César Guerra-Peixeのピアノ曲リスト
斜字は出版がなく、かつ手稿譜が現存せず、どんな曲だか不明な作品です。ゲーハ=ペイシェは自己の作品に厳しい性格であり、1943年以前の作品の多くを自ら破棄してしまっている。1941
1942
- Sonata ソナタ
- 1.ª Suíte infantil 子どもの組曲第1集
- Ponteio ポンテイオ
- Valsa ヴァルサ
- Choro ショーロ
- Seresta セレスタ
- Achechê アシェシェ
- Fanfarra ファンファーレ
1944
- À infância 幼年時代へ
- Quatro bagatelas 4つのバガテル
- Largo
- Allegretto
- Lento
- Allegro
1945
- Música Nº 1 音楽第1番
- Lento
- Allegro giusto - Lento
- Quatro peças breves 4つの小品集
- Allegro
- Allegretto vivace
- Largo
- Allegro molto
1946
- Dez bagatelas 10のバガテル
- Allegro
- Largo
- Allegretto
- Vivace
- Andante
- Allegro
- Allegretto con moto
- Allegro
- Larghetto
- Allegrissimo (allá breve)
1947
- Duas peças e coda 2つの作品とコーダ
- Allegretto moderato
- Larghetto; Coda - Allegretto moderato
- Larghetto ラルゲット
- Miniaturas Nº 1 ミニアチュール第1番
- Allegretto
- Lento
- Allegretto moderaro
- Miniaturas Nº 2 ミニアチュール第2番
- Allegro
- Adagio
- Allegro
- Música Nº 2 音楽第2番
- Peça para dois minutos 2分間の作品
1948
- Miniaturas Nº 3 ミニアチュール第3番
- Moderato
- Allegro
1949
- Miniaturas Nº 4 ミニアチュール第4番
- Allegretto
- Adagio
- Presto
- Prelúdios I, II, III 前奏曲1、2、3番
- Suíte N.º 1 組曲第1番
- Ponteio ポンテイオ
- Chôro ショーロ
- Toada トアーダ
- Dobrado ドブラード
- Suíte infantil N.º 2 子どもの組曲第2集
- Ponteio ポンテイオ
- Valsa ヴァルサ
- Modinha モジーニャ
- Marcha 行進曲
- Três entretenimentos, Op. 2 3つの気晴らし、作品2
- Allegro
- Andante
- Allegro vivo
- Três toadinhas 3つの小さなトアーダ
- Valsa Nº 1 ヴァルサ第1番
- Valsa Nº 2 ヴァルサ第2番
- Valsa Nº 3 ヴァルサ第3番
1950
- Sonata Nº 1 ソナタ第1番
- Allegro moderato
- Larghetto
- Allegro (Frevo)
1951
- Sonatina Nº 1 ソナチネ第1番
- Allegro moderato
- Andante
- Allegro
1954
- Suíte N.º 2 (Nordestina) 組曲第2番(ノルデスチーナ)
- Violeiro ヴィオレイロ
- Cabocolinhos カボクリーニョス
- Pedinte 物乞い
- Polca ポルカ
- Frêvo フレーヴォ
- Suíte N.º 3 (Paulista) 組曲第3番(パウリスタ)
- Cateretê カテレテ
- Jongo ジョンゴ
- Canto-de-trabalho 労働の歌
- Tambu タンブー
1955?
- Nagô, Nagô, Nagô (Toada de maracatú) ナゴ、ナゴ、ナゴ(マラカトゥのトアーダ)
1967
- Sonata Nº 2 ソナタ第2番
- Vivace
- Largo
- Allegro (quasi stilo de marcia)
1968
- Suíte infantil N.º 3 子どもの組曲第3集
- Marcha-rancho ランチョの行進
- Toada トアーダ
- Frêvo フレーヴォ
1969
- Sonatina N.º 2 ソナチネ第2番
- Allegro moderato
- Andante
- Allegretto moderato (come Valsa)
1971
1979
- Prelúdios tropicais N.º 1, Cantiga de Folia de Reis 熱帯の前奏曲集第1番、王たちの祭りの歌
- Prelúdios tropicais N.º 2, Marcha abaianada 熱帯の前奏曲集第2番、バイーアの行進曲
- Prelúdios tropicais N.º 3, Persistência 熱帯の前奏曲集第3番、執拗に
- Prelúdios tropicais N.º 4, Ponteado de viola 熱帯の前奏曲集第4番、ギターのつま弾き
- Sugestões poéticas - em memória de Fernando Pessoa 詩的な想起ーフェルナンド・ペソアの思い出に
- Tema (Sugestões portuguesas) 主題(ポルトガルの想起)
- Nuvens 雲
- Aniversário 記念日
- Insônia 不眠
- Tema novamente 再びの主題
- Começo a conhecer-me 私自身を知り始める
- Na casa defronte 家に向かって
1980
- Prelúdios tropicais N.º 5, Pequeno bailado 熱帯の前奏曲集第5番、小さな踊り
- Prelúdios tropicais N.º 6, Reza-de-defunto 熱帯の前奏曲集第6番、死者への祈り
- Prelúdios tropicais N.º 7, Tocata 熱帯の前奏曲集第7番、トッカータ
1981
- Minúsculas - I ミヌスクラス第1集
- Introdução 序曲
- Dramático 劇的に
- Marchando 行進して
- Minúsculas - II ミヌスクラス第2集
- Caminhando 散歩
- Cantiga カンチーガ
- No estilo carioca カリオカ風に
- Minúsculas - III ミヌスクラス第3集
- Fanfarra ファンファーレ
- Valseado ヴァルサを踊って
- Indiozinho carnavalesco カーニバルの先住民の子
- Minúsculas - IV ミヌスクラス第4集
- Prelúdio 前奏曲
- Contrastes コントラスト
- Caipira 田舎者
- Minúsculas - V ミヌスクラス第5集
