりもする。- Dengoso, mas sem pressa (1958) 気取って、しかし急がずに
A-A'形式。ゆっくりと沈んだ、ナザレ風の曲。- Grandeoso (1959) 大げさに
ハ長調、A-A'形式。Aはポリリズムになっていて、3/4拍子の右手の旋律、2/4拍子の左手の和音ともにffのオクターブで力強く鳴る。後半A'は左手はバトゥーキのリズムになって更に盛り上がる。- Desconsolado (1959) 元気なく
リズムはシンコペーションだが、ゆったりとした物悲しい曲。この曲はテープに録音されたカマルゴ・グァルニエリの即興演奏を、そのまま楽譜にした曲とのことである。- Com alegria (1959) 愉快に
A-B-A'-B'-A"-B"形式。高音部にラのミクソリディア旋法で奏される鐘の音のようなAと、低音部で呟くような旋律のBが交互に現れる。一見不釣り合いな2つのパッセージを交互に聴かせる、一種のコール・アンド・レスポンスで独特の不思議な雰囲気を作るのは、カマルゴ・グァルニエリが時々使う手法である。- Íntimo (1959) 親密に
後の1961年にカマルゴ・グァルニエリの3番目の妻となるVera Silvia Ferreiraに献呈。A-B-A'形式。一筆書きのような素朴なレのリディア旋法の旋律が静かに奏され、内声部に繰り返される。- Animado (1959) 活発に
A-B-A形式。3-3-2や3-3-3のアクセントの付いた16分音符アルペジオの音列が、右手と左手の鏡合わせのように対称的に書かれている。カマルゴ・グァルニエリ風アラベスク?。- Confidencial (1959) 内密に
嬰ハ短調、A-B-A'形式。悲しい打ち明け話のような曲。右手は旋律+対旋律、左手はバス+和音を構成しながらの対旋律、の四声が絡み合う。- Torturado - Homenagem a Scriabin (1959) 苦しんで ー スクリャービンへのオマージュ
ハ短調。スクリャービンの初期のピアノ曲を思わせる書法と、ブラジル人の哀愁が重なったような情熱的な曲。3-3-2拍の左手のオクターブと右手の8分音符和音連打がうねるように段々とクレッシェンドしていきfffまで盛り上がり強打される。- Lentamente e triste (1959) ゆっくりと、悲しく
ファ-シ♭-ミ♭で始まるモチーフはギターのつま弾きを思わせる。左手に、控えめだが悲痛な旋律が奏される。1962
- Sonatina nº 5 ソナチネ第5番
1962年にブラジルで催された「ピアノ・エルドラド・ピアノコンクール Concurso de Piano Eldorado」の課題曲として作られた曲で、カマルゴ・グァルニエリ自身がそのコンクールの審査員の一人であったと。全体的に旋律と対旋律から成るポリフォニックな作りの、透明感ある響きの作品だ。
- Com humor ユーモアをもって
ソナタ形式。第1主題はラのミクソリディア旋法の流れるような旋律で、左手対旋律は一部でカノン風に主旋律を追っていく。第2主題はレのリディア旋法で、カマルゴ・グァルニエリお得意の3-3-2拍のシンコペーションのリズムだ。展開部は第1主題が変奏されたり、第2主題が短調の伴奏になったりと奏される。再現部は、第1主題が提示部とは右手左手逆に奏され、第2主題はラのリディア旋法で奏される。- Muito calmo とても穏やかに
僅か16小節。モジーニャがゆったりしみじみと奏され、低音バスの動きは低弦ギターの音色を思わせる。最初は嬰ハ短調を感じる響きだが、調性は定まらず、最後はホ短調で終わる。- Com alegria 愉快に
A-B-A'-C-A"-C'の形式。Aの軽快な旋律はイ長調に近いが、ラ-シ-ド♯-レ♯-ミ♯-ファ♯-ソ♯という旋法で書かれている。Bは3-3-2拍のシンコペーションが鋭い響き。Cは3-3-1-3-3拍という変則シンコペーションのモチーフで、毎小節のように拍子が7/8~3/4~7/8~2/2~3/2~7/8と変わる。1962-1964
- Estudos, 2º volume (de 6 a 10) 練習曲集、第2巻(第6番~10番)