- Canto negro 黒人の歌
- Coral コラール
- Mãos cruzadas 交差する両手
- Minúsculas - VI ミヌスクラス第6集
- Barroquinho バロック風に
- Noturno 夜想曲
- Lembrando Bartók バルトークを思い出して
1982
- O gato malhado トラネコ
- O gato malhado トラネコ
- A andorinha sinhá 若い雌ツバメ
- O namoro e os murmúrios 恋愛と陰口
- A noite sem estrelas 星のない夜に
1987
- No estilo popular urbano 都会のポピュラーのスタイルで
- Vinte de janeiro, Choro 1月20日、ショーロ
- Falso pau-de-arara, Baião 偽の「インコのとまり木」、バイアォン
- Tema de um domingo, Valsa-lenta ある日曜日のテーマ、ゆっくりとしたワルツ
- Espertinho, Choro alegre ずる賢い人、陽気なショーロ
- Tocata de Joezinho ジョエジーニョのトッカータ
1988
- Prelúdios tropicais N.º 8, Cantiga plana 熱帯の前奏曲集第8番、滑らかな歌
- Prelúdios tropicais N.º 9, Polqueada 熱帯の前奏曲集第9番、ポルケアーダ
- Prelúdios tropicais N.º 10, Tangendo 熱帯の前奏曲集第10番、楽器を鳴らして
1991
- Telefones de gente amiga, para piano a quatro mãos 親しい人たちとの電話、ピアノ連弾のための
- Sonia ソニア
- Ernani エルナーニ
- Rogerio (em memória) - Ruth ロジェリオ(思い出に)ールス
- Jane ジェーン
1993
- Rapsódica 狂詩曲
- Angustiante 不安になって
- Rapsodicamente 狂詩曲風に
César Guerra-Peixeのピアノ曲の解説
1941
- Desafio, Op. 1 歌合戦、作品1
ゲーハ=ペイシェは自己の作品に厳しい性格であり、1943年以前の初期の作品の多くを自ら破棄してしまっている。この 《歌合戦、作品1》は下述の《子どもの組曲第1集》と共に、彼の初期の作品で現存する数少ないピアノ曲であるが、生前の彼はこの曲の演奏を禁じていた。2020年にゲーハ=ペイシェの遺族の許可を得て、初めてこの曲の録音がされている。ポルトガル語のDesafioとは直訳すると「決闘」とか「挑戦」、「口論」という意味だが、ブラジルでは〜特にブラジル北東部(ノルデスチ)では、2人の歌手が掛け合いながら即興の歌を競う歌合戦のようなものを指すことが多い。曲は「レレシソララレミレドシラソ」というモチーフ(ブラジル童歌〈ガリバルディはミサへ行った Garibaldi foi à Missa〉に似ている)が調を変えながら何度も現れ、多調の和音やアルペジオ、また半音階進行の対旋律やバスが纏わりついて幻想的な響きである。曲名をDesafioとした理由は私には今一つはっきり分かりません。1942
- 1.ª Suíte infantil 子どもの組曲第1集
組曲全てが両手共ト音記号で書かれ、また子どもの小さな手でも弾けるように音程は殆どが七度までで、唯一第3番《ショーロ》で現れるオクターブはアルペジオで弾かれる。子ども向けとあって、ゲーハ=ペイシェの作品の中では和声的にも分かり易いが、それでも少ない音を効果的に用いた、作曲家としての才能を窺わせる組曲である。
- Ponteio ポンテイオ
A-A'形式。一応ハ長調の子守歌のような静かな旋律が右手に奏される。A'は同じ旋律が左手で繰り返されるが、伴奏の和音が異なってイ短調風の響きになるのが特徴的。- Valsa ヴァルサ
ト長調、A-A'-B-B-A-A"形式。普通に調性感のある可憐なヴァルサが奏される。Bはホ短調で、左手に悲しげな旋律が現れる。- Choro ショーロ
ホ短調、A-A'-B-B-A-A'形式。哀愁ただようしっとりとした旋律が奏され、左手ベースの半音階下降がやるせない雰囲気。Bはハ長調で、これがまた郷愁を感じさせる旋律になっている。- Seresta セレスタ
イ短調、A-A'-B-A-A'形式。ギターのつま弾きを思わせる伴奏にのってもの悲しい旋律が現れる。- Achechê アシェシェ
一応イ短調。アシェシェとはヨルバ人(主にナイジェリアあたりの西アフリカの民族で、ブラジルには奴隷として連れてこられたヨルバ人の末裔がいる)の葬送の儀式らしい。一応イ短調、A-B形式。"INTRODUÇÃO" と楽譜に記された前半Aの旋律は、この頃ゲーハ=ペイシェが傾倒して読んでいたマリオ・ジ・アンドラージの著書『Ensaio sôbre a música brasileira』(1928) に収められた楽譜〈シャンゴの歌 Canto de Xangô〉を変奏したものである。神秘的な旋律が2オクターブ離れたユニゾンで奏される。後半Bは "DANSA" と記され、太鼓を思わせる左手リズムのオスティナートにのって、右手でペンタトニックの旋律が奏される。- Fanfarra ファンファーレ
リオのカーニバルのラッパの音色に印象を受けて作られた曲らしいが、楽譜出版社のIrmãos Vitale社が出版時にこの曲を除いてしまったので、どんな曲だか残念ながら不明。1946
- Dez bagatelas 10のバガテル
ゲーハ=ペイシェがハンス・ヨアヒム・ケルロイターに師事して、十二音技法の作曲家として活動していた頃の代表作の一つである。全曲通して7分位で、無調の曲が続く。師のケルロイターは、この作品を「無調音楽は感情の表現、情熱、優雅さ、叙情性と相容れないということはない事実を示している」と賞賛している。確かに10曲のそれぞれに色々な表情は感じられるものの、無調音楽に一貫するような冷たい雰囲気には、私個人的にはあまり共感できないのですが‥‥。多くの所で音列が完全な十二音でなく、一音欠けた十一音としているのには何か意図があったのだろうか?。
- Allegro
行進曲風の快活な曲。最初の6つの音を音高順に並べるとファ-ソ-シ♭-ド-レ-ミ♭で、次の5つの音はド♯-ミ-ファ♯-ソ♯-ラとなり、全体としては(シを欠いた)十二音技法だが、前半はファの(第3音を抜いた)ミクソリディア旋法で、後半はシの(第1、3音を抜いた)ミクソリディア旋法である。十二音技法と教会旋法の融合を試みたのであろう。- Largo
ゆったりとしたワルツ風で、二声または三声のポリフォニックな作り。- Allegretto
気取ったメヌエット風で、右手旋律はほぼ十二音である。- Vivace
これも行進曲風。- Andante
二重唱が掛け合いで歌うような曲。- Allegro
これもメヌエット風。- Allegretto con moto
二声のほぼカノンで書かれていて、旋律はほぼ十二音である。- Allegro
これも行進曲風。- Larghetto
三声のポリフォニーが気怠い雰囲気で奏される。- Allegrissimo (allá breve)
トッカータ風で、ほぼ十二音の二声の掛け合いが続く。1947
- Larghetto ラルゲット
静かな曲。冒頭の旋律はミ-ミ♭-ソ-ファ-シ♭-レ-ド-ファ-シ♭とほぼ無調だが、左手に属七の和音が時々聴かれる。- Peça para dois minutos 2分間の作品
三部形式で、題名通り約2分間で終わる小品。この曲は十二音技法は用いていないものの、全体的に無調で、6つの音から成る速い8分音符のモチーフがユニゾンになったりカノン風になったりと奏される。中間部は、冒頭に似たモチーフがゆっくりと奏される。1949
- Suíte N.º 1 組曲第1番
4曲通して6分程の組曲。ゲーハ=ペイシェが十二音技法から脱しつつあり、同時に多調など複雑な和音技法を会得したことを示す作品である。
- Ponteio ポンテイオ
中音部の左手アルペジオが魔法がかった響きを醸し出し、それにのって高音部に息の長い旋律が奏される。- Chôro ショーロ
両手和音(右手・左手でしばしば多調になる)連打にシンコペーションでアクセントが付き、更に可変拍子であり複雑なリズムの曲。- Toada トアーダ
A-B-A-コーダの形式。ゆったりとしたシンコペーションの左手リズムにのって気怠い旋律が奏される。- Dobrado ドブラード
ドブラードとはブラジルの軍隊行進曲の一種で、スペインが起源とのこと。金管楽器のユニゾンのような前奏に引き続き、右手はトランペットなどの重奏のような和音の旋律、左手はトロンボーンやチューバのような低音オクターブが派手に奏される。- Suíte infantil N.º 2 子どもの組曲第2集
技巧的にはピアノを習って5〜6年目あたりで弾けそうだが、音楽的には第1番および第4番の調性が定まらない響きや、第2番および第3番のえも言われぬ哀愁感は、大人の雰囲気である。
- Ponteio ポンテイオ
A-A'形式。不協和音の伴奏にのって、憂うつな旋律が静かに奏される。- Valsa ヴァルサ
ハ短調、A-B-B-A-B形式。旋律はスタッカート連打がちょっと気取っているが、哀愁漂う曲。- Modinha モジーニャ
A-A'形式。一応ホ長調〜ホ短調。ギターを静かにつま弾きする様な寂しげ伴奏にのって、ぽつぽつと語るような静かな旋律が流れる。- Marcha 行進曲
憂うつな雰囲気の行進曲だ。- Valsa Nº 1 ヴァルサ第1番
ゲーハ=ペイシェは1949年に3曲のヴァルサ(ワルツ)を作曲した。第1番はA-B-B'-A形式。旋律の雰囲気はやや哀愁を感じるものの、和声は減三和音などの不協和音だらけで調性も定まらず、Aの最後でイ短調と辛うじて分かる。Bは一応へ長調だが、不協和音が続く。- Valsa Nº 2 ヴァルサ第2番
イ短調、A-B-B-A形式。この曲はヴァルサ・ブラジレイラらしい哀愁を漂わせつつ調性を残しているが、右手はシャープ系へ、左手はフラット系の和音が多用されてやや多調の響き。- Valsa Nº 3 ヴァルサ第3番
A-B-B-A形式。この曲も哀愁漂う旋律に、音階を下降していくベース音の組み合わせがヴァルサ・ブラジレイラらしい雰囲気。冒頭は一応ヘ短調で、ホ短調へ転調する。Bの高音部パッセージはフルートを、続いて現れる低音部の旋律はギターを思わせる。1950
- Sonata Nº 1 ソナタ第1番
ゲーハ=ペイシェが十二音技法や無調音楽の作曲を止め、民族音楽作曲家として新たな道を歩み始めた頃の、本格的なピアノソナタである。
- Allegro moderato
ソナタ形式。第1主題の(主に三度重音で奏される)右手旋律はホ長調で、穏やかなトアーダ(ブラジルの民謡の一つのジャンル)を思わせるが、一方の左手16分音符スタッカートの囃し立てるような対旋律はノルデスチの大道芸であるエンボラーダ(二人の歌手がお互いに即興で早口の歌を歌い合い、パンデイロを叩いて相手を挑発していくという一種の歌合戦)の早口歌を思わせ、こちらは調性が勝手に目まぐるしく変わるのが面白い響きだ。エンボラーダがヒートアップするようにひとしきり盛り上がると、次に第2主題がモジーニャ風の陰うつでゆっくりした旋律で初めロ短調で左手に現れ、右手の和音の伴奏がギターのストロークのように奏される。繰り返しはイ短調になって右手に旋律、左手伴奏はアルペジオになる。展開部は主に第1主題のエンボラーダのモチーフの盛り上がり〜第2主題の変奏〜第1主題のトアーダとエンボラーダの掛け合い、と展開していく。再現部は第1主題の右手トアーダの主旋律、左手エンボラーダの対旋律ともにオクターブとなって力強く奏され、第2主題はイ短調で再現され、エンボラーダが騒がしいコーダで終わる。- Larghetto
A-B-A'形式。ゲーハ=ペイシェは「第2楽章の旋律はシャンゴ Xangô を似せたものである」と記している。シャンゴとはアフリカ由来で、アフリカからブラジルに連れて来られた奴隷たちがもたらした民間宗教カンドンブレの神々の一つで、雷神とか裁きの神とか言われている。この楽章はカンドンブレの儀式でのシャンゴの憑依儀礼を描いているらしい。低音部に7/8拍子で静かに繰り返されるリズムはイル Ilu と呼ばれる太鼓の音を描き、それにのってシのフリギア旋法で奏される呟くような旋律はシャンゴが憑依した信者の声とのこと。徐々に音量を増して盛り上がり、また静かに戻り、繰り返される7/8拍子のリズムはいつの間にか高音部で奏されながら消えるように終わる。- Allegro
この楽章はノルデスチの舞踊音楽フレーヴォ Frevo を元に作曲したと思われる。フレヴォとは、19世紀末頃のレシフェのカーニバルでの踊りや音楽を起源として変化してきたものが、20世紀初めより「フレーヴォ」という名で呼ばれるようになったもので、2拍子の速いテンポの舞踊またはその音楽、更にはそれらの群衆のことである。当時のレシフェのカーニバルでは、フレーヴォを演奏するチームの先頭にカポエイラを踊る屈強な男達がナイフなどの武器を持って用心棒の如くいて、相手チームと遭遇するとお互いを挑発し、挙げ句の果てには殺し合いにもなったとのこと。警察がナイフを持った男達を取り締まるようになったため、ナイフの代りにソンブリーニャと呼ばれる小さな傘を持って踊るようになり、今ではフレーヴォを踊るダンサーはソンブリーニャをくるくる回しながら、カポエイラのような華麗な足技を繰り出す踊りとなっている。また音楽の楽器編成は荒々しく攻撃的な響きを出すために金管楽器が重用されている。A-B-A'-C-A-コーダの形式。縦横無尽に跳ね回る16分音符の旋律、軽快なリズム、フレーヴォの吹奏楽団の派手な響きを模したような和音強奏が賑やかな曲。1951
- Sonatina Nº 1 ソナチネ第1番
- Allegro moderato
ソナタ形式。第1主題はほぼ毎拍が弱起のモチーフがミのミクソリディア旋法で現れ、次に第2主題が低音部の息の長い旋律で奏される。展開部は第1主題の変奏〜第2主題の変奏〜第1主題の変奏〜第2主題の変奏と奏される。再現部は2つの主題がほぼ混じって現れて終わる。- Andante
ゆっくりと呟くようなユニゾンの旋律がシ♭のミクソリディア旋法で奏される(これはブラジルの牧童の歌であるアボイオ Abôio であるとする文献がある)。この旋律の前後で、静かに同音が連打されるのは放牧されている牛に付いたカウベルの響きを思わせる。- Allegro
快活な16分音符が右手左手と交互に続く。1954
- Suíte N.º 2 (Nordestina) 組曲第2番(ノルデスチーナ)