第6、7番は(前作の)《練習曲集、第1巻》同様に、特定の技巧が続く曲であるが、8番からは「練習曲」という縛りから解かれたような自由な作りとなり、その分調性感は殆ど無くなった難解な響きの曲になる。
- Impetusos, marcatissimo (1962) 性急に、強調して
A-B-A'-B'-A-コーダの形式。Aは主に完全四度を多く含んだ8分音符の音形が両手ユニゾンで無窮動に奏される。Bは左手のみ8分音符の音形が続き、その上で右手高音でハ長調の颯爽とした旋律が奏される。B'はハ長調の旋律が左手低音オクターブで再び奏される。- Sem pressa (1962) 速くならないように
A-B-A'-コーダの形式。3声で書かれた曲。2/4拍子で主旋律は8分音符だが、その下内声の対旋律は3連8分音符、低音部ベースは3連4分音符と、3声が別々のリズムで動くのが面白い。主旋律は概ねソのリディア旋法、ベースはドのミクソリディア旋法で、教会旋法を多用するノルデスチの民謡を思わせる響きが魅力的。- Cômodo (1962) 心地よく
A-A'形式。ほぼ無調である。左手8分音符が半音階進行するのにのって、右手に途切れ途切れのモチーフが奏される。- Furioso (1962) 猛烈に
A-B-A'-B'形式。Aは両手共に同じ音形の16分音符が短九度離れて無窮動に奏され、調性感のない謎めいた響きである。Bは9/16拍子と6/16拍子が交替する中、中音部に一応嬰ハ短調の旋律が奏される。- Movido (1964) 動かされて
A-B-A-コーダの形式。左手8分音符アルペジオにのって、右手に3-3-2のリズムの重音の音形が穏やかな響きで奏される。1963-1971
- As três graças 三美神
カマルゴ・グァルニエリと彼の3番目の妻Vera Silvia Ferreiraとの間には、Tânia、Míriam、Daniel Pauloの3人の子が生まれた。この小品集は、それぞれの子が生まれた日に作曲されたとのこと。3曲ともト音記号のみで書かれ、音数も少ない素朴な曲である。
- Acalanto para Tânia (1963) タニアのための子守歌
A-A'形式。ハ長調ともイ短調ともつかない、優しい子守歌。- Tanguinho para Míriam (1965) ミリアンのためのタンギーニョ
A-A'形式。シンコペーションまじりの旋律はブラジル風だが、2声の掛け合いはバッハのインヴェンションを思わせる。- Toada para Daniel Paulo (1971) ダニエル・パウロのためのトアーダ
A-B-A'形式。イ短調ともハ長調ともつかない、ちょっと悲し気な旋律が奏される。1965
- Sonatina nº 6 ソナチネ第6番
ブラジルのピアニストのCaio Paganoに献呈。カマルゴ・グァルニエリのソナチネは年を追うごとに増々現代的になり、このソナチネ第6番は、ほぼ全曲が無調の響きだ。「第1楽章にはショーロの響きがある」といった事を書いている文献もあるが、私の耳には何度聴いてもバリバリの前衛作品に思える作品です。
- Gracioso 優雅に
概ねソナタ形式。第1主題は2/2拍子で、流れるような旋律が右手に現れ、左手も旋律っぽくなってポリフォニックだ。第2主題は3/4拍子に成り、右手三和音の下で、左手に力強い旋律が聴かれる。展開部は第1主題、第2主題の順にひとしきり展開される。再現部の第2主題は、右手に旋律が移りオクターブで一層力強く奏され、最後は両手強打fffで終わる。- Etéreo 崇高に
A-B-A'形式。静かな曲。両手とも三度重音(長三度か短三度)の2つのゆったりとした旋律?が、鏡のように反進行(右手が上行するときは左手が下行)で奏される。右手三度重音+左手三度重音の4音の中には大抵、減8度か増8度を含んでいて、徹底して不協和音である。10小節目からは両手とも十度重音に成って、副題通りの崇高な響き。Bは両手オクターブがfffで重々しく響き、最後は両手十度重音~両手三度重音と収束してpppで終わる。- Humoristico (fuga em duas partes) ユーモアをもって(二声のフーガ)