ノルデスチとはブラジル北東部のことを指すので、ノルデスチーナはブラジル北東部の住民を意味する。ノルデスチの民族音楽に興味を持ったゲーハ=ペイシェは、1949年から1952年までブラジル北東部ペルナンブーコ州のレシフェに住み、当地の民族音楽を詳しく調査研究している。ノルデスチの民族音楽を芸術作品に昇華したこの組曲は、ゲーハ=ペイシェの代表作の一つに数えていい傑作である。この作品は、ブラジルの楽譜出版社Ricordi brasileiraが、本社イタリア・ミラノのRicordi社の創業150周年をして催した作曲コンクールで一等を受賞した。楽譜には各曲の解説文が記されており、その一部を「斜字」で載せました。
- Violeiro ヴィオレイロ
「ヴィオレイロとは詩人兼歌手で、ノルデスチの民衆の中で聞くことができ、ギターを持って、愉快な歌詞を状況に応じてたいてい即興で歌い聞かせる。歌の旋律は体系的に旋法で出来ており、おそらく中世イベリア半島のバルド(吟遊詩人)の歌に由来する古代を引き継いでいる。」
すなわちヴィオレイロとは、即興でギター(特にViola caipira=ブラジルの10絃ギター)の弾き語りをする、いわば吟遊詩人のような大道芸人のような人のことで、ヘペンチスタとも呼ばれることもある。曲は全体的にノルデスチの熱帯的な雰囲気が漂う。A-B-A'形式。ギターの低弦を思わせる符点リズムのミ音オスティナートで曲は始まり、9小節目から現れるラのミクソリディア旋法の旋律は(楽譜の解説によると)ヴィオレイロが歌う即興詩〈Gemedeira〉とのこと(下記の楽譜)。Bで16分音符混じりで現れる旋律は即興詩〈Galope à beira mar〉で、ひとしきりffまで盛り上がる。最後は〈Gemedeira〉が再び歌われ、ヴィオレイロが雑踏の中に消えていくように終わる。
Suíte Nº 2 (Nordestina), I. Violeiro、8-11小節、Irmãos Vitaleより引用- Cabocolinhos カボクリーニョス
「カボクリーニョスとはインディオの衣装をしたカーニバルのために結成されたグループのこと。レシフェのカーニバルでは優雅でとても生き生きとした振付で踊り、楽団を伴い、その中でもイヌビアというピッコロの一種の音は際立っている。」
上述の踊りそのものもカボクリーニョスと呼ばれている。A-B-C-A'形式。曲はまず低音に、大太鼓を打つような躍動的な符点リズムが現れる。これにのって高音部でイヌビア inúbia(カボクリーニョスの演奏で使われる小さな笛)の音色を模した軽快な旋律が、ファやラのリディア旋法で奏される(下記の楽譜)。
Suíte Nº 2 (Nordestina), II. Cabocolinhos、1-12小節、Irmãos Vitaleより引用- Pedinte 物乞い
「物乞いの歌〜プレゴンとも言う〜では大抵、旋法の音階が使われている。二重唱だったり、伴奏が付いた歌が聞かれることもある。」
A-B-A'-B'形式。Aは左手にソのミクソリディア旋法の音階混じりの伴奏が静かに流れ、それにのって高音部に物乞いの歌のような弱々しい旋律が、これまたソのリディア旋法〜ファのリディア旋法〜レのドリア旋法〜レのリディア旋法と変わりながら奏される。Bはリディア旋法とミクソリディア旋法の混合の旋律が高音で奏され、やがて左手伴奏は音を減らして全音符の和音のみとなり、旋律はレチタティーヴォ風に歌われる。教会旋法の使用が、物乞いの虚脱感とノルデスチの雰囲気を上手く出しているように思えます。- Polca ポルカ
「ポルカがブラジルに到来したばかりの頃は、クラシックの調性音楽はヨーロッパのブルジョワ階級で作られてきた。一方ノルデスチではその調性音楽は大衆、すなわち庶民の間で引き継がれ、ポルカは当地の旋法音楽の伝統に従って変わっていった。」
19世紀後半にショーロ音楽がリオデジャネイロではやり始めていた頃、ノルデスチではポルカが流行していたようで、ミザエル・ドミンゲスなどの作曲家が活躍していた。A-B-A'形式。Aはイ長調の軽快な旋律で始まるが、サンフォーナ(ノルデスチのアコーディオン)を思わせる伴奏は多調で、転調も頻繁なコミカルな雰囲気。Bは一応ニ短調のちょっと陰うつな雰囲気になって、カバキーニョの伴奏で低弦ギターが16分音符の旋律を奏でるような感じ。- Frêvo フレーヴォ
「フレーヴォに関しては、その音楽はレシフェの風景に結びついている。すなわち、確認されるように、フレーヴォはレシフェのカーニバルで生まれた。後にノルデスチ全体に広まり、リオデジャネイロででさえ踊られている。」
楽譜の解説ではまた、この曲はフレーヴォの中でも(歌のない)器楽演奏で行われ、踊りを伴う「街頭のフレーヴォ Frêvo de rua」に印象を受けて作曲されたと記されている。曲の冒頭はシンコペーション混じりのユニゾンが力強く奏され、フレーヴォの楽団の金管楽器の華やかな響きを思わせる(下記の楽譜)。続いてダンサーの激しい踊りさながら、右手16分音符が上へ下へと飛び回る。曲の構成はA-B-A'だが、AもBもユニゾンのモチーフと華やかな右手16分音符の変奏の繰り返しが、カーニバルの行進が進むように続いていく。
Suíte Nº 2 (Nordestina), V. Frêvo、1-2小節、Irmãos Vitaleより引用- Suíte N.º 3 (Paulista) 組曲第3番(パウリスタ)
パウリスタとはサンパウロ州の住民を意味する。ゲーハ=ペイシェは1952年にレシフェからサンパウロに移り住み、サンパウロ州内の各地を訪れては民族音楽を調査・研究している。サンパウロ州は日本の本州より広い面積であり、州都サンパウロだけでなく様々な地域に豊富な民族音楽が存在している。ブラジル民族音楽への造詣の深さと、それらを用いた作曲に関しては(私見では)ヴィラ=ロボスを凌駕しているゲーハ=ペイシェらしい、民族主義の深さを感じさせるような作品に思えます。
- Cateretê カテレテ
カテレテ cateretê(またはカチーラ catira)はブラジルの民族舞踊で、ギターを伴奏にして(歌が入ることもある)、手を叩き、足を鳴らしながら二列になって踊る。トゥピ族あたりのブラジル先住民の踊りが起源か、またはアフリカからの奴隷やヨーロッパからの移民の舞踊の混合とも言われており、現在はサンパウロ州やミナスジェライス州、マットグロッソ州など主に内陸部の地方に残っている。A-B-A'-B-C-A"形式。Aは複数のギターがカテレテの踊りのリズムを奏でるような部分と、楽譜に「表情豊かに、少しルバートして espressivo e un poco rubato」と記された朗々と重唱が歌うような部分が交互に現れる(重唱の和音はしばしば短2度が現れて、それがちょっと音程がずれた歌い手達を思わせいい感じ)。BはAの冒頭のカテレテのリズムの変奏のような感じで躍動的。Cは低音ギターにのって別の歌のような旋律が現れる。- Jongo ジョンゴ
ジョンゴとはブラジルのアフリカ系住民の民族舞踊で、中部〜南部アフリカ(おそらくアンゴラあたり)を起源とし、多数の男女が一緒にペアまたは輪になって踊り、音楽は歌と打楽器のみからなる。ブラジルの有名なサンバの元の一つかもしれないと言われている。A-B-A'-B'-A"形式。Aは高音部3-3-2のリズムで始まり、続いて中音・低音のリズムがいくつもの打楽器が加わるように増える。Bは低音で蠢くようなオスティナートにのって三度重音の旋律が歌うように奏される。- Canto-de-trabalho 労働の歌