全く無調の活発な旋律が左手に主唱され、6小節目より右手が同旋律を1オクターブと五度上で応唱していく。提示部とディヴェルティスマンが4サイクル奏されてひとしきり奏され盛り上がると、突然静まり、第2楽章で現れた両手三度重音が7小節奏される。最後は主唱を2小節後から応唱が追うストレッタが両手オクターブで華々しく奏され、左手は2倍拡大フーガとなり、第1楽章第1主題に似た下降音型が16分音符で怒濤のように奏されて終わる。1968-1970
- Estudos, 3º volume (de 11 a 15) 練習曲集、第3巻(第11番~15番)
カマルゴ・グァルニエリの後期の作品らしい、調性感の乏しい複雑な響きの曲が多い。
- Brilhante (1968) 輝かしく
A-B-A-コーダの形式。ほぼ無調である。Aは高音部で続く8分音符は短九度をが頻発し、中音部に奏される旋律らしきものはジャズ風のシンコペーションが効いている。Bは和音連打と即興的な16分音符半音階が交互に現れる。- Dengoso (1968) 気取って
A-B-A'形式。左手は十度進行が多いため響きはまろやかで、それにのって右手に完全四度で奏される旋律らしきものが続く。- Lento e fluido - "Homenagem a Claude Debussy" (1969) ゆっくりと、なめらかにー“クロード・ドビュッシーへのオマージュ”
A-B-A'-コーダの形式。全曲pからppppで静かに弾かれる曲。Aは高音部に短九度重音の旋律が奏され、中音部に対旋律、その下に半音階をゆっくりと下るベースが奏される。Bは静かにド♯が鐘のように不気味に鳴る上下で、長九度を含む不協和音がアルペジオで奏される。印象主義的な作品であるが、ドビュッシーと言うより、ラヴェルのピアノ曲《夜のガスパール》の第2曲〈絞首台〉に似ている。- Sem pressa (1969) 速くならないように
A-B-A'-B'形式。左手にアルペジオの前打音を伴った8分音符の旋律らしきものが現れ、右手に重音が合いの手のように奏される。A'では8分音符の旋律が右手に、合いの手の重音が左手に移る。- Maneiroso (1970) 礼儀正しく
A-B-A'形式。Aは右手に無窮動の8分音符が続き、拍子記号は2/2だが、左手は♪♩ のリズム続いてポリリズムになっている。Bの後半では一時8分音符は左手に移る。1971
- Sonatina nº 7 ソナチネ第7番
ほぼ無調の作品で、第3楽章にのみ和声感があるが、第1、2楽章はポリフォニックなモチーフが不協和音でぶつかる前衛的な響きの曲である。
- Rítmico e enérgico リズミカルに、力強く
強いて言えばA-B-C-D-A'-B'-C'-D'-A"-コーダの形式(再現部の第2主題を欠いたソナタ形式とする文献もある)。Aはスラーで続くモチーフの中にスタッカートが混じる冷たい響き。Bは楽譜に「逞しい robusto」と記された高音部七度和音の連打のモチーフ、Cは別の8分音符同音連打のモチーフが現れる。Dは内声の8分音符連打にのって、シンコペーション混じりで毎小節拍子が変わる旋律が奏される。- Suavemente 甘美に
A-A'-コーダの形式。左手中音部の気怠い旋律が奏され、右手に九度重音の伴奏のようなものが重なる。- Requebrando 色っぽく
A-B-A'形式。トッカータ風で8分音符の両手交互連打(右手はオクターブ、左手は完全四度堆積の七度和音)が無窮動に続く。右手左手は、片方が白鍵だともう片方はフラットの黒鍵になっていることが多く多調の響きだ。1972
- Em memória de um amigo ある友人の思い出に
ピアニストのCaio Paganoに献呈された(彼の父が亡くなったのを悼んで作曲されたとのこと)。A-B-A'形式。二声のポリフォニックな作りの曲で、無調の現代音楽らしい響きだが、その中に何とも言えぬ哀調が漂うのが独特である。Aは息の長い右手旋律に四度を降りる左手対旋律が添えられて奏される。中間部Bは増八度または短九度の不協和音が鳴り響きfffまで盛り上がる。最後は冒頭の息の長い旋律が回想され、消えるように終わる。- Sonata ソナタ