A-B-A'形式。Aはイ長調(伴奏のソが♮なのでラのミクソリディア旋法の響き)で、気怠い旋律が繰り返すように奏される。Bはト長調になり、Aの旋律が中音部で奏される上で、三和音のモチーフがほぼラのミクソリディア旋法で鳴ってポリモードの響き。A'はホ長調で始まり、最後はイ長調に戻って終わる。- Tambu タンブー
タンブーとは太鼓全般を指す場合から、ジョンゴで用いられる太鼓を指す場合まであって、この曲名は何を指しているかは分かりません。前奏-A-B-C-B'-B"-C'形式。レチタティーヴォ風の前奏に引き続き、Aは太鼓が3-3-1-1のリズムを鳴らすような音形が低音部から高音部まであちこちで鳴って盛り上がり収まる。Bは低音3-3-1-1のリズムが続く中、謎めいた息の長い旋律が奏される。Cは太鼓が鳴っては止まりが繰り返される。1967
- Sonata Nº 2 ソナタ第2番
ゲーハ=ペイシェの最後のソナタを飾るに相応しい、堂々とした構成感のある作品で、ノルデスチ(ブラジル北東部)の民族音楽を表現するのに不協和音を上手に用いている。
- Vivace
ソナタ形式。第1主題はまず低音オクターブの荒々しいリズムで始まる。これはアタバキ Atabaque という大きな樽型の太鼓(ノルデスチの民族楽器の太鼓で、アフリカ由来とされている。カポエイラの踊りやカンドンブレの儀礼で用いられる)の響きを思わせ、このリズムがラのドリア旋法で繰り返され、時折炸裂する右手和音強打が加わり、さながらカンドンブレの儀礼が始まるような雰囲気だ。やがてこのリズムを伴奏として、右手に朗々と歌うような息の長い旋律がラのドリア旋法で奏され、ひとしきり盛り上がる。続いて現れる第2主題は静かなギターの伴奏を思わせるアルペジオにのって寂しげな旋律が歌うように奏される。展開部は第1主題が変形され、第2主題は左手右手が交替して奏されたりする。再現部は第1主題のみ奏されて終わる。- Largo
A-B-A'-コーダの形式。謎めいたモチーフの主題が静かに現れ、この主題がいろいろ変形されて奏される。Bでは民謡〈王たちの祭りの歌 Cantiga de Folia de Reis〉が厳かな和音で奏される。ここの和音は左手右手で異なる多調で、神秘的な響きだ。- Allegro (quasi stilo de marcia)
A-B-A'-C-A"-D-A'''-コーダとロンド形式。Aはト短調で、4分音符の威勢の良い左手ベースにのって、右手にシンコペーションの効いた旋律が現れてカーニバルの行進曲風。Bは楽譜に「ポルカ」と記されており、ポルカのリズムにのってフルートを思わせる軽快な旋律がドのリディア旋法で現れる。A'はイ短調になり、左手オクターブでAの旋律が勇壮に奏される。Cは「フレーヴォ」と記され、テンポを落として混沌とした雰囲気に。A"は変ロ短調となり、Aの旋律が陰うつにゆっくりと奏される。Dは「カボクリーニョス」と記されていて、太鼓を思わせる低音リズムのオスティナートにのって、イヌビアの響きを模した軽快な旋律がシ♭のリディア旋法とミクソリディア旋法の混合で聴こえてくる。A'''はト長調となり、コーダでは第1楽章第1主題が現れて、最後はAの旋律がニ長調で高らかに奏されて終わる。1968
- Suíte infantil N.º 3 子どもの組曲第3集
子どもやピアノ初心者を対象にした易しい曲集で、楽譜には細かく指使いが記され、また右手・左手共に音程は七度まででオクターブはない。ゲーハ=ペイシェのピアノ曲にしては和声も分かりやすい簡単な作りの曲ながら、各曲ともブラジル音楽のいい所取りのエッセンスのような曲である。
- Marcha-rancho ランチョの行進
イ短調、A-B-A形式。Aは右手♩♪♩♪♩のリズムにのって、左手低音に行進を表すような4分音符の旋律が現れる。Bはイ長調になり、穏やかな旋律が奏される。- Toada トアーダ
ハ長調、A-B-A'形式。気怠い旋律がしっとりと奏される。右手旋律はハ長調だが、左手伴奏にシ♭やラ♭が使われて、少し暗い影を感じさせる雰囲気だ。- Frêvo フレーヴォ
ト長調、A-A-B-B-A-A形式。フレーヴォの楽団の金管楽器の響きを思わせるユニゾンに続いて、お祭り騒ぎのような賑やかな音楽が奏される。1969
- Sonatina N.º 2 ソナチネ第2番
前作のソナタ第2番に比べると構成やピアノの技巧はこじんまりとしているが、ブラジル民族音楽をあちこちに取り入れた秀作である。
- Allegro moderato
ソナタ形式風。3つの主題から成り、第1主題は、右手レ-ラのオスティナートの下で六度重音の穏やかな旋律が現れる(下記の楽譜)。ゲーハ=ペイシェがノルデスチの民族音楽を調査・研究した時、「盲目のアデラルド Cego Aderaldo」として知られるヘペンチスタ(ノルデスチの吟遊詩人)のAderaldo Ferreira de Araújo (1878-1967) の音楽を採譜した。この第1主題の旋律は、「盲目のアデラルド」が弾くアコーディオンを模したらしく、アコーディオンの蛇腹の伸縮のような3小節ごとに一息つくように書かれ、またいくつかの教会旋法が混じったような調べは独特である。続いての第2主題は右手レ♯-ファ♯の3連符の下で、32分音符アルペジオで昇り16分音符半音階で下るおどろおどろした旋律が奏される。第3主題は、右手に素朴な旋律がハ長調で奏されるが、左手伴奏がシ♭-レ♭-ファ(変ロ短調主和音)なので多調の幻想的な雰囲気。第3主題は度々転調しつつ繰り返され、その後の再現部は第1主題が4小節〜第2主題の旋律が今度は右手高音部で奏され〜第1主題ほぼ全部再現されて終わる。
Sonatina Nº 2、第1楽章、1-8小節、Irmãos Vitaleより引用- Andante
A-B-A'形式。モジーニャ風の旋律だが、ほとんど調性のない不協和音は謎めいた雰囲気。Bは楽譜に「波打つように ondeggiante」と記されている通り、静かに波打つようなアルペジオが続く。- Allegretto moderato (come Valsa)
A-B-A'-C-A"-コーダの形式。Aのワルツはイ長調で、リオグランデ・ド・スル州の民謡〈マサニーコ Maçanico〉の旋律が陽気に奏される(下記の楽譜)。Bは快活なポルカ。A'はマサニーコの旋律がハ長調で奏される。Cは4拍子になり、右手和音連打の下で、のびやかな旋律が奏される。最後のA"はマサニーコが華やかに再現され、Aの伴奏形が変奏されたコーダで終わる。
Sonatina Nº 2、第3楽章、8-12小節、Irmãos Vitaleより引用1971
- A inúbia do cabocolinho カボクリーニョのイヌビア
1956年作曲のピッコロと室内オーケストラのための同名曲からのピアノ編曲。イヌビアとはカボクリーニョスで使われる小さな笛のことで、軽快な小品。1979
- Prelúdios tropicais N.º 1, Cantiga de Folia de Reis 熱帯の前奏曲集第1番、王たちの祭りの歌
《熱帯の前奏曲集 Prelúdios tropicais》は、ゲーハ=ペイシェの晩年の傑作と呼ぶに相応しい10曲から成る組曲で、1979年に4曲、1980年に3曲、1988年に最後の3曲が作られた。ゲーハ=ペイシェは当初、熱帯地方の何カ国かの民族音楽に印象を受けた曲集を作ろうと目論んでいたが、自国ブラジルの民族音楽だけで十分に多様であることを考え、ブラジル民族音楽のみを扱う曲集になったとのこと。ブラジルの、特に北東部(ノルデスチ)の民族音楽と自身の音楽語法は1950年作曲の《ソナタ第1番》や1954年作曲の《組曲第2番(ノルデスチーナ)》などで一体化されているが、今一度、民族主義作曲家としての集大成を作ったような作品揃いである。我々が普段「熱帯」という言葉から想像する、のどかで気楽な雰囲気とはかなり異なって、全体的に不協和音も多く難解に聴こえなくもないが、ブラジルの熱帯地方に当たるノルデスチの真の空気や生活はこういうものだ!とゲーハ=ペイシェが熱く語っているようにも思えてきます。第1番の曲名の "Reis"とは新約聖書に登場する「東方の三博士」のことで、Folia de Reisは幼子イエス・キリストを東方の三博士が訪れたのを記念する祭りのこと。日本語では公現祭と呼ばれているが、ブラジルでは宗主国ポルトガルから伝わったこの祭りが独特に発展し、今も毎年1月6日には盛大なお祭りがブラジル各地で行われている。曲は全体的に独特の神秘感に満ちていて、組曲の第1曲目でいきなりブラジル人の魂の奥底へと引き込まれるような感じである。A-B-A'形式。Aはの荘厳なコラール風の和音付き旋律で始まるが、旋律はレのリディア旋法とミクソリディア旋法の混合で、また和音はレ-ファ♯-ラ→ソ♯-ド-ミ♭(-シ-レ)とペトルーシュカ和音+@を用いており、神秘的な響きだ。Bは踊りのような16分音符になり、ここは「盲目のアデラルド」(ソナチネ第2番の解説を参照)が弾くBaião de Viola(ギターの一種でノルデスチの民族楽器)を模しているらしい。ここも教会旋法が用いられている。最後にもう一度、冒頭のコラールが短く奏されて静かに終わる。- Prelúdios tropicais N.º 2, Marcha abaianada 熱帯の前奏曲集第2番、バイーアの行進曲
バイーアは、ブラジル北東部にある州。A-B-A'形式。Aの冒頭から左手低音部で繰り返される音型は半音階進行で、サンフォーナ(ノルデスチのアコーディオン)を模しているらしい。この左手低音部の音型はド-ミ-ソで始まるが、これにのって7小節目から始まる勇ましい右手三度重音の旋律はド-ミ♭で始まり、いきなり多調の混沌とした熱帯的?な響きだ(下記の楽譜)。曲はカーニバルの行進が近づいてくるように段々クレッシェンドし、Bでは左手の音型がレ-ファ♯-ラに移調すると、右手旋律はピファノ(横笛の一種、英語ではファイフ)が即興演奏するような16分音符が賑やか(この右手旋律がレのドリア旋法だったりレのミクソリディア旋法だったりでいい響き)。ffまで興奮するように盛り上がり、また冒頭の調に戻って、最後は行進が遠ざかるようにディミヌエンドして終わる。
Prelúdios tropicais N.º 2, Marcha abaianada、5-8小節、Irmãos Vitaleより引用- Prelúdios tropicais N.º 3, Persistência 熱帯の前奏曲集第3番、執拗に
A-B-A'-C-B-Aの形式。全体的に前衛音楽っぽく神経質な雰囲気の曲。Aはラ音連打と32分音符上行アルペジオから成る3小節のモチーフが繰り返される。BはLentoで不気味な旋律が蠢く。Cは右手に16分音符和音が急き立てるように連打されるが、これはViola caipira(ブラジルの10絃ギター、viola nordestinaと呼ぶこともある)の音色を模しているのだろう。- Prelúdios tropicais N.º 4, Ponteado de viola 熱帯の前奏曲集第4番、ギターのつま弾き
組曲全10曲の中では、最も「熱帯」っぽいムードたっぷりの、親しみやすい曲かな。A-B-A-コーダの形式。全体的にヴィオレイロ(《組曲第2番(ノルデスチーナ)》の第1曲〈ヴィオレイロ〉の解説を参照)の即興演奏を思わせる雰囲気の曲。冒頭は5/8拍子でギターのつま弾きを思わせる重音8分音符で始まる。重音の下の音は常にミだが、上の音は旋律っぽくて、最初ホ長調だが、6、7小節目はレが♮(則ちミクソリディア旋法)となるのがノルデスチらしいの雰囲気だ。10小節目からは右手冒頭の繰り返しに加え、左手で変ホ長調主和音が交互連打で挟み込まれて多調となり、何とも豊潤な響き(下記の楽譜)。
Prelúdios tropicais N.º 4, Ponteado de viola、10-13小節、Irmãos Vitaleより引用
ひとしきり両手交互連打が盛り上がると中間部となり、バイアォンと思われる左手符点リズムにのってギターのストロークが段々熱を帯びて奏されていくように盛り上がる(下記の楽譜)。
Prelúdios tropicais N.º 4, Ponteado de viola、38-44小節、Irmãos Vitaleより引用- Sugestões poéticas - em memória de Fernando Pessoa 詩的な想起ーフェルナンド・ペソアの思い出に
フェルナンド・ペソア (1888-1935) はポルトガルを代表する詩人。ゲーハ=ペイシェはポルトガルからのブラジル移民二世であり、ポルトガルの国民的詩人へのオマージュとしてこの作品を書いたのであろう。変奏曲形式で、楽譜の最後には、各曲の元となるフェルナンド・ペソアの詩の一部が夫々記されている。冒頭8小節の快活な主題はポルトガル民謡らしい。"Nuvens" は主題がゆっくりと奏され、対旋律の半音階進行が印象派風の響き。"Aniversário" は和音やオクターブ連打が騒がしい雰囲気。"Insônia" は静かに変奏される主題が七度や八度で跳躍し、無機質な感じ。"Tema novamente" で主題が繰り返され、"Começo a conhecer-me" は高音と低音に別れた響きが瞑想的。"Na casa defronte" はトッカータ風。
- Tema (Sugestões portuguesas) 主題(ポルトガルの想起)
- Nuvens 雲
- Aniversário 記念日
- Insônia 不眠
- Tema novamente 再びの主題
- Começo a conhecer-me 私自身を知り始める
- Na casa defronte 家の前で
1980
- Prelúdios tropicais N.º 5, Pequeno bailado 熱帯の前奏曲集第5番、小さな踊り
A-B-A'-C-コーダの形式。Aはベースが半音階で下降する伴奏にのって、ヴァルサ・ブラジレイラ風の哀愁ある旋律が奏される。4小節のモチーフが繰り返される度に少しづつ変わっていく所は、ショーロ奏者の即興演奏を思わせる。Bはシンコペーションが効いた伴奏にのって、8分音符の旋律が上下に舞う。A'では冒頭の旋律・伴奏がオクターブ和音で力強く奏され、そのままffでCの両手和音連打が続く。最後に冒頭の旋律がレシタティーボ風に静かに回想されて終わる。- Prelúdios tropicais N.º 6, Reza-de-defunto 熱帯の前奏曲集第6番、死者への祈り
死者への祈り Reza-de-defunto とはノルデスチ特有の葬儀の歌である。ゲーハ=ペイシェはペルナンブーコ州カルアルという町でこの葬儀を見聞きしたとのことで、彼は以下のように記している。