多数のピアノ曲を作ったカマルゴ・グアルニエリだが、「ピアノソナタ」と題されたのはこの作品のみである。不協和音は複雑で全楽章とも無調であり、また音数も多く技巧的で、作曲者が気合を込めて作った作品であることが窺える。第1楽章Tensoは主題といえるモチーフは一つで、その冒頭は長七度のソ#-ラで始まる(このソ#-ラは、ピアニストのLais de Souza Brasilがカマルゴ・グァルニエリにピアノソナタの作曲を頼んだ時、作曲者は「では2つ音を鳴らしてみて」と答え、そこでLais de Souza Brasilが弾いたソ♯とラの音から作リ始めたとのこと)。曲は途中から16分音符やシンコペーションの和音連打に旋律が乗る形になる(この響きの変化を第2主題と考えてもよさそう)。最後に冒頭のソ#-ラの主題〜和音連打が奏されて終わる。第2楽章AmarguradoはA-B-A'-コーダの形式。気怠い主題が奏される。第3楽章Triunfante - Enérgico (fuga a três partes) - Triunfanteは、"Triunfante" の高らかな響きに挟まれて、躍動的な三声のフーガが奏される。
- Tenso 緊張して
- Amargurado 苦しんで
- Triunfante - Enérgico (fuga a três partes) - Triunfante 勝利して~力強く(3声のフーガ)~勝利して
1973
- Fraternidade フラタニティ
ピアニストのアルトゥール・ルービンシュタインに献呈。イスラエルで行われた第1回ルービンシュタイン国際ピアノ・コンクールの開催を記念して作曲された。A-A'-B-B'-A-A"-コーダの形式。Aは無調の両手8分音符が蠢くように奏され、A'では音数や音域を増して変奏される。Bは変ロ短調の静かな旋律が現れるが、これはイスラエルの民謡の旋律らしい。1978
1981-1988
- Estudos, 4º volume (de 16 a 20) 練習曲集、第4巻(第16番~20番)
第16番~18番はブラジル音楽らしい、甘かったり哀調を帯たりの作品となっている。第19番、20番は以前に作った曲をこの練習曲集に組み入れたものと思われる。
- Caprichoso (1984) 気まぐれに
強いて言えば変ト長調、A-B-A'-コーダの形式。左手のゆっくりとしたアルペジオの伴奏はギターのつま弾きを思わせ、それにのって半音階混じりの甘い響きの旋律が奏される。Bは右手オクターブでやや情熱的な旋律が奏される。- Sem pressa (1985) 速くならないように
強いて言えば変ホ短調、A-B-A'-コーダの形式。右手旋律は半音階まじりで、調性もぼやけているが、哀愁漂う雰囲気はモジーニャであろう。- (para a mão esquerda) - Dramático e Triste (1988) (左手のために)ー劇的に、悲しく
強いて言えばハ短調、A-B-A'-コーダの形式。左手のみで演奏する曲。悲痛な旋律と対旋律が二声で奏される。- "Ondeante" (1981) 波形の
A-B-A'-コーダの形式。無調の左手旋律の上で右手合いの手が絡まる。- "Saramba" (1982) サランバ
A-B-A形式。快活な曲。中音部に半音階の旋律が奏され、高音部で短二度や長七度混じりの8分音符が続く。右手・左手のどちらかは3-3-2のリズムなのが躍動的。1982
- Sonatina nº 8 ソナチネ第8番
カマルゴ・グァルニエリの最後のソナチネ。ほとんど無調と言っていい現代音楽らしい響きの曲。
- Repenicado 打鳴らす
A-B-A'形式。8分音符の無窮動な旋律らしきものが流れ、時々左手和音がスタッカートで合の手のように打ち鳴らされる。この合の手の入り方が不規則なため、曲に緊張感を与えており、またショーロの特徴が現れているとする文献もある。中間部は8分音符が右手で続く中、左手にmarcatoと記された野性的な旋律が現れる。- Profundamente íntimo 深く親密に