「Reza-de-defuntoはノルデスチで一般的な宗教歌で、死者の面前や墓地で歌われる。ヘザデイラ Rezadeira は独唱者で、彼女はセクエンツィア(続唱)を先導して歌う。センチネラス Sentinelas は一般的に三度音程で歌われる合唱である。どこの町でもセンチネラスはたいてい女声合唱である‥‥。」
地味ながら厳粛な雰囲気のこの作品は、ノルデスチに住み、現地の音楽を知り尽くしたゲーハ=ペイシェでこそ書き得た作品のように思えます。A-A'形式。最初はRezadeiraが歌う単旋律が静かに奏されるが、旋法はド-レ-ミ-ファ♯-ソ-ラ-シ♭-ド(リディア旋法とミクソリディア旋法の混合)で、やがて旋律はSentinelasが合唱するような三度重音になる。伴奏の和音や半音階で下がる低音ベースとも相俟って何とも神秘的。A'は葬送行進曲の如く低音の4分音符が重々しく奏されるなか、Aの旋律がオクターブ和音となって繰り返される。- Prelúdios tropicais N.º 7, Tocata 熱帯の前奏曲集第7番、トッカータ
A-B-A'-B-A'-C形式。「トッカータ」はイタリアが起源の楽曲で、ゲーハ=ペイシェのこの曲はトッカータ風ではあるが、文献によってはシャンゴの憑依儀礼などカンドンブレの儀式での太鼓の打ち鳴らしを模していると分析している。太鼓の連打を思わせる3連符が高音部〜中音部と絶え間なく続き、その中から多調の和音や減8度、短9度などの不協和音が響き渡る。1981
- Minúsculas - I ミヌスクラス第1集
ミヌスクラスとは「小さな事々」とか「小文字」といった意味である。6集18曲から成る曲集。いずれも20小節以内の短い曲で、技巧的にも易しく、右手左手とも音程は七度まででオクターブは使わないなど、子ども向けの教本のような作品である。全体的に、バルトークのピアノ曲集《ミクロコスモス》を意識して作曲したような感じが窺えるが、バルトークより更に調性感をぼやかして、和音は難解であり。子どもの心を掴むような親しみがある作品とはとても思えませんが‥‥。
- Introdução 序曲
ハ長調二声の素朴な雰囲気で始まるが、旋律・対旋律ともしばしば♭が現れ、増三和音が聴こえたりする。- Dramático 劇的に
fで奏させる力強い4声のコラール風の部分と、pで奏させるユニゾンの静まりかえった部分が対称的。- Marchando 行進して
行進曲風で、旋律は内声に現れる。- Minúsculas - II ミヌスクラス第2集
- Caminhando 散歩
トコトコと散歩しているような旋律の曲。一応イ長調だが、左手伴奏にイ長調の外れた和音が出てくる。- Cantiga カンチーガ
寂しげな旋律がカノンで奏される。- No estilo carioca カリオカ風に
三度重音連打の伴奏が徐々に半音づつ下がり、それにのって哀愁漂う旋律が奏され、ショーロの雰囲気だ。- Minúsculas - III ミヌスクラス第3集
- Fanfarra ファンファーレ
威勢の良い行進曲風の曲。- Valseado ヴァルサを踊って
伴奏のベースは半音階で下がり、それにのってもの悲しい旋律が奏される。ヴァルサ・ブラジレイラの雰囲気の曲。- Indiozinho carnavalesco カーニバルの先住民の子
楽譜の脚注に「レシフェのカボクリーニョスを模したメロディーで A melodia imita a dos CABOCOLINHOS do Recife」と記されている(カボクリーニョスについては《組曲第2番》の第2曲の解説を参照)。太鼓のリズムにのって、イヌビア(カボクリーニョスで使われる小さな笛)の軽快な音が聴こえてくるような曲。- Minúsculas - IV ミヌスクラス第4集
- Prelúdio 前奏曲
まず憂うつなモチーフがユニゾンで現れ、続いて左手半音階進行の重音にのってモチーフが繰り返される。- Contrastes コントラスト
pで奏されるユニゾンと、fで奏されるコラールがコントラストを作っている。- Caipira 田舎者
左手ド-ミ-ファ-ソ-ラ♭のペンタトニック音階の伴奏にのって、右手に現れる旋律はドのドリア旋法と、独特の響きの曲。- Minúsculas - V ミヌスクラス第5集
- Canto negro 黒人の歌
ソ-シ♭-ド-レ-ファのペンタトニックの旋律は民謡を思わせるような素朴な曲。- Coral コラール
4声のコラールを思わせる曲。一応ニ短調だが、内声の半音階進行が陰うつな雰囲気。- Mãos cruzadas 交差する両手
曲名通り、両手交互の和音連打で始まる。最初の4小節は右手は白鍵、左手は黒鍵でヴィラ=ロボスが好んで用いた音型だ。5、6小節目は右手和音の上で、交差した左手がアクセントで単音を(2と3の指両方を使って)弾く。- Minúsculas - VI ミヌスクラス第6集
- Barroquinho バロック風に
2声の旋律が対位法で現れる曲。- Noturno 夜想曲
一応ホ長調。左手オスティナートにのって、和音が半音階で動く旋律が静かに奏される。ミヌスクラスの中で、この曲のみ楽譜にペダルの指示がある。- Lembrando Bartók バルトークを思い出して
快活な曲。ハンガリー舞曲を思わせる節もある。ゲーハ=ペイシェが、バルトークのピアノ曲集《ミクロコスモス》を意識してこの《ミヌスクラス》を作曲したことを窺わせる。1982
- O gato malhado トラネコ
ブラジルの作家、ジョルジ・アマード Jorge Amado (1912-2001) が1948年に書いた小説『ツバメとトラネコ:ある愛の物語 O Gato Malhado e a Andorinha Sinhá: uma história de amor』にゲーハ=ペイシェが霊感を受け、物語の筋に沿って作られた組曲である。物語は「動物たちが言葉を話すことができた大昔」の話で、自然公園に住んでいる中年の雄トラネコと若い雌ツバメが知り合い、恋におちるが、ツバメはナイチンゲール(小夜啼鳥)と結婚させられることになり、悲しい別れで終わるという内容。ジョルジ・アマードは自分の幼い息子のためにこの物語を書いたーいわゆる童話であるが、その中に人種の違いや偏見で人(トラネコ)を差別してしまう世の中への警鐘がこめられているようにも感じられる小説である。高見英一氏による日本語訳版 (1983年) もかつては新潮社より発売されていたが、現在は絶版である。(左の写真はその表紙です。また一部の文章を下の解説に引用しました。)ジョルジ・アマードはブラジル北東部のバイーア州出身で、ブラジル北東部の信仰、伝統から貧困の現実に至るまでを追求した小説をいくつも発表し、「ブラジル北東文学」というジャンルを作ったとも言える作家である。同じ北東部の民族や音楽に深い興味を持ち研究を行ったゲーハ=ペイシェにとって、アマードには親しいものを感じたのであろう。楽譜の所々には、物語の場面を示す言葉が添えられている(下記の解説の下線をつけたところです)。ゲーハ=ペイシェらしい不協和音の音楽ではあるが、その中に、この小説が持つ幻想的な世界を上手に描写しているようにも感じられる作品である。この作品は1983年にはゲーハ=ペイシェ自身により、室内オーケストラ用にも編曲された。
- O gato malhado トラネコ
自然公園に春が来た。自然公園には一匹の雄のトラネコが居た。このトラネコは一日中寝転がっている怠け者で、その上自分勝手で狂暴なので、周りの動物からは恐れられ嫌われていて、誰もこのトラネコには近寄らなかった。音楽の冒頭は、a) O GATO MAU(怠け者の雄ネコ)がのっそりと動く様が低音の付点音符で描写される。ネコは怠け者である一方、b) O ROMÂNTICO(ロマンチスト)であり、春の息吹を感じて草の上に転がって「ニャーオ」と鳴く音が高音に現れる。再びネコは付点音符のリズムで歩き出し、それから、c) O PREGUIÇOSO(怠けて)いると、d) APARECE A ANDORINHA(一羽の若い雌のツバメが現れた)のが高音ドの連打音で聞かれる。- A andorinha sinhá 若い雌ツバメ
若い雌ツバメはトラネコに興味を持ち、e) E ANDORINHA PIA PARA O GATO(ツバメはネコと話しだす)。ネコを表すような中音部の気怠い和音と、ツバメを表す高音部連打が奏される。f) JOGA GRAVETOS NO GATO(木の枝でネコと遊ぶ)のは悪戯っぽい32分音符アルペジオで表されている。- O namoro e os murmúrios 恋愛と陰口
トラネコとツバメは春から夏にかけて仲良くなり、g) O NAMORO(いちゃつく)のが、ネコを表す左手中音部の旋律とツバメを表す右手高音連打音の掛け合いで描かれる。ここでは落ち着いた雰囲気になっている。しかし自然公園にいる他の動物たちは、この二匹の恋のことを、h) MURMÚRIOS(陰口)を言っていて、両手ppのトレモロ(バッテリー)がせわしなく奏される。- A noite sem estrelas 星のない夜に
秋が来た。ツバメがトラネコと付き合っているを心配したツバメの両親は、ツバメをナイチンゲールと結婚させることにした。ある冬の日、結婚式が執り行われ、i) MARCHA NUPCIAL(結婚行進曲)が流れるが、ツバメの心の内を表すような陰うつな行進曲が奏される。婚礼の行列がチャペルから、j) REVOADA(舞い出た)とき、ツバメは片隅に寂しげにぽつねんとたたずんでいるトラネコの姿を見た。トラネコとの愛の思い出の印として、k) A Andorinha deixa cair uma petala de rosa vermelha no Gato(ツバメは赤いバラの花びら一つをネコの上へ落としていった)ーここは高音から4オクターブを落ちていく32分音符アルペジオで描かれている。最後は、l) LEMBRANÇA DA ANDORINHA(ツバメとの思い出)が低音部で消えるように奏されて曲は終わる。1987
- No estilo popular urbano 都会のポピュラーのスタイルで
4曲共、ブラジルの街角で演奏されていたり流れているようなポピュラー曲の雰囲気ながら、そのバックで流れる対旋律や不協和音が絶妙な響きの曲揃いで、クラシックとポピュラーの両方で活躍したゲーハ=ペイシェらしい作品である。ブラジルのショーロ楽団がこの組曲をアンサンブルに編曲した演奏もあり、カヴァキーニョやクラリネットの奏でる響きはいい雰囲気なのだが、ゲーハ=ペイシェが書いた絶妙な不協和音をトレースしきれていなかったりする。
- Vinte de janeiro, Choro 1月20日、ショーロ
イ長調、前奏-A-A-B-B'-A-A-B-B'-コーダの形式。Aは口笛を吹いているような軽快な旋律がシンコペーション混じりで右手に奏される。左手伴奏は所々合いの手が入る以外はほぼ和音を奏でているだけなのだが、その和音がコードネームで書くとD7(13)とかC#7(9, #11)などのテンションコードが多用されていてジャズの響きが加わっている。Bは嬰へ短調になり、旋律は上行する16分音符でシンコペーションが一層強調される。- Falso pau-de-arara, Baião 偽の「インコのとまり木」、バイアォン
ポルトガル語の「パウ・ジ・アララ pau de arara」は直訳すれば「インコのとまり木」になるが、ブラジルでは、人間の両手と両膝を棒に縛り付けてぶら下げる拷問という意味と、ノルデスチの貧しい出稼ぎ労働者が乗った長距離トラック(荷台の粗末なベンチや棒に腰掛けて旅をした)の意味がある。イ短調、A-B-A-コーダの形式。Aはバイアォンのリズムにのって、8小節の旋律がラのドリア旋法で奏され、何度も変奏されつつ繰り返される。Bはバイアォンのリズムがソ音のオスティナートで続き、それにのって高音オクターブで断片的な旋律が現れる。- Tema de um domingo, Valsa-lenta ある日曜日のテーマ、ゆっくりとしたワルツ
強いて言えばイ長調、A-B-A'形式。気怠い旋律がゆったりと奏され、半音階混じりの対旋律が複雑に絡む。- Espertinho, Choro alegre ずる賢い人、陽気なショーロ
ト長調、A-A-B-B-C-A-コーダの形式。Aは左手シンコペーションの伴奏にのって、右手に16分音符の軽快な旋律が奏される。Cはハ長調になり、賑やかな雰囲気になる。1988
- Prelúdios tropicais N.º 8, Cantiga plana 熱帯の前奏曲集第8番、滑らかな歌
前奏-A-コーダの形式。謎めいた響きの重々しい前奏が奏された後、農民の素朴な歌のような旋律が高音オクターブで奏される。- Prelúdios tropicais N.º 9, Polqueada 熱帯の前奏曲集第9番、ポルケアーダ
"Polqueada" はポルトガル語の辞書にも無い単語だが、ポルカ風にという意味であろう。A-B-A'形式。低音8分音符のミ-レ-レ♭-ドが繰り返されるのにのって、ポルカ風の戯けた旋律がフルートの音色のように奏される。A'では左手は分散オクターブに、右手はオクターブの旋律となって騒がしく再現される。- Prelúdios tropicais N.º 10, Tangendo 熱帯の前奏曲集第10番、楽器を鳴らして
A-B-A'形式。ギター(おそらくViola caipira)のつま弾きのような16分音符モチーフがラのドリア旋法で奏され、三度ずつ音高を上げながら繰り返される。Bに現れる旋律のトリルは、ギターのプリング・オフとハンマリング・オン奏法のよう。1991
- Telefones de gente amiga, para piano a quatro mãos 親しい人たちとの電話、ピアノ連弾のための
ゲーハ=ペイシェの親しい友人たちの電話番号を、音階シ-ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ-ド-レの10音に当てはめて音列を作り、それをモチーフとしてそれぞれの友人を描写する作った曲らしい。
- Sonia ソニア
ソ-ソ-レ-ファ-ラ-ファ-シのモチーフがユニゾンで現れ、このモチーフが音高を変えたり、優しいレガートになったり、鋭いアクセントで奏されたりと展開される。- Ernani エルナーニ
セコンドが16分音符両手交互連打をザワザワと鳴らし続ける上で、プリモによるファ-レ、ファ-レ、ド-ドのモチーフが現れる。中間部はテンポを落としてやや寂しげな中音部の旋律がセコンドよって奏される。- Rogerio (em memória) - Ruth ロジェリオ(思い出に)ールス
レ-ラ-ソ--レ-ラ-シ-ド-のモチーフが低音で静かに奏され、沈み込んでいくような雰囲気だ。このモチーフが音高を変えたりして返送される。- Jane ジェーン
セコンドの急き立てるような伴奏にのって、プリモにレ-レ-ソ、シ-ド-ド-ラのモチーフが奏される。中間部はテンポを落として、初めセコンドの低音部、次にプリモ高音部ユニゾンでモチーフが変奏される。