A-B-A'-コーダの形式。左手はゆったりとしたシンコペーションのアルペジオで増三和音を繰り返し、それにのって右手に寂寥感漂う旋律がppで奏される(無調なので余計寒々しく感じます)。左手増三和音は半音づつ段々低音に落ちて行き、Bの部分と言える重々しいモチーフが6小節のみfffで奏される。再び曲はppに戻り冒頭Aの旋律が再現され、消えるように終わる。- Dengoso 気取って
A-B-B'-A-コーダの形式。8分音符の無窮動な動きが第1楽章同様に続き快活である。中間部は右手8分音符の中から、アクセント記号の付いたシンコペーションの新たな旋律が浮き上がり、左手でも繰り返される。- Toada sentimental 感傷的なトアーダ
哀愁を帯びた民謡風の旋律が静かに奏される曲。1982-1988
- Momentos モメントゥス
前作のポンテイオスや即興曲集の流れを汲むような、自由な形式で小品を書いた曲集である。技巧的に難しい部分は少なく、音使いはより内省的で、ひそやかな音楽となっているが、カマルゴ・グァルニエリが数十年に亘る膨大なピアノ曲で用いてきた多くの特徴ー即ちノルデスチの旋法や民謡モジーニャから3-3-2のリズムやギターの奏法に至るまでの豊富なブラジル音楽を素材とした曲作り、ポリフォニー、ポリリズム、可変拍子、半音階進行などーが簡潔な形で詰まった作品揃いである。
- Dolente (1982) 悲痛に
一応変ロ短調、A-B-A'形式。モジーニャ風の悲しげで気怠い旋律が、左手アルペジオ伴奏にのってゆっくりと奏される。- Lento e nostálgico (1982) ゆっくりと、ノスタルジックに
A-A'形式。ド-レ-ミ♭またはミ-ファ-ソ-ラ-シ♭のドリア旋法とミクソリディア旋法が混じった静かな旋律は、カマルゴ・グァルニエリお得意のサンパウロ州の民謡の節回しの様な雰囲気を醸し出している。- Com alegria (1982) 愉快に
A-A'形式。左手伴奏はラのドリア旋法で、それにのって右手にラのリディア旋法とミクソリディア旋法の混合(レが♯でソが♮)の軽快な旋律が流れる。A'の旋律は左手伴奏の下で低音で奏される。- Terno (1982) 柔らかく
A-B-A'形式。強いて言えばへ長調だが、調性がぼやけた旋律がゆったりと奏される。Bの旋律は四度重音になる。- Desolado (1984) 悲嘆に暮れて
ハ長調、A-A'形式。珍しく?調性感のはっきりした曲。長調ながら哀愁漂う旋律が寂しげに静かに奏される。- Improvizando (1985) 即興的に
A-A'形式。左手の3-3-2のリズムの伴奏にのって、レ-ミ-ファ♯-ソ♯-ラ-シ-ドのリディア旋法とミクソリディア旋法の混じった右手旋律が当てもなく彷徨うように奏される。A'は旋律が左手中音部に移る。- Calmo e tristonho - Homenagem a Henrique Oswald (1985) 穏やかに、悲し気にーエンリキ・オスワルドへのオマージュ
変ホ短調、A-B-A形式。左手は下降アルペジオの伴奏が静かに奏され、右手は上っては下る寂しげな旋律が奏される。左手伴奏が2拍子、右手旋律が3拍子のポリリズムな所など、曲の雰囲気はエンリキ・オスワルドの代表作のピアノ曲《雪が降る Il Neige!...》を思わせるが、半音階進行や不協和音の響きはカマルゴ・グァルニエリらしい。- Gracioso (1986) 優雅に
A-A'形式。これといった旋法は特定できないが、いろいろな旋法が組合わさり、三声または二声の掛け合いが続く。- Sofrido (1987) 耐え忍び
一応変ロ短調、A-A'-コーダの形式。3-5または3-3-2リズムの左手伴奏にのって、3連4分音符混じりの気怠くも哀愁を帯びた旋律が奏されるのは、ポンテイオスでもしばしば見られたカマルゴ・グァルニエリお得意の書法である。- Íntimo (1988) 親密に
A-A'形式。密集和音の中で、旋律・対旋律が半音階進行で静かに奏される。